上 下
25 / 91

25 剣術大会①

しおりを挟む
王立学園は国の設立した学園ではあるが、王族や貴族の令息令嬢が通うので、かなりの寄付金が入ってくる。
そのせいで設備もとても立派だ。
小説でその広さは書かれていたが、どこぞの何とかランドばりに広大な敷地を誇っている。
剣術大会が開催される闘技場も、屋根付きの立派な建物だった。

「私が通っていた頃は屋根なんて付いていない屋外だったのよ」
「へえ、そうなんだ」

小説で読んでいても実際に見るとその大きさに圧倒される。

観客席はほぼ満員で、お目当ての生徒の登場を今か今かと待ち構えている。

「兄上は何番でしょうか」
「そうねぇ、剣術は成績順のクラスとは関係ないし、新入生だから意外と最初の方かもしれないわね」

こういう場合はランクが低い方から出場して、強い者は後からと決まっているようだ。

「母上、さっきの女性の方のことですけど」
「オハイエ伯爵令嬢のこと?」
「はい。あの腕の傷は自分のミスではないですよね」

彼女もそれはわかっていると言った。

「何とか出来ないのですか?」
「心配するのはわかるけど、難しいわね」

息子の問いかけにナディアは悲しそうに言った。

「他家のことには簡単には口出しできないわ。本人から相談されれば別ですけど、頑なにそうだと認めなかったもの、尚更よ」
「えっと、じゃあ、例えば彼女が兄上の婚約者になるとか」
「ジュストと?」

息子の提案にナディアが目を見開く。
我ながらいい考えだと思った。ステファンとどうにかなる前に、先に二人をくっつけてしまえばいい。

「そうです。婚約者にして保護するとか」
「それこそ、まずは両家の当主同士で先に話をしないと。あなたは子どもだからわからないでしょうけど、貴族同士の結婚は平民のようにはいかないのよ。家格というものもあるの。それにお相手のご令嬢に婚約者がいるかも」
「それはないです」
「どうしてわかるの?」
「う、そ、それは…」

小説では婚約者はいなかったので、つい口に出してしまった。

「あなた、何かジュストから聞いているの?」
「え、な、何かって?」
「たとえば、気になる女性がいるとか…」
「う、ううん、何も聞いていない」

学園での生活については色々手紙にも書いてきてくれるが、こちらから話題を振らないと、彼女のことは本当に何も言わない。なので情報もない。
興味がなさ過ぎる。
でもそれは彼女に限ってのことではない。
他の令嬢たちも、ジュストは笑顔ひとつ見せない。

「今は家族、特にあなたのことを一番大事に思っているみたいだけど、旦那様と私も学園で知り合ったのもあるから、ジュストもそうなるのかしらって、思っているの」

「え、お母様達、学園で知り合ったんですか」

意図せず両親の情報が入ってきた。

「言ってなかったかしら」
「知りませんでした」
「ステファンの両親もそうよ。学園に通うのは社交を学ぶため。ひいては婚約者のいない者が相手を探すためでもあるの」

学園ひとつが大きな婚活会場になっているとは思わなかった。

「先程のオハイエ伯爵令嬢の方はジュストにクラスメイト以上の関心があるように見えたのだけど、どうも恋愛という感じではなかったと思うの。あくまでも私の勘ですけど」

何かあると女としての第六感が働いたらしい。

「兄上は婚約についてどう思っているのでしょう」

そろそろ恋愛フラグが立ってもいいはず。今日は彼女の腕に虐められた証拠も見た。
今頃彼女のことが気になっているのではないだろうか。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

モラトリアムは物書きライフを満喫します。

星坂 蓮夜
BL
本来のゲームでは冒頭で死亡する予定の大賢者✕元39歳コンビニアルバイトの美少年悪役令息 就職に失敗。 アルバイトしながら文字書きしていたら、気づいたら39歳だった。 自他共に認めるデブのキモオタ男の俺が目を覚ますと、鏡には美少年が映っていた。 あ、そういやトラックに跳ねられた気がする。 30年前のドット絵ゲームの固有グラなしのモブ敵、悪役貴族の息子ヴァニタス・アッシュフィールドに転生した俺。 しかし……待てよ。 悪役令息ということは、倒されるまでのモラトリアムの間は貧困とか経済的な問題とか考えずに思う存分文字書きライフを送れるのでは!? ☆ ※この作品は一度中断・削除した作品ですが、再投稿して再び連載を開始します。 ※この作品は小説家になろう、エブリスタ、Fujossyでも公開しています。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

処理中です...