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第二章 異世界ロランベル

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「それで、俺達の能力を測り、訓練をして、それで世界樹のある所へ向かうのだな」

 副神官が見せた世界樹の映像は、既に消されていた。

「そこまではどうやって行く?」

「世界樹のある島に一番近い港まで二週間ほど陸路を行き、そこから二日ほど船に乗ります」
「二週間…移動手段は?」

 以外に時間がかかるものなのだと思った。

「馬車と騎馬になります」

 紫紋はバイクで昔、一日百キロから百五十キロの距離を移動して、日本列島を北から南まで横断した。天候が悪ければ同じ場所に滞在しつつ、片道一ヶ月、帰りは三週間かかった。
 馬車の移動速度はわからないが、徒歩より速くバイクより遅い感じだろうか。 
 
「飛行機でひとっ飛びとはいかないな。でも、魔法があるなら、もっと速い移動方法はないのか?」
「ひこう…き? それは魔法か何かですか?」

 宰相が紫紋の言葉を拾い尋ねた。

「いや、俺たちの世界に魔法はない。あるのは科学。飛行機は金属などで作った乗り物で、仕組みはよくわからないが、空を飛ぶ」
「飛行機が空を飛ぶことには推力、抗力、揚力、重力の四つの力が関係していて、上手くコントロールすることで、飛ぶそうです」

 紫紋の知識を飛花が補填する。

「空を? 魔法もなしに?」

 その説明を聞いて、国王達は驚く。

「今はそんなことはどうでもいい。それで、世界樹の所へ行ったら、その後は?」
「聖女がその力を持って、世界樹の瘴気化を食い止め、それによって朽ちた世界樹を再生するのだと文献にはありますが、具体的にどうするのかは、記されておりません」
「なぜ?」
「何しろ二百年に一度のこと。当時を知る者も生きていません。遺された文献も僅か。そしてそこには、詳しいことは書かれていません」
「わざわざ異界から人を呼び寄せて、情報がなきなんて、かなりいい加減だな」

 宰相の言葉に紫紋は呆れた。

「貴様、こちらが下出に出ておれば、不遜にも程があるぞ」
  
 紫紋の言い方が気に入らず、大神官が熱り立つ。

「本当のことだろ。それで、その世界樹に行くまでの道中は、安全なのか」

 またもや大神官のことを無視し、紫紋が質問する。

「それは」
「『はい』とは言えません」

 言い難そうな宰相の言葉を奪い、そう言ったのは彼の弟の副神官だ。

「副神官、出過ぎた真似をするな」
「申し訳ございません。ですが下手に誤魔化しても、かえってお二人の不信感を募らせるだけかと思います」

 彼の行動に、大神官が注意する。しかし謝ってはいるが、睨む大神官の視線など彼はまったく意に介していないようだ。

「協力を得たければ、嘘偽りなく伝えるのが得策かと思います」
「出過ぎた真似を。そなたも立場を弁えろ」
「まあ、大神官長、彼の言う事も一理ある。聖女様なしにこの世界が救われないのは事実。どうせならきちんと話をして、納得いただいた方がいいだろう」
「陛下、しかし」

 国王の様子から、世界樹への道のりが、ただ物見遊山的な気軽なものでないことがわかった。

「先ほど話したように、世界樹の葉が散る話をしたかと思う」
「覚えています。葉脈にはこの世界の全ての生きとし生けるもの、動植物の設計図が刻まれている。散った葉に刻まれた生物が絶滅する。でしたよね」

 飛花が先ほど聞いた話を口にする。

「もしかして、それだけではない?」

 気づいて飛花が質問する。

「散った葉はそのまま朽ちるのではなく、その葉から新たな生物が生まれます。そして生まれた生物は、ただの生物ではありません」
 
 副神官が再び映像を宙に映し出す。

「きゃっ!」
「な」

 現れたものを見て、飛花は悲鳴をあげ、口に手を当てる。紫紋は絶句して目を瞠るた。
 そこに映っていたのは、赤く光る目が三つ、潰れてひしゃげた鼻、鋭い牙を持ち、青光りする毛皮をした猿のような生き物。
 そして蛇のような頭が八つ付き、体はトカゲのような生き物。
 そしてラフラシアの花のような肉厚の赤黒い花弁をし、中央に歯がついた口のある植物だった。

「まさかこれが、朽ちた世界樹の葉から生まれたと?」

 目を瞠りながら、紫紋が呟く。
 
「そうです。元はこの世に存在していた生物ですが、世界樹の瘴気化が進むと、ある日突然変異で生まれます。凶暴で家畜や人を襲う。植物は瘴気を放ち、周囲の作物を枯らす。そしてそれらは世界樹に近づくほどに増えてくる」
「つまりは、世界樹に向かうほどに、危険が増えていくということか?」

 紫紋はそう質問したが、答えはわかっていた。ただの物見遊山的な旅なら、騎士など不要だ。守護騎士がいるということは、ということなのだ。
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