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194 密談
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自分の身内には文官が多い。
行きすぎるくらい活発な娘だが、武官の妻ならそれでも通用するのではないか。
「まあ、こればかりは簡単に卿の一存で推し進めることも出来ないでしょう。返事は慌てませんよ。ご令嬢がデビューしてからでも改めて」
「そうですな……」
行き遅れるより、早くに口約束でも何でも婚約を決めてしまうのもいいかも知れないと思った。
「明日はご都合が悪いようですが、先程のことはいかがしますか」
「それは、臣下として陛下に逆らうことにはなりませんか?」
国王がはっきり語らないことをコソコソと探るようで気が進まない思いが彼にはあって、躊躇うそぶりを見せる。
そんな躊躇いは想定済みなのか、ルードリヒ侯爵は特に驚きもしない。
「卿が心配するのもごもっともです。ですが、よく考えてください。今の陛下が王位にいるのが正しいことなのか。年長継承の理に照らしてみれば本当に忠誠を誓うべき君主は誰なのか」
ルードリヒ侯爵の言葉にカーマリング侯爵が慌てて周囲を見渡す。
すでに朝議の間には二人以外は退出しており、後片付けをしていた文官もとっくにいなくなっている。
「無闇な発言は身を滅ぼしますよ」
誰も聞いていなかったことに安堵したが、まだ心臓が早鐘を打っている。
王位であれ爵位であれ年長者が後を継ぐことが正しい。誰もが継ぐ可能性があれば無用な争いが起こる。
かつてカーマリング侯爵自身が身をもって体験した骨肉の争い。
人並みな才能に過ぎる野心が弟の身を滅ぼした。自分こそ侯爵家を継ぐに相応しいと両親に兄のあることないことを吹聴し、陥れようとした
「場所が悪かったですね。もし話の続きがしたいならまたご連絡ください。ただし、私も気が長い方ではありません」
「どうして私にその話を?」
これまで特に親しくもなかった自分に急に近づいた目的がわからず訊ねる。
何かの罠なのか。しかし自分を陥れて彼が得することなど何もない。
「卿の信念を支持しているからですよ。私も今の陛下ご自身に不満はありませんが、本来王位に着くべき器の人間は他にいると思っております」
他に聞いている者がいれば間違いなく咎められる発言だった。
聞いているだけとは言え、こんな話をしていたと知られれば自分も只では済まない。
「私がそのような話でのこのこ伺うとお思いか」
「卿にとっても悪い話ではないと思いますよ。卿がなぜ長兄が後を継ぐことに拘るのか。よく理解しているつもりです」
とは言えこのことは内密に、早めに良き返事を。と言いおいてルードリヒ侯爵は先にその場を立ち去った。
後に一人残されたカーマリング侯爵はどさりと椅子の背に体を預けた。
王位に着くべき人物?
そう言われて頭に浮かんだのはもうひとつの噂。
どこかにいるというかつての王族の血縁者。
「まさか……」
去り際にルードリヒ侯爵が言い残した言葉。
成功すれば、更なる栄光が手に入るかも知れないが、失敗すれば謀反人として一族郎党断罪は免れない。
過ぎた野心は身を滅ぼす。
弟が侯爵になろうと画策した結果、最後には兄である自分を殺そうとした。二人で狩りに出掛けた際に不意に襲いかかってきた弟を彼は逆に返り討ちにした。弟は何とか命をとりとめたが、弟が兄を殺そうとした事実の発覚を恐れた両親が、弟を病気を理由に遠くの療養所へと追いやった。
それ以来、彼は殊更に年長の者が後を継ぐことを主張してきた。
なぜそこまで頑なに、と訊ねられても誰にも理由は語らずこれまでやってきた。
両親が健在の時は何度か手紙をやり取りをしていたが、その両親が相次いで亡くなってからは金を送るだけで交信が途絶えていた。
療養所の管理者から数年前に亡くなったと連絡が来て、いくらかのお金を追加で送り葬儀なども任せた。
ルードリヒ侯爵は知っているのだろうか。
カーマリング侯爵の背筋に冷たいものが走った。
行きすぎるくらい活発な娘だが、武官の妻ならそれでも通用するのではないか。
「まあ、こればかりは簡単に卿の一存で推し進めることも出来ないでしょう。返事は慌てませんよ。ご令嬢がデビューしてからでも改めて」
「そうですな……」
行き遅れるより、早くに口約束でも何でも婚約を決めてしまうのもいいかも知れないと思った。
「明日はご都合が悪いようですが、先程のことはいかがしますか」
「それは、臣下として陛下に逆らうことにはなりませんか?」
国王がはっきり語らないことをコソコソと探るようで気が進まない思いが彼にはあって、躊躇うそぶりを見せる。
そんな躊躇いは想定済みなのか、ルードリヒ侯爵は特に驚きもしない。
「卿が心配するのもごもっともです。ですが、よく考えてください。今の陛下が王位にいるのが正しいことなのか。年長継承の理に照らしてみれば本当に忠誠を誓うべき君主は誰なのか」
ルードリヒ侯爵の言葉にカーマリング侯爵が慌てて周囲を見渡す。
すでに朝議の間には二人以外は退出しており、後片付けをしていた文官もとっくにいなくなっている。
「無闇な発言は身を滅ぼしますよ」
誰も聞いていなかったことに安堵したが、まだ心臓が早鐘を打っている。
王位であれ爵位であれ年長者が後を継ぐことが正しい。誰もが継ぐ可能性があれば無用な争いが起こる。
かつてカーマリング侯爵自身が身をもって体験した骨肉の争い。
人並みな才能に過ぎる野心が弟の身を滅ぼした。自分こそ侯爵家を継ぐに相応しいと両親に兄のあることないことを吹聴し、陥れようとした
「場所が悪かったですね。もし話の続きがしたいならまたご連絡ください。ただし、私も気が長い方ではありません」
「どうして私にその話を?」
これまで特に親しくもなかった自分に急に近づいた目的がわからず訊ねる。
何かの罠なのか。しかし自分を陥れて彼が得することなど何もない。
「卿の信念を支持しているからですよ。私も今の陛下ご自身に不満はありませんが、本来王位に着くべき器の人間は他にいると思っております」
他に聞いている者がいれば間違いなく咎められる発言だった。
聞いているだけとは言え、こんな話をしていたと知られれば自分も只では済まない。
「私がそのような話でのこのこ伺うとお思いか」
「卿にとっても悪い話ではないと思いますよ。卿がなぜ長兄が後を継ぐことに拘るのか。よく理解しているつもりです」
とは言えこのことは内密に、早めに良き返事を。と言いおいてルードリヒ侯爵は先にその場を立ち去った。
後に一人残されたカーマリング侯爵はどさりと椅子の背に体を預けた。
王位に着くべき人物?
そう言われて頭に浮かんだのはもうひとつの噂。
どこかにいるというかつての王族の血縁者。
「まさか……」
去り際にルードリヒ侯爵が言い残した言葉。
成功すれば、更なる栄光が手に入るかも知れないが、失敗すれば謀反人として一族郎党断罪は免れない。
過ぎた野心は身を滅ぼす。
弟が侯爵になろうと画策した結果、最後には兄である自分を殺そうとした。二人で狩りに出掛けた際に不意に襲いかかってきた弟を彼は逆に返り討ちにした。弟は何とか命をとりとめたが、弟が兄を殺そうとした事実の発覚を恐れた両親が、弟を病気を理由に遠くの療養所へと追いやった。
それ以来、彼は殊更に年長の者が後を継ぐことを主張してきた。
なぜそこまで頑なに、と訊ねられても誰にも理由は語らずこれまでやってきた。
両親が健在の時は何度か手紙をやり取りをしていたが、その両親が相次いで亡くなってからは金を送るだけで交信が途絶えていた。
療養所の管理者から数年前に亡くなったと連絡が来て、いくらかのお金を追加で送り葬儀なども任せた。
ルードリヒ侯爵は知っているのだろうか。
カーマリング侯爵の背筋に冷たいものが走った。
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