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レオポルド〜君に出会ってから

★レオポルドside3

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暫く彼女を抱き締めて様子を見ていたが、一向に起きる気配がない。

すうすうと浅い寝息を立て、息を吐き出す度に首もとに息がかかり、くすぐったい。

いつもなら、酒に溺れるなど嘆かわしいと切り捨てるところだが、彼女の気持ちを聞いてしまった今は、そんな考えなど微塵も起きない。

「よく頑張っているよ」

思わずそう声をかけ、頭を優しく撫でるという驚きの行動をしていた。

「フフ」

寝ている彼女から嬉しそうな声が漏れる。無意識に喜んでいる。

その安心しきった寝顔は、二十代半ばにはとても見えない。だが、密着する体は柔らかく膨らみも十分で、先ほどちらりと見えた白く柔らかそうな太ももが目に焼き付いて離れない。

しかし、いつまでもここで座り込んでいるわけにもいかず、何とか体勢を変えて彼女を横抱きに抱え上げた。

「軽いな…」

小柄な背丈から大体の重さは想像していたが、眠りこけて脱力していても、まだまだ十分に軽い。

彼女が持ち込んだだろう食器や瓶は取りあえず放置し、着ていた上着を上から被せて顔を隠した。

できるだけ人目がつかない場所を探して客間が並ぶ二階へと足を踏み入れた。

途中何度か使用人とすれ違ったが、招待客とは誰ともすれ違わなかった。

ヘインズ家の使用人なら当主かルーファスに言えば、余計なことは言わないように口止めできるだろう。

どの部屋か当たりをつけて扉を開けると、二度目で彼女の部屋らしき場所を探り当てた。

念のため部屋に入る時も、誰にも見られていないか確認し、中に入って寝台に寝かせた。

「んん……」

運んでいる間はまったく目が覚めなかったのに、今目を覚ますとはと思いながらも、大きなブルーグレイの瞳がまっすぐ自分を見つめてきて、怒るどころか微笑んでしまった。

「ふふ……」

目を細めて彼女が笑い返す。

「笑うと素敵ね。いつも笑っていたらいいのに」

手を伸ばして頬を撫でられ、自分が笑っていたことに気がついた。

「………」

笑顔が素晴らしいのは彼女の方だ。
胸にあんな悩みを抱え、それでも愛する家族のために頑張る。

自分も家族にはそれなりに愛情があり、ルーファスのことも可愛い弟だと思う。

だが、あんな風に感情豊かに泣いたり笑ったりしたことはない。

「ほんとに……憎たらしいくらい」
「おい」

むにむにと頬を撫でていたかと思ったら、今度はつまんで引っ張り出した。

「やめろ」

払い除けるために手首を掴んだ。

「そうだよね……私なんて……もう誰も振り向いてくれない」

またもやじんわりと涙が溢れ出す。

「頑張ったんだよぉ~。トレイシーはとってもキレイだしぃ、ルディだってぇ、剣術は私の方が才能あるけどぉ、頭はいいんだからぁ~とおっても賢いの、学年で一番なんだからぁ、お父様だってぇ、お母様のために色んなお医者様を探して、薬もぉいいっぱい探してきてぇ、でもしんじゃったぁ~わぁん」

泣いている女性は苦手だ。子どもでも大人でも。

特に嘘臭く、こちらの気を引こうとしたり、心優しいところを見せつけようとする涙には虫酸が走る。

二十代半ばの女性に、子どもみたいにわんわん泣かれるとは思わなかった。

放っておけば良かった。

ここまで運んでやったのだから、後は勝手にすればいい。

だが、なぜかその場に縫い付けられたように動けなかった。

それどころか昔、母がしてくれたように、肩を抱き背中を優しく撫でている。

やがて泣き声が止み、静かになったので体を離そうとしたが、腕を掴まれ引き止められた。

「ねえ………」

涙に濡れた顔を惜し気もなく晒し、自分を見上げる。

「熱い……服……脱ぎたい」
「は?」

「脱がして……」
「ば……何を……」

言っているんだと言い終える前に、彼女は身頃の紐を解きだした。

「脱げない~」

スカートの裾を持ち上げ、下から上に脱ごうとして頭でつかえてじたばたしている。

さっきちらりと見えたガーターベルトと下着が丸見えだ。

上半身のビスチェの下から白く平らな腹部が覗き、意外にふくよかな白い乳房が揺れる。
着痩せするのだろう。

「脱がして~」

衣服の下からくぐもった声をだして体を揺らすと、それが更にゆらゆらと弾む。

近づいて服を掴んで引き上げると、すぽんと服はぬげた。

「ありがと」

寝台にぺたりと膝を折って座り、見上げてにっこりと笑う。
ぐちゃぐちゃになった髪の毛が顔に纏わりついて、口の中にも引っ掛かっている。

「食べているぞ」

取り払ってやろうと手を伸ばすと、顔を動かした彼女の唇に指が当たった。

「ん……」

ぺろりと舌を出して彼女が指を舐めた。

硬直している間に手を掴み、掌に彼女が唇を寄せた。

舐めて鼻をすり寄せ匂いを嗅ぎ、軽く歯を当てる。
大きな瞳が蠱惑的に見上げた。

幼さを残し、実年齢よりずっと若く見えていた顔は、妖艶さを放ち、熟した肢体はそれを開く手を待っている。

恐らくは……いや、間違いなくまだ男を知らないその体は、いずれ誰かの手で踏み荒らされ、純潔を散らすだろう。

男の手でもぎ取られるのを待つその肢体を目の前にして、ごくりと唾を飲み込んだ。

明日には自分はこの国を離れる。

戻ってくるのは二、三年後。
その間に彼女は確実に誰かのものとなる。
今は誰も彼女のことをき遅れかけた令嬢としか見ていなくても、見る者が見れば幼く見える顔つきと服の下に隠れた妖艶な肢体に気づくだろう。

酒に酔い、理性を失っている所につけいったと後でなじられても構わない。

「コリーナ」

その体を持ち上げ、寝台に押し付けた。
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