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第168話 さてと、今回は講習兼お祭りです。

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前回のあらすじ:思いもかけず、いいお肉が手に入りました。


 エンシェントドラゴンの里と通商関係を結んだことを、トリトン陛下とリトン公爵に伝える。

「そうか、通商関係か。ところで、何と何を交換するんだ?」

「こちらからは、食料など向こうの必要としているもの、で、ドラゴンの里からは、鱗や牙などの素材を考えております。量にもよりますけどね、、、。」

「量って? フロスト侯爵、交換レートのことかな?」

「いえ、正直、私的にはドラゴンの素材はそれほど望んでおりませんので、救援物資を贈る程度の認識しかしてないですが、里にいるドラゴン達がどれだけ食べたりするのか、ということですね。」

「・・・うちでは慣れてる光景だけど、他国から見たら非難囂々の台詞なんだけどな、それって。」

「そうは言っても、流通させるの大変じゃないですか、ドラゴンの素材って。先日のヒドラの鱗でも冒険者ギルドから、多くても2、3枚で十分。それ以上は価格破壊やら何やらで大騒ぎになるから勘弁してくれとまで言われましたしね。」

「・・・侯爵も一応はわかっているんだな。」

「一応って、、、。」

「まあ、そんなことよりも、まずは実際に会って確かめねぇとわからんか。」

「ですな。それで侯爵、グレイルさんだったか? 里の長達はいつこっちに来るかわかるか?」

「ああ、それについては全く聞いておりませんね。こっちに来る来ないなんて正直どうでもいいですし。」

「・・・いかにも侯爵らしい答えだな。まあ、来たときでいいか。それでよろしいですな? 陛下。」

「おう、構わねぇぜ。それよりも、だ。ドラゴン、しかもエンシェントドラゴンにそこまで譲歩させたということは、だ。手に入れたんだろ? 礼のブツを? さっさと出して楽になったほうがいいぜ!」

「そうですな。グレイル殿がいないときの方が都合はいいでしょうしな。ということで、フロスト侯爵、礼のブツ、頼みますぞ! 妻達も楽しみに待っている故な。」

 やっぱりそっちかよ。マーブル達も期待した目でこちらを見ている。まあ、倒したのはマーブル達だから、私に拒否権というものは存在しないし、そもそも拒否するつもりはないけど、こちらから言わなくてもわかってしまうこの一連の流れはどうなのだろうか?

「・・・やはり気になるのはこれですか。まあ、今夜出すつもりでしたし、さっさと準備しますかね。あ、食事で使わない部位に関しては、私の方で管理しても問題ないですかね?」

「それで問題ない。下手に流通させると碌な事が起こらんし、是非侯爵が持っておくといい。私達にとって大事なのは、いかに美味い物が食べられるか、だからな!」

「流石は宰相だな!! わかっているじゃねぇか!!」

「当然ですとも! 毎日、減るどころか増える一方の政務に忙殺され、妻とマッタリできる時間が減りつつある現在、唯一と言って良い楽しみといえば、ここでの美味い食事ですからなぁ。帝都だけでなく、我が領でも食事のレベルは上がりつつありますが、ここフロストの町と比べてしまうと、どうしても数段劣りますからなぁ、、、。」

「だな! 逆に料理長は嬉しそうにしていたぜ。ここに来れば学び放題だとな、ガッハッハ!!」

 ・・・言ってることは非常に嬉しいんだけど、毎日というのは正直どうかと思う。当然のように受け入れている領民達も大概だとは思うけど、領民達自体は楽しそうにしているから別にいいか。

「さて、この場所ではいささか狭いですので、場所を変えて作業をしますか。ウサギ広場が一番いいんだけど、遊べなくなるのがなぁ、、、。」

「フロスト侯爵、安心したまえ。この件については、ウサギ達やコカトリス達はもちろん、遊んでいる子供達も了承している、というより、見たくてしょうがないといった感じだったぞ?」

「・・・何で、そこまで話が進んでいるんですかね、、、。」

「いや、進むも何も、侯爵が会話ができるとはいえ、魔物と話し合ったんだ。何かしら美味い食べ物が手に入るというのは当然であろう? いわゆる、いつもの流れというやつだな。領民達も当然その認識だったぞ。何せ、ウサギ広場でドラゴンの解体が見たい! って子供達から出てきたからな。」

 何てこった、、、。子供達が見たいと言い出したのであれば、見せないわけにはいかないか、、、。

「・・・では、ウサギ広場に行きましょうか、、、。」

 ウサギ広場に到着すると、そこには大勢の人がいた。領民達はもちろんのこと、冒険者達まで。しかもギルド員もいるし、、、。

「あ、あの、君達、仕事は?」

「そっちよりも、ドラゴンの解体ショーでしょう。滅多に見られませんからね!」

 と間髪入れずに答えたのはギルド長だった、、、。お前ら仕事しろよ、、、。

 そんなことを思っていると、ジェミニから提案が来た。

「アイスさん! 折角ですから、みんなにドラゴンの解体を指導するです! ワタシ達が手本を見せながら教えるです!!」

「ミャア!」「さんせー!」

 はい、マーブルとライムが賛成しました。この時点で私に拒否権は存在しません。私の可愛い猫(こ)達がキラキラした目でこちらを見ています。仮に断ってしまうと、あのキラキラした目が絶望を孕んだ濁った目に変わってしまいます。そんなことになると、私の心が絶望的になってしまいます。絶対に断れません。

「了解。じゃあ、そのような形にしますかね。」

「フロスト侯爵、マーブルちゃんたちと一体どんな会話を?」

「ああ、ギルド長、実はですね、ジェミニの発案なんですが、折角なので、ドラゴンの解体を指導しようって話になりましてね。」

「おお! それは願ってもない申し出です!! みんな、聞きましたね? ドラゴンの解体を指導してくれるそうですよ! 解体に参加したい者は名乗り出てください!!」

 ギルド長が呼びかけたところ、数十人が名乗り出た。

「ところで、フロスト侯爵、侯爵が指導なさるのですか?」

「私も解体できないことはないんですけど、基本、解体はジェミニが主体となって、マーブル達でやってもらっておりますので、今回もそうする予定です。」

「なるほど、となると、私達はジェミニちゃんの言葉がわからないので、通訳が欲しいですね。」

「そこは大丈夫です。幸いにもゴブリン族がいますので、彼らならジェミニ達の言葉もわかりますし、人族の言葉も話せますしね。」

「ここにいるゴブリンの皆さんは本当に有能なんですね、、、。ゴブリンの評価が変わってしまいますよ。」

「いや、この町に住んでくれているゴブリン達が異常なんですよ。他のゴブリンは、皆さんが思っているとおりのゴブリンですからね、むしろ、彼らこそゴブリンとして扱わない方がいいと思いますよ。」

「そうですね。正直、私達も彼らがゴブリンだということを忘れるときって結構ありますからね。」

「まあ、それはさておき。これだけの人数が参加するのはいいのですが、ドラゴンの素材を切断できる武具あるいは道具はどうなさるので?」

「それはご安心を。以前ヒドラを解体したときに用意した道具がありますので、数は十分用意できますし、洞穴族のみなさんが、少しずつ合間を縫って作成してくれたので予備についても問題ありません!」

「ソウデスカ、、、。」

 何故抜かりなく準備ができているのだろうか、、、。まあ、あれこれ考えても仕方がない。わからんものはわからんのだ。こちらはこちらでさっさと用意しますかね。

 というわけで、先程マーブルとジェミニが倒した2体のドラゴンを空間収納から取りだす。ドラゴンは血もいろいろな素材として流用できるので、血が必要以上に出ないように首が上に向くように水術で固定する。一応頭も出しておきますか。こちらも血が流れないように水術で止めておく。

「ア、アイスさん、これは、アイスさんが倒しましたの?」

「いえ、こっちはマーブルが、こっちはジェミニがそれぞれ倒しましたよ。私とライムは見学でしたね。」

「ミャア!!」「楽勝だったです!!」

 私の両肩に乗っているマーブルとジェミニが右前足を上げて言った。まあ、ジェミニの言葉がわかる人っていないから、「キュウ!」にしか聞こえてないだろうけどね。あ、陛下はわかるか。

 領民達は「おお!」とか「流石!」とか言ってるけど、冒険者達は唖然としていた。

「住人達から、領主とこの3匹は普通じゃないと言ってたけど、まさか、本当だったとは、、、。」

「いや、想像以上だぞ、、、。どうやったら、あんなドラゴン倒せるんだよ、、、。」

「だよな。俺の故郷の国でも、アースドラゴンを軍隊でどうにか倒せたというだけで、大騒ぎだったのに、ここだと倒せて当然、だもんな、、、。」

「それ以上に凄いのは、こんなレベルのドラゴン達に傷一つ付いてないんだよな、、、。しかも顔を見ると何か絶望感あふれた表情してるしな、どれだけ凄いんだよ、、、。」

 それらを聞いて、そんなものは慣れだ慣れ、とか思いつつ、作業の準備にとりかかる。改めて見ると、これらのドラゴンもデカいな。血がどれだけ集まるのやら、とか思いながら空間収納から壺を2、30個取りだしておく。

「作業のまえに、ライム。血抜きよろしくね。」

 ライムは「ピー!」と答えて、血抜き作業に取りかかった。少ししてから、ライムが血抜きをした1体から離れると、血を抜かれたドラゴンはドシーン!! と大きな音を立てて倒れた。血は一滴も流れなかった。

「次は、抜いた血をこの壺に入れて。」

 今度は壺の上に乗り、先程吸い取った血を入れていく。見た目は全く変わっておらず、一体どうなっているのか気になっていたが、ジェミニがこっそり、「ライムも収納持ちです」と教えてくれた。って収納持ち!?
 ちなみに、水分限定なんだそう。ありゃ、残念。まあ、私もマーブルも収納あるから問題ないか。

 用意していた壺だけど、1体分だけで満杯になってしまった。ライムがこっそりと「まだはんぶんくらい」と教えてくれた。念のためもう1体分いけるか聞くと、あの程度なら、もう100体くらいは大丈夫と言ってたな。水分限定とはいえ、容量でいえば、マーブルの収納魔法より上だな。まあ、マーブルの収納魔法は闇魔法の応用みたいだから、本職じゃないんだけどね。

 血抜きも無事終わったようなので、マーブル、ジェミニ、ライムの各先生による解体講座を始める。

「では、解体を始めるわけですが、マーブル達は、ジェミニが倒したドラゴンを、他の皆さんにはマーブルが倒したドラゴンをそれぞれ解体してもらいます。構造は2体ともそれほどの違いはないと思います。」

「侯爵、どうしてそうするのか理由を説明いただけますか?」

「理由ですか? 簡単な話で、ジェミニが倒した方のドラゴンは物理防御力が非常に高く、練習には向いていないと判断したためです。マーブルが倒した方のドラゴンは、魔法防御力こそ非常に高いですが、物理防御力はさほどでもありませんので、皆さんの練習にはうってつけだということです。納得いただけましたか?」

「もちろんです! 私達のためにお気遣い頂き感謝致します。」

「ちょっと待ってください! 今、ジェミニちゃんが倒したのが、物理防御力の高い方のドラゴンで、マーブルちゃんの倒したドラゴンが魔法防御力の高いドラゴンですの?」

「そうですよ。マーブルとジェミニにとっては、2体とも大差ない程度ですが、相手には敢えて物理同士、魔法同士で格の違いを見せるには丁度よかったですしね。」

 周りにいた人達は改めて言葉を失った。

「まあ、そんなことより、さっさと解体作業始めましょう。遅れると今夜目の前のお肉が食べられなくなるかも知れませんよ、フフッ。」

 私がそう言うと、解体メンバーが一斉にそれぞれ配置についたのは笑えた。そう、大事なのはどうやって倒したとかではなく、どうやって肉などを手に入れるか、ということなのである。

「あ、そうだ。オニキス、もう1体の方の洗浄お願いできるかな? わからなければ、ライムが教えてくれるから遠慮なく聞いてね。ここでしっかりと練習すれば、アンジェリカさん達の手に入れたお肉を更に美味しく出来るはずだからね。」

 それを聞いたアンジェリカさんは、「オニキス、頼みましたよ。」と言うと、オニキスは「ピーピー!!」とその場で跳びはねまくっていた。やる気になってくれたようで何よりです。一応言っておくと、オニキスもアンジェリカさん達のパーティの一員なので、洗浄作業などはお手の物だけど、経験から言うと、ライムには遠く及ばない、というか、ライムが凄すぎるだけなんだけどね。

 ちなみに、解体教室は大盛況のうちに終了した。ジェミニ達はゆっくりと丁寧に一つ一つ作業をしながら説明していった。通訳のゴブリンのみなさんもそれに応えて、解体している人達に、一切主観を交えることなく一言一句しっかりと伝えていた。陛下や公爵夫妻を始めとしたギャラリーのみんなも、1つ1つ取り出されていく素材を見ては「おおー」とか感動して見ていた。

 私ですか? ええ、もちろん手伝いましたよ、主に温度管理の関係でね。マーブル達3人で作業しているドラゴンはともかく、教材として利用している方のドラゴンは、携わっている人数が人数なため、肉が変になってしまう可能性が高かったので、温まりすぎず、食べるときにほどよく熟成できるように水術でしっかりと温度管理をしておりましたよ。下手に広範囲に探知かけるより大変でしたよ、ええ、、、。

 無事作業も終わって、みんな満足した表情をしていた。約束通り、肉などの可食部位を除いてこちらでもらうことになっていたので、それらの部位を空間収納にしまった。内心不満を持っている人もいるんじゃないかと思ったけど、逆に無料で貴重な体験をさせてもらって申し訳ないとまで言われた。

 そんなわけなので、可食部位をバリバリ使って夕食の準備を始めた。とりあえず、食べられるだけは食べてしまおうと思ったが、今日は、マーブルが倒した方、つまり、今回練習として解体した方のドラゴンを食材として使うことにして、ジェミニが倒したドラゴンは私が預かることになった。ってか、1頭でもかなりの量になるぞ、これ。

 夕食はいつも通りウサギ広場で食べることになった。そりゃあ、領内にいるほぼ全員で食べるんだから当たり前だよねぇ。言うまでもなく、食事も大好評だったのは言うまでもなかった。

 それなりに残りはしたけど、任務などで参加できなかった領民達に渡すことにした。一番参加しなかった、というか参加できなかったのはガブリエル率いる諜報部隊のメンバーだった。ということで、大部分はガブリエルに渡すと、ガブリエルは泣いて感謝していた。

 無事夕食まで終了して、みんなが多少の疲れを覚えているところに、シスター姿のライムが回復して回っていた。可愛らしい姿で飛び回るその姿だけでも癒やされるのに、実際に光魔法で回復して回っているのだ。ライムを拝む人が増えてしまった。まあ、ライムが楽しんでやっているなら別にいいか。

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諜報員A「何だ、この肉? めちゃめちゃ美味いんだが、、、。」
諜報員B「お頭が言うには、ドラゴン、しかも巨大種のドラゴンらしいです。」
諜報員A「は!? 巨大種だと!? フロスト領の軍隊で討伐したのか!?」
諜報員B「そ、それが、マーブルとジェミニというご領主のペットがそれぞれ倒したそうで、、、。」
諜報員A「それぞれって、、、。ということは、、、?」
諜報員B「はい、それぞれ1体ずつ、合計で2体だそうで、、、。」
諜報員A「・・・我らって、そんな化け物に喧嘩売ろうとしてたんだな、、、。」
諜報員B「お頭の目の確かさに感謝です。」
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