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238 公平な審査とは
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本番は正式に楽団が演奏するが、今回は審査なので伴奏はピアノだけで行われる。
出だし、全員で前屈みになり腕を胸の辺りで交差して頭を垂れる。
途中までは同じパート。それからソロパートに入る。光の精霊のソロは最後だ。
音楽が鳴り顔を上げると、好奇心いっぱいの陛下の視線とぶつかり顔がひきつった。陛下はどこまで知っているのだろう。私が踊り子クレアだと気付いていて、私が本当は誰か、キルヒライル様とのことも聞いているのだろうか。
「………」
やりにくい……。それでも体は自然と動く。
「あ……」
隣の風の精霊を舞う子が振りを間違えた。
それを見て動揺したのか後ろの土の精霊を舞う子も間違える。
それでも踊りは続き、前半のソロパートに入った。
先ほど振りを間違えた二人のうち一人は何とか持ち直したが、もう一人の土の精霊の子はソロも何ヵ所か間違えた。最後には涙目になっていた。
四人が終わり、私のソロが終われば審査部分は終了だ。
光の精霊は精霊の中で最高位に位置すると言われている。四精霊のソロ部分を合わせた上に独自の振りがある。
「そこまで」
パンと手を打つ音がして審査は終了した。
五人で礼をして退く。
周りからざわざわとざわめきが起こる。陛下だけがよくやったと手を叩いてくれた。どうやら私の事情を知らないようだ。引き際にラトゥーヤと目が合うと唇を噛みしめた彼女に睨まれた。
ひそひそと審査をする人たちが囁き合っている。
「つ、次の組……」
ラトゥーヤやミリアムが呼ばれ位置につく。ラトゥーヤは光の精霊、ミリアムは水。そして空いた場所は火の精霊。
「ちょっと待て」
前列右端の位置に着くと、陛下が隣のカーマリング侯爵に声をかけた。
「あの踊り子は先ほど既に踊ったではないか、なのになぜまた違う精霊の役で踊る?」
「……申し訳ございません、陛下。この者は少々問題がありまして」
「問題?」
「はあ……その、一度見ただけで振りつけを覚えるのだと豪語致しますもので、本当かどうか検証する意味もあり、手本を一度見せて、後は自主練習させておりました」
「では、一度見せただけで指導もせず、先ほどの舞を踊ったと言うのか!」
「はぁ……まあ……そうです」
「機会は等しく平等に与えるべきではないのか?その者がいくらそう言ったからとしても、それは職務怠慢とは言わないか」
「そ、それは……」
まさか陛下が立ち会うとも思っていなかったので、陛下のその叱責に皆が縮み上がった。
その場の空気が凍りつく。
「誰がこのような審査を言い出したのだ」
陛下の視線が周りを一周すると、何人かは視線を合わせようとせず俯く。ラトゥーヤは鋼の心臓なのか涼しい顔をしている。
「ですが陛下……厳粛な審査をする必要があるからこそ、虚言を吐く者に対しては徹底的に……」
「虚言だとどうして言いきれる?そんなことをここで言ってこの者にどんな利点がある?何も言わず普通に他の者と同様に指導を受けて審査に挑んだ方が有利ではないか」
「た、確かに……」
「まあいい……先ほどの踊りを見ても虚言でないことは確実だ。それよりきちんと指導を受けた筈の者が間違った事実についてよく考えるべきだ」
振りを間違えた二人と指導に当たった者に陛下の視線が行くと、彼女たちは青ざめがたがたと震える。
「続けよ……」
「そ、それでは………始めよ!」
「し、失礼致しました」
ピアノが最初のフレーズを間違えた。緊張が演奏者にも走る。
深呼吸して、再び演奏が始まった。
私の二度目の躍りが始まった。
出だし、全員で前屈みになり腕を胸の辺りで交差して頭を垂れる。
途中までは同じパート。それからソロパートに入る。光の精霊のソロは最後だ。
音楽が鳴り顔を上げると、好奇心いっぱいの陛下の視線とぶつかり顔がひきつった。陛下はどこまで知っているのだろう。私が踊り子クレアだと気付いていて、私が本当は誰か、キルヒライル様とのことも聞いているのだろうか。
「………」
やりにくい……。それでも体は自然と動く。
「あ……」
隣の風の精霊を舞う子が振りを間違えた。
それを見て動揺したのか後ろの土の精霊を舞う子も間違える。
それでも踊りは続き、前半のソロパートに入った。
先ほど振りを間違えた二人のうち一人は何とか持ち直したが、もう一人の土の精霊の子はソロも何ヵ所か間違えた。最後には涙目になっていた。
四人が終わり、私のソロが終われば審査部分は終了だ。
光の精霊は精霊の中で最高位に位置すると言われている。四精霊のソロ部分を合わせた上に独自の振りがある。
「そこまで」
パンと手を打つ音がして審査は終了した。
五人で礼をして退く。
周りからざわざわとざわめきが起こる。陛下だけがよくやったと手を叩いてくれた。どうやら私の事情を知らないようだ。引き際にラトゥーヤと目が合うと唇を噛みしめた彼女に睨まれた。
ひそひそと審査をする人たちが囁き合っている。
「つ、次の組……」
ラトゥーヤやミリアムが呼ばれ位置につく。ラトゥーヤは光の精霊、ミリアムは水。そして空いた場所は火の精霊。
「ちょっと待て」
前列右端の位置に着くと、陛下が隣のカーマリング侯爵に声をかけた。
「あの踊り子は先ほど既に踊ったではないか、なのになぜまた違う精霊の役で踊る?」
「……申し訳ございません、陛下。この者は少々問題がありまして」
「問題?」
「はあ……その、一度見ただけで振りつけを覚えるのだと豪語致しますもので、本当かどうか検証する意味もあり、手本を一度見せて、後は自主練習させておりました」
「では、一度見せただけで指導もせず、先ほどの舞を踊ったと言うのか!」
「はぁ……まあ……そうです」
「機会は等しく平等に与えるべきではないのか?その者がいくらそう言ったからとしても、それは職務怠慢とは言わないか」
「そ、それは……」
まさか陛下が立ち会うとも思っていなかったので、陛下のその叱責に皆が縮み上がった。
その場の空気が凍りつく。
「誰がこのような審査を言い出したのだ」
陛下の視線が周りを一周すると、何人かは視線を合わせようとせず俯く。ラトゥーヤは鋼の心臓なのか涼しい顔をしている。
「ですが陛下……厳粛な審査をする必要があるからこそ、虚言を吐く者に対しては徹底的に……」
「虚言だとどうして言いきれる?そんなことをここで言ってこの者にどんな利点がある?何も言わず普通に他の者と同様に指導を受けて審査に挑んだ方が有利ではないか」
「た、確かに……」
「まあいい……先ほどの踊りを見ても虚言でないことは確実だ。それよりきちんと指導を受けた筈の者が間違った事実についてよく考えるべきだ」
振りを間違えた二人と指導に当たった者に陛下の視線が行くと、彼女たちは青ざめがたがたと震える。
「続けよ……」
「そ、それでは………始めよ!」
「し、失礼致しました」
ピアノが最初のフレーズを間違えた。緊張が演奏者にも走る。
深呼吸して、再び演奏が始まった。
私の二度目の躍りが始まった。
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