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第八章
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「オリビア…さん?」
突然現れたオリビアを見て、ジゼルは呆然とした。
「助けてください。ジゼル様」
「え?」
オリビアは涙を浮かべながらジゼルに駆け寄り、しがみついてきた。
「助けてって、な、なにが……」
オリビアがリロイに何をしたか。はっきり確証はないが、何らかの関与はしているのは確実で、だから彼女は雲隠れしたかと思っていたのだが、助けてとは、どういうことなのか。
「私、脅されているのです」
「え、脅されている?」
思ってもいなかった言葉に、ジゼルは目を白黒させた。
「実は…じ、実家の両親が多額の借金を抱えていて、返さないと大変なことになるのです」
「借金?」
「はい。最初は少額だったのが、どんどん利子が嵩んでどうしようもない金額に膨れ上がって、それで…そのお金を借りた相手が、わ、私に……うう」
「お、落ち着いてください。それで、脅されて、あなたは何をさせられようとしているの?」
「リ、リロイに……く、薬を……」
「薬」
「ど、毒ではないからと」
「なぜあの子に薬なんて…」
「あの子が、次のボルトレフの総領だから…うう」
「そんな、そんなことで…」
「でも、私、飲ませたものの、怖くなって、…助けてください。このことが明るみに出たら、ボルトレフにはいられない。たけど、父と母が……ど、どうか王女様の力で、何とか護ってください」
嗚咽混じりにオリビアは何とかそれだけ言った。
「借金の相手は誰なのですか?」
王女と言えどジゼルに出来ることなど限られている。 しかし、相手がどんな人物なのかわからなければ対策のしようがない。
しかし、オリビアはガタガタと震えて首を振るだけで答えない。
それより、ボルトレフの屋敷への外部からの出入りについて、警戒されている筈だが、彼女はどこから現れたのだろう。
「オリビアさん、とにかくサイモンさんたちに説明を」
「だ、だめ…そんなこと…私、リロイに酷いことを…」
「でも、事情を話せば……」
「あ、あいつら、私がこれ以上は嫌だと言ったら、条件を出して来たんです。今度言うことを聞かなければ、こ、殺すと」
「え!」
オリビアの口から恐ろしい言葉が飛び出し、ジゼルの体が震えた。
「殺すなんて…そ、そんなこと…何をしろと言ってきたの?」
お金の話なら、何とか出来るだろうか。
「くく……」
嗚咽していたオリビアの肩が大きく揺れる。
「オリビアさん?」
顔を上げたオリビアの目が、まるで獲物を狙う肉食動物のようにジゼルを睨んだ。
「!!!」
異変を察してジゼルはオリビアから後退ろうとしたが、一歩遅かった。
オリビアは懐から出した何かをジゼルの顔に浴びせた。
「きゃっ」
ビシャリと液体が顔にかかり、口の中に苦い味が広がった。
「な、なにを……」
舌が痺れる感覚があり、その鼻に抜ける強烈な香りにジゼルはクラリとなった。
「大丈夫。死にはしないわ。生きてあんたを連れてこいって、相手のご所望よ」
目の前のオリビアが何人にも見え、次第に視界が霞む。
「ユ、ユリウス……」
彼の名を最後に呟き、ジゼルは意識を手放した。
そして気がついたらここにいた。
「ここは…どこかしら?」
ボルトレフの邸ではないことはわかるが、土地勘がないのでわからない。
そう思っていると、足音と人の話し声が聞こえてきた。
「本当だろうな」
「もちろんですよ」
「信用してください」
「まさかボルトレフにいたとはな」
(え、まさか…あの声は)
声は三人で女性が一人、後は男性だった。女性はオリビアだ。しかし一人は聞いたことがない声だったが、もう一人は聞き覚えがあった。
(まさか…違うわよね)
ジゼルは自分の思い違いであってほしいと願った。
ギイッと扉が開いて、最初に入ってきたのは細い目をした筋骨隆々の男性だった。
「なんだ。もう目が覚めでたのか」
男はジゼルが起きているのを見て、声をかけてきた。
「あら、本当ね」
次に現れたのはオリビアだった。
「オリビアさん」
「悪く思わないでね、王女様。でもあなたが悪いのよ。ユリウスに色目なんて使うから」
「そ、そんな…」
オリビアに言いがかりをつけられ、ジゼルはそんなことはないと言おうとした。
「色目? そんな芸当が出来るようになったのか、驚きだな」
そこへもう一人の男性が扉の入口に立った。
「そ、そんな……」
ジゼルは現れた人物を見て目を見開いた。
肩までの長さの茶色の巻毛と薄茶の瞳、鼻のあたりにそばかすがある、背が高くひょろりとした男性。
「ド、ドミニコ……」
そこにいたのは、半年前までジゼルの夫だった人物。ドミニコ・バレッシオだった。
突然現れたオリビアを見て、ジゼルは呆然とした。
「助けてください。ジゼル様」
「え?」
オリビアは涙を浮かべながらジゼルに駆け寄り、しがみついてきた。
「助けてって、な、なにが……」
オリビアがリロイに何をしたか。はっきり確証はないが、何らかの関与はしているのは確実で、だから彼女は雲隠れしたかと思っていたのだが、助けてとは、どういうことなのか。
「私、脅されているのです」
「え、脅されている?」
思ってもいなかった言葉に、ジゼルは目を白黒させた。
「実は…じ、実家の両親が多額の借金を抱えていて、返さないと大変なことになるのです」
「借金?」
「はい。最初は少額だったのが、どんどん利子が嵩んでどうしようもない金額に膨れ上がって、それで…そのお金を借りた相手が、わ、私に……うう」
「お、落ち着いてください。それで、脅されて、あなたは何をさせられようとしているの?」
「リ、リロイに……く、薬を……」
「薬」
「ど、毒ではないからと」
「なぜあの子に薬なんて…」
「あの子が、次のボルトレフの総領だから…うう」
「そんな、そんなことで…」
「でも、私、飲ませたものの、怖くなって、…助けてください。このことが明るみに出たら、ボルトレフにはいられない。たけど、父と母が……ど、どうか王女様の力で、何とか護ってください」
嗚咽混じりにオリビアは何とかそれだけ言った。
「借金の相手は誰なのですか?」
王女と言えどジゼルに出来ることなど限られている。 しかし、相手がどんな人物なのかわからなければ対策のしようがない。
しかし、オリビアはガタガタと震えて首を振るだけで答えない。
それより、ボルトレフの屋敷への外部からの出入りについて、警戒されている筈だが、彼女はどこから現れたのだろう。
「オリビアさん、とにかくサイモンさんたちに説明を」
「だ、だめ…そんなこと…私、リロイに酷いことを…」
「でも、事情を話せば……」
「あ、あいつら、私がこれ以上は嫌だと言ったら、条件を出して来たんです。今度言うことを聞かなければ、こ、殺すと」
「え!」
オリビアの口から恐ろしい言葉が飛び出し、ジゼルの体が震えた。
「殺すなんて…そ、そんなこと…何をしろと言ってきたの?」
お金の話なら、何とか出来るだろうか。
「くく……」
嗚咽していたオリビアの肩が大きく揺れる。
「オリビアさん?」
顔を上げたオリビアの目が、まるで獲物を狙う肉食動物のようにジゼルを睨んだ。
「!!!」
異変を察してジゼルはオリビアから後退ろうとしたが、一歩遅かった。
オリビアは懐から出した何かをジゼルの顔に浴びせた。
「きゃっ」
ビシャリと液体が顔にかかり、口の中に苦い味が広がった。
「な、なにを……」
舌が痺れる感覚があり、その鼻に抜ける強烈な香りにジゼルはクラリとなった。
「大丈夫。死にはしないわ。生きてあんたを連れてこいって、相手のご所望よ」
目の前のオリビアが何人にも見え、次第に視界が霞む。
「ユ、ユリウス……」
彼の名を最後に呟き、ジゼルは意識を手放した。
そして気がついたらここにいた。
「ここは…どこかしら?」
ボルトレフの邸ではないことはわかるが、土地勘がないのでわからない。
そう思っていると、足音と人の話し声が聞こえてきた。
「本当だろうな」
「もちろんですよ」
「信用してください」
「まさかボルトレフにいたとはな」
(え、まさか…あの声は)
声は三人で女性が一人、後は男性だった。女性はオリビアだ。しかし一人は聞いたことがない声だったが、もう一人は聞き覚えがあった。
(まさか…違うわよね)
ジゼルは自分の思い違いであってほしいと願った。
ギイッと扉が開いて、最初に入ってきたのは細い目をした筋骨隆々の男性だった。
「なんだ。もう目が覚めでたのか」
男はジゼルが起きているのを見て、声をかけてきた。
「あら、本当ね」
次に現れたのはオリビアだった。
「オリビアさん」
「悪く思わないでね、王女様。でもあなたが悪いのよ。ユリウスに色目なんて使うから」
「そ、そんな…」
オリビアに言いがかりをつけられ、ジゼルはそんなことはないと言おうとした。
「色目? そんな芸当が出来るようになったのか、驚きだな」
そこへもう一人の男性が扉の入口に立った。
「そ、そんな……」
ジゼルは現れた人物を見て目を見開いた。
肩までの長さの茶色の巻毛と薄茶の瞳、鼻のあたりにそばかすがある、背が高くひょろりとした男性。
「ド、ドミニコ……」
そこにいたのは、半年前までジゼルの夫だった人物。ドミニコ・バレッシオだった。
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