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第十一章

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「本日 私たちふたりは、ご列席の皆様を証人とし 結婚を誓います。これから先、幸せなときも困難なときもお互いを愛し、助け合いながら幸せな家庭を築くことをここに誓います。ユリウス・ボルトレフ」
「ジゼル・ベルガルド」

 王宮の敷地内にある礼拝堂の祭壇前に立ち、ユリウスとジゼルが共に誓いの言葉を口にした。
 
「それではこれで、二人を夫婦と認めます」

 老司祭がそう宣言し、ユリウスとジゼルは互いの顔を見合わせ、唇を重ねた。

「まだ誓いの口づけとは言っていませんが…まあいいでしょう」

 司祭の言葉に、周りから苦笑が漏れる。

「まさかジゼル様の挙式に関われるとは、思っておりませんでした」

 彼はジゼルが生まれた時に、洗礼を施してくれた人物だった。以前はバレッシオで挙式を行ったので、彼の出番はなかったのだ。

 次の日、突然ユリウスが式をここで挙げていこうと言い出した。
 あまりに急なことに、ジゼルは驚いた。

「いくらなんでも、急では?」
「ボルトレフに戻る時には、あなたを妻として連れていきたい。盛大な挙式が望みなら、改めてボルトレフでも行うが、だめだろうか?」

 互いに再婚同士。今更派手な挙式も考えものだが、王女の結婚をそんな簡単に挙げていいものだろうか。

「それに、ボルトレフでの式に国王陛下たちが参列出来るかどうかわからないからな。バレッシオでも宰相が代理で参列したと聞く。ここで挙げることも親孝行だと思うぞ」

 確かに一国の王がたとえ娘の結婚式でも、軽々しく動くことは難しい。王が動けばそれなりの護衛の手配が必要だ。

「王宮内の礼拝堂なら、陛下たちも参加出来るだろう?」

 両親や弟に見守られながら、ユリウスと夫婦になる。その案はジゼルの心を動かした。
 急な王女の再婚の報せは、王宮内を驚かせた。しかも相手はボルトレフの総領で、式を王宮内の礼拝堂で行うということにも驚かれた。
 ジュリアン王子の誕生日祝いと戦勝祝の祝賀の場に、突如現れたユリウス・ボルトレフのことは皆の記憶に新しい。
 王女がボルトレフの領地に向かったのも、つい先日のことだ。
 それがいきなり、二人が結婚するという話になったのだ。
 参列者は国王夫妻とジュリアン、そして主だった国の重鎮たち。
 ボルトレフからランディフたちも加わり、しめやかに式は行われたのだった。
 
 式があまりに急だったので、ジゼルの花嫁衣装など、もちろん用意出来ていない。
 薄いクリーム色の生地のドレスに、母が嫁いできた時のベールを被り、ユリウスはエレトリカ軍の礼服を着ての式だった。
 国王は泣きそうになるのを、ぐっと涙を堪えていた。王妃はそんな夫の手をそっと握っていた。

「怒っていないか?」
「怒るとは?」

 式が終わり、晩餐が終わって二人でジゼルの部屋に戻ると、ユリウスが不意に尋ねてきた。

「女性にとっては、結婚式というのは至極思い入れがあるものだ。急拵えのような式になってしまったことだ」
「今更だと思いますよ」

 笑ってジゼルは答えた。用意が整っているはずもないのに、式を挙げたいと言い出したのは彼なのに。

「大事なのは、どんな式がではなく、誰との式かと言うことです。派手な挙式をしても、幸せにならないならお金を無駄にするだけのことです。国民の税金をそんなことに使うわけにはいきませんし、あなたとの結婚式なら、たとえ普段着でも気にしませんし、式などしなくても」
「それはだめだ。あなたを娶ることをきちんと神と皆の前で誓わないと、気がすまない」
  
 ユリウスの方が意外に形式に拘ることを、ジゼルは初めて知った。

「きちんと式を挙げて、二人で夜を迎える。ケジメは必要だ」
「そ、そうね」

 ユリウスの口から初夜の話題が出て、ジゼルも赤くなる。

「でも、は、初めてでもないし…」
「妻としては、初めてだろう?」 
「そ、そうですけど…」
「美しい我が妻、ジゼル。今宵夫である私と、初めての夜を過ごしていただけますか?」

 指を絡めてジゼルの手を握ると、その手を上に持ち上げて手の甲に口づけを落とした。
 赤い瞳に情欲の火が灯るのを見て、ジゼルの体が震え体温が上昇するのがわかった。
 
「も、もちろんですわ」

 さっとユリウスがジゼルの膝裏に腕を回し、彼女を抱き上げた。

「覚悟はよろしいですか、我が妻、ジゼルよ」
「ええ、旦那様」

 ユリウスの首の後ろに手を回し、ジゼルが微笑んだ。
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