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51 日本支部の崩壊
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次に和音が壁に掛かったディスプレイを見た時は、そこはもうただ机と椅子が映っているだけで、田中の姿も彼を取り押さえていた男たちも映ってはいなかった。
田中はどうなったのだろう。
燕が和音に見せなかったが、耳は彼の悲鳴を聞いていた。
そして体は動きを止められていたが、多分高野たちは見たのだろう。顔が真っ青になり震えていた。
「わかっただろう。これが『ホワイトブラッド』の幹部だ。驕慢と利己的意識の塊で、君たちのことをいつでも切り捨てられるただの兵隊、駒としか思っていない」
燕が拘束を解き、彼らはその場にがくりと倒れ込んだ。拳銃は燕の力で弾と同じように砂状になって消えた。
「それでも『ホワイトブラッド』の理念や思想を追い続けるなら好きにすればいい。この国の憲法では個人の思想はきちんと認められているからな。だが、君らは越えてはならない一線を越えた」
和音を抱きしめる燕の腕の力が強くなる。
「和音はただ、トゥールラーク人の子供を産む女性に選ばれただけだ。君たちも彼女が被害者だと思っていたからこそ、私の元から連れ去ったのだろう。一方的に彼女の体を調べて妊娠させたのは私で、彼女が自ら望んだことではない。なのに、君らは彼女を拐った。彼女を利用してどうするつもりだった?」
体が密着しているため、彼が震えているのが和音にはわかる。
それが怒りによるものなのか、それとも恐怖からなのか。
「確かに我々は地球から見れば異邦人だ。我々が滅びようが君ら地球人には関係ないことだろう。だが、どんな生き物も子孫を遺そうと頑張っている。植物も風や虫を使い花粉を飛ばし、実を鳥に啄ませて別の地に種を芽吹かせる。動物も魚も虫も一生懸命求愛し、時には己の命をかけて繁殖を行う。そんな風に藻掻いて何が悪い? 子を成し、愛する人と添い遂げることを望むのはいけないことか」
燕の言葉に彼らは何も言い返すことが出来ないのか、下を向いてじっとしている。
「君たちが自ら集いトゥールラーク人に歯向かって来ようとも、我らはその活動を知りながら容認してきた。我々におもね、媚びへつらう者ばかりでは、それこそ我々が支配していることになる。我々の中にも増長する者も出てくる。毒をもって毒を制すではないが、『ホワイトブラッド』という存在があるからこそ、各国の指導者は、すべてをトゥールラーク人に委ねることなく、自分たちの力で頑張ってきた」
「我々は…最初から踊らされていたのか」
拳銃を持った男が呟いた。
「日本支部はやりすぎた。アメリカ支部も、ヘリの件に携わった者は粛清される。『ホワイトブラッド』は、規模縮小を余儀なくされるだろう」
「我々は何のために…」
「それは君たちの問題だ。今後まだ志しがあるなら、何度でもかかってこい。ただし、それは我々にであって、二度と和音を巻き込むな。地球人同士、互いに傷つけ合うのが君たちの信念ではないだろう」
それから燕は彼らから和音に視線を向けた。
「すまなかった」
「え」
「彼らが動いていることは知っていながら、君が攫われることを防げなかった」
「こうして助けに来てくれたじゃないですか」
「いや、警察関係者に仲間がいることはわかっていて、こんなことになったのは、私の認識が甘かったからだ。地球人に危害を加えることはしないだろうという、甘い考えがあった。ヘリを攻撃してきた時に気づくべきだった」
震える声と歪められた表情から、彼が心底悔やんでいるのがわかる。
「護ると言っておきながら、その約束も護れず不甲斐ない」
「私はこのとおり無事だったし、間に合ったんだからそれ以上自分を責めないで」
「和音は優しすぎる。遅いと罵られて、殴られても仕方ないと思っている」
「そんなに怒られたいなら、怒ってもいいけど、とりあえず、ここから早く出たいわ」
いつまでも高野たちの前で燕に抱きかかえられているのもどうかと思う。
「そうだな。きっと和音の怒った顔も超絶に素晴らしいだろう。誰にも見られないところで、私だけに見せてくれ」
「お、怒った顔はきっとブサイクだから、そんなこと言われると怒れないじゃない」
実際自分が怒ったらどんな顔になるのか見たことがないが、燕の言うような素晴らしいものじゃないことは言える。
「どんな表情でも、和音ならきっと私は何度でも見惚れるよ」
燕の顔が近づき、和音は思わず目を閉じた。
ふにゃりと唇の感触かしたと同時に顔に風が当たり、目を開けると和音は森の中にいた。
「ここは?」
「樹海の中だ。和音はここの地下に掘られた地下にいた」
「樹海…富士山の近くの?あの、迷ったら出られないと言う?」
「それは俗説だ。多分、ここに支部を置くにあたって彼らがそう言い触らしたんだろう。人が通るところには遊歩道もあるし、看板もある。だが、一歩外れれば木々が視界を遮り方向がわからなくなる」
燕の言うように木々が生い茂り太陽の位置も分からない。
怖くなって和音はぎゅっと燕にしがみついた。
田中はどうなったのだろう。
燕が和音に見せなかったが、耳は彼の悲鳴を聞いていた。
そして体は動きを止められていたが、多分高野たちは見たのだろう。顔が真っ青になり震えていた。
「わかっただろう。これが『ホワイトブラッド』の幹部だ。驕慢と利己的意識の塊で、君たちのことをいつでも切り捨てられるただの兵隊、駒としか思っていない」
燕が拘束を解き、彼らはその場にがくりと倒れ込んだ。拳銃は燕の力で弾と同じように砂状になって消えた。
「それでも『ホワイトブラッド』の理念や思想を追い続けるなら好きにすればいい。この国の憲法では個人の思想はきちんと認められているからな。だが、君らは越えてはならない一線を越えた」
和音を抱きしめる燕の腕の力が強くなる。
「和音はただ、トゥールラーク人の子供を産む女性に選ばれただけだ。君たちも彼女が被害者だと思っていたからこそ、私の元から連れ去ったのだろう。一方的に彼女の体を調べて妊娠させたのは私で、彼女が自ら望んだことではない。なのに、君らは彼女を拐った。彼女を利用してどうするつもりだった?」
体が密着しているため、彼が震えているのが和音にはわかる。
それが怒りによるものなのか、それとも恐怖からなのか。
「確かに我々は地球から見れば異邦人だ。我々が滅びようが君ら地球人には関係ないことだろう。だが、どんな生き物も子孫を遺そうと頑張っている。植物も風や虫を使い花粉を飛ばし、実を鳥に啄ませて別の地に種を芽吹かせる。動物も魚も虫も一生懸命求愛し、時には己の命をかけて繁殖を行う。そんな風に藻掻いて何が悪い? 子を成し、愛する人と添い遂げることを望むのはいけないことか」
燕の言葉に彼らは何も言い返すことが出来ないのか、下を向いてじっとしている。
「君たちが自ら集いトゥールラーク人に歯向かって来ようとも、我らはその活動を知りながら容認してきた。我々におもね、媚びへつらう者ばかりでは、それこそ我々が支配していることになる。我々の中にも増長する者も出てくる。毒をもって毒を制すではないが、『ホワイトブラッド』という存在があるからこそ、各国の指導者は、すべてをトゥールラーク人に委ねることなく、自分たちの力で頑張ってきた」
「我々は…最初から踊らされていたのか」
拳銃を持った男が呟いた。
「日本支部はやりすぎた。アメリカ支部も、ヘリの件に携わった者は粛清される。『ホワイトブラッド』は、規模縮小を余儀なくされるだろう」
「我々は何のために…」
「それは君たちの問題だ。今後まだ志しがあるなら、何度でもかかってこい。ただし、それは我々にであって、二度と和音を巻き込むな。地球人同士、互いに傷つけ合うのが君たちの信念ではないだろう」
それから燕は彼らから和音に視線を向けた。
「すまなかった」
「え」
「彼らが動いていることは知っていながら、君が攫われることを防げなかった」
「こうして助けに来てくれたじゃないですか」
「いや、警察関係者に仲間がいることはわかっていて、こんなことになったのは、私の認識が甘かったからだ。地球人に危害を加えることはしないだろうという、甘い考えがあった。ヘリを攻撃してきた時に気づくべきだった」
震える声と歪められた表情から、彼が心底悔やんでいるのがわかる。
「護ると言っておきながら、その約束も護れず不甲斐ない」
「私はこのとおり無事だったし、間に合ったんだからそれ以上自分を責めないで」
「和音は優しすぎる。遅いと罵られて、殴られても仕方ないと思っている」
「そんなに怒られたいなら、怒ってもいいけど、とりあえず、ここから早く出たいわ」
いつまでも高野たちの前で燕に抱きかかえられているのもどうかと思う。
「そうだな。きっと和音の怒った顔も超絶に素晴らしいだろう。誰にも見られないところで、私だけに見せてくれ」
「お、怒った顔はきっとブサイクだから、そんなこと言われると怒れないじゃない」
実際自分が怒ったらどんな顔になるのか見たことがないが、燕の言うような素晴らしいものじゃないことは言える。
「どんな表情でも、和音ならきっと私は何度でも見惚れるよ」
燕の顔が近づき、和音は思わず目を閉じた。
ふにゃりと唇の感触かしたと同時に顔に風が当たり、目を開けると和音は森の中にいた。
「ここは?」
「樹海の中だ。和音はここの地下に掘られた地下にいた」
「樹海…富士山の近くの?あの、迷ったら出られないと言う?」
「それは俗説だ。多分、ここに支部を置くにあたって彼らがそう言い触らしたんだろう。人が通るところには遊歩道もあるし、看板もある。だが、一歩外れれば木々が視界を遮り方向がわからなくなる」
燕の言うように木々が生い茂り太陽の位置も分からない。
怖くなって和音はぎゅっと燕にしがみついた。
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