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第七章
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ユリウスの前妻の死の理由については、単純に病気か何かだと思っていた。
しかし、ファーガスの言葉に驚いているのはジゼルとメアリーだけだったところを見ると、他の人たちはその可能性があることを覚悟していたのだろう。
「稀に、出産前後に心を病む女性がいるそうなのですが、早目にその可能性に気づいて適切に治療していれば、防げたことだということを未だに後悔しております」
悔しげに項垂れるファーガスを、誰も責めることはできない。
神でもない限り、奇跡は起こせない。
もし気づいていたとしても、努力の甲斐なくやはり彼女は亡くなっていたかも知れない。
「亡くなってしまったことを、とやかく言っても仕方がありません。あれからもう四年も経っているのです。それで、リロイ様がリゼ様に気質も似ているから、もしやリロイ様にも同じことが起こると?」
「いえ、幸か不幸か、リロイ様はまだ幼いので、自死の何たるかもわからないと思いますが、もし、リゼ様と同じ心の病を発症したのなら、注意が必要です」
「けれど、なぜ突然? 確かにリロイ様も心優しいお子様ですが、そのように突然発症するものなのですか?」
メアリーが疑問を投げかける。
ジゼルも自分がバレッシオで、徐々に心を削られ蝕まれて行った。
彼女の場合、バレッシオで周りに味方は誰もいなかったこもとあり、四面楚歌となったことが拍車をかけた。
他の事例もあるかも知れないし、医者でもないジゼルに、リロイの状況が、彼の母と同じなのかはわからない。
だが、天真爛漫な子供でもなるものなのか。
しかし、ファーガスの次の言葉は、さらに皆を驚かせた。
「実は、誰かが故意にそうしているのかもと、疑っております」
「な! そ、それは」
「故意とは、どういうことです?」
「そのままの意味です。いかにリロイ様がリゼ様と気質が似ていても、突然精神的に不安定になるなど、不自然極まりないと思います」
「それは、我々の中で一番に医療に長けているあなたが言うなら、疑うつもりはありませんが、誰が何の目的で……」
皆で顔を見合わせ、リロイを病にすることで誰が何の特を得るのかと考える。
「目的まではわかりませんが、突然そうなったリロイ様の側に、誰がいたのかはわかっています」
「ま、まさか……」
またもや皆で顔を見合わせる。
「オリビアさん……ですか?」
サイモンが皆の頭に浮かんだ人物の名を口にする。
「何も確証はありません。ですが、先程リロイ様の様子を診て、私はリゼ様のときと同じだと思った。リゼ様の看病はオリビアさんがほぼ一人で担っていました」
「それは、リゼ様がオリビアさん以外には会いたくないと言って、唯一オリビアさんだけに心を許して我々だけでなく、ユリウス様やお子様も遠ざけられたからです」
「そうです。我々はリゼ様に出来ることは、ただ快復を祈るだけでした」
ジゼルは三人の会話をすぐ側で聞きながら、一体何が起こっているのだろうと呆然としていた。
方法も目的もわからない。
何のために、実の姉や甥を病にするのか。
どうすればそんなことが出来るのか。
「リゼ様のことは、私も力及ばずで、あのような形で失い後悔しておりました。会いたくないからと、診察を控え、オリビアさん一人に看病をさせた。処方した薬も、きちんと呑んでいるとは聞いていましたが、はたしてそうなのか、甚だ疑問です」
ファーガスがぎゅっと拳を握り、口惜しそうに唸る。
「また同じことが誰かに起こった時、医師として何が出来るのか。この四年あらゆる文献を取り寄せ、他国の書物も研究してきました」
二度と同じことは起こらないように。人知れずファーガスは情報を集めて来たのだと言った。
「嘆かわしいことですが、この世には人を治す薬だけでなく、病にすることも出来る薬もあります」
「『毒』ですか?」
「直接死に至る効果はなくとも、媚薬などのように、人の感情などに影響を与える薬はあります。もしくは病に侵された者には薬でも、正常な状態の者がそれを口にすると、副作用で悪影響を引き起こすものもあります」
「そんな、まさか、そんな恐ろしいこと……本当に本当なのですか」
気丈に思えるケーラさえ、青ざめ震えている。
「残念ながら、そういう薬があるということは、それを作って利用する者も出てきます。とりあえず、私は書物にあった解毒剤を作ってみます」
「私は他の者も総動員してオリビアさんを探します」
ファーガスのサイモンが自分のすべきことを口にする。
「では、私達はリロイ様の側に」
「わ、私も、リロイ様の所へ行ってもよろしいでしょうか」
ジゼルがケーラに尋ねた。
まだたった五歳のリロイが、そんな得体の知れない薬を飲まされていたのが事実なら、なんて酷いことだろうと、ジゼルは胸が潰れる思いだった。
「王女様、お忘れですか、あなたも階段から落ちて怪我をしているのですよ。心配なのはわかりますが、せめて今夜ひと晩大人しく休んでくれると有り難いのですが」
ファーガスに言われるまで、ジゼルはその事実を忘れていた。
「こ、これくらい何とも!!!」
何ともないことを証明しようと手を動かしたが、ジゼルは痛みに顔をしかめた。
「おわかりですよね」
「で、でも……無理はしません。側に座っているだけにします」
ジゼルは引き下がる気はなかった。彼女のペリドットの瞳に現れた揺るぎない決意に、ファーガスも折れざるを得なかった。
「絶対に無理は禁物です。今度は王女様が大変なことになります」
「はい」
「では、メアリー、あなたはミア様の様子を見ていてくれますか。暫く起きはしないと思いますが」
「わかりました」
ケーラに言われ、メアリーが力強く頷いた。
ファーガスは自分の家に戻った。
サイモンはオリビアを探すために動き始めた。
そしてメアリーはミアの所へ行き、ジゼルはケーラと共にリロイの元へと向かった。
しかし、ファーガスの言葉に驚いているのはジゼルとメアリーだけだったところを見ると、他の人たちはその可能性があることを覚悟していたのだろう。
「稀に、出産前後に心を病む女性がいるそうなのですが、早目にその可能性に気づいて適切に治療していれば、防げたことだということを未だに後悔しております」
悔しげに項垂れるファーガスを、誰も責めることはできない。
神でもない限り、奇跡は起こせない。
もし気づいていたとしても、努力の甲斐なくやはり彼女は亡くなっていたかも知れない。
「亡くなってしまったことを、とやかく言っても仕方がありません。あれからもう四年も経っているのです。それで、リロイ様がリゼ様に気質も似ているから、もしやリロイ様にも同じことが起こると?」
「いえ、幸か不幸か、リロイ様はまだ幼いので、自死の何たるかもわからないと思いますが、もし、リゼ様と同じ心の病を発症したのなら、注意が必要です」
「けれど、なぜ突然? 確かにリロイ様も心優しいお子様ですが、そのように突然発症するものなのですか?」
メアリーが疑問を投げかける。
ジゼルも自分がバレッシオで、徐々に心を削られ蝕まれて行った。
彼女の場合、バレッシオで周りに味方は誰もいなかったこもとあり、四面楚歌となったことが拍車をかけた。
他の事例もあるかも知れないし、医者でもないジゼルに、リロイの状況が、彼の母と同じなのかはわからない。
だが、天真爛漫な子供でもなるものなのか。
しかし、ファーガスの次の言葉は、さらに皆を驚かせた。
「実は、誰かが故意にそうしているのかもと、疑っております」
「な! そ、それは」
「故意とは、どういうことです?」
「そのままの意味です。いかにリロイ様がリゼ様と気質が似ていても、突然精神的に不安定になるなど、不自然極まりないと思います」
「それは、我々の中で一番に医療に長けているあなたが言うなら、疑うつもりはありませんが、誰が何の目的で……」
皆で顔を見合わせ、リロイを病にすることで誰が何の特を得るのかと考える。
「目的まではわかりませんが、突然そうなったリロイ様の側に、誰がいたのかはわかっています」
「ま、まさか……」
またもや皆で顔を見合わせる。
「オリビアさん……ですか?」
サイモンが皆の頭に浮かんだ人物の名を口にする。
「何も確証はありません。ですが、先程リロイ様の様子を診て、私はリゼ様のときと同じだと思った。リゼ様の看病はオリビアさんがほぼ一人で担っていました」
「それは、リゼ様がオリビアさん以外には会いたくないと言って、唯一オリビアさんだけに心を許して我々だけでなく、ユリウス様やお子様も遠ざけられたからです」
「そうです。我々はリゼ様に出来ることは、ただ快復を祈るだけでした」
ジゼルは三人の会話をすぐ側で聞きながら、一体何が起こっているのだろうと呆然としていた。
方法も目的もわからない。
何のために、実の姉や甥を病にするのか。
どうすればそんなことが出来るのか。
「リゼ様のことは、私も力及ばずで、あのような形で失い後悔しておりました。会いたくないからと、診察を控え、オリビアさん一人に看病をさせた。処方した薬も、きちんと呑んでいるとは聞いていましたが、はたしてそうなのか、甚だ疑問です」
ファーガスがぎゅっと拳を握り、口惜しそうに唸る。
「また同じことが誰かに起こった時、医師として何が出来るのか。この四年あらゆる文献を取り寄せ、他国の書物も研究してきました」
二度と同じことは起こらないように。人知れずファーガスは情報を集めて来たのだと言った。
「嘆かわしいことですが、この世には人を治す薬だけでなく、病にすることも出来る薬もあります」
「『毒』ですか?」
「直接死に至る効果はなくとも、媚薬などのように、人の感情などに影響を与える薬はあります。もしくは病に侵された者には薬でも、正常な状態の者がそれを口にすると、副作用で悪影響を引き起こすものもあります」
「そんな、まさか、そんな恐ろしいこと……本当に本当なのですか」
気丈に思えるケーラさえ、青ざめ震えている。
「残念ながら、そういう薬があるということは、それを作って利用する者も出てきます。とりあえず、私は書物にあった解毒剤を作ってみます」
「私は他の者も総動員してオリビアさんを探します」
ファーガスのサイモンが自分のすべきことを口にする。
「では、私達はリロイ様の側に」
「わ、私も、リロイ様の所へ行ってもよろしいでしょうか」
ジゼルがケーラに尋ねた。
まだたった五歳のリロイが、そんな得体の知れない薬を飲まされていたのが事実なら、なんて酷いことだろうと、ジゼルは胸が潰れる思いだった。
「王女様、お忘れですか、あなたも階段から落ちて怪我をしているのですよ。心配なのはわかりますが、せめて今夜ひと晩大人しく休んでくれると有り難いのですが」
ファーガスに言われるまで、ジゼルはその事実を忘れていた。
「こ、これくらい何とも!!!」
何ともないことを証明しようと手を動かしたが、ジゼルは痛みに顔をしかめた。
「おわかりですよね」
「で、でも……無理はしません。側に座っているだけにします」
ジゼルは引き下がる気はなかった。彼女のペリドットの瞳に現れた揺るぎない決意に、ファーガスも折れざるを得なかった。
「絶対に無理は禁物です。今度は王女様が大変なことになります」
「はい」
「では、メアリー、あなたはミア様の様子を見ていてくれますか。暫く起きはしないと思いますが」
「わかりました」
ケーラに言われ、メアリーが力強く頷いた。
ファーガスは自分の家に戻った。
サイモンはオリビアを探すために動き始めた。
そしてメアリーはミアの所へ行き、ジゼルはケーラと共にリロイの元へと向かった。
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