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第55話 さてと、ダンジョン地下1階ですね。
しおりを挟むあれから2日後、予定通り私達はフロスト領で発見されたダンジョンへと向かう。今回の探索では私達の他に戦姫の3人とカムイちゃんが同行する。この件は領民には伝えていない、というのも、領主不在の状況となるため余計な混乱は避るためだ。伝えない方がいいと言ってきたのはラヒラスだった。ラヒラスがそう言うなら間違いないだろう。
基本的に領内のことはフェラー族長とカムドさん、ウルヴ、アイン、ラヒラス達がいれば問題なく運営できる。そのおかげでこうして私も好き勝手出来るのだ。万が一彼らの誰かが反旗を翻してここを乗っ取ったとしても別に問題ない。ここを上手く治めてくれさえすればいいのだから。とはいえ、基本的にはマーブルの転送魔法で毎日ここには戻ってくる予定だからこそ、こういうことができるのも事実だ。
戦姫の3人やカムイちゃんが準備をしている間、私達は何をしていたのかと言えば、いつも通りの巡回とウサギ族やクレオ君とパトラちゃん達アイドルとのモフモフタイムを堪能しつつ、アマデウス教会の神官室に転送ポイントをマーブルに設置してもらったくらいだ。私達は基本的には装備というものは無いし、お揃いで用意した一角ウサギの毛皮も、私だけは転生の関係でそれが失われているため、マーブル達もそれに合わせて装備をしていない状態だ。別に気にしなくてもいいのに。とても似合っていて可愛かったのだから、、、。
朝食を済ませて、マーブル達のモフモフを堪能してから、カムドさんからいくつか報告などを聞いて、領主決済の必要なものは決済しておく。流石に規模が極小の我が町は決済と言っても1日に3件もあればたくさんといっていい。ということで本日の決済もあっさりと終わり、ウルヴが入れてくれたお茶を美味しく頂いている最中に、カムイちゃんと戦姫の3人がこちらに来た。
「アイスさん、おはようございます。マーブルちゃん達もおはよう。」
「おはよう、カムイちゃん。準備は大丈夫かな?」
「うん、バッチリだよ。楽しみでなかなか寝られなかったけどね、、、。」
「ありゃ、無理はしないようにね。」
「フロスト伯爵、ご機嫌よう、マーブルちゃん、ジェミニちゃん、ライムちゃんもご機嫌よう。」
「アンジェリカさん、おはよう。準備は整っておりますか?」
「ええ、問題ありませんわ。久しぶりにご一緒するんですもの、ワタクシ達も楽しみで寝られませんでしたわ。」
「君達もかい、、、。まあ、初日はそれほど大変ではないと思うから大丈夫だけど、無理は禁物です。」
「ええ、承知しておりますわ。とにかく楽しみなのですから、早速向かいたいと思いますわ。」
アンジェリカさんが興奮気味で話してきた。近い近い、いや、超のつくくらいの美人に接近されたら、そりゃ、嬉しいけど、何か違う。周りを見ると、セイラさんも、ルカさんも、カムイちゃんも同意見だといわんばかりに頷いている。我が猫達というと、いつも以上におねだりのスリスリが凄かった。君達もそこまで楽しみだったのね。いつも以上のスリスリ攻撃は非常に嬉しいのだけど、ライムさんや、顔に飛びつくのはやめてね、息できなくなるからね。
と、まあ、フェラー族長他、待ちの主要メンバーの見送りを受けて、必要以上に気合の入っているメンバーを連れて洞窟へと向かう。順番的には、私とマーブル、カムイちゃん、戦姫の3人、ライムとオニキス、殿がジェミニという順番だ。本来なら斥候役のカムイちゃんかセイラさんが最初に入るのが基本だが、入り口は一度みんなで入っているからね。今回のパーティは私がリーダーとなる。前世、というか前回までは、アンジェリカさんがリーダーで、戦闘時の指揮に関してだけは私がやっていた、というか何で私だったのか解せなかったが、とにかくそういうことだった。
入り口を通過すると、先日少し入った感覚から薄暗いかと思ったが、全くそんなことはなく明るかった。別に誰かに光源となる魔法を頼んだわけでもなく普通に明るかった。これがダンジョンというものかと少し感動したところで、探索を開始する。水術で気配探知を行うが、特に気配は感じられなかった、というより、水術での探知だとそれほど広範囲に探知出来ない状態だというのが正しいのかも知れない。最低限、周りの部分はしっかりと把握できているため少なくとも不意打ちとかそういったものには対応できるようだ。
道は一本道となっており、そのまま進んでいくと少し広めの空間にたどり着く。この空間では真ん中の部分こそ土が踏み固められていた感じだったが、周辺は草が生えており、隅には水たまりみたいなものがあった。鑑定してみると、草については通常の雑草のようで、新たな作物の発見とはならなかった。一方水たまりについて鑑定してみると、普通に飲める水とのことで、水量もこうみえてかなりあるようだ。折角なので飲んでみると、普通に飲めた。ただ、ここはこの洞窟の最初の部屋みたいなものだから、あまり有り難みを感じることはできなかった。
部屋は前後にそれぞれ道が存在しており、片方は先程の道、もう片方はこれから進み道となっていたので、そちらの方へと進んでみる。道は同じように一本道ではあったが、この先にまた広い空間があるようだ。それと、何かの生物の気配を感じた。数は6体ほどかな。生物の気配についてはセイラさんもカムイちゃんも感じたらしく、少し警戒することになったが、何かおかしい。敵意が全く感じられないのだ。何かあると困るので少し警戒しながら空間へと移動すると、その6体がこちらに飛びかかってきた、というか飛びついてきた。
ハッキリ言おう、むちゃくちゃ可愛い! 以前の世界でも見たことがある種類の動物だ。いや、ぶっちゃけると柴犬である。しかも子犬、いや、ひょっとすると豆柴? どちらにせよ可愛くないわけがない!! 念のため鑑定する。
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『ミニマム・グラスドッグ』・・・お主のいた世界でいうところの豆柴じゃの。それ以上でもそれ以下でもないぞ。ちなみに、子犬の大きさではあるが、これでも大人の大きさじゃぞ。あと注意事項じゃが、こやつらはこのダンジョンでしか生きられないから、間違っても地上に連れて行こうなぞ考えてはいかんぞ。それと、こやつらはこのダンジョンの魔素が食事みたいなものじゃから、餌については心配しなくてもよい。見かけたら少し遊んでやるとよいぞ。また、こう見えてこやつらは賢いので、こちらの言葉が通じるから大いに話しかけて上げるとよいぞ。
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まじか。まさかここで新たなモフモフと出会えるとは、、、。しかし、連れて帰れないのが残念だな。いや、まてよ。領民達にここを解放すれば新たな癒やしスポットになるぞ。最初の広い空間もあるからいい場所なのかも知れない。
しきりにじゃれつく豆柴たちをモフりながらみんなに話しかける。
「えーっと、この生物は『ミニマム・グラスドッグ』といいまして、このダンジョンでしか生息できない魔物です。いや、他のダンジョンでもいるかもしれないけど、とにかくダンジョン内でしか生きられません。もちろんこちらに害意は全くありませんので、少しここでこの子達と遊んでいくというのはどうでしょうか?」
そういうと、他のメンバー達が豆柴たちに突撃していった。それに応えるように豆柴たちもそれぞれに突撃していく。大きさ的にはマーブルやジェミニとほとんど同じな上、人なつっこいのであっという間にみんな陥落する。
「な、何ですの? この可愛さは!」
「ああ、この毛触り、非常にいい!」
「この子達も、可愛い。」
「ここを発見したとき、すぐに引き返さなきゃよかった!! でも、そうすると連れて帰ろうとして死なせちゃうから、これはこれでよかったのかも、、、。」
女性陣は大喜びだ。アンジェリカさんなんかは顔をぺろぺろされて「こら!」とか言いつつも顔は喜んでいた。マーブル達も一緒に追いかけっこなどをして一緒に遊んでいた。私はというと、一旦座って、残ってくれた1匹を膝に乗せてモフモフしていた。
しばらく豆柴たちと遊んでいたのだが、流石に先に進まないといけないので、名残惜しいけどまた今度ここに来るからと言って別れた。豆柴たちもわかってくれたのか、全員尻尾を振って見送ってくれた。うん、また絶対ここに来るからね。いや、この子達をフロスト領へと連れて帰る方法何かないかな。まあ、無理だったらここを整備していつでもここに来られるようにすればいいか。
モフモフの感触の余韻に浸りつつ同じような一本道を進んでいくと、今は私の右肩に乗っているジェミニが話してきた。
「アイスさん、今のワンコ達から聞いたですが、この先でも同じようにワンコ達に遭遇するですが、彼らとは違って見た目で騙して襲いかかってくるタイプだそうです。そいつらのせいで、彼らは狩られて数が少なくなるわ、誰も構ってくれないわで大迷惑だそうです。できれば奴らを退治してくれたら嬉しいそうです。ちなみに、奴らは変装してそのような姿になっているそうです。」
なるほど、これは大事な情報ではないかな。豆柴たちがこちらを騙しているかもしれないけど、鑑定ではそんなことは言われてないから多分大丈夫だろう。次に出てくる種類については鑑定してみれば済むだけだからね。
ジェミニが話してくれたことをみんなにも話してみる。
「今のジェミニの話だと、次以降で出てくるワンコ達は、見た目で相手を騙して近づいて襲ってくるタイプだそうです。とりあえず、鑑定してから判断しますので、どうするかはそれを待ってからにしましょう。」
「そうですわね。相手の話を一方的に鵜呑みにするのはよくないですしね。」
他の3人も異存はないようだ。道を進んでいくと、またまた広間がありそうなので、気配探知をすると、広間には8体の存在が確認された。大きさ的には先程の豆柴たちと同じくらいか。先程の気配がこちらの存在を確認したらしく、一斉に向きを変えたのを確認した。念のため広間の入り口で氷の壁を用意しておく。
このまま進んで広間の入り口付近まで進むと、やはり豆柴の集団がこちらに向かって来たので鑑定をかけると、先程とは違った結果となった。
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『ダンジョントラッパー』・・・こやつらは、ダンジョンの魔物に化けて冒険者達を騙す魔物じゃ。強い魔物に化けて難を避けたり、弱そうな魔物に化けて油断している相手を攻撃したりと案外厄介な相手じゃな。とはいえ、一撃でもダメージを与えると変身が解けるから、まずは一撃でもダメージを与えて様子をみるのもアリじゃと思うぞい。
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豆柴たちの言った通りか。豆柴に化けた集団が次々とこちらに近づいては、先程張った氷の結界にぶつかって正体を現していく。本体は人くらいの大きさの何かまだら模様の物体、といった感じだった。それを確認すると、指示するまでもなく全員が一斉に攻撃をしていく。一人一殺といった感じでその魔物達に攻撃を仕掛けていくメンバー。ちなみに私は出遅れて何もしていない状態だ。
ダンジョントラッパーが倒されると、姿が消える。ああ、そういえば、ここはダンジョンだったな。地上とは違って、何かアイテムを落とす感じだったっけ。ちなみにダンジョントラッパーからは何かの骨が出てきた。これはもしや、と思い鑑定すると、やはり、先程の豆柴用のアイテムだった。ちなみに、これを豆柴たちにあげると非常に喜ばれるというものだ。これはしっかりと回収して次回以降に豆柴たちにあげることにしよう。うん、そうしよう。
この骨についてみんなに説明すると、特に女性陣は頑張って集めて豆柴たちに喜んでもらうと気合が入ってしまった。いや、後で手に入るかわからないし、、、。
この階はこの後もほぼ同じ構造で、最初に豆柴がいた以外はダンジョントラッパーしかおらず、ひたすら倒して骨を回収して回るだけとなった。しばらく進んでいくと下に降りる階段があったので、その手前に転送装置を用意してもらった。まだ時間はあったが、特に女性陣からの要望で豆柴に先程手に入れた骨を少しあげたいと言ってきたので、それもいい考えだと思い、豆柴の所に向かう。
豆柴たちのいたところに戻ると、豆柴たちは大喜びでこちらに飛びついてきた。試しに骨をあげると、豆柴は喜んで骨をかじり出す。これは破壊力抜群だ。マーブル達が美味しそうにご飯を食べる様子に匹敵するくらいいいものだった。
しばらく豆柴たちと戯れてから、時間も遅くなってきたのでこの場を後にする。本来なら入り口に戻って普通に戻る方が早いかもしれないけど、念のためまた転送装置の動作確認をするために先程の下り階段まで移動してから転送魔法で戻ろうという話になった。ダンジョントラッパーが再び出現して骨を落とすのを少し期待していたが、残念ながら出てこなかったので、何も出会うことなく下り階段の付近に設置した転送ポイントからフロストの町に戻ってその日は解散となった。ちなみに、手に入れた骨は各自で数本ずつ持つことになったが、別に場所を取るほどたくさん手に入れたわけではないので、特に問題はなかった。
1日ずつ攻略していけばいいけど、毎日ダンジョンに行く必要もないし、のんびりと攻略していきましょうかね。
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