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230 審査の始まり
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入り口には男性が二人と女性が二人立っていた。
男性の方は恐らく式部の役人。
両手を後ろに回し胸を張って立っている方が地位が上なのだろう。もう一人は一歩下がって小脇に書類を抱えている。
「ラトゥーヤだわ」
「やっぱり今年も彼女が……」
更にその後ろに立つ女性は今回集められた踊り子の一人だとわかる。
その姿を見て部屋にいた他の人達が小声で囁き合う。
どうやらかなりの有名人らしい。
もう一人は彼女のいる舞屋の主なのだろう。
ラトゥーヤと呼ばれた踊り子はふわふわの栗毛と力強いガーネットの瞳が特徴の美人さんだった。
「廊下まで騒がしい声が聞こえた。何か揉め事か?」
上司の方の役人がもう一度繰り返す。
「な、なんでもありません。話し声がつい大きくなってしまっただけです。申し訳ございません」
メレディスさんが全員の前に進み出て言う。
「本当なのか?」
疑わしそうに視線をティータさんに向けて確認する。
「そうです、ね、ティータ」
前からついついとティータさんを肘でついてメレディスさんが話を合わせろと誘ってくる。
問い詰められてキルヒライル様を侮辱したと思われてはと必死だ。
「……そうです」
渋々だが、ティータさんもそこまでメレディスさんを追い詰めるつもりもなく、短く答える。
「まあいいでしょう……時間がもったいない」
彼は特に興味もないのか、それ以上に追求することもなく、後ろにいたラトゥーヤたちを振り返る。
「あなたたちもあちらに」
「わかりました」
二人は頷いてこちら側に歩いてきて、私の側に並んで立った。
ちらりとこちらをラトゥーヤが窺い見たと思ったが、私が目を合わせる前に視線を反らした。
「これより審査方法を説明する」
上司の方が後ろを見て書類を持った方が前に進み出る。
「二人ずつ同時に審査を行います。第一回はまず二人同時に躍ってもらいます。その後二回目に個別の審査を行い、総合で判定して五人を決定します」
「あの、それだと一人余ってしまいます」
誰かがそう声をかける。呼ばれたのは全部で九組。二人ずつの審査だとひと組溢れる。
「ああ、"紅蓮の灯火"のラトゥーヤは、過去の実績を考慮して一次は審査免除となる。二次から参加だ」
「そう言うことなので、皆さん頑張ってね」
「うちのラトゥーヤなら当然です」
勝ち誇った顔でヒラヒラと手を振りラトゥーヤが皆を見渡す。
舞屋のお母さんもどや顔で皆を見る。
その表情に誰もがむっとしていた。
「残りの八組は今からくじで組み合わせを決める。舞屋の主は前へ出てこの紐を引きなさい。端と端が繋がった者同士であたる。順番は組み合わせが決まった後でこちらで決めます」
上部に紐が八本飛び出た袋が出て来て、ティータさんやメレディスさんたちが順番に紐を引いた。
ティータさんが掴んだ紐の反対側はメレディスさんに握られていた。
「覚悟してね。私の引き立て役になってもらうから」
小声で後ろからミリアムが囁く。
いちいちつっかかるなぁと思わず苦笑する。
落ちて元々と思ってやってきたが、相手が本気ならこちらもそれなりにお相手しないといけない。
男性の方は恐らく式部の役人。
両手を後ろに回し胸を張って立っている方が地位が上なのだろう。もう一人は一歩下がって小脇に書類を抱えている。
「ラトゥーヤだわ」
「やっぱり今年も彼女が……」
更にその後ろに立つ女性は今回集められた踊り子の一人だとわかる。
その姿を見て部屋にいた他の人達が小声で囁き合う。
どうやらかなりの有名人らしい。
もう一人は彼女のいる舞屋の主なのだろう。
ラトゥーヤと呼ばれた踊り子はふわふわの栗毛と力強いガーネットの瞳が特徴の美人さんだった。
「廊下まで騒がしい声が聞こえた。何か揉め事か?」
上司の方の役人がもう一度繰り返す。
「な、なんでもありません。話し声がつい大きくなってしまっただけです。申し訳ございません」
メレディスさんが全員の前に進み出て言う。
「本当なのか?」
疑わしそうに視線をティータさんに向けて確認する。
「そうです、ね、ティータ」
前からついついとティータさんを肘でついてメレディスさんが話を合わせろと誘ってくる。
問い詰められてキルヒライル様を侮辱したと思われてはと必死だ。
「……そうです」
渋々だが、ティータさんもそこまでメレディスさんを追い詰めるつもりもなく、短く答える。
「まあいいでしょう……時間がもったいない」
彼は特に興味もないのか、それ以上に追求することもなく、後ろにいたラトゥーヤたちを振り返る。
「あなたたちもあちらに」
「わかりました」
二人は頷いてこちら側に歩いてきて、私の側に並んで立った。
ちらりとこちらをラトゥーヤが窺い見たと思ったが、私が目を合わせる前に視線を反らした。
「これより審査方法を説明する」
上司の方が後ろを見て書類を持った方が前に進み出る。
「二人ずつ同時に審査を行います。第一回はまず二人同時に躍ってもらいます。その後二回目に個別の審査を行い、総合で判定して五人を決定します」
「あの、それだと一人余ってしまいます」
誰かがそう声をかける。呼ばれたのは全部で九組。二人ずつの審査だとひと組溢れる。
「ああ、"紅蓮の灯火"のラトゥーヤは、過去の実績を考慮して一次は審査免除となる。二次から参加だ」
「そう言うことなので、皆さん頑張ってね」
「うちのラトゥーヤなら当然です」
勝ち誇った顔でヒラヒラと手を振りラトゥーヤが皆を見渡す。
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ティータさんが掴んだ紐の反対側はメレディスさんに握られていた。
「覚悟してね。私の引き立て役になってもらうから」
小声で後ろからミリアムが囁く。
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落ちて元々と思ってやってきたが、相手が本気ならこちらもそれなりにお相手しないといけない。
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