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第三章 昨日の敵は今日も敵か味方か
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「それで、二人のこれからの居住先だが、慣例通りならば、聖女殿は神殿に、守護騎士のカドワキ殿は騎士団の寮舎となる」
「二人、別々になるのか」
もちろん男女で分かれているとは思っていたが、具体的に言われるとそれはそれでやはりそうなのかと思ってしまう。
「聖女ならばもちろん神殿に住まうべきだ。代々の聖女もそうであった」
「飛花ちゃん、一人で大丈夫?」
「大学から一人暮らしなので、それは大丈夫だと思います。心配してくれてありがとうございます」
「心配せずとも、聖女をぞんざいに扱うわけが無い。最高のもてなしを約束する」
「そうです。その点はご安心を」
大神官と副神官、神殿での最高権力者二人がそう言うのだから、ここは彼らに任せていいだろう。
「むしろ大変なのはお前だぞ」
先ほどの謝罪のお陰か、大神官が紫紋を案じる口ぶりで言った。
「俺、ですか?」
「騎士達はあらっぽいうえ、守護騎士に対し並々ならぬ関心を持っている。聖女召喚が決まり、我こそは守護騎士と意気込んでいた」
そこまで聞いて、紫紋も大神官が何を言いたいのか気づいた。
「その座を俺が奪った。ということですか」
「騎士達に取っては、面白くなかろう」
「大神官、彼らもそこは弁えるでしょう。カドワキ殿も望んでそうなったわけではないのだから」
大神官の言ったことを、国王が否定する。
「どうだかわからん。一応予備知識として知っておいて損はないだろ」
「ありがとうございます。俺のこと、心配してくれているんですね」
「し、心配とかでは…騎士団の奴らとかは、血の気の多い奴らだから、お前には、ちょうどいいかも知れないがな」
「ツンデレね」
「そうだな」
大神官の様子を見て、飛花と二人でヒソヒソ話す。
「なんだ? 二人で何をコソコソしている」
「いえ、何でもありません」
「本当に、何でもないです」
ツンデレを説明するのが難しく、二人でごまかした。
「心配は有り難いのですが、荒っぽいのは慣れてますから」
「まあ、私が心配することではないが」
「大神官の言葉は気にしないでください。騎士団には、私の弟もおります。彼にシモンさんのことを頼んでおきますので、安心してください」
副神官が言う。
「もうひとり兄弟がいるのですか?」
「ええ、男ばかりの三人です。宰相のアーマドが長男で、騎士団にいるピエールが一番下、そして私がその間になります」
「クルーチェ家は名門で、文官を多く輩出している」
国王が副神官の家について語る。
「我が弟ながら、腕は確かです。騎士としても優秀です」
副神官の口ぶりから、弟のことを自慢に思っているのが窺える。仲は悪くないようだ。
「男兄弟か…俺には妹しかいないから、羨ましい」
「紫紋さん、妹さんがいるのですか?」
「ああ、と言っても父親の再婚相手との子供だから、半分だけしか血は繋がっていないし、生まれた時から別に育ってきて、数える程しか会っていない。歳も飛花ちゃんより下だから、話もあわないし」
「へえ、そうなんだ。私は弟が一人。お兄さんかお姉さんがほしいと思ってました。紫紋さん、私のお兄さんになってくれますか?」
「俺が? 俺でいいのか?」
不意にそう言われ、紫紋は驚く。
「いやですか?」
「別に嫌では…」
「だったら、これからはお兄様って呼んでいいですか?」
「構わないが…飛花ちゃんみたいな可愛い子にそんな風に言われると、何だか照れくさいな」
困難には動じない紫紋も、こういう展開は慣れていない。
「よろしく、お・に・い・さ・ま」
「よろしく、…妹よ?」
「もう、そこは飛花ちゃん、もしくは飛花って呼び捨てでいいですよ」
「ま、まあ、それはおいおいな」
「てれちゃって、可愛い」
「こら、大人をからかうな」
そんな二人のやりとりを、国王と副神官がほのぼの見つめる。大神官は馬鹿らしいという顔をして、ため息を吐く。
「陛下、お食事の用意が整いました」
そこへ、城に勤める使用人がやってきて、そう告げた。
「おおそうか。二人共お腹が空いていないか?」
食事の話になると、途端に二人のお腹が盛大に鳴った。
「す、すみません」
「やだ」
「気にするな。ささやかながら、食事の用意をさせた。まずは食べて、それからそれぞれの場所に案内しよう」
「は、はい」
「では、聖女殿は大神官が神殿まで案内していただけますか? 私はシモンさんを、騎士団の寮舎まで案内します」
副神官が案内を名乗り出た。
「ふむ、ピエールもいることだし、それがよかろう。二人もそれでよろしいかな」
国王がその提案を聞いて頷き、紫紋達に確認する。
「俺は構わない」
「私も…でもあの、お兄様とはいつ会えますか?」
離れ離れになるのが少し不安なのか、飛花が国王に質問する。
「会いたいなら、会うことは構わないが、神殿と騎士団の寮舎がある区域は、王宮を挟んで反対側にある。毎日というわけにはいかない」
「そうなんですか…」
ここの地理のことはまったくわからないが、離れているこのはわかった。
「心配なさらなくても、会話の宝珠がありますか。それを使えばいつでも会えますよ」
「二人、別々になるのか」
もちろん男女で分かれているとは思っていたが、具体的に言われるとそれはそれでやはりそうなのかと思ってしまう。
「聖女ならばもちろん神殿に住まうべきだ。代々の聖女もそうであった」
「飛花ちゃん、一人で大丈夫?」
「大学から一人暮らしなので、それは大丈夫だと思います。心配してくれてありがとうございます」
「心配せずとも、聖女をぞんざいに扱うわけが無い。最高のもてなしを約束する」
「そうです。その点はご安心を」
大神官と副神官、神殿での最高権力者二人がそう言うのだから、ここは彼らに任せていいだろう。
「むしろ大変なのはお前だぞ」
先ほどの謝罪のお陰か、大神官が紫紋を案じる口ぶりで言った。
「俺、ですか?」
「騎士達はあらっぽいうえ、守護騎士に対し並々ならぬ関心を持っている。聖女召喚が決まり、我こそは守護騎士と意気込んでいた」
そこまで聞いて、紫紋も大神官が何を言いたいのか気づいた。
「その座を俺が奪った。ということですか」
「騎士達に取っては、面白くなかろう」
「大神官、彼らもそこは弁えるでしょう。カドワキ殿も望んでそうなったわけではないのだから」
大神官の言ったことを、国王が否定する。
「どうだかわからん。一応予備知識として知っておいて損はないだろ」
「ありがとうございます。俺のこと、心配してくれているんですね」
「し、心配とかでは…騎士団の奴らとかは、血の気の多い奴らだから、お前には、ちょうどいいかも知れないがな」
「ツンデレね」
「そうだな」
大神官の様子を見て、飛花と二人でヒソヒソ話す。
「なんだ? 二人で何をコソコソしている」
「いえ、何でもありません」
「本当に、何でもないです」
ツンデレを説明するのが難しく、二人でごまかした。
「心配は有り難いのですが、荒っぽいのは慣れてますから」
「まあ、私が心配することではないが」
「大神官の言葉は気にしないでください。騎士団には、私の弟もおります。彼にシモンさんのことを頼んでおきますので、安心してください」
副神官が言う。
「もうひとり兄弟がいるのですか?」
「ええ、男ばかりの三人です。宰相のアーマドが長男で、騎士団にいるピエールが一番下、そして私がその間になります」
「クルーチェ家は名門で、文官を多く輩出している」
国王が副神官の家について語る。
「我が弟ながら、腕は確かです。騎士としても優秀です」
副神官の口ぶりから、弟のことを自慢に思っているのが窺える。仲は悪くないようだ。
「男兄弟か…俺には妹しかいないから、羨ましい」
「紫紋さん、妹さんがいるのですか?」
「ああ、と言っても父親の再婚相手との子供だから、半分だけしか血は繋がっていないし、生まれた時から別に育ってきて、数える程しか会っていない。歳も飛花ちゃんより下だから、話もあわないし」
「へえ、そうなんだ。私は弟が一人。お兄さんかお姉さんがほしいと思ってました。紫紋さん、私のお兄さんになってくれますか?」
「俺が? 俺でいいのか?」
不意にそう言われ、紫紋は驚く。
「いやですか?」
「別に嫌では…」
「だったら、これからはお兄様って呼んでいいですか?」
「構わないが…飛花ちゃんみたいな可愛い子にそんな風に言われると、何だか照れくさいな」
困難には動じない紫紋も、こういう展開は慣れていない。
「よろしく、お・に・い・さ・ま」
「よろしく、…妹よ?」
「もう、そこは飛花ちゃん、もしくは飛花って呼び捨てでいいですよ」
「ま、まあ、それはおいおいな」
「てれちゃって、可愛い」
「こら、大人をからかうな」
そんな二人のやりとりを、国王と副神官がほのぼの見つめる。大神官は馬鹿らしいという顔をして、ため息を吐く。
「陛下、お食事の用意が整いました」
そこへ、城に勤める使用人がやってきて、そう告げた。
「おおそうか。二人共お腹が空いていないか?」
食事の話になると、途端に二人のお腹が盛大に鳴った。
「す、すみません」
「やだ」
「気にするな。ささやかながら、食事の用意をさせた。まずは食べて、それからそれぞれの場所に案内しよう」
「は、はい」
「では、聖女殿は大神官が神殿まで案内していただけますか? 私はシモンさんを、騎士団の寮舎まで案内します」
副神官が案内を名乗り出た。
「ふむ、ピエールもいることだし、それがよかろう。二人もそれでよろしいかな」
国王がその提案を聞いて頷き、紫紋達に確認する。
「俺は構わない」
「私も…でもあの、お兄様とはいつ会えますか?」
離れ離れになるのが少し不安なのか、飛花が国王に質問する。
「会いたいなら、会うことは構わないが、神殿と騎士団の寮舎がある区域は、王宮を挟んで反対側にある。毎日というわけにはいかない」
「そうなんですか…」
ここの地理のことはまったくわからないが、離れているこのはわかった。
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