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第23話 さてと、謁見前ですが、招待されました。
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テシテシ、テシテシ、ポンポン、朝起こしイン帝都。どの場所であれ、マーブル達の肉球などで起こしてもらうのはいつの時でも至福である。これの良さがわからない人は人生のほぼ全て損をしているのではないかとつくづく思う。
顔など洗ってサッパリしたあと、備え付けの魔導具で朝食を頼むと、宿の従業員が朝食を持ってきた。ただ、持ってきたのは私の分のみ、さあ、困った、どうしよう、と考えていると、従業員がマーブル達が普段何を食べているのか聞いて来た。この宿では、従魔、というかペットの食事については普段食べているものを聞いてそれから用意しているとのことだったので、私と同じものを食べていると答えた。それを聞いて従業員が一旦戻り、少ししてから3食分持ってきてくれた。場所によっていろいろあるとは思うが、一応言っておく。そんな面倒なことは一番最初に聞いておけよ!!
そんな感じではあったが、とりあえず全員分の食事が出てきたので頂くことにする。2人部屋なので、寝るスペースは問題なかったが、テーブルは小さめだったので、結構ギリギリだったかな。それでもマーブル達は小さいので何とかなった。味についてはここにしては頑張った、という感じかな。
朝食が終わったので、魔導具で従業員を呼び出すと、片付けに来てくれたのでお願いした。食事の味はともかく、こういったサービスは正直ありがたかった。流石は高いだけのことはあった。味については恐らく他の宿だとマズくて食べられたものではないと思う。帝都とはいえ、ここはトリトン帝国、我が家であるトリニトの町の環境を見ればこの帝国の町並みはお察しといったところだろうか。
朝食が済んでから少しまったりしていると、ウルヴ達が来た。それぞれに挨拶を交わしてから今日の予定について話す、といっても謁見で呼ばれるのは私だけで彼らは呼ばれていない、普通はお伴で一緒に来ている人達も含めて王宮で過ごしたりするのだが、生憎とこの国はそうではないらしい。正直言うと、ああいった場は堅苦しくて嫌なので正直こちらとしてはありがたいのが本音だ。
一応自由行動だったのだが、逆にやることがなくて困っている。というのも、帝都とはいえ所詮はトリトン帝国なので町並みはかなり寂れていて特に行きたいところもなく、これという施設もあるわけではない。ウルヴ達3人も同じ考えだったらしく、仕方なく帝都の冒険者ギルドで依頼でもやって暇を潰そうと考えたらしいが、ろくな依頼がなく、まともそうなのは非常に日数がかかると、愚痴っていたのが印象的だった。
こうして退屈と戦って過ごしていたが、謁見の前日になってとある貴族から呼び出しを受けた。貴族の使者は一昨日私に詫びを入れてきた人だった。この使者はリトン伯爵家に使えている人で、伯爵が私達を招待したいとのことで馬車で迎えに来てくれた。どうせ暇なので全員でお邪魔することにした。謁見当日はリトン伯爵家の邸宅から行けばいいとのことだったので、宿を引き払おうとも考えたが、万が一に備えて宿は確保しておくことにした。ラヒラスは大丈夫だと言っていたが万が一のためだ。念のためにうみねこの宿には伯爵家で数日過ごすことになったけど、念のため払った分の日数は部屋を確保しておくように頼んだ。
迎えの馬車に乗って揺られること数十分、リトン伯爵の屋敷に到着した。使者の案内で馬車を降りて屋敷に向かうと、リトン伯爵自身が出迎えてくれたらしい。リトン伯爵だけど、これといった特徴がなく正直覚えるのが大変だ、という印象だった。年齢は30くらいといったところか。最低限の礼の遣り取りをして伯爵邸に入り、案内された部屋に向かう。案内された部屋は伯爵の私室らしく席を勧められたのでお言葉に甘えて席に着く。ここで改めて自己紹介をする。
「我が招きによくぞ応じてくれた。私はリトン伯爵家の当主、ライトロウト・リトンだ。フレイム伯爵領での君の活躍を耳にして皇帝陛下にお会いする前に一度顔を見ておきたかったのだよ。」
「わざわざお招き頂きありがとうございます。私はフレイム伯爵家長男アイス・フレイムと申します。後ろに控えておりますのは我が配下の者達で、それぞれ左から、アイン、ウルヴ、ラヒラスと申します。更に一緒にいる猫はマーブル、ウサギはジェミニ、スライムはライムという名前で私の従魔です。」
後ろに控えている全員がリトン伯爵に一斉に礼をする。
「おお、アイス殿の配下の者は優れものが多いな。誰が何を言うこともなく一斉に同じ行動がとれているとは。そればかりでなく従魔達も一糸乱れぬ行動ぶり。流石と言うほかないな。」
「恐縮です。落ちこぼれと評判の主人には勿体ないくらいの者達ですが、何故かこうして仕えてくれております。」
「そう謙遜せずともよい。ところで、アイス殿、従魔ということはお主の職業はテイマーか?」
「私の職ですが、テイマーではなくポーターです。」
「何? ポーターだと? ポーターというと、あのポーターか?」
「はい、あのポーターです。」
「ふーむ、ポーターについてはそういった仕事をする者は結構おるが、少なくともそういった仕事をしておる者は剣士なり盗賊なり別の職に就いているはず。そういう意味では伝説の職ではあるな。」
「そうですね。理由はわかりませんが、私が職業を選ぼうとしたときには、このポーターしか選択肢がありませんでしたので。」
「何だと? 剣士とか魔術師とか盗賊といった基本職すら出てこなかったのか?」
「はい、一切何も。」
「そ、そうか、大変だったのだな。失礼ないい方かも知れんが、それでは落ちこぼれと評判になっても致し方ないな。とはいえ、そんな状況にも関わらずトリニトを立て直したのは素晴らしい功績だ。」
「ありがとうございます。」
「ところで、職業としてのポーターだが、職業の固有スキルみたいなものは存在するのか?」
「はい、ポーターらしく重量軽減といったものがあります。とはいえ、微々たるものですがね。」
「そうか、一応固有スキルも存在するのだな。」
こんな感じで和気藹々と会話をしていたが、招いてくれた理由がサッパリわからなかったので意を決して聞いてみた。
「そういえば、リトン伯爵、何故私達をこうしてお招きしていただけたのでしょうか。先程トリニトの話しだけではない理由が存在するとお見受けしましたが。」
「ああ、それについてか。隠すほどのことじゃないから話してやろう。君達が王都に来たとき門番に止められた挙げ句、招待状まで没収されているよな。門番からそういう報告を受けてからこちらで確認したのだが、どうやら門番は貴族の子息だから一般人の格好をして王都に来るとは思っていなかった故ああいった行動をとったそうだ。しかし蓋を開けてみたら本当に貴族の子息本人だということがわかったため、すぐに詫びに行かせたのだ。そうしたら、当人はケロッとしており、その門番を咎めるどころかしっかりと任務を果たしたから罰することのないように言ったそうではないか。これには私も驚いたよ。普通こういった状況になるといろいろと文句を言ったり、そういった行動を取った者に対して何かしらの罰を与えようとするものだ。なかなかできることではない。」
「買いかぶりすぎですよ。ご存じの通り私は伯爵家の長男ではありますが、次期伯爵家の当主は次男と決まっておりますので、それもかなり早い時期からです。厳密には貴族ではないのです。そういう訳で、私にはこのような服しかないので、門番の方がああいった行動を取るのは致し方ないと思います。」
「何? 伯爵家でありながら、そういった服を持っておらんのか?」
「はい、服自体は何着か持っておりますが、公式の場に出られるようなものは一着も。」
「では、君はその格好で皇帝陛下に拝謁する予定だったのか?」
「はい、別に門前払いされてもよかったので。」
「なるほど。しかし、君はそう思っていても周りのことを考えるとそうも言っておれん。では、当日の服は私が手配しよう。とはいえ、昨日今日で用意するものだから最低限の質になってしまうのは勘弁してくれ。」
「いえ、お心遣い感謝致します。お言葉に甘えたいと思います。」
「うむ、それでよい。すぐに手配する故、待っておると良い。」
「ありがとうございます。」
一旦リトン伯爵の元を辞して、案内された部屋に向かう。かなり広い部屋だった。私達一行が全員くつろぐことができる広さだ。入った途端にマーブル達が周りを走り出している。ライムは気になったところを綺麗にしていく。私達は思い思いの場所でくつろぐ。
しばらくくつろいでいたら、夕食の呼び出しがあった。ライト伯爵と一緒の食事だ。伯爵自身は領地を別に持っているが、妻子は領地の方にいるらしく、今回はこちらには来ていないとのこと。ちなみに食事についてだが、流石貴族というか流石トリトン帝国というか、自分たちで作った方が美味いものだった。とはいえ、折角こうして用意してくれているのだから文句は言えない。いや、私達の方がいいものを食べているという方が正しいか。とはいえ、会話をしながら楽しい食事であったのは間違いない。
夕食が終わってしばらくして、伯爵から呼ばれたので向かうと、先程話していた謁見用の服が完成したとのことだった。サイズについては問題なかったが、貴族ってこんな動きづらいものを普段から来ているのだろうか。ここに転生してきたときも貴族っぽい服ではあったが、アレの方がまだ動きやすかった。ちなみにその服はボロボロになるまで着ていたが、先日限界がきたので廃棄処分となっていた。まあ、見栄えもよく素材もかなりいいものが使われていることはわかった。何よりここまで気遣ってくれたのは嬉しい。
「アイス殿、着心地はどうかね?」
「しっかりと体に合ってます、流石は伯爵のご利用なさる職人達ですね。」
「お褒めにあずかり光栄だよ、先に言っておくと、動きづらいのは我慢してくれ、こういう服はどうしても動きづらいものだ。」
「そこまでわかっておりましたが、恐れ入りました。」
「ははっ、私も同じように思っているからな。」
「あ、アイス殿、明日の謁見であるが、陛下から私も同行するように指示されたからよろしく。」
「おお、リトン伯爵もご一緒ですか。これは心強いです。正直右も左もわからずどうしようか不安でしたがこれで不安がなくなりました。」
「おおそうだった、陛下がマーブル達も連れてくるようにとおっしゃっていたからそれもよろしく。時間は昼食後とのことだから、それまではここでゆっくりとくつろいで行かれよ。」
「何から何までありがとうございます。それでは明日もよろしくお願いします。」
伯爵の元を辞して部屋に戻る。
マーブル達とウルヴ達3人に明日の予定を伝えておく。
「皇帝陛下への謁見だけど、マーブル達と一緒にとのことだった。それと今回リトン伯爵も同行してくれることになったから、この屋敷の留守は頼むね。」
「アイス様、暇だから情報収集してたけど、ここの貴族達ってまともな人ほどんどいないようだね。リトン伯爵は例外中の例外といっていいくらいの人物だよ。というか、何でこんな人物がトリトン帝国なんかにいるのかねえ。他の国に行っても厚遇されるほどだと思うよ。」
「なるほど、ラヒラスがそう言うなら間違いないかな。」
「まあ、この情報はアインが集めたやつを俺が判断したから。」
「いや、アインの情報収集力は凄いからね。それだったらさらに不安はないよ。」
「それにしても、アインはこんな状況でもよくこんな情報を集められるもんだ。」
「暇なときに城下で治療活動などをやりながら集めていた。数も多かったから集めるのは楽だった。どこでもこれだけ簡単に集まるとありがたいけど、実際の所はじっくり自分の足で確かめるしかないからな。」
「2人とも助かるよ。ところでウルヴ、ここではいい茶葉は見つかりそうかな?」
「正直なところ、ここにはそれほどいい茶葉はなさそうです。仮にあったとしても正直割に合わない値段ですね。他の国はわかりませんが、少なくともこの国の商業ギルドはダメですな。葉の質もそうですが、本当に香りも良く味もいい部分というものがわかっておりません。一応、帝都に滞在する分の量はあるので別に慌てて仕入れる必要がないのは救いですね。」
「なるほど、よくわかったよ、ありがとう。謁見は昼頃らしいから、少しはゆったりできそうだね。とはいえここでは何もすることがないから、それはそれできついかな。マーブル達がいなかったら発狂レベルだね。」
そんな感じで話をしながら今日という一日は終わった。
顔など洗ってサッパリしたあと、備え付けの魔導具で朝食を頼むと、宿の従業員が朝食を持ってきた。ただ、持ってきたのは私の分のみ、さあ、困った、どうしよう、と考えていると、従業員がマーブル達が普段何を食べているのか聞いて来た。この宿では、従魔、というかペットの食事については普段食べているものを聞いてそれから用意しているとのことだったので、私と同じものを食べていると答えた。それを聞いて従業員が一旦戻り、少ししてから3食分持ってきてくれた。場所によっていろいろあるとは思うが、一応言っておく。そんな面倒なことは一番最初に聞いておけよ!!
そんな感じではあったが、とりあえず全員分の食事が出てきたので頂くことにする。2人部屋なので、寝るスペースは問題なかったが、テーブルは小さめだったので、結構ギリギリだったかな。それでもマーブル達は小さいので何とかなった。味についてはここにしては頑張った、という感じかな。
朝食が終わったので、魔導具で従業員を呼び出すと、片付けに来てくれたのでお願いした。食事の味はともかく、こういったサービスは正直ありがたかった。流石は高いだけのことはあった。味については恐らく他の宿だとマズくて食べられたものではないと思う。帝都とはいえ、ここはトリトン帝国、我が家であるトリニトの町の環境を見ればこの帝国の町並みはお察しといったところだろうか。
朝食が済んでから少しまったりしていると、ウルヴ達が来た。それぞれに挨拶を交わしてから今日の予定について話す、といっても謁見で呼ばれるのは私だけで彼らは呼ばれていない、普通はお伴で一緒に来ている人達も含めて王宮で過ごしたりするのだが、生憎とこの国はそうではないらしい。正直言うと、ああいった場は堅苦しくて嫌なので正直こちらとしてはありがたいのが本音だ。
一応自由行動だったのだが、逆にやることがなくて困っている。というのも、帝都とはいえ所詮はトリトン帝国なので町並みはかなり寂れていて特に行きたいところもなく、これという施設もあるわけではない。ウルヴ達3人も同じ考えだったらしく、仕方なく帝都の冒険者ギルドで依頼でもやって暇を潰そうと考えたらしいが、ろくな依頼がなく、まともそうなのは非常に日数がかかると、愚痴っていたのが印象的だった。
こうして退屈と戦って過ごしていたが、謁見の前日になってとある貴族から呼び出しを受けた。貴族の使者は一昨日私に詫びを入れてきた人だった。この使者はリトン伯爵家に使えている人で、伯爵が私達を招待したいとのことで馬車で迎えに来てくれた。どうせ暇なので全員でお邪魔することにした。謁見当日はリトン伯爵家の邸宅から行けばいいとのことだったので、宿を引き払おうとも考えたが、万が一に備えて宿は確保しておくことにした。ラヒラスは大丈夫だと言っていたが万が一のためだ。念のためにうみねこの宿には伯爵家で数日過ごすことになったけど、念のため払った分の日数は部屋を確保しておくように頼んだ。
迎えの馬車に乗って揺られること数十分、リトン伯爵の屋敷に到着した。使者の案内で馬車を降りて屋敷に向かうと、リトン伯爵自身が出迎えてくれたらしい。リトン伯爵だけど、これといった特徴がなく正直覚えるのが大変だ、という印象だった。年齢は30くらいといったところか。最低限の礼の遣り取りをして伯爵邸に入り、案内された部屋に向かう。案内された部屋は伯爵の私室らしく席を勧められたのでお言葉に甘えて席に着く。ここで改めて自己紹介をする。
「我が招きによくぞ応じてくれた。私はリトン伯爵家の当主、ライトロウト・リトンだ。フレイム伯爵領での君の活躍を耳にして皇帝陛下にお会いする前に一度顔を見ておきたかったのだよ。」
「わざわざお招き頂きありがとうございます。私はフレイム伯爵家長男アイス・フレイムと申します。後ろに控えておりますのは我が配下の者達で、それぞれ左から、アイン、ウルヴ、ラヒラスと申します。更に一緒にいる猫はマーブル、ウサギはジェミニ、スライムはライムという名前で私の従魔です。」
後ろに控えている全員がリトン伯爵に一斉に礼をする。
「おお、アイス殿の配下の者は優れものが多いな。誰が何を言うこともなく一斉に同じ行動がとれているとは。そればかりでなく従魔達も一糸乱れぬ行動ぶり。流石と言うほかないな。」
「恐縮です。落ちこぼれと評判の主人には勿体ないくらいの者達ですが、何故かこうして仕えてくれております。」
「そう謙遜せずともよい。ところで、アイス殿、従魔ということはお主の職業はテイマーか?」
「私の職ですが、テイマーではなくポーターです。」
「何? ポーターだと? ポーターというと、あのポーターか?」
「はい、あのポーターです。」
「ふーむ、ポーターについてはそういった仕事をする者は結構おるが、少なくともそういった仕事をしておる者は剣士なり盗賊なり別の職に就いているはず。そういう意味では伝説の職ではあるな。」
「そうですね。理由はわかりませんが、私が職業を選ぼうとしたときには、このポーターしか選択肢がありませんでしたので。」
「何だと? 剣士とか魔術師とか盗賊といった基本職すら出てこなかったのか?」
「はい、一切何も。」
「そ、そうか、大変だったのだな。失礼ないい方かも知れんが、それでは落ちこぼれと評判になっても致し方ないな。とはいえ、そんな状況にも関わらずトリニトを立て直したのは素晴らしい功績だ。」
「ありがとうございます。」
「ところで、職業としてのポーターだが、職業の固有スキルみたいなものは存在するのか?」
「はい、ポーターらしく重量軽減といったものがあります。とはいえ、微々たるものですがね。」
「そうか、一応固有スキルも存在するのだな。」
こんな感じで和気藹々と会話をしていたが、招いてくれた理由がサッパリわからなかったので意を決して聞いてみた。
「そういえば、リトン伯爵、何故私達をこうしてお招きしていただけたのでしょうか。先程トリニトの話しだけではない理由が存在するとお見受けしましたが。」
「ああ、それについてか。隠すほどのことじゃないから話してやろう。君達が王都に来たとき門番に止められた挙げ句、招待状まで没収されているよな。門番からそういう報告を受けてからこちらで確認したのだが、どうやら門番は貴族の子息だから一般人の格好をして王都に来るとは思っていなかった故ああいった行動をとったそうだ。しかし蓋を開けてみたら本当に貴族の子息本人だということがわかったため、すぐに詫びに行かせたのだ。そうしたら、当人はケロッとしており、その門番を咎めるどころかしっかりと任務を果たしたから罰することのないように言ったそうではないか。これには私も驚いたよ。普通こういった状況になるといろいろと文句を言ったり、そういった行動を取った者に対して何かしらの罰を与えようとするものだ。なかなかできることではない。」
「買いかぶりすぎですよ。ご存じの通り私は伯爵家の長男ではありますが、次期伯爵家の当主は次男と決まっておりますので、それもかなり早い時期からです。厳密には貴族ではないのです。そういう訳で、私にはこのような服しかないので、門番の方がああいった行動を取るのは致し方ないと思います。」
「何? 伯爵家でありながら、そういった服を持っておらんのか?」
「はい、服自体は何着か持っておりますが、公式の場に出られるようなものは一着も。」
「では、君はその格好で皇帝陛下に拝謁する予定だったのか?」
「はい、別に門前払いされてもよかったので。」
「なるほど。しかし、君はそう思っていても周りのことを考えるとそうも言っておれん。では、当日の服は私が手配しよう。とはいえ、昨日今日で用意するものだから最低限の質になってしまうのは勘弁してくれ。」
「いえ、お心遣い感謝致します。お言葉に甘えたいと思います。」
「うむ、それでよい。すぐに手配する故、待っておると良い。」
「ありがとうございます。」
一旦リトン伯爵の元を辞して、案内された部屋に向かう。かなり広い部屋だった。私達一行が全員くつろぐことができる広さだ。入った途端にマーブル達が周りを走り出している。ライムは気になったところを綺麗にしていく。私達は思い思いの場所でくつろぐ。
しばらくくつろいでいたら、夕食の呼び出しがあった。ライト伯爵と一緒の食事だ。伯爵自身は領地を別に持っているが、妻子は領地の方にいるらしく、今回はこちらには来ていないとのこと。ちなみに食事についてだが、流石貴族というか流石トリトン帝国というか、自分たちで作った方が美味いものだった。とはいえ、折角こうして用意してくれているのだから文句は言えない。いや、私達の方がいいものを食べているという方が正しいか。とはいえ、会話をしながら楽しい食事であったのは間違いない。
夕食が終わってしばらくして、伯爵から呼ばれたので向かうと、先程話していた謁見用の服が完成したとのことだった。サイズについては問題なかったが、貴族ってこんな動きづらいものを普段から来ているのだろうか。ここに転生してきたときも貴族っぽい服ではあったが、アレの方がまだ動きやすかった。ちなみにその服はボロボロになるまで着ていたが、先日限界がきたので廃棄処分となっていた。まあ、見栄えもよく素材もかなりいいものが使われていることはわかった。何よりここまで気遣ってくれたのは嬉しい。
「アイス殿、着心地はどうかね?」
「しっかりと体に合ってます、流石は伯爵のご利用なさる職人達ですね。」
「お褒めにあずかり光栄だよ、先に言っておくと、動きづらいのは我慢してくれ、こういう服はどうしても動きづらいものだ。」
「そこまでわかっておりましたが、恐れ入りました。」
「ははっ、私も同じように思っているからな。」
「あ、アイス殿、明日の謁見であるが、陛下から私も同行するように指示されたからよろしく。」
「おお、リトン伯爵もご一緒ですか。これは心強いです。正直右も左もわからずどうしようか不安でしたがこれで不安がなくなりました。」
「おおそうだった、陛下がマーブル達も連れてくるようにとおっしゃっていたからそれもよろしく。時間は昼食後とのことだから、それまではここでゆっくりとくつろいで行かれよ。」
「何から何までありがとうございます。それでは明日もよろしくお願いします。」
伯爵の元を辞して部屋に戻る。
マーブル達とウルヴ達3人に明日の予定を伝えておく。
「皇帝陛下への謁見だけど、マーブル達と一緒にとのことだった。それと今回リトン伯爵も同行してくれることになったから、この屋敷の留守は頼むね。」
「アイス様、暇だから情報収集してたけど、ここの貴族達ってまともな人ほどんどいないようだね。リトン伯爵は例外中の例外といっていいくらいの人物だよ。というか、何でこんな人物がトリトン帝国なんかにいるのかねえ。他の国に行っても厚遇されるほどだと思うよ。」
「なるほど、ラヒラスがそう言うなら間違いないかな。」
「まあ、この情報はアインが集めたやつを俺が判断したから。」
「いや、アインの情報収集力は凄いからね。それだったらさらに不安はないよ。」
「それにしても、アインはこんな状況でもよくこんな情報を集められるもんだ。」
「暇なときに城下で治療活動などをやりながら集めていた。数も多かったから集めるのは楽だった。どこでもこれだけ簡単に集まるとありがたいけど、実際の所はじっくり自分の足で確かめるしかないからな。」
「2人とも助かるよ。ところでウルヴ、ここではいい茶葉は見つかりそうかな?」
「正直なところ、ここにはそれほどいい茶葉はなさそうです。仮にあったとしても正直割に合わない値段ですね。他の国はわかりませんが、少なくともこの国の商業ギルドはダメですな。葉の質もそうですが、本当に香りも良く味もいい部分というものがわかっておりません。一応、帝都に滞在する分の量はあるので別に慌てて仕入れる必要がないのは救いですね。」
「なるほど、よくわかったよ、ありがとう。謁見は昼頃らしいから、少しはゆったりできそうだね。とはいえここでは何もすることがないから、それはそれできついかな。マーブル達がいなかったら発狂レベルだね。」
そんな感じで話をしながら今日という一日は終わった。
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