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第120話 さてと、溜まったストレスは料理で発散、、、できませんでした。

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前回のあらすじ:ゼラチンゲットだぜ!



 なし崩し的に領民全員分の牛乳プリンを作らされ、疲労困憊の私であるが、まだまだ試練は残っていた、そう、夕食の準備である。八つ当たり的な意味も込めてハンバーグに決定。後日ラヒラスにミンサーを作らせることも決定。密かに笑った罰だ、甘んじて受けるが良い。


 肉は十分すぎるほどあるので、あとはこれらを細かくする作業であるが、愛しの我が猫達があっさりと解決してくれた。用意した肉をどこからか用意してきた細長い木の板の上に乗せる。もちろん端っこである。細長い木の板の下にはライムがいて、上手くバランス良く板が乗っている感じだ。その木の板の肉が載っていない方目がけてジェミニがダイブすると、肉はキレイに宙を舞ったかと思うと、すかさずマーブルが風魔法で肉を包み込んで切り刻んだ。その切り刻まれたお肉はしっかりと用意していたボウルの中に見事に入り込んだ。思わず拍手してしまうほどに見事な連係だった。


 パン粉についてはナンもどきで代用した。惜しむらくはタマネギがまだ見つかっていないことだが、いずれ見つかるものと信じてここは肉とパン粉だけでの作成することにした。あ、言うまでもなく味付けにスガーを混ぜ込むのを忘れてはいない。もちろん、できる限り美味くなるように調理するつもりではあるけど、メインは八つ当たりであるので、気合いがいつもより違っていた。いつも以上に気合いを入れて混ぜたりこねたり、出来上がったタネを成形してパンパン叩く際にもバリバリ叩きまくったおかげで、イライラはほぼ解消された。次の日、もの凄い筋肉痛になったことには触れないでくれるとありがたいです、、、。


 八つ当たりの意識が強かったせいか、予想以上にたくさんの数のハンバーグが完成してしまった、、、。焼き上げる前の状態で保存してもよかったけど、折角時間停止の空間収納があるのだから、しっかりと焼き上げた状態で保存することにした。以前いた世界とは違い、水術があるので、どれだけ数があってもそれほど焼き上げることは大変ではない、というのも、実際に焼くのは、焼き目を着けるためだけであり、普通に火を通す作業は水術の方が上手くできるからだ。


 しばらく蒸した後、味見用にいくつか試しに焼く。焼けたら追いスガーをして塩胡椒味で食べてみる。正直美味いには美味いのだけど、タマネギがないだけで、ここまで味が違うとは思わなかった。これだと美味くなったハンバーガーのパティという感じにしかならなかった。これはこれで美味いけど、私が食べたかったのはハンバーグであり、カサ増ししたパティではないのだ。そんなことを思っていたが、マーブル達には大好評だった。いつかパティではなくハンバーグとして食べさせたいと思った。


 味を確認したところで、冷めないうちに完成品を空間収納に入れていく。これで出来たてアツアツのハンバーグもどきが食べられるのだ。次にやることと言えばソース作りである。残念ながら我が領には酒が存在しないので、無難に醤油をウスターソースを使ったやつかな。焼いた鉄板には肉の旨みが詰まっているので、流石にこれを利用しない手はないのだ。いくら酒類がなくてもね。


 無事完成したところで、アンジェリカさん達が戻ってきたので、皿などを出して夕食の準備をしているときに、いきなり入ってきた人物がいた。


「何やら良い匂いがすると思ったら、これから食事か! 折角だからごちそうになるぜ!!」


 ・・・何故、今来た、、、。私が不満たらたらで黙り込んでいることも気にせずにその人物は言葉を続ける。


「フロスト侯爵よ、ついでだから、一緒に連れてきたぜ。再会を喜び合うといいぜ!! おお、後よ、これから宮殿でも美味いもんが食べられるよう、料理長も一緒に連れてきたからよろしくな!!」


 って、オイ、メシたかる気満々じゃねぇか、、、。あと、リトン公爵、しれっとついて来てんじゃねえよ、しかも奥さんまで連れてきやがって、、、。つか、料理長まで何してるんだよ、、、。そんなことを思っていると、リトン公爵は申し訳なさそうに話しかけてきた。


「フロスト侯爵、済まんな、、、。とりあえず一緒でないと、陛下が何しでかすかわからないし、、、。それにしても、何で陛下はここまで変わったんだ? 侯爵、心当たりはないか?」


 ええ、思い切りありますとも、、、。でも、一番の原因は3馬、いや、3大臣を追い出して枷がなくなったことじゃないかな。


「フロスト領には未知なる美味い食べ物があるとお聞きしましたぞ! 料理で生きている身としては、それを聞いて来ないわけにはいきませんからな、ハッハッハッ!!」


 料理長、、、。お前も同類か、、、。


 不満で仕方ないのだけど、来てしまったものは仕方がない。とはいえ、ここではこの人数はムリだから場所を変えないとな、というわけで、アマデウス教会の会議室に再び来たわけです。ついでだから、アマさんにもお供えしておこう、そして、少しは釘を刺してもらいますかね、、、。少しは自重してもらえると嬉しいんだけどムリかなあ、、、。


 さあ、食べるぞ、というときに来やがったので、とりあえず空間収納にしまって、会議室へと移動して改めて準備をし始めた。料理長もリトン公爵も少しは申し訳ないと思ったのか、あるいはさっさと食べたいのか知らないけど、準備に積極的に参加していた。我らが皇帝陛下は催促するだけで、座ったまま動くことはなかった。まあ、皇帝陛下だから当然か。本来、給仕係などがいるのが当たり前で、貴族自ら食事の準備をする方がおかしいのだろう。しかも、他国の王族もこき使っている状態だよな、傍目から見ると、、、。本人達は自主的にやっている、というか、座って待っててと言っても聞かないので仕方ない。領民達もそれに慣れているから何も言ってこない、、、。


 何だかんだあったけど、とりあえず夕食の準備は終わったけど、食事を頂く前に、公爵夫人とは初対面であるため互いに自己紹介をした。公爵夫人はマリーという名前で、ハングラー教国の司祭の次女だそうだ。マリー夫人は、ハングラー教の教えに懐疑的であったため、見せしめとしてトリトン帝国へと嫁がされたらしいけど、貧しいながらも一生懸命生きている領民達と一緒に汗水たらして働くのが楽しいらしく、本人はもう戻る気がないらしい。今日起こった、ハングラー教会の司祭との遣り取りを話すと、大笑いしていた。


 マリー夫人にアンジェリカさん達を紹介すると、戦姫のパーティについてはマリー夫人も一応噂は耳にしており、一度は会ってみたかったらしく、非常に喜んでいたのが印象的だった。また、アンジェリカさんが実はタンヌ王国の王女だと聞いたときの驚いた表情は見ていて面白かった。マリー夫人は慌てて跪いたけど、アンジェリカさん本人はそういったことは望んでいないので、一冒険者、いや、フロスト領の一領民として接して欲しいと強めにお願いされ、マリー夫人はしぶしぶ了承していた。


 そんな感じで話していたが、結構時間が経ってしまったので少し料理が冷めてしまったのは残念なところであるが、それは致し方ないかな。で、一通りは無しが終わったので、続きは食事を摂りながらということで、ようやく食べられそうだ。


「・・・それで、何で私が夕食の音頭を執らないとならないので?」


「そりゃあ、ここの領主だろうが。こういったことは主が行うのが常識だろ。」


「主って、ここの主は陛下でしょうに。」


「何言ってるんだ、この領地の主はお前さんだろう、というわけで、頼むぜ。」


 そう言ってごり押しされたので、「いただきます。」の言葉を発して夕食を食べ始める。メニューは先程気合を入れまくって作ったハンバーグもどきに、名前は知らないけど、サラダを。あとは押し麦のご飯と、いろいろな出汁を使った根菜類を具としたスープである。出汁は先日入手した「しるけん」を使用している。使っていて思ったのだけど、あれこそチートアイテムだ。


 肝心のお味だけど、少し冷めてはいたけど、美味かったので少しホッとした。トリトン陛下も「うめえうめえ」言いながらガツガツ食べていたし、リトン公爵夫妻も美味しそうに食べていた。しかも、公爵はスガーをふりかけたものを、マリー夫人はソースをかけたものをそれぞれ食べさせ合っていた、いわゆる「あーん」というやつだ。うんうん、仲良きことはいいことである。そこで「爆発しやがれ」とならない自分の精神状態に乾杯。


 ところで、料理長であるが、うんうん唸りながら食べていたので、少し気になってしまった。


「料理長、お味はいかがですか? ひょっとして口に合わないとか?」


「おっと、フロスト侯爵、お見苦しいところをお見せしましたな。お味でございますが、大変おいしゅうございますが、逆にそれが悔しいですな。一応何を使って作っているかについてはわかりましたが、正直、この味にするには時間がかかりそうなので、考え込んでしまいましたわい。」


「なるほど、再現できそうですか? できたら再現してほしいのですが。」


「侯爵、残念ながらすぐにはムリですな。というのも、これらの材料を揃えるのが大変ですな。特に肉ですが、これはどこで手に入れましたかな?」


「肉ですか? あるものを適当に用意して混ぜたので、何だったかな? オークのノーマル種にグレイトミシマの肉、あとは、グレイトコウベとか、とにかく牛さんとブタさんの合い挽きですかね。」


 肉の素材を言っていると、料理長とリトン夫妻の手が止まった。


「はい? オークはともかく、グレイト種の牛肉ですか!?」


「そうですよ。」


「はあ、それじゃあ、いくら私でもムリですな。」


「ええっ? ムリですか?」


「ええ、ムリです。ということで、料理長のポジションは侯爵にお渡ししますので、陛下のお食事についてこれからもお願いしますね。」


「えぇ、、、? それは料理長の仕事でしょうに、毎回こうやって来られるの勘弁して欲しいんですけどねえ、、、。」


「お前ら、何で俺を厄介者扱いしてるんだよ!」


「いや、だってねぇ、予告もなくいきなり来たりしますしね。」


「何かと言っては侯爵の料理と比較しますしねえ。」


 私と料理長が互いに陛下に対しての愚痴をこぼす。私と料理長VSトリトン陛下という図式の状態でにらみ合いが始まる。が、他のメンバーはそれを無視するかのようにそれぞれ会話を楽しみながら食事に舌鼓を打っている。そんな中、リトン公爵がとんでもないことを言いだした。


「陛下、こうしてはどうでしょうか。朝食や昼食は料理長が用意したものを、夕食についてはフロスト侯爵が用意したものを頂くというのは?」


 おいマジか。押しつけ合っているのを両方に分散しやがるのかよ、、、。そう思いながら料理長の方を見ると、面倒くさそうな顔をしていた、つまり、私と考えていることが一致していたということだ。


「おう、そりゃあ良い考えだな! 明日からそうするか!!」


「はゐ? 明日から? 明日からって、私達は明日から公国へと向かうんですけど、、、。」


「侯爵よ、出かけるっつってもよ、どうせ、毎日こっちへと戻ってくるんだろ? そこにいるマーブルの転送魔法でよ。」


 チッ、そこまでわかってやがるのか、、、。


「最近の俺は、勘が冴えているからよ、そんくらいのことはわかるんだよ。」


「ということは、それで決まりですな。それで、陛下、ついでといっては何ですが、いい策を思いついたのですが。」


「おお、宰相よ、何か考えがあるのか?」


「ええ、今現在、トリトン帝国内の改革や帝都の再開発など、取りかからなければならない問題が山積みですけれども、それぞれを担当している者達で毎日評価をしましてですね、特に良い結果を出した者にも、宮殿での食事やフロスト公爵領での食事を一緒に摂ってもらうというのは?」


「おお! そいつは良い考えだな! 早速採用するか!! けどよ、折角だからできるだけ全員に平等に評価してやれよ。」


「それはもちろん承知しております。できるだけ下働きの者達を優先しますので。」


 何かこっちの都合も考えずに勝手に話が進んでいるんですが、、、。


 その後もその話で持ちきりとなってしまい、なし崩し的に高評価の帝都の住民を夕食でもてなさないといけなくなってしまった。とはいえ、毎回は私もムリだから、私の料理ではなく、領内の食事ということで妥協してもらった、というか、させた。


 ハンバーグで解消できたはずのストレスが、作り始める前以上のストレスを貯め込むことになり憂鬱になりそうだったけど、マーブル達が慰めるようにスリスリしてきたので、それをモフモフしてどうにか心を落ち着けることに成功して、どうにか眠りに就くことができた。

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リトン侯爵「ご相伴にあずかるということで、私もフロスト領での食事にありつけるな。」

マリー夫人「あなた、GJですわ。」

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