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2 まったく覚えが…

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普通妊娠していると聞かされたら「やっぱり」とか、「あの時の」とか、「気をつけていたのに失敗した」とか、ある程度心当たりがあるものだ。
妊活していれば、「ヤッター」だろうし、思いがけなければ「どうしよう」なんて思うもの。

でも和音はそのどれでもなく「え、なんで?」としか思えなかった。
まだ「あなた〇〇です。手術しますか?」と告知された方が納得がいく。

「え、あの、先生…おめでたって…妊娠って…つまり、赤ちゃん?」
「そうですね」

戸惑う和音に目の前の医師は何をわかりきったことをとばかりに言い切った。

「でも、相手…えっと、わたし、まったく身に覚え…ないんですけど。その、男性と…ゴニョゴニョ、したこと…」
「ああ、その点は了承しています」
「え?」

つまり、彼は私が男性経験がないことを知った上で妊娠を告げているのか?

その時、彼の机の上の電話が「プー」と鳴って、彼は弾かれたように受話器を取った。

「はい、はい、わかりました、お待ちしております」

電話の向こうにいる相手には見えないのに、ペコペコお辞儀をして電話を切ると、「今から来る方を通すように」と、インターホンで伝える。

「かしこまりました」

と言ったのはこの部屋の外に控えているあの美人秘書だろう。

「お客様…ですか?」

未だ自分がなぜここに通されたかもわからない和音は、次の客が来るからと追い出されるのだろうか。

「ああ、貴女は居てください。今から来られる方は貴女に用がありますから」
「え?」

自分に用があるお客様?
ますますわからない。ここで待ち合わせをしている人もいない。

「あの、一体…」

尋ねようとした時「お見えになりました」と言って秘書がノックの後で扉を開けた。

すぐさま院長は椅子から立ち上がり走って扉に向かった。

「お、お待ちしており…」
「どこだ」

九十度どころか、膝に頭を擦り付けんばかりの勢いでお辞儀をして、客を出迎えた院長の言葉を遮って、男性の声が聞こえた。

現れたのは黒尽くめのガタイの大きな男性四人。
その中心に髪の長い白いスーツの人物が立っていた。

よくあるゲームのエルフみたいな人だ。この世の中に、こんな綺麗な人がいるのかと思うような、背の高い美人(?)さん。

「は、はい、あちらに」

院長は自分の言葉を無視されたのに、平身低頭で和音の方へ腕を伸ばした。

バチッとその人と目があった。

(うわ、目があっちゃった)

そう思うと同時に、この人が私のお客? いやいやそんなわけない。こんな美しい人が私に用があるなんて。とすぐに心の中で否定した。
七色に輝く髪。白い肌の彫りの深い顔立ち。澄んだ青空のような青い瞳。イタリアブランドの白いスーツを着こなし、肩にトレンチコートを羽織っている。
周りの黒尽くめでサングラスを掛けたいかつい人たちに囲まれている様子は、マフィ〇の幹部のようだ。

和音は目立たないごく普通のどこにでもいる容姿だった。
特に印象もない。街を歩いても芸能事務所からスカウトなんて、絶対に来ない。コンパなどでもその他大勢に分類されていた。

「あの、やっぱり何かの間違い…」
「間違いない」

エルフみたいなマフィ○の人は、流暢な日本語でそう言うと、長い脚であっという間に和音に駆け寄り、彼女の前に膝を突いた。

「ああ、感じる。この波動…間違いない。彼女は私の子を身籠っている」
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