6 / 61
6.母の作戦
しおりを挟む
「それで、私はなぜあなたの子供を妊娠したことになっているんですか?」
巨大隕石が落ちてきて生態系が変わり、恐竜たちが絶滅した説が、実は宇宙から来た宇宙人のせいだったとか、ダーウィンの進化論が実は彼らが手を加えていたとか、知っていた知識の新たな真実にびっくりだが、壮大すぎる。
それに真実がどうであれ、和音が今知りたいのは、知らぬ間に妊娠させられていた理由だ。
「そうしてこの地球に住む人類を、我らと子を成せるようになるまで進化させ、最初の頃はうまく行っていた。しかし、歴史はまた繰り返すと言いますし、我らの子を成せるだけの力があるかどうか人によって個体差があります。そのため、女性たちに検査を受けさせ、我らの子を成すことが出来うるかどうかを確認してきた」
「それが、女性だけが人間ドックを受けることを強制されていた理由ですか?」
「そうですが、あなたの場合は、それより前、あなたのお母様が余命僅かと診断されたときに、一度受検していますよね」
母の和美がもって後半年と診断されたとき、母の薦めで一通り検査させられた。あんたは健康でいてね。と言われたからだ。
「あの検査であなたが健康で、かつ、私の子の母となるに相応しい遺伝子を持っているとわかりました」
「私?」
「我々」から急に「私」に言い方が変わった。
何が違うんだろう。
「私はトゥールラーク人というだけでなく、地球でいうところの、王族。つまり地球にいる全てのトゥールラーク人の子孫たちの代表なのです」
「それが?」
「先程あなたが体験した力は、王族のみが使えるもの。他の者はテレパシーで互いに意思疎通できる程度なのです。そのせいで、子の母体となる女性も、誰でもいいというわけではありません」
頭では地球にやってきた某映画の胸にSマークを付けたキャラクターを思い描く。
玉より速く空を飛んで、目からレーザーを出したり、大きな岩を砕いたり。
「何を想像しているか予測はつきます。あれも私を見た者が独自の解釈で描いたものです」
「○ー○ーマンに実在のモデルがいた!」
頭にそんなゴシップ雑誌の見出しが浮かんだ。
「話が反れましたね。あなたの検査結果はすぐに私のところ届けられました。何しろ長い間、母体に相応しい存在が現れなかったので、小躍りしました。そして私達は保護者であるお母上のところへ行きました」
「そんなこと、お母さんは何も…」
「ええ、もしかしたら最初は我々の話を信じていなかったのかも知れません」
それはそうだろう。
夫に裏切られ、一人娘を育てるために、生きていくために苦労してきた母は、夢みたいな荒唐無稽な話を信じる人ではない。
「でも同時にこうも仰っていました。自分がいなくなれば、娘は天涯孤独になる。遺伝子学上の父や異母兄弟はいても、他人より酷い。もし、娘に家族ができるなら…自分がこういう状態では、相手を探して手順を踏んでお付き合いから始まるような関係は難しいだろうとも」
病院と家、職場を行ったり来たりの和音の生活に、確かに男性と付き合ってデートする余裕などなかった。
「もちろん、確実に妊娠する可能性はありませんから、やってみて駄目、ということも」
「やってみて?」
「この前の人間ドック。あの時、あなたに私の子種を仕込ませていただきました」
「ど、どうやって…」
「もちろん、ここに、直接私の体液…精液を注入して」
燕は和音のお臍の下辺りを指でつついた。
「わ、私…同意して…ませんけど」
本人の了承なしにそんなことが通るとはとても思えない。
和音は震える声で抗議した。
「サインはいただいていますよ。もちろん、お母上のサインも」
「え?」
まったく覚えがない。一体いつ?
「お母上には、亡くなる一ヶ月前にいただきました。あなたからも、ほら」
そう言って彼は和音に一枚の紙を見せた。
「同意書」
と書かれたその紙の下には確かに母の名前と和音の名前が書かれている。
亡くなる一ヶ月前というと、母は力も弱くなりお箸も持ちにくくなっていた。
ボールペンの線がガタガタ歪んでいる母の字。その字には見覚えがあった。母に必要な書類だからとにかく署名して、と迫った。
「同意書」は入院の際にも欠かされたので、急かされたこともあり、さっと署名した記憶がある。
それが母の作戦だったと、和音は悟った。
巨大隕石が落ちてきて生態系が変わり、恐竜たちが絶滅した説が、実は宇宙から来た宇宙人のせいだったとか、ダーウィンの進化論が実は彼らが手を加えていたとか、知っていた知識の新たな真実にびっくりだが、壮大すぎる。
それに真実がどうであれ、和音が今知りたいのは、知らぬ間に妊娠させられていた理由だ。
「そうしてこの地球に住む人類を、我らと子を成せるようになるまで進化させ、最初の頃はうまく行っていた。しかし、歴史はまた繰り返すと言いますし、我らの子を成せるだけの力があるかどうか人によって個体差があります。そのため、女性たちに検査を受けさせ、我らの子を成すことが出来うるかどうかを確認してきた」
「それが、女性だけが人間ドックを受けることを強制されていた理由ですか?」
「そうですが、あなたの場合は、それより前、あなたのお母様が余命僅かと診断されたときに、一度受検していますよね」
母の和美がもって後半年と診断されたとき、母の薦めで一通り検査させられた。あんたは健康でいてね。と言われたからだ。
「あの検査であなたが健康で、かつ、私の子の母となるに相応しい遺伝子を持っているとわかりました」
「私?」
「我々」から急に「私」に言い方が変わった。
何が違うんだろう。
「私はトゥールラーク人というだけでなく、地球でいうところの、王族。つまり地球にいる全てのトゥールラーク人の子孫たちの代表なのです」
「それが?」
「先程あなたが体験した力は、王族のみが使えるもの。他の者はテレパシーで互いに意思疎通できる程度なのです。そのせいで、子の母体となる女性も、誰でもいいというわけではありません」
頭では地球にやってきた某映画の胸にSマークを付けたキャラクターを思い描く。
玉より速く空を飛んで、目からレーザーを出したり、大きな岩を砕いたり。
「何を想像しているか予測はつきます。あれも私を見た者が独自の解釈で描いたものです」
「○ー○ーマンに実在のモデルがいた!」
頭にそんなゴシップ雑誌の見出しが浮かんだ。
「話が反れましたね。あなたの検査結果はすぐに私のところ届けられました。何しろ長い間、母体に相応しい存在が現れなかったので、小躍りしました。そして私達は保護者であるお母上のところへ行きました」
「そんなこと、お母さんは何も…」
「ええ、もしかしたら最初は我々の話を信じていなかったのかも知れません」
それはそうだろう。
夫に裏切られ、一人娘を育てるために、生きていくために苦労してきた母は、夢みたいな荒唐無稽な話を信じる人ではない。
「でも同時にこうも仰っていました。自分がいなくなれば、娘は天涯孤独になる。遺伝子学上の父や異母兄弟はいても、他人より酷い。もし、娘に家族ができるなら…自分がこういう状態では、相手を探して手順を踏んでお付き合いから始まるような関係は難しいだろうとも」
病院と家、職場を行ったり来たりの和音の生活に、確かに男性と付き合ってデートする余裕などなかった。
「もちろん、確実に妊娠する可能性はありませんから、やってみて駄目、ということも」
「やってみて?」
「この前の人間ドック。あの時、あなたに私の子種を仕込ませていただきました」
「ど、どうやって…」
「もちろん、ここに、直接私の体液…精液を注入して」
燕は和音のお臍の下辺りを指でつついた。
「わ、私…同意して…ませんけど」
本人の了承なしにそんなことが通るとはとても思えない。
和音は震える声で抗議した。
「サインはいただいていますよ。もちろん、お母上のサインも」
「え?」
まったく覚えがない。一体いつ?
「お母上には、亡くなる一ヶ月前にいただきました。あなたからも、ほら」
そう言って彼は和音に一枚の紙を見せた。
「同意書」
と書かれたその紙の下には確かに母の名前と和音の名前が書かれている。
亡くなる一ヶ月前というと、母は力も弱くなりお箸も持ちにくくなっていた。
ボールペンの線がガタガタ歪んでいる母の字。その字には見覚えがあった。母に必要な書類だからとにかく署名して、と迫った。
「同意書」は入院の際にも欠かされたので、急かされたこともあり、さっと署名した記憶がある。
それが母の作戦だったと、和音は悟った。
11
お気に入りに追加
336
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ガダンの寛ぎお食事処
蒼緋 玲
キャラ文芸
**********************************************
とある屋敷の料理人ガダンは、
元魔術師団の魔術師で現在は
使用人として働いている。
日々の生活の中で欠かせない
三大欲求の一つ『食欲』
時には住人の心に寄り添った食事
時には酒と共に彩りある肴を提供
時には美味しさを求めて自ら買い付けへ
時には住人同士のメニュー論争まで
国有数の料理人として名を馳せても過言では
ないくらい(住人談)、元魔術師の料理人が
織り成す美味なる心の籠もったお届けもの。
その先にある安らぎと癒やしのひとときを
ご提供致します。
今日も今日とて
食堂と厨房の間にあるカウンターで
肘をつき住人の食事風景を楽しみながら眺める
ガダンとその住人のちょっとした日常のお話。
**********************************************
【一日5秒を私にください】
からの、ガダンのご飯物語です。
単独で読めますが原作を読んでいただけると、
登場キャラの人となりもわかって
味に深みが出るかもしれません(宣伝)
外部サイトにも投稿しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。
彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。
そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!
彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。
離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。
香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる