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27 大切な家族
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燕とのキスは初めてではなかった。
しかし、今度のはニューヨークのホテルでしたキスよりずっと濃厚だった。
触れた唇の間から差し込まれた舌が彼女の舌を捉え、絡みつく。
驚いて喉の奥へ引っ込めた舌を、彼の舌が追いかけてきて、上顎からぐるりと口の中を舐めた。
「んんんん」
和音の頬に手を添えた燕の口づけが更に深くなり、溢れた唾液を燕がジュルリと吸い上げ、ごくりと飲み込んだ。
そして角度を変え、何度も何度も喰むように、口づけは続いた。
燕がようやく唇を離した時には、和音の目はトロリと呆け、そんな和音の様子を見て、燕は妖艶に微笑み、そしてその後気遣わしげに見つめてきた。
「和音、私といる限り、君に二度と悲しい思いや寂しい思いはさせない」
額にかかった前髪をそっとかきあげ、和音の瞳を覗き込んで燕が囁いた。
父から望まぬ子と思われていたことを悟った日のことを夢に見て、泣いていたのを燕は気にかけている。
「いくら私でも過去のことは正しようがない。和音がそんなに心を痛めているのに、私は何もしてやれない。それでも、何度も言うが、和音の存在を知り、こうして和音と触れ合い、共にいられる。ただ、それだけで君は私を幸せな気持ちにしてくれる」
そう言って燕は和音の体を優しく抱擁する。
「君の気が晴れるなら、君の遺伝子上の父親だという男と、君と母上を悲しませた今の彼の家族を苦しめてやってもいい。この世から抹殺しても」
「え、燕」
すごく物騒な展開になり、和音は慌てて燕の言葉を遮った。
「そ、そんなこと、出来るわけ」
「出来る。私にはそれだけの権力も能力もある。私の力をもってすれば、人の一人や二人を社会的に抹殺することも、密かに葬ることも出来る」
その表情は真剣で、そしてこれまで和音に見せてきた彼の能力や、彼が持つ地球での権力というものを考えると、それが簡単にできてしまうだろうことを理解した。
「その男が和音の母上の遺した生命保険も狙っていることは知っている。今どこで何をしているのかも、調べはついている」
「そ、そうなの?」
和音が彼の子の母親となるにあたり、身上調査をしたことは知っている。その中で父親の…城咲尊のことも調べはついているのだろう。
「君の過去も、過去に受けた心の傷も私にはどうすることも出来ない。トゥールラーク人としての能力も、この地球で手に入れた力や人脈、蓄えを持ってしても、無かったことにはできない。もし、それらをすべて投げ捨ててそれが出来るなら、喜んでそうする。丸裸になっても、君と子供がこの手に残るなら、そうしてもいい」
それが彼の本気の言葉だとしたら、そこまで真剣に和音の気持ちを慮ってくれることに、胸が熱くなった。
血を分けた母ならいざ知らず、他人である燕がそこまで言ってくれることに、改めて和音は自分がとんでもない相手から思われているという事実を思い知った。
燕なら本当に今言ったことをやってのけるだろう。
有言実行できるだけの力が彼にはある。
「大丈夫です。燕、ありがとうそこまで言ってくれて」
抱きしめられながら、和音は燕の頬に手を伸ばした。
「母が亡くなって、そこまで私のことを考えてくれる人がいるなんて、それだけで私は大丈夫」
「和音」
「父…あの人のことは、期待するから裏切られ悲しいのだと思います。確かに私がこの世に生を受け、城咲和音として存在するのは、あの人がいたから。でも、あの人は、私を望まなかった。何も期待せず、初めからいなかったものと思って、忘れることにします」
そう、もっと早くそうすれば良かったのだ。
燕に微笑みながら、和音はそう思った。
「私のことをそれほど思ってくれてありがとう。それだけで、あなたの気持ちとその言葉だけで、私は十分です。私には未来がある。あなたと、そしてこの子がこれからの私の大切な家族です」
しかし、今度のはニューヨークのホテルでしたキスよりずっと濃厚だった。
触れた唇の間から差し込まれた舌が彼女の舌を捉え、絡みつく。
驚いて喉の奥へ引っ込めた舌を、彼の舌が追いかけてきて、上顎からぐるりと口の中を舐めた。
「んんんん」
和音の頬に手を添えた燕の口づけが更に深くなり、溢れた唾液を燕がジュルリと吸い上げ、ごくりと飲み込んだ。
そして角度を変え、何度も何度も喰むように、口づけは続いた。
燕がようやく唇を離した時には、和音の目はトロリと呆け、そんな和音の様子を見て、燕は妖艶に微笑み、そしてその後気遣わしげに見つめてきた。
「和音、私といる限り、君に二度と悲しい思いや寂しい思いはさせない」
額にかかった前髪をそっとかきあげ、和音の瞳を覗き込んで燕が囁いた。
父から望まぬ子と思われていたことを悟った日のことを夢に見て、泣いていたのを燕は気にかけている。
「いくら私でも過去のことは正しようがない。和音がそんなに心を痛めているのに、私は何もしてやれない。それでも、何度も言うが、和音の存在を知り、こうして和音と触れ合い、共にいられる。ただ、それだけで君は私を幸せな気持ちにしてくれる」
そう言って燕は和音の体を優しく抱擁する。
「君の気が晴れるなら、君の遺伝子上の父親だという男と、君と母上を悲しませた今の彼の家族を苦しめてやってもいい。この世から抹殺しても」
「え、燕」
すごく物騒な展開になり、和音は慌てて燕の言葉を遮った。
「そ、そんなこと、出来るわけ」
「出来る。私にはそれだけの権力も能力もある。私の力をもってすれば、人の一人や二人を社会的に抹殺することも、密かに葬ることも出来る」
その表情は真剣で、そしてこれまで和音に見せてきた彼の能力や、彼が持つ地球での権力というものを考えると、それが簡単にできてしまうだろうことを理解した。
「その男が和音の母上の遺した生命保険も狙っていることは知っている。今どこで何をしているのかも、調べはついている」
「そ、そうなの?」
和音が彼の子の母親となるにあたり、身上調査をしたことは知っている。その中で父親の…城咲尊のことも調べはついているのだろう。
「君の過去も、過去に受けた心の傷も私にはどうすることも出来ない。トゥールラーク人としての能力も、この地球で手に入れた力や人脈、蓄えを持ってしても、無かったことにはできない。もし、それらをすべて投げ捨ててそれが出来るなら、喜んでそうする。丸裸になっても、君と子供がこの手に残るなら、そうしてもいい」
それが彼の本気の言葉だとしたら、そこまで真剣に和音の気持ちを慮ってくれることに、胸が熱くなった。
血を分けた母ならいざ知らず、他人である燕がそこまで言ってくれることに、改めて和音は自分がとんでもない相手から思われているという事実を思い知った。
燕なら本当に今言ったことをやってのけるだろう。
有言実行できるだけの力が彼にはある。
「大丈夫です。燕、ありがとうそこまで言ってくれて」
抱きしめられながら、和音は燕の頬に手を伸ばした。
「母が亡くなって、そこまで私のことを考えてくれる人がいるなんて、それだけで私は大丈夫」
「和音」
「父…あの人のことは、期待するから裏切られ悲しいのだと思います。確かに私がこの世に生を受け、城咲和音として存在するのは、あの人がいたから。でも、あの人は、私を望まなかった。何も期待せず、初めからいなかったものと思って、忘れることにします」
そう、もっと早くそうすれば良かったのだ。
燕に微笑みながら、和音はそう思った。
「私のことをそれほど思ってくれてありがとう。それだけで、あなたの気持ちとその言葉だけで、私は十分です。私には未来がある。あなたと、そしてこの子がこれからの私の大切な家族です」
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