13 / 33
第二章 異世界ロランベル
6
しおりを挟む
「危険はないとは、言わん。どんな旅も、盗賊の襲撃や自然災害などの障害はある」
「詭弁にしか聞こえないな。要はそんな危険な場所に、自分の世界の人間を連れていきたくないから、まったく関係のない人間を巻き込んだのでは?」
開き直った国王の言葉に、紫紋が苦言で返す。
「いい加減にしろ! いちいち文句しか言えんのか。これらはすべてピルテヘミス神の采配。神のなさることに、人が口出しできるものではない。お前がそうなのか、それとも異世界人皆がそうなのか。不信心にもほどがある」
大神官がそれに対し、声を荒げる。
「ピルテヘミスだか、なんだが知らないが、会ったこともない神様の威光を嵩にとやかく言われても、何とも思わない」
「お前は、陛下ばかりか、ピルテヘミス神まで愚弄するのか。何たる罰当たりな…」
「愚弄しているわけではない。罰当たりと言われても、そのピルテヘミス神がすべて采配したなら、飛花ちゃんを選び、俺をもこの世界に連れてきた責任がある。はっきりさせておくことは、はっきりさせておかないと、安請け合いする話ではないだろう?」
「大神官長、冷静に。カドワキ殿の話は間違いでない。我々は聖女召喚の技法は過去の記録から知ることは出来るが、召喚した聖女様が何を思い、どのような気持ちで世界樹に向かったのかまでは知ることは出来ない。聖女様として類稀な力をお持ちであっても、その実はムラサキ殿のように突然見知らぬ世界に呼ばれ、重荷を背負わされ辛い想いをされたのかも知れない。そのことを忘れてはならない。我らは頼る側なのだ」
「陛下のおっしゃるとおりです。逆の立場なら私もカドワキ殿のように思うでしょう」
国王と宰相が、紫紋達の状況に寄り添う言葉を口にする。
「わ、私はピルテヘミス神の大神官として…」
「誰も大神官が悪いとは言っていない。そなたの立場なら、それも致し方ないこと。カドワキ殿は、見たところ剣も握ったことがなさそうだ。二人がいたのは、剣とは無縁の世界なのでは?」
「そのとおりだ。国にもよるかも知れないが、俺達の国ではそもそも法律で、刃物の扱いは決められている。まあ、似たようなものなら…」
刃物の刃体の長さが六cmを超える物を所持すると、銃刀法違反。六cm以下の場合は軽犯罪法違反になる。わざわざ法律を犯す必要はない。代わりに竹刀や鉄の棒なら振り回したことがある。
紫紋は暴力的なわけではない。どうしても、闘わなければならないときは、武器に頼らず己の拳で渡り合ってきた。
「聖騎士は聖力を宿しています。それを剣に纏わせ、敵を屠るのです」
「さっきのような生き物をか? 人を殺めることは無理だ」
もし人同士で斬りあえなどと言うなら、断固拒否するつもりで紫紋は言った。向かってくる敵には立ち向かってきたが、それは自衛のためだ。
「俺達のいた世界は法治国家で、人殺しは犯罪だと教えられた。戦争も、俺たちの国でやっていたのは、何十年も前のことで、当然俺は戦争に行ったこともなければ、人を殺したこともない」
「倒さなければ、自分が危ない。そうなれば、闘わざるを得なくなります。しかし、いきなりは難しいでしょう。あなたの役目は聖女様を護ること。それに徹していただければ、後のことは周りが援護します」
「陛下の仰る通りです。騎士団にもそのように伝えておきます」
紫紋や飛花に気を使ってか、彼らはどこまでも協力的だ。
「騎士団…そんなのもあるのか。ここでは武器を持って闘うのは当たり前のことなんだな」
紫紋の周りは普通よりはちょっと殺伐した環境だったが、それはごく稀なことだ。それを除けばつくづく日本は平和なのだなぁと、紫紋は思った。
地球でも、ずっと紛争が続いていた国の子供が武器を持って闘っている姿を、テレビや週刊誌で見たことがある。
家どころか国を追われ、難民となった人々を支援するため、気休めかも知れないが、支援団体を通じて寄付をしたこともある。
でもそれは半分は税金対策。そして半分は自己満。戦争とは無縁の国にいることに、わずかばかりの罪悪感を抱いていて、少しでも助けになればと思ってのことだ。
「怖いですか?」
宰相が紫紋に尋ねた。
「俺たちのいた世界の常識では計れないことばかりだから。ということは、価値観も違う。自分の常識や、智識が及ばないものに対する戸惑いや不安はある。怖いと言うよりは、そんな気持ちだな」
「お気持ちはわかります。ですが先ほども申し上げましたが、我々が望むのは世界樹の浄化です。それさえお引き受けいただけるなら、後は自由にしていただいて構いません」
「宰相の言う通りだ。希望があれば、できるだけ譲歩しよう」
「じゃあ、まずは俺と飛花ちゃん、聖女を暫く二人きりにしてくれないか」
「詭弁にしか聞こえないな。要はそんな危険な場所に、自分の世界の人間を連れていきたくないから、まったく関係のない人間を巻き込んだのでは?」
開き直った国王の言葉に、紫紋が苦言で返す。
「いい加減にしろ! いちいち文句しか言えんのか。これらはすべてピルテヘミス神の采配。神のなさることに、人が口出しできるものではない。お前がそうなのか、それとも異世界人皆がそうなのか。不信心にもほどがある」
大神官がそれに対し、声を荒げる。
「ピルテヘミスだか、なんだが知らないが、会ったこともない神様の威光を嵩にとやかく言われても、何とも思わない」
「お前は、陛下ばかりか、ピルテヘミス神まで愚弄するのか。何たる罰当たりな…」
「愚弄しているわけではない。罰当たりと言われても、そのピルテヘミス神がすべて采配したなら、飛花ちゃんを選び、俺をもこの世界に連れてきた責任がある。はっきりさせておくことは、はっきりさせておかないと、安請け合いする話ではないだろう?」
「大神官長、冷静に。カドワキ殿の話は間違いでない。我々は聖女召喚の技法は過去の記録から知ることは出来るが、召喚した聖女様が何を思い、どのような気持ちで世界樹に向かったのかまでは知ることは出来ない。聖女様として類稀な力をお持ちであっても、その実はムラサキ殿のように突然見知らぬ世界に呼ばれ、重荷を背負わされ辛い想いをされたのかも知れない。そのことを忘れてはならない。我らは頼る側なのだ」
「陛下のおっしゃるとおりです。逆の立場なら私もカドワキ殿のように思うでしょう」
国王と宰相が、紫紋達の状況に寄り添う言葉を口にする。
「わ、私はピルテヘミス神の大神官として…」
「誰も大神官が悪いとは言っていない。そなたの立場なら、それも致し方ないこと。カドワキ殿は、見たところ剣も握ったことがなさそうだ。二人がいたのは、剣とは無縁の世界なのでは?」
「そのとおりだ。国にもよるかも知れないが、俺達の国ではそもそも法律で、刃物の扱いは決められている。まあ、似たようなものなら…」
刃物の刃体の長さが六cmを超える物を所持すると、銃刀法違反。六cm以下の場合は軽犯罪法違反になる。わざわざ法律を犯す必要はない。代わりに竹刀や鉄の棒なら振り回したことがある。
紫紋は暴力的なわけではない。どうしても、闘わなければならないときは、武器に頼らず己の拳で渡り合ってきた。
「聖騎士は聖力を宿しています。それを剣に纏わせ、敵を屠るのです」
「さっきのような生き物をか? 人を殺めることは無理だ」
もし人同士で斬りあえなどと言うなら、断固拒否するつもりで紫紋は言った。向かってくる敵には立ち向かってきたが、それは自衛のためだ。
「俺達のいた世界は法治国家で、人殺しは犯罪だと教えられた。戦争も、俺たちの国でやっていたのは、何十年も前のことで、当然俺は戦争に行ったこともなければ、人を殺したこともない」
「倒さなければ、自分が危ない。そうなれば、闘わざるを得なくなります。しかし、いきなりは難しいでしょう。あなたの役目は聖女様を護ること。それに徹していただければ、後のことは周りが援護します」
「陛下の仰る通りです。騎士団にもそのように伝えておきます」
紫紋や飛花に気を使ってか、彼らはどこまでも協力的だ。
「騎士団…そんなのもあるのか。ここでは武器を持って闘うのは当たり前のことなんだな」
紫紋の周りは普通よりはちょっと殺伐した環境だったが、それはごく稀なことだ。それを除けばつくづく日本は平和なのだなぁと、紫紋は思った。
地球でも、ずっと紛争が続いていた国の子供が武器を持って闘っている姿を、テレビや週刊誌で見たことがある。
家どころか国を追われ、難民となった人々を支援するため、気休めかも知れないが、支援団体を通じて寄付をしたこともある。
でもそれは半分は税金対策。そして半分は自己満。戦争とは無縁の国にいることに、わずかばかりの罪悪感を抱いていて、少しでも助けになればと思ってのことだ。
「怖いですか?」
宰相が紫紋に尋ねた。
「俺たちのいた世界の常識では計れないことばかりだから。ということは、価値観も違う。自分の常識や、智識が及ばないものに対する戸惑いや不安はある。怖いと言うよりは、そんな気持ちだな」
「お気持ちはわかります。ですが先ほども申し上げましたが、我々が望むのは世界樹の浄化です。それさえお引き受けいただけるなら、後は自由にしていただいて構いません」
「宰相の言う通りだ。希望があれば、できるだけ譲歩しよう」
「じゃあ、まずは俺と飛花ちゃん、聖女を暫く二人きりにしてくれないか」
28
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
コスプレ令息は王子を養う
kozzy
BL
レイヤーとしてそれなりに人気度のあった前世の僕。あるイベント事故で圧死したはずの僕は、何故かファンタジー世界のご令息になっていた。それもたった今断罪され婚約解消されたばかりの!
僕に課された罰はどこかの国からやってきたある亡命貴公子と結婚すること。
けど話を聞いたらワケアリで…
気の毒に…と思えばこりゃ大変。生活能力皆無のこの男…どうすりゃいいの?
なら僕がガンバルしかないでしょ!といっても僕に出来るのなんてコスプレだけだけど?
結婚から始まった訳アリの二人がゆっくり愛情を育むお話です。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる