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33 闇の天使①

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大会が終わり、闘技場の観覧席から人々が立ち去る人混みを抜け、ジュストのいる場所へと急ぐ。

「モヒナートさまぁ、おめでとうございます」
「素晴らしい試合でしたわ」

そんな声に囲まれている黒髪が人々の中心に見える。

「あに」
「あの」

兄上、と声をかけようとした時、自分に話しかける人がいて、そちらを振り向く。

「あ、」

そこに居たのはレーヌ=オハイエだった。

「あなた、ジュスト=モヒナートの弟さんね」
「は、はい」
「あなたのお兄様のことでお聞きしたいことがあるの」
「え?」

彼女はそう言って人の通りの邪魔にならないところへ誘導する。

「あなたと彼は本当の兄弟ではないと聞いたのですけれど、本当ですか?」
「はい」

王太子様にも聞かれたが、それ自体は秘密ではないので答えた。

「あなたがモヒナート侯爵夫妻の実子で、彼が養子。ということで間違いありませんか?」

何を知りたいのだろう。ジュストがモヒナート侯爵家の血を継いでいないなら、対象ではないと思っているのか。

「たとえそうでも、兄上は立派にモヒナート家の次期当主としての才覚があります」

たとえ本人が家督を継ぐのはギャレットだと思っていても、それはジュストが不出来だからではなく、彼がギャレットに気を使っているからだ。

「別にジュストさんが侯爵家を継ぐ資格がないとか、そういうことを思っているわけではないの。どういう経緯でモヒナート家に引き取られたのか知りたいの」
「それを知ってどうされるのですか?」

小説ではジュストがレーヌに自分の生い立ちについて自ら語る。今このことを聞くということは、彼女とジュストはまだそういうことを打ち明ける仲ではないということだ。
先程ぶつかった時の彼女の対するジュストの反応は、二人の仲を誤魔化そうしてわざと取ったものでもなく、今のジュストとレーヌの関係自体が、クラスメートの域を出ていないのだろう。
だとしたら、彼女がジュストを一方的に気にかけているということか。

「知りたいの。彼がどういう風に生きてきたのか」

ただの興味本位と取れなくもないが、彼女の表情は面白がっているようには見えない。

「どうして兄上のことをそこまで知りたがるのですか? 人には知られたくないことがあります。いくら兄でも本人の承諾なしには、教えるわけにはいきません。賢いあなたなら、おわかりでしょう?」
「そ、そうなのだけど…でも」
「ギャレット!」

不意に後ろから腕が伸びてきて、後ろへと引き寄せられた。

「オハイエ嬢、弟がどうかしましたか?」

後頭部がジュストの胸に当たる。上を向くと険しい表情をしているのが見えた。

「兄上、準優勝おめでとうございます」

言いたかった言葉を口にして、振り返って抱きついた。

「きゃ~」
「と、尊いわ」
「闇と光の天使ね」

こちらを見ていた女性たちからそんな声が漏れ聞こえる。

闇の天使とはジュストのこと?
ダークサイドの住人のようだった小説では悪魔とか言われていたが、評価は百八十度変わっている。
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