【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします

8 男主人公登場②

頭でっかちの五歳児の体は軽く突かれただけで、後ろによろけ、尻もちを突いた。

「ギャレット」

それをジュストが後ろから助け起こす。

「ステファン様、ギャレットは床から起き上がったとは言え、怪我をしたばかりなのです。また怪我をさせるのですか」
「チビのくせに生意気なことを言うからだ」

弟か妹ができたら守ると言った同じ口で悪態をつく。

「お前なんか、猫被りの単なるガキ大将だ。お兄様の足元にも及ばない。なんの苦労も知らないくせにイキガッてんな！」

ジュストに助け起こされ、ついた草と泥をはらうと、こちらも負けじと怒鳴り散らした。
将来の彼の行動に対する恨みも混じる。
まだやってもいないことでどうこう言われても、そんなの知るかって感じだけど。
五歳児に上から目線でそう言われ、ステファンの怒りを更に煽った。

「お前こそ、まだチビのくせに」
「ああん？　さっきからチビとか生意気とか、それしか言えないですかぁ？　頭大丈夫？　ま、お兄様に比べればあんたの頭の中なんて、大したことないね」

何とも低レベルな言い合い。十一歳と五歳の喧嘩なんてそんなものかも。

「ギャレット、もうそれ以上ステファン様に何も言うな」
「だって、こいつ」
「ジュスト、お前の弟、性格良くなったんじゃなかったのか。この減らず口、前と変わらないじゃないか」

ジュストは止めようとするが、五歳児だとわかって言い返してくるステファンも幼稚だ。
もともとギャレットは癇癪持ちで、ジュストが気に入らないと言いながら、ジュストに無視されるのも嫌だった。
ステファンが来ると、どうしても同じ年頃同士でつるんでしまうので、自然とギャレットが無視される。
それがおもしろくなくて、ギャレットは二人に対しても当たり散らしていた。
そんな記憶がギャレットの中にあった。

「ステファン様、ギャレットは僕の可愛い弟だ。性格悪いとか言わないで下さい」
「親の前ではいい子ぶってるお前に言われたくないね。そっちも相当腹黒いんじゃないか」
「ギャレット、そんな言葉どこで」
「腹黒い？　お前人のこと良く言えるな。お前こそ顔は天使でも性格は悪魔だって言われてるぞ」
「それが？知ってる」

直接言われたことはなくても、小説を読んでいるから知っている。
傍若無人、唯我独尊、癇癪持ち、自分の思い通りにするためには何をしようと気にしない。
表向きは天使のようにほほえみ、裏ではひどいことをする。
それがギャレット＝モヒナートだった。
でもわたしが目覚めたからには、そんな悪評は払拭してやる。

ついでにここでステファンの俺様の鼻っ柱を折って、ジュストにヒロインを譲るように仕向けたいところだ。
当て馬はお前の方だ。とステファンを睨みつける。

「なんだその目は、生意気なチビめ。俺に勝てると思うのか。身の程を知れ」

そして再びギャレットを突き飛ばす。もっと勢いよく。

「ギャレット危ない！」

しかし、今度はジュストがすぐ後ろにいて、ギャレットは彼にぶつかり二人して勢いよく倒れた。