80 / 91
80 自分の気持ち②
しおりを挟む
ギャレットへの想いを自覚する前から、いずれモヒナート家を継ぐのはギャレットだと思っていた。
自分は子供がいないからモヒナート家に引き取られたのだ。だからギャレットが生まれた時点で、継ぐべきはギャレットだと、口に出しては言わなくても、彼らは思っているだろう。
自分を気遣って二人が言わないなら、自分から切り出そう。
ギャレットが成人し、学園を卒業したらそう言おう。
レーヌ=オハイエが出会った時から自分に関心を寄せていたのは、そういうことだったのかと、合点がいった。
卒業パーティーでステファンから自分にパートナーを変えたのも、そのことを告げようとしたからだった。
「確信があるのか?」
「その髪、その瞳、そして何よりあなたは私の…私達の亡くなった祖父の若い頃に生き写しなんです」
「俺は小さい頃の記憶がない。だが、時折夢に見知らぬ女性や見知らぬ女の子が出てくる」
「それはきっと母と私ね」
そして彼女は母と双子の兄であるオーランドに何があったのか話してくれた。
「モヒナート侯爵にも、ステファンから話がいっている筈です。あなたが捕まっていた場所を探して見つかった帳簿から、あなたが彼らに売られた時期もわかっています。それから推察して、あなたは間違いなく、私の兄だと確信しています」
「どうして、すぐに探してくれなった。俺は…もっと早くに捜索してくれていたら…」
「そのことは、ごめんなさい。父は母の遺体を見て、てっきりあなたも亡くなったものと思ったらしいの。父は母と息子を失って絶望して、正常な判断がつけられなかった」
幼かったレーヌに何かできたわけでもなく、八つ当たりだとわかっていた。
「父の様子がおかしいの」
「オハイエ伯爵の?」
自分の父でもある筈だが、彼を「父」とは思えなかった。
レーヌは寂しそうに微笑んだ。
オーランドと言う彼の双子の兄の人生より、遥かに長い時をジュスト=モヒナートとして過ごしてきたのだ。急には気持ちを切り替えられない。
「ご存知のように、我が家は後妻のエナンナとミーシャに牛耳られています。父も少し前から伏せっていて、私もずっと会えないままです。このままではオハイエ家は潰れてしまいます。もしあなたが望むなら、名乗りを上げてオハイエ伯爵家を継いでください」
「待ってくれ!」
今自分が何者か知らされたばかりで、すぐにそう言われても彼は何の心構えも出来ていない。
「そんな急に言われても…」
「ごめんなさい。そうね。でも、あなたは間違いなくオーランド、私の兄、あなたはオハイエ家の正当な後継ぎなの。それはわかって」
ぽっかりと虚のようだった自分の過去に、オーランド=オハイエのいう名前が付いたことで、欠けていたピースが嵌り、パズルが完成した。
「たとえ俺が君の兄だったとしても、俺は何年もジュスト=モヒナートとして生きてきた。その人生を捨てて、俺がなぜオハイエ家を救わないといけない」
「でも、あなたは間違いなく、私の兄よ。そのことは認めて」
必死でそういう彼女の顔を、目を細めてじっと見つめる。
夢の中で何度も見てきた、ぼんやりとした女性の面影が、次第に濃くなり彼女の顔と重なる。
「私、髪色や瞳は祖母に、顔は亡くなった母の若い頃に似ているって言われるわ」
そう言って彼女は涙ぐむ。
血の繋がりというものが、どれほど強いものかわからない。
かつて同じ時期に母の胎内に共にいた相手。
共に育ってきたギャレットとは違う、もう一人の兄妹。
ギャレットに対する想いとは違うが、出会った時から彼女のことは気になっていた。
それが血縁、兄妹の持つ絆だったのだろうか。
「後継ぎの件は、少し待ってほしい。父…モヒナート侯爵たちとも話してみる」
「ええ、もちろん、あなたをここまで立派に育ててくれた方たちですもの。義理は通さないと。弟さんも、いきなりお兄様が別人になるんですもの、心の準備がいるわ」
「ギャレット…」
彼はこの件をどう受け取るだろうか。
自分がオーランド=オハイエになったら、彼とは義兄弟ではなくなる。
自分は変わらないのに、立場が変わる。何者でもなかった自分にオーランド=オハイエという名前がついて、ギャレットとは義兄弟でなくなった自分をどう思うだろうか。
共に過ごしてきた日々の中で重ねてきた信頼と絆が、それで損なわれるとは思わないが、これまでのようにただひたむきに慕ってくれなくなったら、自分はその時、どうなるのだろう。
自分は子供がいないからモヒナート家に引き取られたのだ。だからギャレットが生まれた時点で、継ぐべきはギャレットだと、口に出しては言わなくても、彼らは思っているだろう。
自分を気遣って二人が言わないなら、自分から切り出そう。
ギャレットが成人し、学園を卒業したらそう言おう。
レーヌ=オハイエが出会った時から自分に関心を寄せていたのは、そういうことだったのかと、合点がいった。
卒業パーティーでステファンから自分にパートナーを変えたのも、そのことを告げようとしたからだった。
「確信があるのか?」
「その髪、その瞳、そして何よりあなたは私の…私達の亡くなった祖父の若い頃に生き写しなんです」
「俺は小さい頃の記憶がない。だが、時折夢に見知らぬ女性や見知らぬ女の子が出てくる」
「それはきっと母と私ね」
そして彼女は母と双子の兄であるオーランドに何があったのか話してくれた。
「モヒナート侯爵にも、ステファンから話がいっている筈です。あなたが捕まっていた場所を探して見つかった帳簿から、あなたが彼らに売られた時期もわかっています。それから推察して、あなたは間違いなく、私の兄だと確信しています」
「どうして、すぐに探してくれなった。俺は…もっと早くに捜索してくれていたら…」
「そのことは、ごめんなさい。父は母の遺体を見て、てっきりあなたも亡くなったものと思ったらしいの。父は母と息子を失って絶望して、正常な判断がつけられなかった」
幼かったレーヌに何かできたわけでもなく、八つ当たりだとわかっていた。
「父の様子がおかしいの」
「オハイエ伯爵の?」
自分の父でもある筈だが、彼を「父」とは思えなかった。
レーヌは寂しそうに微笑んだ。
オーランドと言う彼の双子の兄の人生より、遥かに長い時をジュスト=モヒナートとして過ごしてきたのだ。急には気持ちを切り替えられない。
「ご存知のように、我が家は後妻のエナンナとミーシャに牛耳られています。父も少し前から伏せっていて、私もずっと会えないままです。このままではオハイエ家は潰れてしまいます。もしあなたが望むなら、名乗りを上げてオハイエ伯爵家を継いでください」
「待ってくれ!」
今自分が何者か知らされたばかりで、すぐにそう言われても彼は何の心構えも出来ていない。
「そんな急に言われても…」
「ごめんなさい。そうね。でも、あなたは間違いなくオーランド、私の兄、あなたはオハイエ家の正当な後継ぎなの。それはわかって」
ぽっかりと虚のようだった自分の過去に、オーランド=オハイエのいう名前が付いたことで、欠けていたピースが嵌り、パズルが完成した。
「たとえ俺が君の兄だったとしても、俺は何年もジュスト=モヒナートとして生きてきた。その人生を捨てて、俺がなぜオハイエ家を救わないといけない」
「でも、あなたは間違いなく、私の兄よ。そのことは認めて」
必死でそういう彼女の顔を、目を細めてじっと見つめる。
夢の中で何度も見てきた、ぼんやりとした女性の面影が、次第に濃くなり彼女の顔と重なる。
「私、髪色や瞳は祖母に、顔は亡くなった母の若い頃に似ているって言われるわ」
そう言って彼女は涙ぐむ。
血の繋がりというものが、どれほど強いものかわからない。
かつて同じ時期に母の胎内に共にいた相手。
共に育ってきたギャレットとは違う、もう一人の兄妹。
ギャレットに対する想いとは違うが、出会った時から彼女のことは気になっていた。
それが血縁、兄妹の持つ絆だったのだろうか。
「後継ぎの件は、少し待ってほしい。父…モヒナート侯爵たちとも話してみる」
「ええ、もちろん、あなたをここまで立派に育ててくれた方たちですもの。義理は通さないと。弟さんも、いきなりお兄様が別人になるんですもの、心の準備がいるわ」
「ギャレット…」
彼はこの件をどう受け取るだろうか。
自分がオーランド=オハイエになったら、彼とは義兄弟ではなくなる。
自分は変わらないのに、立場が変わる。何者でもなかった自分にオーランド=オハイエという名前がついて、ギャレットとは義兄弟でなくなった自分をどう思うだろうか。
共に過ごしてきた日々の中で重ねてきた信頼と絆が、それで損なわれるとは思わないが、これまでのようにただひたむきに慕ってくれなくなったら、自分はその時、どうなるのだろう。
41
お気に入りに追加
1,000
あなたにおすすめの小説
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
モラトリアムは物書きライフを満喫します。
星坂 蓮夜
BL
本来のゲームでは冒頭で死亡する予定の大賢者✕元39歳コンビニアルバイトの美少年悪役令息
就職に失敗。
アルバイトしながら文字書きしていたら、気づいたら39歳だった。
自他共に認めるデブのキモオタ男の俺が目を覚ますと、鏡には美少年が映っていた。
あ、そういやトラックに跳ねられた気がする。
30年前のドット絵ゲームの固有グラなしのモブ敵、悪役貴族の息子ヴァニタス・アッシュフィールドに転生した俺。
しかし……待てよ。
悪役令息ということは、倒されるまでのモラトリアムの間は貧困とか経済的な問題とか考えずに思う存分文字書きライフを送れるのでは!?
☆
※この作品は一度中断・削除した作品ですが、再投稿して再び連載を開始します。
※この作品は小説家になろう、エブリスタ、Fujossyでも公開しています。
悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
王道学園のモブ
四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。
私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。
そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。
噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。
春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。
新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。
___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。
ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。
しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。
常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___
「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」
ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。
寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。
髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?
彼の至宝
まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる