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アニエス編

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それからの結婚後の生活は、思った以上に順調だった。
 ラファエルは日々読書や屋敷内の業務に勤しみ、アニエスの母とも仲良くやっていた。母も見目麗しい義理の息子にいたく満足し、夫が亡くなってから塞ぎがちだった生活から、よくお茶会を開いては夫人仲間を招いてラファエルを自慢していた。
 ベルフ家の実権はアニエスにあったが、細々したことはラファエルが処理をしてくれ、彼女は最終の決定を下すだけで良かった。
 夫婦同伴で夜会に出るとき、アニエスに対する女性達の視線は厳しかったが、何とかうまくやれていた。
 夜の生活は、それからも定期的に続いた。
 暗黙のうちに、営むのはアニエスの休みの前日と決められ、普段二人は別々の寝室を使っていた。
 その時になるとラファエルが彼女の寝室を訪れ、終わると自室へ引き上げる。
 結婚して一年も経たないうちに、アニエスの母は領地へと引き上げ、二人での生活が続く中、やがて結婚から一年半が経っていた。
 アニエスに妊娠の気配がない以外は、表向き順調な関係が続いていた。

 しかし、アニエスは知ってしまった。
 他の夫婦が、どんな夜の生活を送っているのかを。
 そして、ラファエルと自分のそれが、普通と違うことを。

「きっと、彼にとっては義務なのよね」

 アニエスは叔父と従兄から家を護りたかった。
 ラファエルも異母兄の婚約者や、他の女性達を退けたかった。

「まあ、あんまり私は虫除けにもなっていなかったけど」

 アニエスとの結婚後も、ラファエルに好意を抱く女性は後を絶たなかった。
 ベルフ家の使用人達も、若い女性はこぞってラファエルに近寄ろうとした。お陰で本館は年配の女性や男たちばかりになった。

「私って役立たずね」

 アニエスは彼が消えた扉の向こうを黙って見つめた。
 彼は自分との結婚を後悔しているのではないか。
自分は彼のお陰で家を護ることが出来たが、彼の役にはまったく立っていない。
 子作りの為の義務としてアニエスを抱き、それで納得しているのだろうか。

 そんな時、国王陛下が提案し、ある法律が施行されることになった。
「女性にも特定の条件を満たせば、爵位継承を認める」というものだった。
 来月からその法律が施行されることを知ったアニエスは、ある決意をした。
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