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第三章
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弟のジュリアンも、小さい頃はよく泣いた。
しかし、血を分けた小さい頃から良く知っている弟と、会ったばかりの他人の子供では、勝手が違う。
今にも決壊寸前に涙を溜めた子供たちは、自分の次の言葉を待っている。
「嫌いにはならないわ。でも、二人も仲良くしてくれないと、だめよ。意地悪もだめ。皆で仲良く食べましょうね」
すると二人は互いの顔を見合わせ、どちらからともなく近寄ると、「ごめんね「ごめんなさい」」と、一斉に言い合った。
「意地悪なんてしないよ。ミアのこと好きだもん」
「わたしも、リロイに意地悪なんてしない」
そして二人で仲直りだねと、ぎゅっと抱き合った。
その可愛さに全員がとろんとなる。
「二人共、素直で可愛いわね」
ジゼルが褒めると、二人はジゼルに向かって頭を差し出した。
「え?」
「撫でてほしいみたいですよ」
ケーラが説明する。まだ涙が残ったキラキラした四つの瞳が、期待を込めてこちらを見上げている。
ジゼルは右手をリロイに、左手をミアの頭にそっと乗せた。すると二人はその手にグリグリと頭を擦り付けてきた。
純粋無垢なその様子に、ジゼルの胸がきゅんと締め付けられた。
(こんな可愛い子の成長を見ることが出来なかったなんて、亡くなったこの子達のお母様は、さぞ心残りだったでしょうね)
会ったこともない二人の母の無念な気持ちが想像出来て、ジゼルは切なくなった。
「さあさあ、それじゃあ、せっかくですから、お菓子をいただきましょう」
ケーラがワゴンを押してくると、そこには美味しそうな焼き菓子が並べられていた。
「ミアね、これが好き」
フワリとした小さな丸いお菓子を、ミアが掴んでお皿に乗せる。
「ぼくはこれ」
リロイがパイを掴む。
「サクサクしておいしいんだ。はい」
それをリロイもお皿に乗せてジゼルの前に差し出した。
「「おいしいから、食べて」」
二人同時に声を揃えてそう言われては、断ることはできないが、この場合、どちらを先に手に取るのが正解なのだろうと、目の前に突き出されたお皿を受け取りジゼルは考えた。
「ほんとう、おいしそうね。皆にもお気に入りのお菓子を取り分けてもらってもいいかしら?」
「「うん、いいよ」」
双子だからか息ぴったりに二人は返事をし、喜んでお皿を取って皆の分を取り分けていった。
「ありがとうございます、リロイ様、ミア様」
一人一人にお礼を言われ、二人は満足して顔を見合わせニコニコ笑い合っている。
その間にメアリーやケーラがカップにお茶を注いでいく。
子どもたちにはミルクが配られた。
双子は最後に自分たちのお皿にもそれぞれ乗せて、二人はジゼルの両脇にやってきた。
メアリーたちが二人のために椅子を置くと、ちょこんとお尻を乗せて座った。
「それではいただきましょう」
パイを先に食べる者、丸い焼き菓子を食べる者、それぞれバラバラに口にした。
ジゼルは双子たちが自分の分を食べている間に、先にパイ、それからすぐに丸い方を食べた。
「どう?」
「おいしかった?」
二つを口に頬張り咀嚼しているジゼルに、二人が聞いてきた。
「はい、サクサクとフワフワで、両方それぞれおいしかったです」
ジゼルの言葉を聞いて、二人は自分が褒められたかのように、へへへと照れ笑いを見せた。
「そう言えば、リロイ様は私に何か頼み事があるとか。何でしょうか」
お菓子の後でお茶をひと口飲んでから、ジゼルは左側にいるリロイに尋ねた。
「えっと…えっとね。ごほん…」
リロイはジゼルにそっと耳打ちしようとしたので、そちらに耳を傾けた。
「ごほん?」
「うん、ごほん、読んでくれる?」
最初意味がわからなかったが、本を読んでほしいと彼は言った。
少し恥ずかしそうにリロイは頷いた。
まだ名前しか知らない少年にどんな頼み事をされるのかと、少し不安に思っていたジゼルだったが、リロイの口から出たのは本を読んで欲しいという頼みだった。
「リロイ様、本ならいつもユリウス様が…」
「だめ、お姫様がいいの。お父様じゃだめ、下手なんだもの」
「そうよ、オリビアは自分で読めるようになれって読んでくれないし、お父様が読んだら、全部同じでおもしろくないの」
だめ? という風にリロイが上目遣いに問いかける。
濃いブルーの瞳で見つめられ、ジゼルはその可愛らしさに胸を撃たれた。
オリビアというのは、誰かはわからないが、ここの誰かだろう。それよりも子どもたちに下手だと言われつつ本を読むボルトレフ卿の姿が目に浮かび、おかしくなった。
「だめではありませんけど…でも」
ジュリアンにも読んで上げたことがある。母が読むほどには上手ではなかったが、目を輝かせて聞いていたのを思い出した。
そして読んでいるうちにいつの間にか二人で寝てしまっていたこともある。
「ほんと? じゃあ、お願い」
お皿に残ったお菓子を一気に口に放り込むと、リロイはぱっと椅子から立ち上がった。
「い、今からですか?」
「うん。だって、王女様が元気になるの、ずっと待ってたんだ」
「わたしも、わたしにも読んでよ」
ミアも慌てて残りのお菓子を口に入れた。
「で、でも」
困ってジゼルが周りを見ると、皆が諦めてくださいと言った顔をしている。
「ミア様、リロイ様、ジゼル様はまだ病気が治ったばかりですからね。一冊だけにしてください」
ケーラが子供たちを諭す。
「はあい」
「うん、わかったわ」
子供の行動力にジゼルは驚かされる。
断りきれず、ジゼルは子どもたちに引っ張られるように庭に向かい、後からメアリーが追いかけるようについて行った。
しかし、血を分けた小さい頃から良く知っている弟と、会ったばかりの他人の子供では、勝手が違う。
今にも決壊寸前に涙を溜めた子供たちは、自分の次の言葉を待っている。
「嫌いにはならないわ。でも、二人も仲良くしてくれないと、だめよ。意地悪もだめ。皆で仲良く食べましょうね」
すると二人は互いの顔を見合わせ、どちらからともなく近寄ると、「ごめんね「ごめんなさい」」と、一斉に言い合った。
「意地悪なんてしないよ。ミアのこと好きだもん」
「わたしも、リロイに意地悪なんてしない」
そして二人で仲直りだねと、ぎゅっと抱き合った。
その可愛さに全員がとろんとなる。
「二人共、素直で可愛いわね」
ジゼルが褒めると、二人はジゼルに向かって頭を差し出した。
「え?」
「撫でてほしいみたいですよ」
ケーラが説明する。まだ涙が残ったキラキラした四つの瞳が、期待を込めてこちらを見上げている。
ジゼルは右手をリロイに、左手をミアの頭にそっと乗せた。すると二人はその手にグリグリと頭を擦り付けてきた。
純粋無垢なその様子に、ジゼルの胸がきゅんと締め付けられた。
(こんな可愛い子の成長を見ることが出来なかったなんて、亡くなったこの子達のお母様は、さぞ心残りだったでしょうね)
会ったこともない二人の母の無念な気持ちが想像出来て、ジゼルは切なくなった。
「さあさあ、それじゃあ、せっかくですから、お菓子をいただきましょう」
ケーラがワゴンを押してくると、そこには美味しそうな焼き菓子が並べられていた。
「ミアね、これが好き」
フワリとした小さな丸いお菓子を、ミアが掴んでお皿に乗せる。
「ぼくはこれ」
リロイがパイを掴む。
「サクサクしておいしいんだ。はい」
それをリロイもお皿に乗せてジゼルの前に差し出した。
「「おいしいから、食べて」」
二人同時に声を揃えてそう言われては、断ることはできないが、この場合、どちらを先に手に取るのが正解なのだろうと、目の前に突き出されたお皿を受け取りジゼルは考えた。
「ほんとう、おいしそうね。皆にもお気に入りのお菓子を取り分けてもらってもいいかしら?」
「「うん、いいよ」」
双子だからか息ぴったりに二人は返事をし、喜んでお皿を取って皆の分を取り分けていった。
「ありがとうございます、リロイ様、ミア様」
一人一人にお礼を言われ、二人は満足して顔を見合わせニコニコ笑い合っている。
その間にメアリーやケーラがカップにお茶を注いでいく。
子どもたちにはミルクが配られた。
双子は最後に自分たちのお皿にもそれぞれ乗せて、二人はジゼルの両脇にやってきた。
メアリーたちが二人のために椅子を置くと、ちょこんとお尻を乗せて座った。
「それではいただきましょう」
パイを先に食べる者、丸い焼き菓子を食べる者、それぞれバラバラに口にした。
ジゼルは双子たちが自分の分を食べている間に、先にパイ、それからすぐに丸い方を食べた。
「どう?」
「おいしかった?」
二つを口に頬張り咀嚼しているジゼルに、二人が聞いてきた。
「はい、サクサクとフワフワで、両方それぞれおいしかったです」
ジゼルの言葉を聞いて、二人は自分が褒められたかのように、へへへと照れ笑いを見せた。
「そう言えば、リロイ様は私に何か頼み事があるとか。何でしょうか」
お菓子の後でお茶をひと口飲んでから、ジゼルは左側にいるリロイに尋ねた。
「えっと…えっとね。ごほん…」
リロイはジゼルにそっと耳打ちしようとしたので、そちらに耳を傾けた。
「ごほん?」
「うん、ごほん、読んでくれる?」
最初意味がわからなかったが、本を読んでほしいと彼は言った。
少し恥ずかしそうにリロイは頷いた。
まだ名前しか知らない少年にどんな頼み事をされるのかと、少し不安に思っていたジゼルだったが、リロイの口から出たのは本を読んで欲しいという頼みだった。
「リロイ様、本ならいつもユリウス様が…」
「だめ、お姫様がいいの。お父様じゃだめ、下手なんだもの」
「そうよ、オリビアは自分で読めるようになれって読んでくれないし、お父様が読んだら、全部同じでおもしろくないの」
だめ? という風にリロイが上目遣いに問いかける。
濃いブルーの瞳で見つめられ、ジゼルはその可愛らしさに胸を撃たれた。
オリビアというのは、誰かはわからないが、ここの誰かだろう。それよりも子どもたちに下手だと言われつつ本を読むボルトレフ卿の姿が目に浮かび、おかしくなった。
「だめではありませんけど…でも」
ジュリアンにも読んで上げたことがある。母が読むほどには上手ではなかったが、目を輝かせて聞いていたのを思い出した。
そして読んでいるうちにいつの間にか二人で寝てしまっていたこともある。
「ほんと? じゃあ、お願い」
お皿に残ったお菓子を一気に口に放り込むと、リロイはぱっと椅子から立ち上がった。
「い、今からですか?」
「うん。だって、王女様が元気になるの、ずっと待ってたんだ」
「わたしも、わたしにも読んでよ」
ミアも慌てて残りのお菓子を口に入れた。
「で、でも」
困ってジゼルが周りを見ると、皆が諦めてくださいと言った顔をしている。
「ミア様、リロイ様、ジゼル様はまだ病気が治ったばかりですからね。一冊だけにしてください」
ケーラが子供たちを諭す。
「はあい」
「うん、わかったわ」
子供の行動力にジゼルは驚かされる。
断りきれず、ジゼルは子どもたちに引っ張られるように庭に向かい、後からメアリーが追いかけるようについて行った。
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