上 下
31 / 91

31 勝負の行方①

しおりを挟む
ジュストの次の相手は上級生らしく、相手の方にも応援団がいた。
白銀の長髪を三つ編みにしていて、遠くから一瞬女性に見えた。

「ナタリアお姉さまぁ~」
「すてきぃ~」

と思っていたら本当に女性だった。

「あれはパスケル伯爵家のご令嬢ね。あそこは女性でも幼い頃から剣を習うと聞くわ」

ナディアがジュストの対戦相手について知っている情報を教えてくれる。
所謂「○○○○のばら」の主人公。その熱狂ぶりは○○ラジェンヌのファンのようだ。
ジュストの応援団とは嗜好が異なるため、そのファン層にダブリはないからか、応援団の間にも火花が散っている気がする。
凛々しいお姉さまに憧れる女子。男性がいるのも見える。
あんな登場人物は小説には出てこなかった。多分モブなんだろうけど、別の小説の主人公に成りうる感じだ。

「兄上~頑張れぇ~」

ともすれば応援団の声に掻き消されてしまいそうな中で、声を張り上げると、ジュストが相変わらずの笑顔でこちらに手を振ってくれた。

それから彼女がジュストに向かって何か言ったように見えたが、すぐに試合が始まった。

今度の相手はこれまでの相手とは違い強敵だった。
女性だから力では負けないだろうが、その分相手はすばしこく技術もかなりのものだ。

けれど彼女もジュストの敵ではなかった。

女性相手でもジュストは忖度などしない。

最後には彼女はジュストに振り回されて尻もちをついた。

「きゃ~」

悲鳴が響き渡り、審判がジュストの勝利を宣言する声もよく聞こえなかったが、ジュストが手を伸ばして彼女を立たせたのが見えた。

彼女とお互いに礼をして、ジュストはこちらに手を振った。それに対して両手で手を振り返した。

「あの子もああいうことをするくらいの気遣いはあったのね」
「兄上は優しいです。負けた相手を気遣うくらいできます」
「私が言っているのは女性に対してよ」
「あれはどうみても、対戦相手に対する礼儀にしか見えないですけど」
「あなた、お兄様の婚約者を見つけたいのでしょ。さっきオハイエ伯爵令嬢のことを話していたじゃない」
「それは、彼女だからで」

きとんとした主人公のレーヌ=オハイエだから、ジュストを任せてもいいと思った。
モブキャラは違う。

大事なジュストを任せるのだ。相手もそれなりのクラスでないと。

その後、もう一度ステファンとジュストがそれぞれ対戦を勝利で終え、王太子殿下もようやく登場し、勝利を収めた。
剣術大会は大詰めを迎え、準々決勝となった。

「いよいよ準々決勝ね」

次の試合でそれぞれ勝てば、ジュストとステファンが対決する。

「こっちが緊張してきたわ」

ジュストの相手は同じ特進の現騎士団長の息子メリビルだ。さっきの対戦相手はそのイトコだった。

「王太子殿下以外で最も強敵なのは彼でしょうね」

ここで大番狂わせがあった。
ステファンが負けたのだ。
まさか主人公補正が効かなかった。

「負けてしまいました」

敗退したステファンがこちらへ合流した。

「頑張りましたね」

ナディアが彼の健闘を讃えた。

「ここからはジュストの応援に専念します」
「でも、兄上の相手も強敵らしいですね」
「ああ、だが、練習では三本に一本はジュストも勝てていたから、どうなるかわからない」
「『勝負は時の運』というヤツ?」
「そんな不確かなものじゃなく、勝つという気概だ。ジュストの場合は『勝つ』ことより、ギャレットに良いところを見せたいという気持ちが大きい。対して対戦相手のメリビルは家名を背負ってるから必死だ」

弟に良いところを見せたいだけのジュストと、家のために負けられないメリビル。どっちが勝つか。

準々決勝、ジュストの対戦が始まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。 攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。 なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!? ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。

乙女ゲームのモブに転生したようですが、何故かBLの世界になってます~逆ハーなんて狙ってないのに攻略対象達が僕を溺愛してきます

syouki
BL
学校の階段から落ちていく瞬間、走馬灯のように僕の知らない記憶が流れ込んできた。そして、ここが乙女ゲーム「ハイスクールメモリー~あなたと過ごすスクールライフ」通称「ハイメモ」の世界だということに気が付いた。前世の僕は、色々なゲームの攻略を紹介する会社に勤めていてこの「ハイメモ」を攻略中だったが、帰宅途中で事故に遇い、はやりの異世界転生をしてしまったようだ。と言っても、僕は攻略対象でもなければ、対象者とは何の接点も無い一般人。いわゆるモブキャラだ。なので、ヒロインと攻略対象の恋愛を見届けようとしていたのだが、何故か攻略対象が僕に絡んでくる。待って!ここって乙女ゲームの世界ですよね??? ※設定はゆるゆるです。 ※主人公は流されやすいです。 ※R15は念のため ※不定期更新です。 ※BL小説大賞エントリーしてます。よろしくお願いしますm(_ _)m

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️ 第12回BL小説大賞に参加中! よろしくお願いします🙇‍♀️

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです

魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。 ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。 そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。 このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。 前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。 ※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

悪役令息に誘拐されるなんて聞いてない!

晴森 詩悠
BL
ハヴィことハヴィエスは若くして第二騎士団の副団長をしていた。 今日はこの国王太子と幼馴染である親友の婚約式。 従兄弟のオルトと共に警備をしていたが、どうやら婚約式での会場の様子がおかしい。 不穏な空気を感じつつ会場に入ると、そこにはアンセルが無理やり床に押し付けられていたーー。 物語は完結済みで、毎日10時更新で最後まで読めます。(全29話+閉話) (1話が大体3000字↑あります。なるべく2000文字で抑えたい所ではありますが、あんこたっぷりのあんぱんみたいな感じなので、短い章が好きな人には先に謝っておきます、ゴメンネ。) ここでは初投稿になりますので、気になったり苦手な部分がありましたら速やかにソッ閉じの方向で!(土下座 性的描写はありませんが、嗜好描写があります。その時は▷がついてそうな感じです。 好き勝手描きたいので、作品の内容の苦情や批判は受け付けておりませんので、ご了承下されば幸いです。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

だからっ俺は平穏に過ごしたい!!

しおぱんだ。
BL
たった一人神器、黙示録を扱える少年は仲間を庇い、絶命した。 そして目を覚ましたら、少年がいた時代から遥か先の時代のエリオット・オズヴェルグに転生していた!? 黒いボサボサの頭に、丸眼鏡という容姿。 お世辞でも顔が整っているとはいえなかったが、術が解けると本来は紅い髪に金色の瞳で整っている顔たちだった。 そんなエリオットはいじめを受け、精神的な理由で絶賛休学中。 学園生活は平穏に過ごしたいが、真正面から返り討ちにすると後々面倒事に巻き込まれる可能性がある。 それならと陰ながら返り討ちしつつ、唯一いじめから庇ってくれていたデュオのフレディと共に学園生活を平穏(?)に過ごしていた。 だが、そんな最中自身のことをゲームのヒロインだという季節外れの転校生アリスティアによって、平穏な学園生活は崩れ去っていく。 生徒会や風紀委員を巻き込むのはいいが、俺だけは巻き込まないでくれ!! この物語は、平穏にのんびりマイペースに過ごしたいエリオットが、問題に巻き込まれながら、生徒会や風紀委員の者達と交流を深めていく微BLチックなお話 ※のんびりマイペースに気が向いた時に投稿していきます。 昔から誤字脱字変換ミスが多い人なので、何かありましたらお伝えいただけれ幸いです。 pixivにもゆっくり投稿しております。 病気療養中で、具合悪いことが多いので度々放置しています。 楽しみにしてくださっている方ごめんなさい💦 R15は流血表現などの保険ですので、性的表現はほぼないです。 あったとしても軽いキスくらいですので、性的表現が苦手な人でも見れる話かと思います。

処理中です...