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258 すれ違い
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買い物依存症という言葉がこの世界にもあるのかわからない。
買い物がやめられなくて常に買い物をしていないと落ち着かない症状。不必要に物を買い、財力が追い付かなくて借金苦に陥る人もいた。
ストレスが原因だと言われている。
アンジェリーナ様を買い物に走らせたのはストレスなのだろうか。
「でも……ドレスや宝飾品ならわかるけど、壺とか置物に石……」
脳裏に浮かんだのは価値のないものをあたかもご利益があるように言って売り付ける霊感商法の手口。
これを持っていれば縁起がいいなどと物を売り付けたり祈祷する詐欺のこと。
もちろん美術品はそれを持つ者が価値を決める部分もあるから、アンジェリーナ様の趣味だと言われればあり得るが。
「私も踊りのことなどでアンジェリーナ様ときちんとお話もできていませんでした」
名目上はアンジェリーナ様の護衛として置いていただいているのに、彼女のここ最近の行動について何も知らない。
「旦那様もここ最近は休みも殆んどなくお帰りも遅く、私どももどうしたらいいか……」
「一度お話を聞いてみます。それで解決するかわかりませんが」
「お願いいたします」
執務室を出て自室へ向かいながら、自分のことにかまけてばかりいたことを深く反省した。
深刻な問題でなければいいなと思いながらアンジェリーナ様の帰りを待ち構えた。
「お戻りになりました」
部屋で待機している私にアンジェリーナ様の帰宅が告げられたのはそれから一時間後のことだった。
「アンジェリーナ様、お帰りなさ……どうされたのですか」
急いで玄関まで出迎えに出ると、アンジェリーナ様はなぜか浮かない顔をしていた。
「ローリィ……何でもないわ」
「何でもないなんて……」
取り繕おうとされていたが、隠せていない。いつも明るいアンジェリーナ様の思い詰めた顔を初めて見た。
「出掛けられた先で何かあったのですか?」
買い込まれた品について訊ねるどころではない。
「ローリィ………明日…一緒に行ってほしいところがありますの」
「はい。お時間はいつ頃でしょうか」
最近色々あってお供できなかったこともあり、私は喜んで返事をした。
一緒にいる内にあの品々のことを訊ねる機会もあるだろう。
「今日お会いしたグリーム子爵にお誘いを受けたの。お昼過ぎにうかがうことになっているわ」
昼過ぎからなら朝の内にシューティングスターを走らせてあげられる。
「畏まりました」
私が答えると、アンジェリーナ様はジベルさんの方を向いた。
「ジベル、旦那様は今日もお帰りが遅いの?」
「そのように伺っております」
彼が悪いわけでもないのに、申し訳無さそうに答える。
「そう…」
「旦那様に何かお話がおありでしたら、お帰りになられたらそのようにお伝えいたしますが…」
「いいえ、お仕事でお疲れなのに、私の話はまたお仕事がひと段落してからでいいわ」
ここ暫くお二人がすれ違っているのは私も知っている。
特に喧嘩をしたわけでもなく、ただミシェル様のお仕事が忙しいだけなので、二人の仲を心配することはないだろうが、今のアンジェリーナ様の様子を見ていると、何か思い悩んでいることはわかる。
あの異様な品物のことをミシェル様はどう思っているのだろう。
私が知っているこの世界の夫婦といえば、父と母、それから師匠夫婦にウィリアムさん夫婦くらいだろうか。
母の体が弱かった分、父は彼女を真綿を包むように扱っていた。
美魔女エミリさんと師匠は師匠がべた惚れなのがよくわかる。小柄だが家庭内ではエミリさんの力が強い。
ウィリアムさん夫婦はまだ新婚のような雰囲気だ。
宰相夫妻は別々に会っていて二人並んだところを見たことがないので、あの二人が夫婦だと言うことがまだピンとこない。
ミシェル様とアンジェリーナ様は初めてお会いした時は上手くいっていると思っていたが、ここ最近は顔を会わすことも少なく、すれ違っている。
アンジェリーナ様がそのことを寂しく思っているのは間違いない。
買い物がやめられなくて常に買い物をしていないと落ち着かない症状。不必要に物を買い、財力が追い付かなくて借金苦に陥る人もいた。
ストレスが原因だと言われている。
アンジェリーナ様を買い物に走らせたのはストレスなのだろうか。
「でも……ドレスや宝飾品ならわかるけど、壺とか置物に石……」
脳裏に浮かんだのは価値のないものをあたかもご利益があるように言って売り付ける霊感商法の手口。
これを持っていれば縁起がいいなどと物を売り付けたり祈祷する詐欺のこと。
もちろん美術品はそれを持つ者が価値を決める部分もあるから、アンジェリーナ様の趣味だと言われればあり得るが。
「私も踊りのことなどでアンジェリーナ様ときちんとお話もできていませんでした」
名目上はアンジェリーナ様の護衛として置いていただいているのに、彼女のここ最近の行動について何も知らない。
「旦那様もここ最近は休みも殆んどなくお帰りも遅く、私どももどうしたらいいか……」
「一度お話を聞いてみます。それで解決するかわかりませんが」
「お願いいたします」
執務室を出て自室へ向かいながら、自分のことにかまけてばかりいたことを深く反省した。
深刻な問題でなければいいなと思いながらアンジェリーナ様の帰りを待ち構えた。
「お戻りになりました」
部屋で待機している私にアンジェリーナ様の帰宅が告げられたのはそれから一時間後のことだった。
「アンジェリーナ様、お帰りなさ……どうされたのですか」
急いで玄関まで出迎えに出ると、アンジェリーナ様はなぜか浮かない顔をしていた。
「ローリィ……何でもないわ」
「何でもないなんて……」
取り繕おうとされていたが、隠せていない。いつも明るいアンジェリーナ様の思い詰めた顔を初めて見た。
「出掛けられた先で何かあったのですか?」
買い込まれた品について訊ねるどころではない。
「ローリィ………明日…一緒に行ってほしいところがありますの」
「はい。お時間はいつ頃でしょうか」
最近色々あってお供できなかったこともあり、私は喜んで返事をした。
一緒にいる内にあの品々のことを訊ねる機会もあるだろう。
「今日お会いしたグリーム子爵にお誘いを受けたの。お昼過ぎにうかがうことになっているわ」
昼過ぎからなら朝の内にシューティングスターを走らせてあげられる。
「畏まりました」
私が答えると、アンジェリーナ様はジベルさんの方を向いた。
「ジベル、旦那様は今日もお帰りが遅いの?」
「そのように伺っております」
彼が悪いわけでもないのに、申し訳無さそうに答える。
「そう…」
「旦那様に何かお話がおありでしたら、お帰りになられたらそのようにお伝えいたしますが…」
「いいえ、お仕事でお疲れなのに、私の話はまたお仕事がひと段落してからでいいわ」
ここ暫くお二人がすれ違っているのは私も知っている。
特に喧嘩をしたわけでもなく、ただミシェル様のお仕事が忙しいだけなので、二人の仲を心配することはないだろうが、今のアンジェリーナ様の様子を見ていると、何か思い悩んでいることはわかる。
あの異様な品物のことをミシェル様はどう思っているのだろう。
私が知っているこの世界の夫婦といえば、父と母、それから師匠夫婦にウィリアムさん夫婦くらいだろうか。
母の体が弱かった分、父は彼女を真綿を包むように扱っていた。
美魔女エミリさんと師匠は師匠がべた惚れなのがよくわかる。小柄だが家庭内ではエミリさんの力が強い。
ウィリアムさん夫婦はまだ新婚のような雰囲気だ。
宰相夫妻は別々に会っていて二人並んだところを見たことがないので、あの二人が夫婦だと言うことがまだピンとこない。
ミシェル様とアンジェリーナ様は初めてお会いした時は上手くいっていると思っていたが、ここ最近は顔を会わすことも少なく、すれ違っている。
アンジェリーナ様がそのことを寂しく思っているのは間違いない。
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