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191 お茶会の顛末

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ミレーヌ嬢が投げた茶器は壊れることはなかった。私の右側を掠め、私は顔を左に傾けてそれを受け止めたが、生憎お茶は顔と上着にかかった。

「何てことを!!」

悲鳴に近い声をあげ口許を覆う夫人。
眼を見開いて驚いて私を見上げるアンジェリーナ様。
控えていた侍女たちも口々に「きゃっ」と短い悲鳴を発してその場で凍りつく。
幸いなことに二人にお茶はかからなかった。

私は黙って受け止めた茶器をテーブルの上に置いた。

カチャンとソーサーにカップを置いた音が合図のように、全員の硬直が解けた。止まっていた時間が動き出したかのようだ。

「な、人に物を投げつけるなど」
「お母様が心配しているのは茶器のことでしょ!何代か前の皇后陛下に頂いたと自慢していましたもの。割れなくてよかったですね」

わなわなと振るえる母親にミレーヌ嬢はそっぽを向いて話す。

侍女が倒した椅子を起こし、別の侍女が布を持ってきて、私はそれを受け取り頬と上着にかかったお茶を拭いた。

「あ……」
「謝りませんわ」
「な!」

謝りなさいと母親から言われる前にミレーヌ嬢が言い放ち、夫人が怒りで言葉を失った。

「謝る必要はありません。少しお茶がかかっただけで茶器も壊れませんでしたし、お嬢様には耳の痛いことを言ってしまい申し訳ございません」
「私は娘に普通の令嬢のように振る舞って欲しいだけです。人様にむかって茶器を投げるようなことは望んでいません」

立ったままでいる娘のスカートを引っ張り座るように促す。

私には私の希望を叶えてくれた両親がいた。
伯爵の小娘相手に真剣に稽古をしてくれたモーリス師匠がいた。
でもミレーヌ嬢は自分の行動を理解してくれる人間が側にいない。
反抗しながらも親から完全に自立する手立てもない。

年が明けてデビューということは今は十五歳。四つ下の令嬢に今の私ができることは何だろう。

「いかがでしょう、私にお嬢様と一戦交えさせてもらえませんか?」
「「え!!」」

私の提案に夫人は嫌そうに顔をしかめ、ミレーヌ嬢は顔を輝かせた。

「そんなことをして何になるのです。娘が剣を振るうことを私たちは認めていないのですよ」
「お母様、私、やりたいです」
「どんな方に教えてもらっていたか存じませんが、私と剣を交えてご自分の実力がわかれば、自分には無理だと諦められるかと」

夫人は暫く黙ったまま私と娘を交互に眺め、考え込んだ。

結局、夫人はその場で即答はせず、夫である侯爵と相談すると言うことで話は終わり、アンジェリーナ様と私は侯爵家を後にした。

翌日、侯爵が家にいる二日後に再び屋敷へ訪れるようにという手紙が侯爵家から届けられた。

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