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151 心の痛み

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ジャックが朧気な記憶の隙間を埋めるように説明をしてくれた。

王都での屋敷にいる時にも頭痛に襲われ、その時にマッサージというものをしてもらったと。

準備をして後から来ると聞いて、現れたのがメイドのローリィだった。

アリアーデやホーク先生は初めて見るマッサージに興味を隠せないでいる。

マッサージというものがどういうものかわからないが、持っている物を見る限りは怪しいことはなさそうだ。

温めたタオルを首に当て、肩や首筋、頭の何ヵ所かを指で押されると、痛いと思う中に気持ち良さを感じた。

好奇心で彼女に色々訊ねる医師二人のお陰で気が紛れているが、下手をすると眠り込んでしまいそうになる。

確かに、この痛気持ち良さは初めてでないと感じる。
頭で色々考え込むより、体が覚えている感覚の方が記憶を思い起こす助けになる。

目を閉じて彼女の指が引き起こす感覚に身を委ねていると、いくつかの記憶が蘇った。

どこかの馬屋で黒髪の少年と話をしている。

次は王宮の宴。先程アリアーデが語ってくれた競い舞。

兄や宰相のジーク、ハレス子爵たちとの会話。

先ほどの薬が効いてきたのか、マッサージによる刺激か、点と点だった記憶のいくつかが線で繋がり、靄がかかっていた部分が、さあっと風に吹かれて顕になっていく。

「いかがですか?」

「どこか痛いところがありましたか?」

頭のすぐ後ろで具合を訊ねる声が聞こえ、はっと後ろを仰ぎ見た。

覗き込む紫の瞳と視線がぶつかり、チカチカと頭の中で色々な場面が甦る。

メイドのローリィ………踊り子のクレア……宿屋で出会った少年…傷を負って意識を失っていた時に助けてくれたのも彼女。

「………いや、大丈夫だ。問題ない」

まだ全てが思い出されたわけでなく、どう切り出したらいいかわからず、質問にだけ答える。

上着を脱いでうつ伏せになって欲しいと言われ、言われるままにそうする。

相変わらずアリアーデやホーク先生が彼女に色々と質問をしているが、頭の中では今思い出したことを整理しながら、背中を撫でる彼女の手の動きが気になっていた。

先程、書斎で彼女が誰か思い出したことを告げたが、本当の意味で彼女が自分に取ってどういう存在かは思い出せていなかった。

薬のせいとは言え、一時的に彼女のことを忘れた自分に、今彼女はどういう気持ちで触れているのだろう。

アリアーデとの会話からは特に何の感情もうかがえない。触れる手の強さも、かつて王都で体験したマッサージと特に変わりなく思う。

アリアーデたちがいなければ、起き上がって彼女に問いたい。そして心配をかけたなら、そのことを詫びたい。

軽くなった頭の痛みとは逆に心が痛かった。

「どこか他に辛いところはありませんか?」

肩から肘に向かって腕を撫で下ろすようにして、そう訊ねる声に、肘を立てて半身を起こして振り替えれば、寝台に軽く腰掛け自分を見下ろす彼女の視線があった。

「いや、大丈夫だ。頭痛も消えた」

「では、これで終了です。塗ったオイルを拭きます」

「わかった」

背中を向け拭きやすいように髪を前に流す。
拭き終えると、上着を着ても構わないと言うので先程脱いだ上着に袖を通す。
それと同時に彼女が寝台から立ち上がり、変わりにアリアーデが近づいてきた。

「どうですか?キルヒライル様?」

マッサージの効果についてアリアーデが訊いてくる。

「首や肩回りが、軽くなった」

首に手を当てそう言うと、彼女も満足そうに微笑み、アリアーデは成る程、と頷く。

「失礼」

アリアーデはそう言って手首の脈や首筋を確認する。

「脈も落ち着いていますし、何より頭痛が消えて良かったですわ。ありがとう、ローリィさん」

「いえ、そんな……こんな民間療法みたいなことでお恥ずかしいです」

「謙遜することはない。誇りに思っていい技術だ」

「……ありがとう……ございます。あの、もし、具合がよろしいのでしたら、少しお話をしても大丈夫でしょうか」

それを聞いてアリアーデがこちらを見る。

「無理をなさらなければ……いかがですか?」

そう問いかけられ、例えいくらか調子が悪くても、自分が聴かなければならない話なら聞くつもりでいた。
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