上 下
12 / 210

第12話 さてと、お呼び出しがかかりましたか。

しおりを挟む


 魔導具も無事完成して、ここ離れ小屋でも風呂を堪能出来るようになってからしばらく経ち、トリニトも以前に比べてかなり良い状態になった。見回っていると住民達に笑顔があふれている。冒険者ギルドも羽振りがよくなったおかげで、今までは良くてもEクラス程度の冒険者しかいなかったのだが、最近はDクラスやCクラスの冒険者も来るようになった。そのおかげで、私達がいなくても素材や肉が出回るようになっていた。一方で商業ギルドにはモノが出回らなくなったので、商業ギルドのトリニト支部がいつの間にかなくなっていた。


 そんな状態に満足しながら、私達はいつも通りの生活を送っていたが、ある日父上から呼び出しがあったので屋敷に出向いた。


「父上、お呼び出しにより参上致しました。今日はどういった用件で?」


「おお、アイスか。いきなりで済まんが、王都に行ってもらいたい。」


「はい? 王都に? 私が?」


「そうだ、お前がだ。」


「うーん、理由がわかりませんね。お断りして良いですか?」


「流石にそれはやめてくれ。で、理由なのだがな、ここトリニトではアイスのおかげで半年も経っていないにもかかわらず税収が10倍になったのだ。しかも住民に笑顔が満ちあふれていた。それが評判になって皇帝陛下の耳に入ったらしく、皇帝陛下直々のお呼び出しなのだ。」


「何ですかそれ?」


「まあ、そういうことだから、頼むぞ。これが招待状だ。」


 渋々招待状を受け取り、部屋を出ようとすると、いきなり部屋に入ってきた人物がいた。もちろん、弟のアッシュと母親の伯爵夫人だ。


「お待ち下さい、父上! なぜこんな落ちこぼれが皇帝陛下に招待されているのですか? もし招待されるのであれば、次期当主である私ではないのですか?」


「そうです。旦那様、これは何かの間違いではないのですか?」


 うわあ、面倒くせえのが来たよ、、、。まーた時間がかかりそうだなあ。いい加減勘弁してくれ。


「いや、間違いなくアイス宛てに来ておる。」


「な、何故です? 何故私にではなく兄上に?」


「アッシュよ、そんなにお前が行きたいのならお前が行ってもいいぞ。私は正直行きたくないからな。」


「アイスよ、それは止めてくれ。皇帝陛下直々にお前を指名しておるのだ。これでアッシュが行ってしまえば皇帝陛下の命に逆らったことになり我がフレイム家は反逆罪で領地を失ってしまう。」


「別にいいんじゃないんですか? トリニトの住民のために何もしていないにもかかわらず、相変わらず私を落ちこぼれ呼ばわりしているのですから。それほど自分に自信があるのなら王都へ行ってもどうにかするんじゃないんですか? 私は本当に面倒だから行きたくないんですよね。」


「アッシュ達に言っておく。今回の皇帝陛下のお招きはアイスに対してのものだ。これは勅命であるから、お前達がその勅命を無視してアイスを差し置いて帝都へ行ったり、アイスが帝都へ行くのを邪魔したりすれば、どうなるかわかっておるな? そうでなくても、最近のお前達の行動には疑問を抱かざるを得ない。」


「父上! お聞かせ下さい!! 何故皇帝陛下は私にではなく、落ちこぼれの兄上をお呼びになったのか!」


「そうです、あなた!! 優秀なアッシュではなく、何故アイスを陛下はお呼びなさったのですか!!」


 うわぁ、ダメだこいつら何とかしないと、ってか手遅れか。


「いいだろう、アイスが皇帝陛下にお招きあそばされたのは、極貧だったこのトリニトの町を豊かにし、なおかつ治安も飛躍的に向上させたものによるものだ。」


「それは、ここの商業ギルドが頑張ったおかげで、兄上の功績ではないでしょう!」


「ふう、お前達は一体何をしていたのだ? 商業ギルドなら、もう1月以上前に無くなっておるわ!!」


「!!」


 アッシュ母子は知らなかったらしく言葉を失っていた。


「いいか、お前達。最近食事が豪華になったのも、高価なものが買えるようになったのも、アイスがここの商業ギルドを追い出したおかげだ。私は納税額が半年足らずで今までの5倍近くまで多くなったことで自分の不明に気付いた。いいか、半年で5倍だぞ!! 半年くらい前にアイスが商業ギルドがこのトリニトの町の発展の足を引っ張っていると言ったので、2年間で商業ギルドから受け取っている1年分の金額の2倍以上に増やせと命じた。先程言ったように、アイスは半年足らずで既に5倍以上の税収を得られるようにした。しかもトリニトは日に日に豊かになっているから更に半年後の税収はもっと多くなるだろう。それなのに、お前達はただ、領主の妻や跡取りだからといって威張りくさっているだけで実際何もしなかった。まだ、それでも修行に励んでおるのならそれでもよかったが、アッシュよ、今のお前を見ても半年前から全く成長しているようには見えない。妻よ、それについてはどう考えているのだ? 場合によってはアッシュの次期当主はどうなるかわかるな?」


 2人は驚きと自分たちの置かれた状況にただ顔を青くしていた。


「アイスよ、みっともないところを見せてしまったな。まあ、そういうことだからお前は帝都に行って欲しい。」


「承知しました。」


 父上の元を辞し、離れ小屋に戻ると、マーブル達がお帰り、と言わんばかりに飛びついてきた。やはりこういう歓迎は嬉しいものだ。うーん、モフモフ天国。


「ただいま、マーブル、ジェミニ、ライム。」


 ウルヴ達も出迎えてくれる。


「アイス様、お帰りなさいませ。ご領主からのお呼び出しの用件は何だったのですか?」


「うん、何か皇帝陛下から招待状をもらった。」


「アイス様が皇帝から招待状をもらったのですか?」


「そう。何か1ヶ月後に王都に来て欲しいそうだよ。」


「なるほど。そういうことですか。私達はどうすればよろしいですか?」


「君達はどうしたい? 一緒に帝都に行きたいなら一緒に行くよ。」


「俺はアイス様についていく。ここにいても退屈なだけだしな。」


「俺も一緒に行くよ。木騎馬を使うんでしょ? メンテは任せてよ。」


「私もついていきます。配下というか護衛がいないと示しがつかないでしょう。強いかどうかはさておき。」


「わかった、一緒に行くとしますか。マーブル達はもちろん一緒に来てくれるよね?」


「ミャッ!」


「キュー(ワタシ達が一緒に行かなくて誰が一緒に行くですか!)!」


「ピー!」


 ウルヴ達はもちろん、マーブル達も一緒に来てくれるみたいだ。ってかマーブル達が嫌がったら行かないつもりだったけどね。


 帝都へ行くには普通は街道を使って移動するが、途中でいくつか貴族の領土を通らないとならないので、それは面倒で嫌だから街道を使わないルートをとることにする。特に邪魔が入らなければ、トリニトから帝都トリトンまでは一週間かかる。普通に行けばね。しかし、ラヒラスが作ってくれた木騎馬が我々にはある。それに乗っていけば2日もあれば余裕だ。野営もマーブルの転送魔法でねぐらに行けばいいだけの話だから問題ない。ということで、3週間後にここを出発することにして、それまではいつも通りの行動を取ることにするつもりだ。


 夕食も終わって、みんなでまったりとしていたときに、意外な来客があった。アッシュだ。いつもなら取り巻きを連れて偉そうに「落ちこぼれ」とか言ってくるのだが、今はたった1人だけで来たのには驚いた。


「アッシュか、どうした、こんな時間に?」


 1人だけで来た理由をつかみかねていたので、探るように聞いてみた。


「兄上、お願いがあるんだ。」


「お願い? 珍しいな。内容にもよるが、とりあえず話して見ろ。」


「うん、私を強くして欲しいんだ。」


「どうした? いつもと違うな。」


「ああ、兄上が去った後、父上にいろいろ言われたんだ。」


「ほう、あの父上がお前に? それは珍しいな。」


 アッシュが言うには、アッシュは火魔法が使えるだけで他は全く役に立たないこと、その使える火魔術も周りから見ればちょっとだけ優れているに過ぎず、珍しくとも何ともないこと。アイスについては、火魔術こそ使えないが、オークの上位種を平然と倒せる強さがあるのに対し、アッシュはゴブリンすらまともに倒せないだろうということ、また、アイスはトリニトの住民のために魔物を倒すだけでなく素材も安価で提供しているので、住民からの支持が厚いことなどを言われ、火魔術を持っているから跡継ぎに据えたが、このままでは住民に愛想を尽かされることは目に見えているから、跡継ぎになりたければ強くならないといけない等を言われたらしい。お忍びで町を見たが、以前とは比べものにならないくらい発展しており、自分たちがいかに愚かだったか身をもって知ったそうだ。だから、帝都に行く前に少しでも強くしてもらいたいと思って尋ねてきたそうだ。


「なるほど、お前の言いたいことはわかったが、本気なんだな?」


「うん、お情けではなく私が後を継いで当然といわれる位になりたい。」


「わかった。そこまで言うのならお前を鍛えよう。でだ、普通に修行でもいいのだが、何より時間がないから明日から狩りに行くぞ。お前の実践的な強さと潜在的な強さをまずは確認しておきたいからな。」


「狩り? わかった。頑張るよ!!」


「まあ、そこまで気負う必要は無い。とりあえずどこまで戦えるかを確認するだけだからな。ただ、改善できる部分は遠慮なく指摘していくからな、精神的な覚悟はしておくように。」


「ありがとう、兄上。私は必ず強くなってみせるよ!」


 そう言って、アッシュは屋敷に戻っていった。先程の表情を見ていると、恐らく本気だ。父上に言われたことがよほど堪えたようだ。とはいえ、父上に対しても今更感が強いな。まあ、心持ちが良くなってくれれば、住民の生活も良いものになっていくだろう。それを期待しますか。


 明日以降の予定として、王都に向かうまでの3週間、アッシュを鍛えるということを3人に告げ、それまでに必要なものを各自で集めてもらうように指示した。アッシュを鍛えるのは私とマーブル達で十分だ。ウルヴとアインとラヒラスの3人は私の秘密兵器ともいえる存在だから、彼らのことは秘匿しておきたいという理由もある。知られてしまうと今後面倒だからな。3人は事情を察してくれたのか了解してくれた。


 さて、徹底的に鍛えてやりますか。その前にあいつ戦闘できるのかねえ。
しおりを挟む
感想 237

あなたにおすすめの小説

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

精霊に好かれた私は世界最強らしいのだが

天色茜
ファンタジー
普通の女子高校生、朝野明莉沙(あさのありさ)は、ある日突然異世界召喚され、勇者として戦ってくれといわれる。 だが、同じく異世界召喚された他の二人との差別的な扱いに怒りを覚える。その上冤罪にされ、魔物に襲われた際にも誰も手を差し伸べてくれず、崖から転落してしまう。 その後、自分の異常な体質に気づき...!?

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

処理中です...