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208 懐かしい人々
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次の日、私は師匠と共に街に出た。
ウィリアムさんは仕事に出掛け、マシューさんは一通り任務の報告も終わり奥さんの待つ夏離宮のある町へ帰っていった。
「確か……こっちだったかなぁ」
師匠がお礼を言いたいと子爵邸へ帰るついでに、私が最初に世話になった「月下の花」へと行くと言い出したからだった。
「お前……方向音痴だったのか」
ウィリアムさんの家から舞屋まで久しく通っていなかったのと目印にしていた店が変わっていて、何人か聞き込みをしながら街を歩いた。
「………王都が広くて道が複雑し過ぎるんです」
そう言いながら何とか舞屋に辿り着く。
キルヒライル様の護衛になって、そのまま公爵領に向かったため実に数ヶ月ぶりだった。
「師匠は私が紹介するまでここで待ってて下さい。いきなり玄関に師匠が立っていたら腰を抜かしますから」
ここへ来る間も何人かに遠巻きにされていたことを思い出して注意する。
「わかってる」
自覚があるのか師匠も文句を言わず扉の陰で待機する。
「ごめんください」
声をかけ扉を叩くと中から返事がした。声の様子からティータさんだと思われた。
「どちら様かしら?」
目の高さに取り付けられた覗き窓から二つの目が覗く。
「ご無沙汰しております。ローリィです」
覗いた二つの目に向かってお辞儀をして名を告げると、その目が大きくて見開かれ、次に何度も激しく瞬きをした。
「ロ……」
そう言って覗き窓がぱたりと閉じてバタバタと奥へ走っていく音がしたかと思ったら、中から複数の足音と騒がしく叫ぶ声がしてバァンと扉が大きく開かれた。
「うそぉ!!」「ほんとにローリィ?」「やだ」
現れたのはミリィ、フラー、カーラ。それから遅れてティータさん。
「あんたたち、私を追い越して行くなんて」
「皆さん、お元気でしたか?」
「わぁーん、ローリィ!会いたかったよぉ」
「急に出ていっちゃうんだもん」
最初にミリィ、それからほぼ同時にフラーとカーラががばっと私に飛びかかってきた。
「く、苦しい」
三人に羽交い締めにされて思わず声を洩らす。
「こら、あんたたち、ローリィが困ってるじゃないか」
ティータさんが皆を嗜め一人一人私から剥がしにかかる。
最後にミリィが離れるとティータさんがぎゅっと私に抱きつく。
「ずるい、お母さん」
「うるさい、こんな時は年長者に譲るものだよ」
「あ、あの……ティータさん」
皆で口々に言い合うのを無理矢理話を遮り声をかける。
「実は……一人で来たわけではないんです。紹介したい人がいまして」
「紹介したい人?」
「まさか、ローリィ……恋人を連れてきたの」
「きゃあ!いやだ」
ミリィが言い出し皆がまた喚きだした。
「誰よ!どこにいるの!どんなお金持ちで男前でも許さないから」
キョロキョロ見渡し周囲を窺う彼女たちの視線が殺気立つ。
「え!」
その視線の先に扉から死角となった位置に立つ師匠の姿を認めて皆が凍り付く。
「こちら、私の師匠で、モーリス・ドルグランとおっしゃいます」
「弟子のローリィがお世話になりました」
私の背後に立ち扉を塞ぐようにそびえ立つ師匠を見上げ、皆がぴたりと口を閉じた。
「あ、えっと………舞屋の主……ティータ……です」
さすが年の功。ひきつりながらもティータさんが名前を名乗った。
ウィリアムさんは仕事に出掛け、マシューさんは一通り任務の報告も終わり奥さんの待つ夏離宮のある町へ帰っていった。
「確か……こっちだったかなぁ」
師匠がお礼を言いたいと子爵邸へ帰るついでに、私が最初に世話になった「月下の花」へと行くと言い出したからだった。
「お前……方向音痴だったのか」
ウィリアムさんの家から舞屋まで久しく通っていなかったのと目印にしていた店が変わっていて、何人か聞き込みをしながら街を歩いた。
「………王都が広くて道が複雑し過ぎるんです」
そう言いながら何とか舞屋に辿り着く。
キルヒライル様の護衛になって、そのまま公爵領に向かったため実に数ヶ月ぶりだった。
「師匠は私が紹介するまでここで待ってて下さい。いきなり玄関に師匠が立っていたら腰を抜かしますから」
ここへ来る間も何人かに遠巻きにされていたことを思い出して注意する。
「わかってる」
自覚があるのか師匠も文句を言わず扉の陰で待機する。
「ごめんください」
声をかけ扉を叩くと中から返事がした。声の様子からティータさんだと思われた。
「どちら様かしら?」
目の高さに取り付けられた覗き窓から二つの目が覗く。
「ご無沙汰しております。ローリィです」
覗いた二つの目に向かってお辞儀をして名を告げると、その目が大きくて見開かれ、次に何度も激しく瞬きをした。
「ロ……」
そう言って覗き窓がぱたりと閉じてバタバタと奥へ走っていく音がしたかと思ったら、中から複数の足音と騒がしく叫ぶ声がしてバァンと扉が大きく開かれた。
「うそぉ!!」「ほんとにローリィ?」「やだ」
現れたのはミリィ、フラー、カーラ。それから遅れてティータさん。
「あんたたち、私を追い越して行くなんて」
「皆さん、お元気でしたか?」
「わぁーん、ローリィ!会いたかったよぉ」
「急に出ていっちゃうんだもん」
最初にミリィ、それからほぼ同時にフラーとカーラががばっと私に飛びかかってきた。
「く、苦しい」
三人に羽交い締めにされて思わず声を洩らす。
「こら、あんたたち、ローリィが困ってるじゃないか」
ティータさんが皆を嗜め一人一人私から剥がしにかかる。
最後にミリィが離れるとティータさんがぎゅっと私に抱きつく。
「ずるい、お母さん」
「うるさい、こんな時は年長者に譲るものだよ」
「あ、あの……ティータさん」
皆で口々に言い合うのを無理矢理話を遮り声をかける。
「実は……一人で来たわけではないんです。紹介したい人がいまして」
「紹介したい人?」
「まさか、ローリィ……恋人を連れてきたの」
「きゃあ!いやだ」
ミリィが言い出し皆がまた喚きだした。
「誰よ!どこにいるの!どんなお金持ちで男前でも許さないから」
キョロキョロ見渡し周囲を窺う彼女たちの視線が殺気立つ。
「え!」
その視線の先に扉から死角となった位置に立つ師匠の姿を認めて皆が凍り付く。
「こちら、私の師匠で、モーリス・ドルグランとおっしゃいます」
「弟子のローリィがお世話になりました」
私の背後に立ち扉を塞ぐようにそびえ立つ師匠を見上げ、皆がぴたりと口を閉じた。
「あ、えっと………舞屋の主……ティータ……です」
さすが年の功。ひきつりながらもティータさんが名前を名乗った。
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