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241 伝言
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陛下の退出を見送ってから、選ばれた者だけが残され、後は解散ということになった。
帰り際、メレディスさんが近づいてきて、私のことについて疑って悪かったと謝ってくれた。
それに対して私もティータさんも負け惜しみでもなく、素直におめでとうと言って王宮を後にしようとした。
合格した人たちは別室へ案内され、不合格の者たちはそれぞれ最初に案内してくれた宮の侍従に連れられて順番に部屋を後にし、私とティータさんだけが残された。
「ごめんなさい……ティータさん。お役に立てずに」
「いいのよ。却ってこれでよかったわ。あなたのお陰で英雄の舞でお墨付きを頂いて、またあなたに祝賀の舞を舞われたら、うちの子達の立つ瀬がないもの。今度はうちの子達の力で成し遂げたいわ」
「……そうですね。でしゃばってすいません」
「あなたを責めてるわけでもないわ。あなたのことは大好きだもの。皆もそう。うちの専属の踊り子になってくれるなら嬉しいけど、そういう訳にもいかないんでしょう?」
「……すいません。今すぐは……決められません」
王都に来たばかりの私なら、もしかしたら踊り子として生きる道も選んだかも知れない。
何者になりたいかもわからないのだが、このまま踊り子として生きるには、まだまだ解決しなければならないことが多い。少なくともグスタフの脅威が去らなければ、ティータさんたちを巻き込むことになる。
「それにしても…私たちはいつまで待たされるのかしら、他の人達はとっくに帰ったのに……」
「そう言えば……侍従の方、来ませんね。もしかして、忘れられているんじゃ……」
二人で顔を見合せ、まさかね、と渇いた笑いを張り付ける。
「お腹……空きましたね」
「そうね……」
飲み物や軽食は口にしたが、とっくに夕食の時間は過ぎている。今頃は舞屋で皆がやきもきして待っているだろう。
「お待たせいたしました」
そこへようやく誰かがやって来たので、ティータさんとようやく帰れるとホッとしあった。
「こちらを……」
馬車に乗り込む際に、侍従が籠を二つ渡してくれた。
「これは……何でございましょう」
ティータさんが訊ねる。
「陛下からのご命令で皆様に差し入れでございます。長く引き留めてしまい申し訳ございませんでした」
「え、へ、陛下から……」
「危ない!」
びっくりしてティータさんが籠を取り落としそうになったのを受け止める。
「お帰りの馬車の中でお召し上がりください」
そう言って一つずつ手渡してくれた。
「あ、ありがとうございます……もったいないことでございます」
畏まりお礼を言う。
馬車が動きだし、丁寧にお辞儀され見送って頂いた。
中身を見ると、焼き菓子やチーズなど一口で食べられるものばかり入っていた。
「国王陛下からなんて……もったいなくて食べられない」
ティータさんがまるで供物のように籠を捧げ持つ。
「せっかく頂いたのに食べずに腐らせる方が失礼ではないですか?」
作ったのは陛下でないことは確実なのだし、正直お腹は空いていた。
「そうね……じゃあ少し頂いて、皆にも分けてあげましょう」
高級そうなお菓子を見てティータさんもあっさりとお腹の虫に従った。
「ん?」
どれを食べようか中身を確認していると、底から一枚の紙が出てきた。
同じように中身を夢中で確認しているティータさんの籠には入っているのだろうか。
そっと紙を開いて中の文面を見ると、そこには簡潔に場所と人の名前が記されていた。
それが何を意味するのか。私にそこへ行きその人物に会えと言うのだろうか。
そっとティータさんにわからないようにその紙をポケットに偲ばせる。
後で確認すると、ティータさんに渡された籠には食べ物以外は入っていなかった。
舞屋に戻ると師匠が皆と一緒に待っていてくれた。
結果を聞いて残念だと言ってくれたが、皆の意見もティータさんと同じようなもので、逆に彼女たちの闘志を煽った。
次は自分たちが選ばれると。
それから用意してれていた夕食を皆で食べ、私は師匠と共に仮住まいの家に戻ったのは真夜中近くだった。
帰り際、メレディスさんが近づいてきて、私のことについて疑って悪かったと謝ってくれた。
それに対して私もティータさんも負け惜しみでもなく、素直におめでとうと言って王宮を後にしようとした。
合格した人たちは別室へ案内され、不合格の者たちはそれぞれ最初に案内してくれた宮の侍従に連れられて順番に部屋を後にし、私とティータさんだけが残された。
「ごめんなさい……ティータさん。お役に立てずに」
「いいのよ。却ってこれでよかったわ。あなたのお陰で英雄の舞でお墨付きを頂いて、またあなたに祝賀の舞を舞われたら、うちの子達の立つ瀬がないもの。今度はうちの子達の力で成し遂げたいわ」
「……そうですね。でしゃばってすいません」
「あなたを責めてるわけでもないわ。あなたのことは大好きだもの。皆もそう。うちの専属の踊り子になってくれるなら嬉しいけど、そういう訳にもいかないんでしょう?」
「……すいません。今すぐは……決められません」
王都に来たばかりの私なら、もしかしたら踊り子として生きる道も選んだかも知れない。
何者になりたいかもわからないのだが、このまま踊り子として生きるには、まだまだ解決しなければならないことが多い。少なくともグスタフの脅威が去らなければ、ティータさんたちを巻き込むことになる。
「それにしても…私たちはいつまで待たされるのかしら、他の人達はとっくに帰ったのに……」
「そう言えば……侍従の方、来ませんね。もしかして、忘れられているんじゃ……」
二人で顔を見合せ、まさかね、と渇いた笑いを張り付ける。
「お腹……空きましたね」
「そうね……」
飲み物や軽食は口にしたが、とっくに夕食の時間は過ぎている。今頃は舞屋で皆がやきもきして待っているだろう。
「お待たせいたしました」
そこへようやく誰かがやって来たので、ティータさんとようやく帰れるとホッとしあった。
「こちらを……」
馬車に乗り込む際に、侍従が籠を二つ渡してくれた。
「これは……何でございましょう」
ティータさんが訊ねる。
「陛下からのご命令で皆様に差し入れでございます。長く引き留めてしまい申し訳ございませんでした」
「え、へ、陛下から……」
「危ない!」
びっくりしてティータさんが籠を取り落としそうになったのを受け止める。
「お帰りの馬車の中でお召し上がりください」
そう言って一つずつ手渡してくれた。
「あ、ありがとうございます……もったいないことでございます」
畏まりお礼を言う。
馬車が動きだし、丁寧にお辞儀され見送って頂いた。
中身を見ると、焼き菓子やチーズなど一口で食べられるものばかり入っていた。
「国王陛下からなんて……もったいなくて食べられない」
ティータさんがまるで供物のように籠を捧げ持つ。
「せっかく頂いたのに食べずに腐らせる方が失礼ではないですか?」
作ったのは陛下でないことは確実なのだし、正直お腹は空いていた。
「そうね……じゃあ少し頂いて、皆にも分けてあげましょう」
高級そうなお菓子を見てティータさんもあっさりとお腹の虫に従った。
「ん?」
どれを食べようか中身を確認していると、底から一枚の紙が出てきた。
同じように中身を夢中で確認しているティータさんの籠には入っているのだろうか。
そっと紙を開いて中の文面を見ると、そこには簡潔に場所と人の名前が記されていた。
それが何を意味するのか。私にそこへ行きその人物に会えと言うのだろうか。
そっとティータさんにわからないようにその紙をポケットに偲ばせる。
後で確認すると、ティータさんに渡された籠には食べ物以外は入っていなかった。
舞屋に戻ると師匠が皆と一緒に待っていてくれた。
結果を聞いて残念だと言ってくれたが、皆の意見もティータさんと同じようなもので、逆に彼女たちの闘志を煽った。
次は自分たちが選ばれると。
それから用意してれていた夕食を皆で食べ、私は師匠と共に仮住まいの家に戻ったのは真夜中近くだった。
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