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第116話 さてと、お披露目を兼ねた食事会です。

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前回のあらすじ:奴が来た、、、。





 モフ櫛、、、。想像以上の破壊力を持っていた。先日、ゴブリンの職人さんに製作を頼んでいたものだけど、今日ついに完成品を受け取り、領主館へと戻った際に軽く使用してみた結果がこれだった、、、。


 やばい、これは病みつきになってしまう。ブラッシングされたマーブルやジェミニはもちろんのこと、ブラッシングしたあとの毛づやを堪能した私でもこの手触りはヤバイと感じた。魔樹製でもかなり凄かった使用後の毛づや感であったが、黑鉱石、ミスリルとそれぞれ使用してみたところ、黑鉱石もやばかったけど、ミスリル製はさらにもの凄かった。3人で別世界に飛んだ気分になってしまったが、それに待ったをかけてくれた者がいた。そう、毛をもっていないライムであった。


「あるじー、マーブルさん、ジェミニさん、ごはんー!!」


 ライムが私達にそのプニプニを押しつけるかのように軽くタックルをかましてきた。


「ハッ? お、おお、ライム! 助かったよ! 危うくこのまま過ごしてしまうところだったよ。」


「ニャア!」


「ライム、ありがとうです!!」


 ライムのおかげで事なきを得て、どうにか仕込みが完了していた食材を調理していった。


 調理しながら4人で話し合ったところ、黑鉱石製はともかく、ミスリル製のモフ櫛は封印に近いくらい使用頻度を下げることにした。というのも、ブラッシングした後のあの毛づやといい手触りといい、離れられないくらいの効果だったし、マーブルとジェミニもあの恍惚感はかなりやばいものだったらしい。それの何がいけないかというと、それをしてしまうと、ライムが仲間はずれになってしまいかわいそうだというのが一番の理由だ。他にも理由はあるが、それは一番の理由に比べると大したことではない。ということで、基本的にミスリル製はヤバすぎるので、多くても年に一度程度の使用にとどめ、普段は魔樹製、月に一度くらいは黑鉱石ということでまとまった。後で職人達にも報告しておこう、、、。


 ライムのおかげで無事夕食の準備は完了したので、完成品をアマデウス教会の会議室へと持っていく。最初は領主館で食べようと思ったけど、考えてみたら、領主館での食事は5、6人がいいところであり、しかも今回はトリトン陛下もいる。トリトン陛下の我が領での扱いについて、少なくとも主要メンバーには伝えないといけないことを忘れていたので、急遽メンバーを増やさなければならなかった。ということで、領主館での食事は物理的にも精神的にもムリだったから、アマデウス教会の会議室で、ということになった。もちろん、参加者(ほぼ強制)が増えた分、調理した料理も多く用意した。


 で、結局、最終的な参加者は私達4人、戦姫の3人、ウルヴ達3人、フェラー族長、カムドさんカムイちゃん親子、エーリッヒさん、エルヴィンさん、ハインツさんに加えて、トリトン陛下という感じである。レオ達ウサギ族やコカトリス達はもちろん呼んでいない。ってか呼ぶ必要ないしね。宴会じゃないし。あ、アッシュも参加者だっけ一応。


 アッシュはいつもの取り巻き達を連れてこちらに来ていた。彼らはアッシュ直近の守備兵になっているようで、食事にはアッシュと守備兵長の2人が参加することになった。


 完成した食事をアマデウス教会へと持っていこうとしたときに、訓練を終えたアンジェリカさん達がこちらに戻ってきた。


「あら、アイスさん、夕食はこちらではなく別の場所ですのね? お手伝いできず申し訳ありませんわ。あ、そうだ、これからワタクシ達もお手伝いしますわ。何なりと申しつけてくださいませ。」


「ああ、アンジェリカさん、お気遣いは無用ですよ。こっちは好きでやっているだけですからね。それよりも入浴してサッパリしてからお越しください。場所はアマデウス教会の会議室です。」


「承知しましたわ。できるだけ早くそちらに向かいますわ。」


「いえいえ、ゆっくり温まってからで大丈夫ですよ。すぐに準備完了するわけでもないので。」


 渋る3人だったけど、準備といっても大した手間でもないというこで押し切った。ちなみに、トリトン陛下は他の野郎共と一緒に公衆浴場へと向かったそうだ。何でも、飛び入り参加してアッサリと受け入れられたらしい。トリンという一市民で。マーシィさんは気付いていたらしいが敢えて言ってないようだった。


 そういうわけで、のんびりと夕食の準備をしつつ、参加者を待っていたが、最初に来たのはカムドさんとカムイちゃんで、来た途端に手伝いをし出した。別にノンビリしていればいいのに、、、。フェラー族長は仕事が少し残っているらしく、もう少ししてから来るとのこと。


 次に来たのは何とトリトン陛下、、、。あんた一応お客さん、というか、主賓なんだからもう少し遅く来いよ、、、。


「陛下、、、。何でこんなに早く?」


「おう、アイス侯爵、ご苦労さんだな!! 何でかって? そりゃお前、食事の準備する光景なんて初めて見るからな! いつもは用意された状態しか見てねぇからよ、正直気になってはいたんだよ! あと、それとここにいるときの俺は「トリン」だからよ! 間違えんなよ!!」


「いや、その「トリン」さんでいるためのお披露目なんですから、今は陛下でいいのですよ。・・・まあ、私は呼び方変える気は全くありませんけどね、、、。」


「おい、アイスよ、何か余計なこと言ったみたいだが気のせいか?」


「はい、気のせいです。早くいらっしゃった理由はわかりましたので、ごゆっくりご覧になってください。」


「おう、そうさせてもらうぜ。ところでよ、アイス侯爵。俺のために用意してくれた部屋だけどよ、他の場所ってねえのか?」


「他の場所と言いますと?」


「この教会の司祭室を空けてくれたのは嬉しいんだけどよ、何か落ち着かねえんだよな、、、。あと、水場があるともっと嬉しいんだが、、、。」


「そういうことでしたか。陛下に変な場所はご提供できなかったので、一番綺麗なあの場所にしたのですが、やはり落ち着きませんか。それと水場ですか、、、。浴場といい、水関係は基本魔導具頼りなんですよね、そうすると厳しいかな、、、。」


 確かに、陛下は海神だから水場はあったほうがいいか。隔離、いや、くつろいで頂くためにはそっちの方がよさそうだけど、水場、か。・・・ん? そういえば、あったな、水場が! ゆっくりと開発していこうと思ったけど、提供したほうがいいかな、水場もあるし。まあ、湖だから海じゃないけどね。でも、水場だ。


 どの場所を思いついたかというと、ズバリ、第2のねぐらにしようとしていたあの場所だ。恐らく陛下は気に入ってくれるはず。話の口ぶりからすると、水場であればよさそうだしな。


「あっ、一カ所ありました。あそこなら気に入って頂けると思いますが。」


「おお! あるのか!? 済まんが後で案内してくれるか?」


「承知しました。食事が済みましたらご案内致しますよ。」


「おお、ありがてえ!! ・・・って、先程とはうって変わっていやに素直に引き受けたな。アイスよ、何かあるのか?」


「いえ、その場所は後日庭園とかにしようと考えていた場所なのですが、生憎今はいろいろと優先順位の高いことが多くて。とりあえずご案内致しますが、ほとんど手つかずの状況ですが、よろしいですか?」


「ああ、構わんよ。どういう感じになっているのか見たいからな。別にそこに住む訳でもないしな。」


「今日だって、勝手に宮殿から出るとか言いだしていろいろ大変だったでしょうに、、、。文官さん達もの凄く慌ててましたよ、、、。」


 そんなことを話していると、カムドさん達が「お前がそれを言うか?」というような視線を送ってきたのは気のせいだろう、、、。


 こうしている間にも、今回のメンバーが続々と入ってきた。ちなみに今回は使用したテーブルは以前より職人さん達に製作を依頼していたもので、今日が最初の使用である。どういうものかというと、ズバリ中華料理屋にあるあの円いテーブルである。取りたい料理を自分たちで動かすあのテーブルだ。ただ、大人数用ということで結構な大きさになっており、真ん中のものが取りづらかったりするけど、そこはラヒラスが魔導具で解決したみたいだ。テーブルの淵にボタンがあり、それを押すと真ん中にある料理の一部が押したボタンのテーブルに置かれた皿に転送されるそうだ。ちなみに、マーブルの転送魔法を参考にしたみたいだけど、魔力の消費が多すぎて真ん中の料理にしか対応できなかったらしい。逆に、テーブルの真ん中にあるもの限定であれば消費する魔力が少なくて済むそうだ。その辺はさっぱりわからないけど、そう言っているのだからそうなのだろう。


 ところで、何故円いテーブルを使ったかというと、席順を決めるのが面倒だったからだ。一番の上座はトリトン陛下で間違いないはずだけど、一応ここでは「トリン」という一市民扱いだし、アンジェリカさん達も本来であれば国賓待遇でないとおかしいけど、本人達はトリトン陛下と同じくここでは一市民扱いを希望しているし、いろいろと面倒だからだ。


 メンバーが揃ってきたところで新たな問題点が浮かんできた。というのは、椅子が足りなかった、、、。ちなみに用意した椅子の数は16脚、参加メンバーは19人という計画性も何もないものだったけど、意外とすんなり解決してしまった。解決方法は単純で、実はマーブル達にも1脚ずつ用意していたので、マーブルは私の上に、ジェミニはルカさん、ライムはセイラさんの膝の上ということになったから。そう言う話になったときに、ルカさんは光の速さと言ってもいいくらいの速度でジェミニを確保していた。ルカさん、やるな。私的にはマーブルが一緒であれば問題ない。


 最後に入ってきたのは、仕事をようやく終えて来たフェラー族長だった。全員が揃ったところで、全員にこの食事会の本当の目的を話した。ここにいるトリンという人物は、実はトリトン帝国の皇帝陛下であるということ、そのトリトン陛下はちょくちょくこの町に飯をたかり、いや、食べに来るから、その時はトリンという一市民として接することなどである。ちなみに、トリトン陛下が海神トリトンであることは話していない。別に本人も気にしていないし、話す必要もないからね。


 特に、アッシュが目の前にいる客人が皇帝陛下本人であることに驚いていた、というかもの凄く恐縮していた。今は少しマシになったとはいえ、本来はスキルとか権威に敏感だったからね。あ、今でも敏感か。夕食は終始楽しい雰囲気だったので、一安心だ。トリトン陛下も「うめぇうめぇ」とかなり喜んでいた。


 夕食が終わって、片付けをしたのだけど、何故かトリトン陛下も片付けに参加していた、、、。いや、アンタは司祭室でくつろいでいなさいよ、、、。やはり初めてのことなので、どうしてもやってみたいとのことだったので、皿をまとめたりとか、簡単なものをやってもらった。あと、少し余ったので、お土産として持ち帰ってもらうことになった。余り物を渡すのは基本不敬ではあると思うけど、本人がそれを強く希望してしまったのだから、どうしようもない。ちなみに、片付けについてだけど、こっちにはライムだけでなくオニキスもいるので、ほとんど手間はかからない。ライム達がキレイにしたのを仕上げで水洗いして、後は私が水術で水を吹き飛ばすだけだからね。


 食事が終わって、今日は領主館ではなく、司祭室で少しくつろく。というのも、もちろんトリトン陛下がいるからである。後は、第2ねぐらへと案内する役目も残っているから。トリトン陛下は待ちきれないらしく、しきりに急かしてくる。いい加減ウザくなってきたので、さっさと案内してお帰り願おうと思って案内することにした。もちろんマーブルの転送魔法でね。アンジェリカさん達も付いていきたいとのことだったので、一緒に転送することになった。


 転送魔法で第2ねぐらに到着すると、アンジェリカさん達は景色の綺麗さに、トリトン陛下は自然の湖があることにそれぞれ呆然としていた。私たちは見慣れているから、ああ、いつも通りだな、という感覚程度である。


「アイスよ、本当にここを俺の居場所にしていいのか?」


「正直、まだ手入れとか終わってないので、それが終わってからにして欲しいですが。あと、入り浸ることがなければ。」


「どうせ、俺は何もしてねぇし、別にいてもいなくても同じじゃねえか?」


「いえ、帝都に皇帝陛下がおわす、ということが大事なのです。ですから、ときたま来るのはいいとしても、ここで寝泊まりしたり、入り浸ることがなければかまいません。」


「ああ、わかったよ。ところで、ここは一体どこなんだ?」


「ええ、ワタクシもそれが気になりました。アイスさん、ここは一体どこなんですの? フロスト領内にこういった場所はなかった気がするのですが。」


「ここは間違いなくフロスト領内にあります。場所はですね、説明が面倒なので地図で。」


 そう言って、空間収納から地図を取りだして、場所を指し示す。一応、タンヌ王国との国境沿いにあるけども、道から大きく外れたところにあるので、基本誰も気付くことはないし、念のために氷の結界で覆っているので私達以外は誰も入れない。


「済まんが、フロスト侯爵。俺はこの場所が気に入ったから、この場所は皇帝直轄の地にするがかまわねえか?」


「それは皇帝命令ですので、構いませんけど、先程も申し上げたとおり、籠もったりなさるといろいろと他の方が大変なので制限を付けさせて頂きますが、よろしいですか?」


「お、おう、一体どんな制限だ?」


「そうですね、緊急事態を除いて、この場所でご就寝なさるのはかまいませんが、起床時間より少し前の時間に、宮殿の寝室に自動転送させていただきます。あと、この場所は夕食後などの暇な時間以外は入場制限をかけさせてもらいます。籠もられてはかないませんからね。」


「ぐっ、わ、わかった。」


「というわけで、マーブル。そういう感じで制限かけることってできるかな?」


「ミャア!!」


 マーブルは「任せろ!」と言わんばかりに大きめな声で鳴く。うん、この声癒やされるな。アンジェリカさん達も癒やされている感じだ。


「まあ、制限がかかるのはキツいが、我慢するぜ。アイス侯爵、ありがとうよ。じゃあ、その褒美という訳でもないが、水場のおかげで幾分か力を取り戻せた。その力を少しお前達に披露してやるぜ。」


 そう言った後、トリトン陛下の体が光り出した。


「おお、この感覚は久しぶりだな、、、。って、あまり力を入れすぎるとまずいな。少し抑えないとな。」


 そう言うと、第2ねぐら改め皇帝直轄地は色々と変化を起こしていた。しばらく放っておいたせいで、そこそこ伸びていた草が綺麗に刈り取られ、簡易的に作った家がもの凄く綺麗になったりした。」


「ふう、とりあえずこんなところか。」


 そうした変化に少し呆気にとられていた私達にトリトン皇帝は話してきた。


「力が少し戻ったおかげで、陸についての知識も少しわかってきた。ということで、これで少しはお前に嫌みを言われなくなるな、ガハハッ!!」


「いや、それは嫌みではなくて、諫言の一部だと思ってくださいよ。リトン伯爵、いえ、公爵もこれから大変でしょうし。」


「まあ、いいや。俺も少し力が戻ってやる気も出てきたことだし、お前の領地に来れば、美味いものも食えるし、これからもちょくちょく来させてもらうぜ!! トリンとしてな!! じゃあ、俺は一旦宮殿に戻るから。これからもよろしくなアイス侯爵、それに、アンジェリーナ嬢達。」


 そう言って間髪入れずに転送してしまった。やる気になったのはいいけど、変な方向で暴走するのは勘弁して欲しいかな、とか思いながら私達も領主館へと戻って今日という一日は終了した。


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勇者(笑)ご一行「俺らはいつまでここにいるんだ、、、。」
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