53 / 61
53 美神
しおりを挟む
エイラが和音達を案内したのは、一番奥の部屋だった。
「こちらでお召し替えください」
銭湯の男湯女湯のように別々の入り口があり、和音は左側に案内された。
「お召し替え?」
「お手伝いいたします」
「頼む。じゃあ和音、また後で」
何をするのかわからないまま、和音は燕と別れ、エイラと共に中へ入った。
「あの、エイラさん」
「エイラです。和音様、今着ているものをすべてお脱ぎください」
「え、ぜ、全部?」
「はい」
驚いて和音は自分の胸の前で腕を交差し、エイラから一歩引いた。
「は、裸になるんですか?」
「いえ、これを身に着けてください」
彼女は戸惑う和音の前に白い柔らかい布地のガウンのようなものを取り出した。
裸ではいことにホッとしたが、次の言葉を聞いてまた驚いた。
「下着もすべてお脱ぎください」
「し、下着を?」
下着も脱がないといけないことを考えると、エイラの持っている服の生地の薄さでは、大事な部分がすべて透けて見えてしまいそうだ。
「ほ、他にないんですか?」
「これを着られないとなると、裸しかありませんが…」
目の前の薄いシーツのような服を着るか裸にか。和音に選択の余地はなかった。
「これ、丈が短くありませんか?」
彼女の手伝いを丁寧に断り、自分で着たのはいいが、胸の辺りもV字に切り込みが入り、袖もなく、ギリシャ神話に出てくる女性の衣装に似ているが、丈は脚の付け根ぎりぎりまで短い。
「それが普通です」
恥ずかしがる和音のことなどまるで気にしてせず、エイラは和音の手を取って入ってきた入り口と違う扉から出た。
「和音」
扉の先は少し広い空間になっていて、燕が和音と同じような素材の服を着て立っていた。
彼は和音が現れるとさっと近づき、エイラから和音の手を引き継いだ。
燕は長い髪を頭の高い位置でひとつにまとめ、その姿はまさにギリシャ神話の神の様だった。
ここまで肌を露出している彼を見るのは初めてで、いつも服の隙間から見える鱗がキラキラとはっきり見えた。
そして抱きしめられたりしていたので、そうだろうとは思っていたが、想像していたとおり、マッチョではないものの、綺麗に均整の取れた体をしている。
和音は燕のそんな姿に見惚れるとともに、自分の方も同じように見られていることに気づき、途端に彼の視線が気になった。
「み、見ないで」
背中を向け、更に胸を隠した。
「どうして?」
「だ、だって、恥ずかしい」
「恥ずかしい? エイラ、すまないが、後は私がするので、君は外してくれ」
「畏まりました」
燕に言われてエイラがいなくなった。
「エイラには外してもらった。これで恥ずかしくないだろう?」
「え?」
「ここには私だけだ。さあ」
燕が和音の肩を掴み自分の方を向けさせる。
「え、燕、何か勘違いしていない?」
「勘違い?」
「私が恥ずかしいと言ったのは、エイラさんにじゃなくて…燕に言ったのだけど」
「私? どうして?」
「どうしてって…そんな、美神みたいな燕の前で裸に近い格好で恥ずかしいに決まっているでしょ」
「それは、私のことを異性として意識してくれているということか?」
「あ、当たり前でしょ。え、燕は…最初から…お、男の人」
まじまじと見つめられて和音はだんだん声が小さくなった。
頭から爪先まで、穴の空くほど見つめられてどうしてもじもじしてしまう。
「あ、あの、それで、こんな格好をして、何をするの? お腹の子のためだって言ってたけど」
話題を変えようと、ここに来た本来の目的について尋ねた。
この格好と子供のことと、どんな関係があるのか。
「ここはトゥールラーク人の療養所だと言ったね」
「ええ」
「ここには、トゥールラーク人の生気を補うのに適した浴場がある」
「浴場? お風呂?」
「少し違うな。ここはトゥールラーク人に取って必要な生気を供給するところ。点滴のようなものがある」
「点滴? あの、注射して入れる?」
「の、ようなものだ。とりあえず見ればわかる」
「え、あ、」
燕は和音を縦抱きにすると、そのまま真っすぐに歩いて行き、途中で地下へと続く階段を下りていった。
「こちらでお召し替えください」
銭湯の男湯女湯のように別々の入り口があり、和音は左側に案内された。
「お召し替え?」
「お手伝いいたします」
「頼む。じゃあ和音、また後で」
何をするのかわからないまま、和音は燕と別れ、エイラと共に中へ入った。
「あの、エイラさん」
「エイラです。和音様、今着ているものをすべてお脱ぎください」
「え、ぜ、全部?」
「はい」
驚いて和音は自分の胸の前で腕を交差し、エイラから一歩引いた。
「は、裸になるんですか?」
「いえ、これを身に着けてください」
彼女は戸惑う和音の前に白い柔らかい布地のガウンのようなものを取り出した。
裸ではいことにホッとしたが、次の言葉を聞いてまた驚いた。
「下着もすべてお脱ぎください」
「し、下着を?」
下着も脱がないといけないことを考えると、エイラの持っている服の生地の薄さでは、大事な部分がすべて透けて見えてしまいそうだ。
「ほ、他にないんですか?」
「これを着られないとなると、裸しかありませんが…」
目の前の薄いシーツのような服を着るか裸にか。和音に選択の余地はなかった。
「これ、丈が短くありませんか?」
彼女の手伝いを丁寧に断り、自分で着たのはいいが、胸の辺りもV字に切り込みが入り、袖もなく、ギリシャ神話に出てくる女性の衣装に似ているが、丈は脚の付け根ぎりぎりまで短い。
「それが普通です」
恥ずかしがる和音のことなどまるで気にしてせず、エイラは和音の手を取って入ってきた入り口と違う扉から出た。
「和音」
扉の先は少し広い空間になっていて、燕が和音と同じような素材の服を着て立っていた。
彼は和音が現れるとさっと近づき、エイラから和音の手を引き継いだ。
燕は長い髪を頭の高い位置でひとつにまとめ、その姿はまさにギリシャ神話の神の様だった。
ここまで肌を露出している彼を見るのは初めてで、いつも服の隙間から見える鱗がキラキラとはっきり見えた。
そして抱きしめられたりしていたので、そうだろうとは思っていたが、想像していたとおり、マッチョではないものの、綺麗に均整の取れた体をしている。
和音は燕のそんな姿に見惚れるとともに、自分の方も同じように見られていることに気づき、途端に彼の視線が気になった。
「み、見ないで」
背中を向け、更に胸を隠した。
「どうして?」
「だ、だって、恥ずかしい」
「恥ずかしい? エイラ、すまないが、後は私がするので、君は外してくれ」
「畏まりました」
燕に言われてエイラがいなくなった。
「エイラには外してもらった。これで恥ずかしくないだろう?」
「え?」
「ここには私だけだ。さあ」
燕が和音の肩を掴み自分の方を向けさせる。
「え、燕、何か勘違いしていない?」
「勘違い?」
「私が恥ずかしいと言ったのは、エイラさんにじゃなくて…燕に言ったのだけど」
「私? どうして?」
「どうしてって…そんな、美神みたいな燕の前で裸に近い格好で恥ずかしいに決まっているでしょ」
「それは、私のことを異性として意識してくれているということか?」
「あ、当たり前でしょ。え、燕は…最初から…お、男の人」
まじまじと見つめられて和音はだんだん声が小さくなった。
頭から爪先まで、穴の空くほど見つめられてどうしてもじもじしてしまう。
「あ、あの、それで、こんな格好をして、何をするの? お腹の子のためだって言ってたけど」
話題を変えようと、ここに来た本来の目的について尋ねた。
この格好と子供のことと、どんな関係があるのか。
「ここはトゥールラーク人の療養所だと言ったね」
「ええ」
「ここには、トゥールラーク人の生気を補うのに適した浴場がある」
「浴場? お風呂?」
「少し違うな。ここはトゥールラーク人に取って必要な生気を供給するところ。点滴のようなものがある」
「点滴? あの、注射して入れる?」
「の、ようなものだ。とりあえず見ればわかる」
「え、あ、」
燕は和音を縦抱きにすると、そのまま真っすぐに歩いて行き、途中で地下へと続く階段を下りていった。
11
お気に入りに追加
336
あなたにおすすめの小説
つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福
ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡
〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。
完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗
ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️
※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
未亡人クローディアが夫を亡くした理由
臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。
しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。
うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。
クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。
※ 表紙はニジジャーニーで生成しました
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる
釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。
他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。
そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。
三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。
新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません
不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる