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第四章 騎士団の洗礼

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 紫紋の言葉を聞き団長はそう言ったが、あまり信用されていないと感じた。

「守護騎士の任命は、最終的には聖女の判断となるが、候補になるだけでも大変な名誉となる。候補になるということは、騎士としての実力が認められたということ。その矜持を踏みにじったのだから、生半可な実力では困るというものだ」
「つまり団長は、俺に候補の者たちを実力で捻じ伏せろと、そう仰りたいのですか?」
「団長、それはシモンさんに対しあまりに過酷な対応ではないですか」

 団長の話に副神官が反論する。

「別に全員を叩き潰せと言っているわけではない。それは無理な話だと私もわかっている。私はただ、彼らを納得させるだけの実力を見せてもらいたい、そう言っているだけだ」

 一難去ってまた一難。大神官とも最初はいがみ合った。
 今度は騎士団長。いや、この国の騎士団全員が紫紋の実力を推し量り、少しでも実力不足だと思うことがあれば、容赦無く苔下ろそうとしている。

「彼は、これまでの守護騎士とは違います。彼がこの世界に守護騎士として現れたのは、ピルテヘミス神の何らかの采配です。でなければ、聖女様と共に召喚される筈がありません」
「ピルテヘミス神ね。我らにも信仰はある。しかし、そうは言っても割り切れない者もいる。例えばクルーチェ、副神官の弟のピエールだ」
「確かに弟は、聖女召喚を行うと聞いた時から、守護騎士になることを望んでいたようです。候補になったと嬉しそうに私にも手紙をくれました」
「え、そうなのか」
 
 彼の弟も候補だったと聞いて、紫紋は驚く。

「それが無駄になったのだから、さぞかし落胆しているとは思います。ですが、シモンさんが気にすることではないので、敢えて話しませんでした。すみません」
「謝らなくていい。言い難かったんだな。ありがとう」

 彼は彼なりに気を遣ってくれたのだと、紫紋は彼の心遣いに感謝した。

「でも俺にそういう気遣いはいい。自分に降り掛かった火の粉は、自分でなんとかする。俺が彼らに認められるよう、頑張ればいいだけだ」

 とは言え、自分に聖力以外に彼らに勝るところがあるのか、今は何とも言えない。特に算段があるわけでもない。あるのは鍛えた精神力と、アラサーにしてはかなりある体力だけだ。

「シモンさんがそうおっしゃるなら…余計なことを申しました」
「その根性は気に入った。それが口だけでないことを祈る」
「ありがとうございます。ですが団長も、俺と彼らとが喧嘩になっても、一方的に俺だけを悪者にしたり、団員を依怙贔屓するのはやめてください。判定は常に客観的に、事実だけを見て勝敗を見極めてください」

 もし紫紋とピエールはじめ大勢の部下が衝突した時、どちらかが一方的に悪いのか。はたまた喧嘩両成敗なのか、罰を与えるなら公平に。そう言い切った。

「私も武人だ。そのような贔屓などしない」
「それを聞いて安心しました。言質は取りましたよ。副神官が証人です。どうぞこれからもよろしくお願いします」
「はい、確かに」
「まったく、なかなかしたたかな男だ」
「恐れ入ります」
 
 団長は呆れ顔で肩をすくめた。

「ああそうだ。護衛の件だが、もちろん騎士団からも選出するが、にも打診してみるつもりだ」
「そうですね。確か数日内に帰還されると聞いています。しかし、彼は護衛を引き受けてくれるでしょうか」

『あの方ってだれだ?』

 二人の話について行けず、紫紋は黙って話の成り行きを見守った。

 護衛の件とは、本来聖力を使うのは聖女で、それを守護するのが守護騎士だが、紫紋の聖力が聖女である飛花より上のため、彼も浄化を行うことになる。浄化している間に、二人を護る騎士のことだとわかる。
 そしてその人選について話をしているのだとわかる。それがなのだろう。
 騎士団長がそんな言い方をするからには、かのりの身分のようだ。

「なかなかに気難しい方だからな。自身が先陣を切って攻め入ることは厭わないが、護衛となるとどうか。いくら聖女様の護衛と言っても、それは自分の仕事ではないと仰りそうだ。しかも、守護騎士までも…」

 チラリと団長がこちらを見る。聖女だけでなく守護騎士まで護衛するということが、異例なのはわかる。
 そしてそのは、かなり気難しそうだ。
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