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155 この野郎とこのあまぁ
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「どうした?」
目の前の私の顔を見て強張るティモシーの様子に気付き、短髪の男が声をかける。
彼らの方に背を向けているため、私の顔を確認できずティモシーが何を見て驚いているのかわからない。
男が私を左側から回り込んで横から除き込もうとした時、私は隠し持っていた武器で袋をビリビリと破って立ち上がった。
「な!!」
彼は立ち上がった私に驚き、男たちが驚いた一瞬をつき、一番近くにいた短髪の男の腹に思い切り蹴りを放った。
「ぐはぁ!!」
蹴られた男はそのまま壁板に激突して、薄い板を突き破って小屋の外に飛び出した。
何が起こったのか状況判断ができないうちに、狭い小屋の中で蹴り上げた足を軸にして私はすかさず巻き毛の男の脇腹に反対側の足で蹴りを入れた。
「ぐおっ!」
巻き毛の男は最初に空いた壁板の横を突き破り、反対側の壁板は扉部分だけを残して殆ど破壊されてしまった。
「な、なんだお前は!」
残されたレベロは前にいた男二人が次々と飛ばされてしまい、盾となる存在を失い後ろに後退るが、もともと突き出た岩を屋根にした粗末な造りの小屋のため、すぐに後ろの岩にぶち当たった。
「う、うう」
先に飛ばされた二人が壊れた壁板の瓦礫に埋もれながら呻き声を上げて四つん這いになって起き上がろうとしている。
「お前……何なんだよ!こいつの女の針子じゃないのか…」
地面に置いたカンテラの光を真下から受けて立ち、片手にクナイを二本持って空いているもう片方の手で頭に手をやり、髪の毛を掴んだ。
「!!!」
栗色の髪がずるりと剥がされ、中から赤味がかった金色の髪が現れた。
「お前は!」
「ろーひぃ?」
私の背後でティモシーがモゴモゴと名前を呼ぶ。
「遅くなってごめんね。今助けるから」
私は目の前の男を睨み付けながら背後のティモシーに声をかけた。
「お前は……こいつの女じゃないのか」
レベロもようやくそこで目の前にいるのが目的の女ではないと気づいた。
レベロはワイン娘のパレードも遠目にしか見ていなかったため、拐ってこいと言われた娘の顔もはっきり覚えていない。
さっき仲間が言っていた失敗を挽回するため、今回の仕事をかって出たのだった。
「くそ!」
レベロは悪態をついて腰の剣を抜き払おうとしたが、私が動く方が早かった。
手に持っていたクナイを剣に手を伸ばそうとしたレベロの手の甲に突き刺した。
「ぎゃあ!」
膝をがくりと折ったため貫いた手から自然に武器は抜ける。どくどくと右手から血が流れ、押さえる反対の手も真っ赤に染まる。
「この!」
後で飛ばされた巻き毛の男が立ち直って、上から剣を振り下ろしてきたのを、後ろに下がって紙一重で避けると、右足を軸にして男の後頭部に回し蹴りを打ち込んだ。
「ぎゃあ!」「ぐえっ!」
後頭部を打ち付けられた男は手の甲を押さえていたレベロにぶつかり、二人で背後の岩にぶつかった。
その間に私はティモシーを拘束していた縄を切り落とし、体を支えて立ち上がらせた。
暗くてよくわからないが、顔と同じくらい体も傷だらけに違いない。
「この野郎!」
「あふにゃい!」
最初に蹴り飛ばした男が背後から切りかかってきたのを見てティモシーが叫び、私は身を低くしてさっと男の振り上げた腕の下に潜り込んで、下から顎を思い切り拳で突き上げ、男が仰け反って顕になった喉仏に思い切りクナイの柄を叩き込んだ。
「野郎じゃない。お嬢さんだから」
「………ッゴボッ!!!」
潰され喉を押さえて男はくの字に体を折り曲げ白目を向いてその場に昏倒する。
「さっ、ティモシー、こっちへ」
ふらふらで立っているのがやっとのティモシーの上腕を掴み、ぶち破った壁から外にでる。
山の中腹では皆が彼らに気づかれないよう待機しているはず。
「待て!おい、ウルク、早くそのデカイ図体を退けろ!」
「うるさい!今どくからじっとしてろ!」
岩場にぶつかり一瞬気を失っていたレベロが自分の上に乗ったままのウルクと格闘している。
怪我のせいで充分に動けないティモシーを連れているので、すぐに追い付かれるだろう。
「ティモシー……このまま真っ直ぐ降りていけば、警羅の人たちがいるはず。一人で行けそう?」
足を引きずりながらでも何とか動いているティモシーに訊ねる。
「へも……ろーひぃ……ひみほひほひへ(でも、ローリィ君を一人で)」
「私は大丈夫。さっきの見たでしょ?」
私を置いていくことに不安そうなティモシーに、めいいっぱいの明るい声で答える。
幸い、今は雲も切れて月の明かりで何とか方向を見失わないだろう。
「さ、行って……麓でモリーが待ってる」
モリーの名を聞いてティモシーもようやく先に行くことを決め、「ふひへ(無事で)」と言って途中何度かつまづきなから歩いていった。
「このあまぁ……なめた真似しやがって……」
さっきの男が野郎と言ったので、今度はちゃんと女と言ってもらえた。
ティモシーを先に行かせたのは彼を連れていても彼を庇いながらでは、あいつらと戦うのが難しいと判断したからだ。
殿下なら自分の身は護れただろうが、ティモシーではそうはいかない。
それと、もうひとつ。確認しないといけないことがある。
「本当なの?」
私はこちらに近づいてくる男に訊ねる。
ティモシーのところに辿り着くまでは、眠っているふりをしていなければならなかった。
だが、担がれながら聞こえてきた話に途中から思考が停止してしまった。
ティモシーを確認して、ようやく本来の目的を思い出したが、傷だらけの彼を見て、彼らの会話が耳にこだました。
「………何がだ?」
質問の意味がわからずウルクが問い返す。
「さっきの話は……本当なの?」
「だから何の……」
「あんたたちが……あんたたちとマーティンとかいう男が……殺したの?」
「ん?誰のことを言ってるんだ?」
ウルクと呼ばれた男は破れた壁板などで顔や体にいくつか切り傷を負っている。
「くそが、なめた真似してただで済むと思うなよ」
「その言葉……そっくり返してやる」
私は両手にクナイを持ち替え、臨戦態勢を取った。
目の前の私の顔を見て強張るティモシーの様子に気付き、短髪の男が声をかける。
彼らの方に背を向けているため、私の顔を確認できずティモシーが何を見て驚いているのかわからない。
男が私を左側から回り込んで横から除き込もうとした時、私は隠し持っていた武器で袋をビリビリと破って立ち上がった。
「な!!」
彼は立ち上がった私に驚き、男たちが驚いた一瞬をつき、一番近くにいた短髪の男の腹に思い切り蹴りを放った。
「ぐはぁ!!」
蹴られた男はそのまま壁板に激突して、薄い板を突き破って小屋の外に飛び出した。
何が起こったのか状況判断ができないうちに、狭い小屋の中で蹴り上げた足を軸にして私はすかさず巻き毛の男の脇腹に反対側の足で蹴りを入れた。
「ぐおっ!」
巻き毛の男は最初に空いた壁板の横を突き破り、反対側の壁板は扉部分だけを残して殆ど破壊されてしまった。
「な、なんだお前は!」
残されたレベロは前にいた男二人が次々と飛ばされてしまい、盾となる存在を失い後ろに後退るが、もともと突き出た岩を屋根にした粗末な造りの小屋のため、すぐに後ろの岩にぶち当たった。
「う、うう」
先に飛ばされた二人が壊れた壁板の瓦礫に埋もれながら呻き声を上げて四つん這いになって起き上がろうとしている。
「お前……何なんだよ!こいつの女の針子じゃないのか…」
地面に置いたカンテラの光を真下から受けて立ち、片手にクナイを二本持って空いているもう片方の手で頭に手をやり、髪の毛を掴んだ。
「!!!」
栗色の髪がずるりと剥がされ、中から赤味がかった金色の髪が現れた。
「お前は!」
「ろーひぃ?」
私の背後でティモシーがモゴモゴと名前を呼ぶ。
「遅くなってごめんね。今助けるから」
私は目の前の男を睨み付けながら背後のティモシーに声をかけた。
「お前は……こいつの女じゃないのか」
レベロもようやくそこで目の前にいるのが目的の女ではないと気づいた。
レベロはワイン娘のパレードも遠目にしか見ていなかったため、拐ってこいと言われた娘の顔もはっきり覚えていない。
さっき仲間が言っていた失敗を挽回するため、今回の仕事をかって出たのだった。
「くそ!」
レベロは悪態をついて腰の剣を抜き払おうとしたが、私が動く方が早かった。
手に持っていたクナイを剣に手を伸ばそうとしたレベロの手の甲に突き刺した。
「ぎゃあ!」
膝をがくりと折ったため貫いた手から自然に武器は抜ける。どくどくと右手から血が流れ、押さえる反対の手も真っ赤に染まる。
「この!」
後で飛ばされた巻き毛の男が立ち直って、上から剣を振り下ろしてきたのを、後ろに下がって紙一重で避けると、右足を軸にして男の後頭部に回し蹴りを打ち込んだ。
「ぎゃあ!」「ぐえっ!」
後頭部を打ち付けられた男は手の甲を押さえていたレベロにぶつかり、二人で背後の岩にぶつかった。
その間に私はティモシーを拘束していた縄を切り落とし、体を支えて立ち上がらせた。
暗くてよくわからないが、顔と同じくらい体も傷だらけに違いない。
「この野郎!」
「あふにゃい!」
最初に蹴り飛ばした男が背後から切りかかってきたのを見てティモシーが叫び、私は身を低くしてさっと男の振り上げた腕の下に潜り込んで、下から顎を思い切り拳で突き上げ、男が仰け反って顕になった喉仏に思い切りクナイの柄を叩き込んだ。
「野郎じゃない。お嬢さんだから」
「………ッゴボッ!!!」
潰され喉を押さえて男はくの字に体を折り曲げ白目を向いてその場に昏倒する。
「さっ、ティモシー、こっちへ」
ふらふらで立っているのがやっとのティモシーの上腕を掴み、ぶち破った壁から外にでる。
山の中腹では皆が彼らに気づかれないよう待機しているはず。
「待て!おい、ウルク、早くそのデカイ図体を退けろ!」
「うるさい!今どくからじっとしてろ!」
岩場にぶつかり一瞬気を失っていたレベロが自分の上に乗ったままのウルクと格闘している。
怪我のせいで充分に動けないティモシーを連れているので、すぐに追い付かれるだろう。
「ティモシー……このまま真っ直ぐ降りていけば、警羅の人たちがいるはず。一人で行けそう?」
足を引きずりながらでも何とか動いているティモシーに訊ねる。
「へも……ろーひぃ……ひみほひほひへ(でも、ローリィ君を一人で)」
「私は大丈夫。さっきの見たでしょ?」
私を置いていくことに不安そうなティモシーに、めいいっぱいの明るい声で答える。
幸い、今は雲も切れて月の明かりで何とか方向を見失わないだろう。
「さ、行って……麓でモリーが待ってる」
モリーの名を聞いてティモシーもようやく先に行くことを決め、「ふひへ(無事で)」と言って途中何度かつまづきなから歩いていった。
「このあまぁ……なめた真似しやがって……」
さっきの男が野郎と言ったので、今度はちゃんと女と言ってもらえた。
ティモシーを先に行かせたのは彼を連れていても彼を庇いながらでは、あいつらと戦うのが難しいと判断したからだ。
殿下なら自分の身は護れただろうが、ティモシーではそうはいかない。
それと、もうひとつ。確認しないといけないことがある。
「本当なの?」
私はこちらに近づいてくる男に訊ねる。
ティモシーのところに辿り着くまでは、眠っているふりをしていなければならなかった。
だが、担がれながら聞こえてきた話に途中から思考が停止してしまった。
ティモシーを確認して、ようやく本来の目的を思い出したが、傷だらけの彼を見て、彼らの会話が耳にこだました。
「………何がだ?」
質問の意味がわからずウルクが問い返す。
「さっきの話は……本当なの?」
「だから何の……」
「あんたたちが……あんたたちとマーティンとかいう男が……殺したの?」
「ん?誰のことを言ってるんだ?」
ウルクと呼ばれた男は破れた壁板などで顔や体にいくつか切り傷を負っている。
「くそが、なめた真似してただで済むと思うなよ」
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