召喚されたアラサー元ヤンはのんびり異世界ライフを満喫……できません

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
7 / 33
第一章 突然の異世界

しおりを挟む
本日祝日ということで、追加更新します。
夜6時にももう一話更新します。



「俺は、呼んでない?」  
「そうだ。我々が求めるのは、この世界を支える世界樹の浄化を担う聖女一人。お前のような無礼者は、つまり用無しということだ」

 老人にしては背が高いが、百八十センチの紫紋よりは低い大神官は、彼を見上げながら意地悪く言った。

「俺が用無し? 村咲さんを呼ぼうとして、俺を巻き込んだということか?」
「そうだ。聖女と何の関わりもない、ただの雑魚だ」

 念を押す紫紋に、大神官がドヤ顔で鼻息荒く言った。

「ということは、あんた達は勝手に召喚とかで村咲さんを拉致したが、失敗して俺まで巻き込んだってことか?」
「し、失敗だと?」

 聞き捨てならない単語を聞いて、大神官が血相を変えて言った。

「だってそうだろ? そもそも、相手の承諾もなしにいきなり連れ去って、それは犯罪じゃないのか? 百歩譲ってそれを正当化したとして、無関係の俺まで引っ張ってきたということは、失敗じゃないのか?」
「な、なんだと…」

 茹でダコのように大神官は顔を真っ赤にする。

「ぶ、無礼な男だ。私を誰だと思っている、私は」
「大神官様だろ。さっき自分から名乗っていたのに、忘れたのか? 年長者は敬えと教えられたが、あんたみたいな態度は人に嫌われるぞ。もっと可愛らしい年寄りになったらどうだ」
「と、年寄り」
「まあ、二人共それくらいにしなさい」

 笑いをこらえながら、国王がいがみ合う二人の間に割って入る。

「陛下、この者の物言いは…」
「デュナン、この者の話も一理ある。我々は我々の勝手な事情で、二人をこの世界に呼び寄せた」
「し、しかし陛下、世界樹の浄化は、この国、いえ、この世界の存亡に大きく関わる問題です」

 大神官は納得がいかない様子だ。

「さよう。我々には必要なこと。それゆえ、我々は昔から神託により、その時々に相応しい聖女を召喚してきた」
「え、国を上げて拉致を続けてきたのか」

 ポロリと紫紋が呟いた言葉に、大神官はぎっと彼を睨みつけ、副神官も国王も苦笑いする。

「ふふ」

 そしてその側で飛花が、笑いをこらえきれずに吹き出した。

「門脇さん、面白すぎます」
「や、俺は真剣だが」

 至って真面目なつもりだが、飛花が思った以上に怖がっていないので、紫紋は少しほっとした。
 案外肝が座っているのだろう。

「カド、ワキ殿と申したな。そなたの言い分も正しいが、我々の事情も聞いてほしい。決して私利私欲でこのようなことをしたのではない。ここで立ち話もどうかと思うので、場所を移しても良いかな。美味しいお茶と菓子を振る舞おう」

 大神官の物言いは苛つくが、丁寧な国王の態度には好感が持てる。

「そちらの聖女殿、ムラサキ殿もよろしいか?」
 
 飛花は紫紋と二人、顔を見合わせた。

「どう思う?」
「私は構いません。というか、召喚されてしまったものは仕方ありません。門脇さんを巻き込んでしまってすみません」
「別に村咲さんが謝る必要はない。これもなにかの縁だし、話だけでも聞くか」
「よろしいかな?」

 国王が話しかけ、紫紋が飛花に主導権を渡し、どうぞと促す。

「よろしくお願いします」
「俺も、同席させて貰うが構わないよな」
「もちろんです。是非とも」

 国王が頷く。

「そっちの大神官様も、構わないよな」

 不満そうに口を引き締めている大神官に、紫紋が確認する。

「構わないな、デュナン」
「陛下が、お許しになったものを、私がどうこう言える訳ございません」
「では、案内しよう」 
 
 不承不承ではあるが、大神官も認めたことで、全員で移動を始めた。

「改めてよろしくな、俺のことは紫紋でいい。堅苦しいのは嫌いなんだ」
「じゃあ、私のことも飛花って呼んでください」
「飛花はいくつだ?」
「今年で二十歳になります」
「へえ、大学生か何か?」
「はい、〇〇大学の英文科です」
「すごいな。俺は高卒で、仲間と共同で実家の畑とかで農業をやってる」

 彼らがいた建物は地下だったらしい。
 
「光を」

 国王が手を翳すと、壁に取り付けられたランプに明かりが灯った。

「わ、〇〇クサみたい」
「俺もそう思った」
 
 二人でそんなことを囁やきあった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。 ※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...