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美貌の王女はぽわぽわ属性

ロワイヤル帝国の騎士達。

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 アレンズデールの騎士達は眼前に広がる異様な光景にただ息を呑む。

 緻密にズラリと整列した人の山は圧巻に尽きる。
一寸乱さず整列された騎士全員が武装しており、風に翻るマントは目の醒める様な紺碧の青。

 その色は帝国ロワイヤルだけが有する特別な国色。
 
 視界を埋め尽くす紺碧の青が、我らが姫を求める皇帝の本気を示しているようで、その思いに喜んでいいのか怯んでいいのか、アレンズデールの騎士達はそれぞれが複雑な思いを抱くのであった。



 アレンズデール国を出立してからのこの長い道中、アレンズデールの至宝エスメラルダ姫を守護し、眩く美しい髪の一筋すらも損なう事なく、大帝国へ送り届けること。

 無事に大帝国へ引き渡す任務を担う事は、騎士達の誉れであった。
 その誉れである任務もあと少し。

 任務達成は喜ばしい事である筈だが、姫のお姿を見る事が、今後…無いであろう事を考えると、激しい喪失感を感じていた。
里帰りを気楽に出来る距離ではなく、まして姫は皇后として嫁入りするには、城から外出する事すら難しいであろう。国なら言わずもがなであろう。

 王族の方々ならともかく……。
いや、もう王族の方々すらも滅多にお会いできないであろう場所に嫁いでしまわれた姫様に、ただの騎士である己らなどもう二度と見る事は出来ない筈だ。

 そんな寂寥を感じながらロワイヤル帝国の国境関門を抜けた直後、先ほどの帝国騎士達の姿であった。



「アレンズデールよりの長旅、大変ご苦労でありました。これより我がロワイヤル帝国の騎士が姫様の護衛をお預かり致す。」

 屈強な身体をした面々の中、一際大きな体躯をした騎士が発言する。
 甲冑の肩の部分に大きな紋が刻まれており、恐らく騎士団の中でも高位の者である事が伺えた。

「アレンズデールの至宝エスメラルダ姫様への格別の感謝する。
ーーーーですが、婚姻の儀が恙なく執り行われるその良き日まで、エスメラルダ姫様は我がアレンズデールの至宝である事は変わらぬ事。
 よって我がアレンズデールの騎士一同もエスメラルダ姫様の護衛に同伴させて頂く所存。
 我が王からも姫が婚姻の儀を執り行い帝国の妃となるその瞬間まで、片時も傍を離れるなと厳命されている。それ故、我らも引けぬ。帝国にはただご理解頂きたい。」

 アレンズデールからは実は騎士団長が派遣されていた。アレンズデール屈指の武の強者である。

 大帝国といえど、規模で負けているのは領土の広さのみと自負していた。

 こちら側から下手に出るつもりは微塵もなく、まして帝国側から請われ願われた婚姻である。
強気な態度を崩すつもりは微塵もなかった。

 帝国側の責任者である騎士はしばし無言になるも、アレンズデール国の扱いは丁重にするよう命を下され言い聞かされていた事もあり、諾とあっさりと引き下がったのであった。



 馬車内で外のやり取りに内心首を傾げながら静かにライラとレイスと待つエスメラルダ。
 しばらく待っていると馬車の扉が静かにノックされた。

 レイスが目線でライラと会話をしている。
(私が出る、ここでお前は姫様を守れ)
(そうね、肉盾宜しくね)
(なんか今むかつくこと考えただろう。お前が出てもいいんだぞ)
(あら穿った見方は良くないわ。よろしくね)

 レイスはひとつため息を吐くと「姫様、私が応対します」と話し、さっと扉から外へと出てしまった。

「ライラ、何か不手際があったのかしら?」
「……どうでしょう。何があっても私が姫様をお守り致しますからご安心下さい」
「まぁ……物騒なお話ね。レイスにもライラにも怪我などして欲しくないわ……」

 エスメラルダが憂うように眉尻を下げる姿は庇護欲を掻き立て可憐そのものである。

「チラと見たところ賊ではなく騎士達であり、あのマントの色から帝国の騎士でありますので、私たちが怪我をするような事には恐らくならないかと……」

 ライラは三人の側妃を頭に思い浮かべる。
 あれらに忠誠を誓うような輩でなければいいが。

 しばらくするとレイスが戻って来た。

「姫様、あちらの大勢の者達は帝国の騎士団だそうで、輿入れなさる姫様の護衛に来たとの事でした。
我がアレンズデールの騎士も一緒に同行する事も同意させたとの事。ご挨拶だけお願いできますか? 勿論、馬車の窓からで良いそうですので。」

「ええ。分かったわ」

 レイスの説明に、物騒な兵ではなかったのだと内心ホッとして、エスメラルダはニッコリと可憐に微笑む。

 窓の前に直立不動で立っていたのは大勢の騎士の中から選ばれた高位の騎士達。

 馬車内と外とを遮断していたカーテンが引かれて現れたのは、妖精のように人外に愛らしく、女神のような神々しさを放つ美しい姫君。

 その美しさにしばし言葉を失っていた帝国の騎士の面々は、突如ハッとしたような表情をすると、顔を余すところなく真っ赤にしながら挨拶の口上を述べ始めた。

 それにおっとりと柔らかく微笑み「護衛に来てくださった事、大変感謝いたします。エインズデール国第二王女エスメラルダと申します。宜しくお願いしますね。」と返したのであった。

 茹で上がったかのように真っ赤になった騎士は悲鳴のような裏返った甲高い声で「我が命をかけて無事に皇帝陛下の元へとお送り致しますっ」と返すだけで精一杯であった。

「有難う」とエスメラルダは返し、ライラが無表情で「では、失礼します」とカーテンをシャッと素早く引くとエスメラルダの姿を騎士達から遮断した。

 周囲は美しい夢から醒めようと頭を左右に振り、隊列の指示を出して皇城へと出発したのである。

 エスメラルダの美貌と優しい気性は、大帝国の騎士達を魅了したのであった。
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