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第一章
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「姉上」
「ジュリアン」
ジゼルが会場に現れると、今日の主役であり王太子のジュリアンが駆け寄ってきた。
ジゼルが嫁いだときには十歳に満たなかった彼も、七年の間に背も伸びてあどけない少年から、思春期の眩しい美少年へと成長していた。
「プレゼント、ありがとうございます」
「そう言ってもらえて嬉しいわ」
プレゼントに何を贈るか考えて、最近剣術の腕がメキメキ上がっているというのを聞いて、宝石を散りばめた剣帯を贈ることにしたのだった。
「ジゼル、よく来たわね」
「相変わらず私達の娘は美しいな」
「父上、母上、本日はおめでとうございます」
二人並んでジゼルの元へと歩いてきた両親に、ジゼルはスカートの生地を摘んで挨拶をする。
「参加してくれて嬉しいけど、大丈夫なの?」
「はい。お気遣いありがとうございます」
この国に帰ってきてから、こういう華やかな場に出るのは初めてなこともあり、母である王妃は心配そうに尋ねる。
「いつまでも引き籠もってばかりではいられませんもの」
「無理しないでね」
「はい」
「フィエンの言うとおりだ。無理はするな」
「わかっています、父上」
両親の気遣いは嬉しいが、先程母に言った言葉も嘘ではない。
そろそろ前を向いて歩かなければならない。
そういう意味では、この宴はちょうどいい機会だった。
しかし、ジゼルは自分のことを心配する父の顔色が、いつもより翳りを帯びていることに気づいた。
「父上こそ、お疲れなのではございませんか? お顔の色が…それに少しおやつれになられたのでは?」
「そ、そうか…」
「戦争の後処理やら政務が立て込んでいますから、少しお疲れなだけですわ」
「そ、そうだ。私ももう若くないということだな」
「さようでございますか」
何だか誤魔化された感は否めない。
しかし、戻ってきて半年もの間引き籠もっていたジゼルは、今のこの国の現状について詳しくはない。
(私ったら自分のことばかりで、駄目ね)
「お父様、私では頼りないかも知れませんが、もしお手伝い出来ることがあるなら、遠慮なく仰ってください。少しでも親孝行させていただきたいと思います」
「ありがとう、しかし、大丈夫だ。お前は自分のことをまず考えなさい」
「そうよ。あんなに痩せてしまったあなたを見て辛かったわ。ごめんなさいね。あなたに辛い思いをさせてしまって」
「お母様、泣くのはやめてください。せっかくの晴れ晴れしい日なのです。泣いては台無しですわ」
涙ぐむ母の肩にそっと手を添えたジゼルは、それから弟の方を振り返った。
「ごめんなさい、ジュリアン、あなたの誕生祝いなのに湿っぽくなってしまったわね」
「いいえ、姉上、私も姉上がそんな辛い思いをなさっていることを知らず、呑気に過ごしていたことを申し訳なく思います」
「そんな風に思わないでください。もう過去のことなのだから」
「陛下、そろそろお時間です」
四人で重苦しい空気で話し込んでいると、宰相のレディントンが、宴の開始時刻が来たことを告げに来た。
「そ、そうか」
「王女殿下、お久しぶりです」
「レディントン、あなたも元気そうね」
「ありがとうございます」
ジゼルが嫁ぐ時から宰相だった彼は、七年の間に恰幅が良くなり頭頂部が薄くなっていた。
しかし、ジゼルのことを娘のように思ってくれていて、優しく視線を向けてくれるのは、以前と同じだった。
「では、まいろうか」
「ええ」
父が母をエスコートし、まだ婚約者のいないジュリアンは、ジゼルをエスコートする。
「すっかり背が伸びたわね」
「まだまだ伸びるつもりです」
七年前はジゼルの胸のあたりまでだった弟の背は、もう彼女を少し超えている。肩幅はまだまだ細いが、あと数年も経てばすっかり大人の男性の仲間入りだろう。
四人で仲良く会場へと向かう。
この家族団らんの幸せに、ジゼルは幸せを実感していた。
しかし、それはほんの束の間のことだった。
「ジュリアン」
ジゼルが会場に現れると、今日の主役であり王太子のジュリアンが駆け寄ってきた。
ジゼルが嫁いだときには十歳に満たなかった彼も、七年の間に背も伸びてあどけない少年から、思春期の眩しい美少年へと成長していた。
「プレゼント、ありがとうございます」
「そう言ってもらえて嬉しいわ」
プレゼントに何を贈るか考えて、最近剣術の腕がメキメキ上がっているというのを聞いて、宝石を散りばめた剣帯を贈ることにしたのだった。
「ジゼル、よく来たわね」
「相変わらず私達の娘は美しいな」
「父上、母上、本日はおめでとうございます」
二人並んでジゼルの元へと歩いてきた両親に、ジゼルはスカートの生地を摘んで挨拶をする。
「参加してくれて嬉しいけど、大丈夫なの?」
「はい。お気遣いありがとうございます」
この国に帰ってきてから、こういう華やかな場に出るのは初めてなこともあり、母である王妃は心配そうに尋ねる。
「いつまでも引き籠もってばかりではいられませんもの」
「無理しないでね」
「はい」
「フィエンの言うとおりだ。無理はするな」
「わかっています、父上」
両親の気遣いは嬉しいが、先程母に言った言葉も嘘ではない。
そろそろ前を向いて歩かなければならない。
そういう意味では、この宴はちょうどいい機会だった。
しかし、ジゼルは自分のことを心配する父の顔色が、いつもより翳りを帯びていることに気づいた。
「父上こそ、お疲れなのではございませんか? お顔の色が…それに少しおやつれになられたのでは?」
「そ、そうか…」
「戦争の後処理やら政務が立て込んでいますから、少しお疲れなだけですわ」
「そ、そうだ。私ももう若くないということだな」
「さようでございますか」
何だか誤魔化された感は否めない。
しかし、戻ってきて半年もの間引き籠もっていたジゼルは、今のこの国の現状について詳しくはない。
(私ったら自分のことばかりで、駄目ね)
「お父様、私では頼りないかも知れませんが、もしお手伝い出来ることがあるなら、遠慮なく仰ってください。少しでも親孝行させていただきたいと思います」
「ありがとう、しかし、大丈夫だ。お前は自分のことをまず考えなさい」
「そうよ。あんなに痩せてしまったあなたを見て辛かったわ。ごめんなさいね。あなたに辛い思いをさせてしまって」
「お母様、泣くのはやめてください。せっかくの晴れ晴れしい日なのです。泣いては台無しですわ」
涙ぐむ母の肩にそっと手を添えたジゼルは、それから弟の方を振り返った。
「ごめんなさい、ジュリアン、あなたの誕生祝いなのに湿っぽくなってしまったわね」
「いいえ、姉上、私も姉上がそんな辛い思いをなさっていることを知らず、呑気に過ごしていたことを申し訳なく思います」
「そんな風に思わないでください。もう過去のことなのだから」
「陛下、そろそろお時間です」
四人で重苦しい空気で話し込んでいると、宰相のレディントンが、宴の開始時刻が来たことを告げに来た。
「そ、そうか」
「王女殿下、お久しぶりです」
「レディントン、あなたも元気そうね」
「ありがとうございます」
ジゼルが嫁ぐ時から宰相だった彼は、七年の間に恰幅が良くなり頭頂部が薄くなっていた。
しかし、ジゼルのことを娘のように思ってくれていて、優しく視線を向けてくれるのは、以前と同じだった。
「では、まいろうか」
「ええ」
父が母をエスコートし、まだ婚約者のいないジュリアンは、ジゼルをエスコートする。
「すっかり背が伸びたわね」
「まだまだ伸びるつもりです」
七年前はジゼルの胸のあたりまでだった弟の背は、もう彼女を少し超えている。肩幅はまだまだ細いが、あと数年も経てばすっかり大人の男性の仲間入りだろう。
四人で仲良く会場へと向かう。
この家族団らんの幸せに、ジゼルは幸せを実感していた。
しかし、それはほんの束の間のことだった。
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