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第四章 騎士団の洗礼

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 副神官は、紫紋との聖力交換をかなりお気に召したらしい。
 これまでレベルが合わなくて不自由していた分、ようやく釣り合える相手が現れたのだ。
 無邪気にはしゃぐ姿が、まるで欲しかったおもちゃを与えられた子供のように見えた。
 
「着いたようです」

 ガタンと馬車が止まり、目的地に着いたことを副神官が告げた。
 副神官に続いて馬車を降りる、三階建ての石造りの建物を見上げた。
 
「ここが騎士団本部?」
「そうです。中庭を囲うように三つの建物が建って、中庭では日頃訓練が行われています」
「へぇ」
「さあ、中に入りましょう」
「あ、ああ」

 階段を上がり、玄関ポーチから中に入る。

「いらっしゃいませ」
「騎士団長はいらっしゃいますか?」

 入るとすぐに受付らしい場所があり、そこに若い男が二人座っていた。
 
「少々お待ちください」

 そのうちの一人が卓上で何かを操作する。スピーカーのようなもので、そこに話しかける。
 
「団長、副神官との方がお越しになりました」

 それはインターフォンのように使うのだろう。
 のというのは、紫紋のことだとわかる。
 騎士団の中では、自分はどういう風に思われているのだろう。さっきの話の様子だと、大歓迎というものではないだろう。

「すぐに秘書官が参ります。ここで暫くお待ちください」
「わかりました」

 副神官が愛想よく答える。
 ここら辺は地球と変わらない。騎士団長と言えば、ここでの社長。社長と会うのにアポがいるのは当然だ。
 建物の中を物珍しげに見回していると、周りの視線がこちらに向いていることに気づいた。
 副神官に向けられた視線は、憧れと羨望、思慕などが入り混じる。
 そしてその隣にいる紫紋に向けられたものは、嫉妬と敵意、詮索みたいなもので、とにかくいい感情ではない。

「何か?」

 その視線を追って顔を動かし、そう問い掛けると、殆どの者がさっと視線を反らした。
 
「シモンさん、どうしましたか?」

 副神官が怪訝そうに見る。
 
「いや」
「お待たせいたしました」

 そこへ眼鏡をかけたオールバックの生真面目さを絵に描いた男性がやってきた。

「私は騎士団長秘書官の、カスティーリャと申します」 

 眼鏡の縁を持ち上げ、二人に挨拶する。

「副神官のクルーチェです。守護騎士カドワキをお連れしました。シュイナー団長にお会いしたい」
「承知しました。ご案内いたしますので、こちらへどうぞ」

 眼鏡の奥からチラリと紫紋、副神官、再び紫紋へと視線を走らせ、カスティーリャ秘書官は踵を返した。

「いきましょう、シモンさん」

 その後に副神官が続き、受付の横を通り過ぎて紫紋もついて行く。
 受付の奥にある階段を上がり、三人は三階へ上がる。エレベーターはないんだなと、紫紋は素朴な疑問を抱いた。

 三階に上がり、いくつかの扉の前を通り過ぎ、秘書官は一番奥の重厚な扉から中に入る。
 そこには執務机と椅子がひとつあり、いくつか書類が置かれている。そしてその奥にもう一つ扉があった。

「団長、お客様をお連れしました」
「入れ」

 中から返事がして、秘書官がこちらを振り返る。

「どうぞ」

 二人のために扉を開けると、秘書官はすっと脇に下がった。
 
「失礼いたします」

 副神官はその脇をすり抜け、扉の中に一歩足を踏み入れた。

「おお、クルーチェ副神官殿、わざわざすまない」

 まだ廊下にいる紫紋の耳に、よく通る力強い声が聞こえてきた。

「いえ、宰相閣下からの言伝は既にご覧いただきましたでしょうか」
「ふむ、先ほど受け取った」
「では…カドワキ殿」

 副神官は紫紋を振り返った。

「失礼します」

 紫紋は副神官の後ろから前に周り、入ってすぐに一礼した。

「シモン・カドワキです。これからよろしくお願いします」
「うむ。ブラウスタイル王国騎士団団長、イヴァン・シュイナーだ」

 騎士団長というだけあって、声に力がある。

「頭を上げよ」
「はい」

 言われて紫紋は頭を上げる。
 
「あれ?」

 騎士団長の顔を見て、紫紋は思わずそう声を漏らした。
 短く刈り込んだ真っ赤な髪と浅黒い肌の、マル暴幹部のようなその顔には、見覚えがあったからだ。
 
「先ほど…」
「覚えていたか。そう、先ほどあの場に私もいた」

 扉から出てきた時に、国王達に声をかけた集団の中に、騎士団長もいたことを紫紋は覚えていた。騎士団長は背も高く、存在感もある。目がいかないわけがない。

「あの場に大勢いたのに、なかなかの洞察力と記憶力だ。それに体格もいい」
「恐れ入ります」

 褒められたことに対し、紫紋はお礼を言う。

「それだけではありません。彼の聖力は私をも凌ぐ程です」
「その件も宰相から報告があったのでわかっている。しかしそれくらいでなくては、我々も諦めがつかないというものだ」

 そう言って鋭い視線を紫紋に向ける。

「聖女召喚が決まってから、我こそは守護騎士にと張り切っていた者達は、そう簡単には割り切れない者もいる」
「気持ちはわかります。ですが団長、それは彼のせいでは…」
「わかっている。しかし、そういう者もいると、彼にも知っておく必要がある」
「お心遣い痛み入ります」

 騎士団長は、これから紫紋が立ち向かわなくてはならない問題について、親切に教えてくれているのだ。そのことにはお礼を言う。

「その方達には悪いが、俺が飛花ちゃ…聖女の守護騎士だと言うなら、俺はその責務を全うする覚悟です。でも、騎士としては未熟なのはわかっています。これからよろしくお願いします」
「これは鍛えがいがあるな。その言葉が嘘でないことを祈る」

 
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