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42 交渉
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その後、高野たちが和音を訪ねてきた。
特別室にはソファが置かれていて、和音は起き上がってそこで彼らと向かい合った。
和音の隣にはもちろん燕が彼女を支えるようにピタリと寄り添っている。
「お加減はいかがですか?」
高野は見舞いにと有名な果物店のフルーツゼリーを持ってきてくれた。
「ありがとうございます。今は落ち着いているみたいです」
悪阻もストレスで悪化したらしく、目覚めてからは特に何もなかった。
「気分が悪くなると思いますが、お伝えしておきます。お父様…城咲尊被告が勤めていた会社が、彼を訴えるそうです。彼が横領した金額全額の返済と会社のイメージを失墜させた損害賠償として同額の賠償金を求めると、弁護士が伝えてきました。彼は警視庁の留置所にいます。近いうち検察に引き渡されるでしょう」
「そうですか…」
それ以上の言葉を和音は思いつかなかった。すでに高野たちは彼を「被告」と呼んでいる。
「それと、あなたに会いたいと言っているそうです。どうされますか?」
大平が尋ね、それを聞いて和音の肩がピクリと揺れた。
「強制権はありません。ただ、あなたと会うまで何も喋らないと硬く口を閉ざされ、取り調べにも応じてくれません」
「証拠が揃っているのにですか?」
「証拠はあくまで城咲被告が横領したということと、そのお金を遊興などに使ったということ。彼が罪を犯したことはわかっていますが、調書を作るためには動機などを確認する必要があります」
罪を犯して逮捕されても、きちんと裁判で罪を確定するためには、動機などを聞き取らなければならないと彼らは言う。
「なるべく早いうちに、時間は取らせません。『客人』様もそれで宜しいですね」
高野たちは燕を「客人」と呼んだ。初めて燕が自分のことを宇宙人だと明かした時、自分たちに対する呼び名について話してくれた。
日本ではそう呼ぶらしい。
「和音の夫としては喜んで、とはとても言えない。トゥールラーク人の管理者としては、こういう所で素直に協力しないと、そちらも困るだろう」
「お心遣い痛み入ります」
警察組織の中で、彼らは特殊任務として、トゥールラーク人関係の事案を担当していると燕が言っていた。
今回の件だけでなく、もっと前から面識があった感じだった。
「お礼を言うのはまだ早い。決定権は和音にある。彼女が望まないなら、強制はしない。あいつと彼女が同じ空間にいて、同じ空気を吸うのかと思うと、腹が立つ」
「お気持ちお察しします。それで、どうされますか?」
高野は燕に対しては気遣っている様子を見せつつ、和音に問いかけた。
これは和音が決めなければならないことで、燕を頼るわけにはいかない。
「わかりました。会います」
これで父に会うのは最後のような気がした。
最後に和音は言いたかったことをすべてぶちまけようと思った。
「ありがとうございます。では、明日にでも迎えをよこします」
「迎えなどいらない。こちらから出向く」
「そういうわけにはまいりません。あのような大仰な車で来られては下手に注目を集めてしまいます」
「では護衛を…」
「それもいりません。警察の方で手配いたします。更に言えば客人様もご遠慮願います。またあのようなことがあっては困りますから」
「何だと?」
自分の付き添いも断られ、燕が表情を険しくする。
「誤魔化すのも大変だったんですよ。こちらの立場も考えてください」
「しかし、警察がどこまで和音を護れるか信用できない」
「我々も訓練を積んだプロです。きちんとSPを手配します」
「SPが和音の体調まで気遣ってくれるのか」
燕と高野たちは互いに一歩も譲る気配がなく平行線だった。
「あの、高野さんたちの言うとおりにします」
「和音」
「ありがとうございます」
ここは和音が決定権を持つ。燕の心配もわかるし、それは嬉しい。でも、警視庁での一件や今後のことを考えると、ここは高野たちの言うとおりにした方がいいと思った。
嬉しそうな高野たちとは反対に不服な顔を燕は隠そうともしないが、「和音の望むままに」を信条としている彼としては反対はできないのだろう。
「ごめんなさい。でも、坂口さんにはついてきてもらいます。看護師の付き添いは構いませんか?」
「はい。ただ、面会の際には外で待機していただくことになります」
坂口の同行は了承してもらえたので、それで燕は渋々引き下がった。
特別室にはソファが置かれていて、和音は起き上がってそこで彼らと向かい合った。
和音の隣にはもちろん燕が彼女を支えるようにピタリと寄り添っている。
「お加減はいかがですか?」
高野は見舞いにと有名な果物店のフルーツゼリーを持ってきてくれた。
「ありがとうございます。今は落ち着いているみたいです」
悪阻もストレスで悪化したらしく、目覚めてからは特に何もなかった。
「気分が悪くなると思いますが、お伝えしておきます。お父様…城咲尊被告が勤めていた会社が、彼を訴えるそうです。彼が横領した金額全額の返済と会社のイメージを失墜させた損害賠償として同額の賠償金を求めると、弁護士が伝えてきました。彼は警視庁の留置所にいます。近いうち検察に引き渡されるでしょう」
「そうですか…」
それ以上の言葉を和音は思いつかなかった。すでに高野たちは彼を「被告」と呼んでいる。
「それと、あなたに会いたいと言っているそうです。どうされますか?」
大平が尋ね、それを聞いて和音の肩がピクリと揺れた。
「強制権はありません。ただ、あなたと会うまで何も喋らないと硬く口を閉ざされ、取り調べにも応じてくれません」
「証拠が揃っているのにですか?」
「証拠はあくまで城咲被告が横領したということと、そのお金を遊興などに使ったということ。彼が罪を犯したことはわかっていますが、調書を作るためには動機などを確認する必要があります」
罪を犯して逮捕されても、きちんと裁判で罪を確定するためには、動機などを聞き取らなければならないと彼らは言う。
「なるべく早いうちに、時間は取らせません。『客人』様もそれで宜しいですね」
高野たちは燕を「客人」と呼んだ。初めて燕が自分のことを宇宙人だと明かした時、自分たちに対する呼び名について話してくれた。
日本ではそう呼ぶらしい。
「和音の夫としては喜んで、とはとても言えない。トゥールラーク人の管理者としては、こういう所で素直に協力しないと、そちらも困るだろう」
「お心遣い痛み入ります」
警察組織の中で、彼らは特殊任務として、トゥールラーク人関係の事案を担当していると燕が言っていた。
今回の件だけでなく、もっと前から面識があった感じだった。
「お礼を言うのはまだ早い。決定権は和音にある。彼女が望まないなら、強制はしない。あいつと彼女が同じ空間にいて、同じ空気を吸うのかと思うと、腹が立つ」
「お気持ちお察しします。それで、どうされますか?」
高野は燕に対しては気遣っている様子を見せつつ、和音に問いかけた。
これは和音が決めなければならないことで、燕を頼るわけにはいかない。
「わかりました。会います」
これで父に会うのは最後のような気がした。
最後に和音は言いたかったことをすべてぶちまけようと思った。
「ありがとうございます。では、明日にでも迎えをよこします」
「迎えなどいらない。こちらから出向く」
「そういうわけにはまいりません。あのような大仰な車で来られては下手に注目を集めてしまいます」
「では護衛を…」
「それもいりません。警察の方で手配いたします。更に言えば客人様もご遠慮願います。またあのようなことがあっては困りますから」
「何だと?」
自分の付き添いも断られ、燕が表情を険しくする。
「誤魔化すのも大変だったんですよ。こちらの立場も考えてください」
「しかし、警察がどこまで和音を護れるか信用できない」
「我々も訓練を積んだプロです。きちんとSPを手配します」
「SPが和音の体調まで気遣ってくれるのか」
燕と高野たちは互いに一歩も譲る気配がなく平行線だった。
「あの、高野さんたちの言うとおりにします」
「和音」
「ありがとうございます」
ここは和音が決定権を持つ。燕の心配もわかるし、それは嬉しい。でも、警視庁での一件や今後のことを考えると、ここは高野たちの言うとおりにした方がいいと思った。
嬉しそうな高野たちとは反対に不服な顔を燕は隠そうともしないが、「和音の望むままに」を信条としている彼としては反対はできないのだろう。
「ごめんなさい。でも、坂口さんにはついてきてもらいます。看護師の付き添いは構いませんか?」
「はい。ただ、面会の際には外で待機していただくことになります」
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