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138 目覚めとともに

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ケインさんと別れ、エリックさんと二人で領主館に到着するころには昼になっていた。

戻って一番、誰かが殿下の目が覚めた、と言ってくれないかと思ったが、そうはならずがっかりした。
もしかしてずっとこのまま?

代わりに待っていたのは夕方までにはウィリアムさんが王宮付の医師と共に戻ってくるという知らせ。キルヒライル様のことを陛下に報告し、王宮の医師を連れてきてくれるそうだ。

そうしたら殿下の意識が戻るかもしれない。もちろんその前に目覚めてくれると嬉しいが。

午前中にホーク医師が様子を診て、状態が安定したことを確認していた。午後にもう一度診察をして、王都から医者が来てから一旦診療所へ引き上げて行くそうだ。

今はマーサさんが殿下の側に付いているという。

クリスさんを探し、二人でモリーとの話しについて報告してから殿下の寝室に向かった。

扉を叩き名前を名乗ると、中からマーサさんの「どうぞ」という声が聞こえて中に入っていく。

相変わらず殿下は眠ったままだが、呼吸は落ち着いていた。

二人で顔を覗き込む。

マーサさんが小さいときに殿下が寝込んだ時の話を思い出したと、私に語ってくれた。

「お小さいときはよく熱を出されて……熱にうなされてかあさま……あにうえって……その度に徹夜で看病したものです」

小さい時の殿下を想像して、可愛かっただろうなぁ、見たかったなぁと考えていると、「う……ん……」と殿下が身動ぎし、仰向けから私とマーサさんの側に体を横向きにした。

「あ……」

私たちが見守っていると殿下の瞼が少し震え、ゆっくりと目を開いた。
「キルヒライル様!」

マーサさんが寝台に駆け寄ると、最初何も見ていないようにしていた殿下の目の焦点が定まり、マーサさんに視線が向けられた。

「マー………サ?」

まだ状況が判断できないのか、マーサさんを見て、天井や部屋の様子を見、マーサさんの後ろに立っている私で止まる。

「ここは……?」

「覚えていますか?薬を盛られて倒れられたのですよ」

「く………くすり?」

「そうです、よかったですわ。このまま気がつかれないのかと……」

「マーサ……ここはどこだ?」

「エドワルド公爵領の領主館です。昨日が収穫祭の最終日で……」

「ちょっと待て……私は……あっ、つう……」

「殿下?」

殿下の様子がおかしいことにこの時、私たちは気づいた。

「私は…………」

「で、殿下……」

マーサさんの横に膝を突き、私も側に駆け寄る。

殿下は頭を押さえながら、私の方を見て怪訝そうに顔をしかめる。またもや頭が痛むのか片手で押さえている。

「マーサ………」

「はい、キルヒライル様……」

「この人は誰だ……どうして私の部屋にいる?」

殿下は見知らぬ人を見るように私を見て言った。

「キルヒライル様、ローリィですよ。どうされたのですか?」

「知らん……う、頭が割れるように痛い……マーサ……もう少し声を小さく……」

殿下が両手で頭を抱えて呻く。

「すいません……ですが……あの、ローリィは……」

私を知らないと言う殿下にすっかり困惑するマーサさんの肩に触れ、振り仰いだマーサさんに黙って首を振った。

「今は混乱されているようです。お医者様を呼んできます」

知らないと言われたショックを隠して、マーサさんに顔を見られないようそれだけ言うと、頭を抱えて苦しむ殿下を心配しながら部屋を出る。

大丈夫……今は目が覚めたばかりで状況が把握できていないだけ。そう思いながらもマーサさんのことは認識していた事実に動揺を隠せない。

あの厩舎で初めて会った時でもあんな表情は見せなかった。

きっと頭が痛くて機嫌が悪かったのだ。

そう自分を誤魔化しながら、ホーク医師に用意されている部屋へと向かった。
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