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111 完璧な鎧
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「そろそろパレードの準備に行かなければ、ウィリアムが戻ったら着替えてそなたも来なさい」
名残惜しそうに殿下が私から離れる。
「………説教のために私を残したのではないのですか?」
始めは怒った様子を見せていたが、全体的にはイチャイチャしていただけだった。何だか皆に申し訳ない。
「無茶をするな、と説教するつもりだったが、今回の件はそなただけを責めても仕方ない。それに、言って素直にきくとも思えない。いい加減、私も学習している」
図星なので何も言えない。そんなに強情者のつもりはないが、小さいときからの性分だから仕方ない。
「そなたなら、大概のことは切り抜けるだろうが、油断はしない方がいい。悔しいが、今のところこちらは相手の所在も目的もわかっていない。パレードは格好の標的だ」
「わかっています。殿下もお気をつけて」
自分が標的になるとは思っていなかった。でも、私が最終目的ではない。向こうの本当の目的は殿下だろう。
そう考えて言ったが、殿下もそれは良くわかっているだろう。
「その、例の武器は今でも持っているのか?」
私の足元を見て殿下が訊いた。
例の武器とはクナイのことだろう。
「はい、一応は…今は革靴でないので、スカートの下に」
「……そうか」
「………見ますか?」
殿下の視線が私のスカートに行ったので、わざと訊いてみた。
「冗談ですけど」
さすがに今のはきわどい返しだと思って慌てて言い添えた。
いきなりスカートの下を見せるのはないでしょう。
と、思ったのに殿下の目が色濃くなり、何だか危険な雰囲気になった。
「それは、私だから言っているのだな」
私はアホだと思った。ついつい前世のノリで返してしまったが、両思いの人と二人きりの時に、しかも恋愛初心者の殿下相手に言うことではなかった。
「も、もちろんです。他の人にそんなこと、いいません。今のはつい調子に乗ったというか……」
「……見せてみなさい」
「……え?」
「きちんと武装しているか、確認すれば少しは安心する」
あ、そっちか。何か勝手にエロい展開を想像してた自分が恥ずかしい。そうだな。大丈夫だ、大丈夫だといい募るより、ちゃんとしてるところを見てもらった方がいい。
「はい」
椅子から立ち上がりさっとスカートの裾を左の太ももまであげ、そこに皮の束帯に取り付けたクナイを見せた。内側と外側に一本ずつ。
「後、こちらにも」
反対側の方も上げて見せる。
そこにも紐で編んだ手製のヌンチャクを仕込んである。
「ね、準備は万全……」
ドヤ顔で殿下の方を見ると、顔を赤らめて立っている。
はっと気づけば、私は殿下の前で両手でスカートの裾を持ち上げ太もも丸出しで立っていた。
パッと手を離し裾を下ろす。恥ずかしい。アホ丸出しだ。
「す、すいません…ですが、これでご安心いただいたかと……」
「悪かった……まさか、真に受けて見せてくれるとは思わなかった」
「え、騙したんですか?」
「だ、いや、半分は本当だが………」
コホン、と一つ咳払いをし、何とか互いに気まずさを何とかしようとソワソワする。
そこに、タイミング良く扉を叩く音がし、ウィリアムさんの声が聞こえた。
「ドルグランが戻ってきた。私は先に行くので、またパレードで会おう。エリックを残していく」
「護衛は……」
不要だと言いかけたが、殿下は聞き入れなかった。
「昨日までと状況が変わった。最早私の杞憂ではない。フェリクスも一人になるなと言っている。館の中にいる時以外は常に誰かと行動を共にしなさい」
私が強情なのをいやというほどわかっているのに、相変わらず殿下は私を過剰なまでに護ろうとする。
私も学習している。
殿下を説得するより、エリックさんを説得する方がいいと考えて、ここは逆らわないことにした。
「ご苦労だった」
「フレアに頼んで見繕ってもらったが、これで良かったのか?」
入り口で殿下とすれ違いに入ってきたウィリアムさんが持ってきた衣装を私に見せた。
「はい、寝台の上に置いてあったそれでいいです。すいませんでした」
「話はお済みですか?」
ウィリアムさんが殿下に訊ねる。
「ああ、ローリィ自身も武装しているようだが、念のためエリックを付ける。すまないが、そのように采配してくれ、勝手に決めてすまないが……」
「いえ、エリックですね、わかりました」
「先に行く、下でエリックを待たせておくので、着替えが済んだらデリヒの事務所まで来なさい」
パレードの参加者の集合場所がデリヒ氏の商会となっている。
「じゃあ、これ」
「ありがとうございます」
ウィリアムさんから衣装が入った袋をもらい、そのまま二人は階下に向かった。
持ってきてもらったのは、白のブラウス。鎖骨までの襟ぐりに、肘の辺りから袖がヒダに広がっている。ウエストをギャザーで絞り、スカートは裾まで、無地の濃い紺色の生地の上にギンガムチェックの赤と黒の生地をアシンメトリーに重ねている。首には赤のチョーカーを付ける。
買い物から帰ってすぐに着替えるつもりで寝台に出していたのがよかった。
着替える途中で右足につけた紐ヌンチャクを取り出す。
端につけた二つの輪に指を通し、振り回す。ヒュンとしなる音がして先の部分が弧を描く。殺傷力は低いが勢いをつけて首に当てれば昏倒させるくらいはできる。
警察官時代の武器と言えば警棒だったが、軽くて伸縮性がある警棒をこの世界で再現出来なかったため、剣以外の武器はクナイや紐ヌンチャクを作った。束帯に嵌め込んで戻した。
着替えを済ませ階下に行くと既に殿下たちはフェリクス隊長ととともに出発していて、幾人かの警羅隊とエリックさんが待っていた。
「お待たせしてすいません」
待たせたことを謝ると、エリックさんは少し私のことを上から下まで眺め、へぇと呟いた。
「馬子にも衣装………そうやって見ると女に見えるな。ズボンを履いてる時は美少年なのに」
美少年は余計だし、馬子にも衣装も失礼だけど、一応誉めてくれてたので素直にありがとうと言った。
エリックさんには上手く言いくるめて護衛を外れてもらわなければ。
「エリックさん、その言い方はちょっと失礼じゃないですか?」
側にいた警羅の人が気を使って言ってくれた。
「昨日のワイン娘の踊り、楽しかったよ。俺に嫁さんがいなかったら、立候補してたところだ」
「おいおい、そんなこと言ってるのが嫁さんに知られたら追い出されちまうぞ」
「うわ、言わないでくれよ!それでなくても仕事続きでちっとも家にいないって機嫌が悪いんだぞ」
「仕方ない。今は祭りの時期で酔っぱらいの喧嘩やスリなんかの窃盗が多くて、その上夕べの殺し……警羅の俺たちと結婚したのを諦めてもらうしかないな」
その場で一番年配の警羅隊の人が悟ったように言う。
前世で経験のある私は納得して頷いた。
事件を抱えれば、泊まり込みだってある。
まさに今彼らはそんな状況だ。
「あんたも災難だな。眼球なんか目撃してしまって」
同情して私にも気遣ってくれる。
「ああ、この子は大丈夫、そんなに心配するだけ損だよ。こう見えてなかなか肝が座ってるから」
エリックさんが横から割ってはいる。事実だし、か弱いふりをしても仕方ないので、エリックさんの言うとおりですので、大丈夫です。と答えた。
「用意ができたなら、行こう。邪魔して悪かったな」
待機組の警羅の人たちに礼を言い、私とエリックさんは詰所を出た。
二人で並んで歩き、護衛についてエリックさんに話しかけた。
「エリックさんも色々忙しいでしょう?私は平気ですので、デリヒさんの商会に着いたら殿下の護衛に戻ってください」
対するエリックさんはチロリと私を見た。
「確かに、そこらの女と違って腕も立つだろうが、同じ男として殿下の気持ちも分かる。好きな女が狙われるとわかって、何もしない男はいない」
「……は?」
エリックさんの好きな女発言にびっくりした。
「殿下とあんたの間に何かあったことくらい、ちょっと見ていればわかる。関わりの薄い警羅隊長はまだ気づいていないみたいだが、殿下のあんたを見る目、側にいる俺たちには雇われた当初と明らかに違ってるのは一目瞭然だ」
ウィリアムさんにはとっくにばれているのはわかっていたが、エリックさんにまで感づかれて………
「え、ということは」
「レイやクリス達だって、とっくに気づいてる。ただぼんやり側に立ってるだけじゃないんだぞ」
穴があったら入りたいとは、まさに今の心境だ。そんなにバレバレだろうか。
「今のところは、王都から一緒に来た俺たちと、あの乳母の人も気づいてるだろ」
「マーサさんには、確かに………」
「人の気持ちをどうこう言う立場でもないが、俺たちは別にして、それを良く思わない人間もいる。相手は公爵様だ。しかも独身の美男子ともなれば、自分の娘を是非と思う有力者が大勢いる。現にこの前のデリヒ邸での会食でも色々あったらしい。命を狙って襲ってくる刺客には立ち向かえても、そんなやつらを相手に剣は通用しないぞ」
「色々って」
「詳しくはしらないが、顔役代表のデリヒ氏は自分の娘を殿下にエスコートさせたらしい。なんでもその人は準貴族も狙ってるそうだ」
「……そうなんだ」
エリックさんに言われて考えた。確かに、武器を持って襲ってくる刺客には対処できる自信があったが、地位や権力でぶつかってくる人たちに対する武器など持ち合わせていない。
けれど、私には最強の防具がある。
殿下が私を好きだといってくれる限り、鉄壁の鎧を身に纏っているようなものだ。
エリックさんにそう言うと、彼はまじまじと私の顔を見て、おもしろそうに笑った。
「鎧ね、あんたらしい言い方だ。前向きでいいよ」
いざというときは、私の存在が殿下にとって不利益となるなら、身を引く覚悟もあるとマーサさんにも言ったが、それで殿下を傷つけることになるなら、殿下が私を不必要だと思うまで側にいようと思うまでになっていた。
「エリックさんも私の護衛は無理しないでください。もし、エリックさんが私の護衛が嫌だと言うなら、全て私のせいにしてください。決してエリックさんに害が及ぶことがないように、殿下に掛け合いますから」
「そりゃどうも、でも、どっちしろ、殿下を護ることに違いはないと思うけど……」
エリックさんは簡単には引き下がらなさそうだ。
名残惜しそうに殿下が私から離れる。
「………説教のために私を残したのではないのですか?」
始めは怒った様子を見せていたが、全体的にはイチャイチャしていただけだった。何だか皆に申し訳ない。
「無茶をするな、と説教するつもりだったが、今回の件はそなただけを責めても仕方ない。それに、言って素直にきくとも思えない。いい加減、私も学習している」
図星なので何も言えない。そんなに強情者のつもりはないが、小さいときからの性分だから仕方ない。
「そなたなら、大概のことは切り抜けるだろうが、油断はしない方がいい。悔しいが、今のところこちらは相手の所在も目的もわかっていない。パレードは格好の標的だ」
「わかっています。殿下もお気をつけて」
自分が標的になるとは思っていなかった。でも、私が最終目的ではない。向こうの本当の目的は殿下だろう。
そう考えて言ったが、殿下もそれは良くわかっているだろう。
「その、例の武器は今でも持っているのか?」
私の足元を見て殿下が訊いた。
例の武器とはクナイのことだろう。
「はい、一応は…今は革靴でないので、スカートの下に」
「……そうか」
「………見ますか?」
殿下の視線が私のスカートに行ったので、わざと訊いてみた。
「冗談ですけど」
さすがに今のはきわどい返しだと思って慌てて言い添えた。
いきなりスカートの下を見せるのはないでしょう。
と、思ったのに殿下の目が色濃くなり、何だか危険な雰囲気になった。
「それは、私だから言っているのだな」
私はアホだと思った。ついつい前世のノリで返してしまったが、両思いの人と二人きりの時に、しかも恋愛初心者の殿下相手に言うことではなかった。
「も、もちろんです。他の人にそんなこと、いいません。今のはつい調子に乗ったというか……」
「……見せてみなさい」
「……え?」
「きちんと武装しているか、確認すれば少しは安心する」
あ、そっちか。何か勝手にエロい展開を想像してた自分が恥ずかしい。そうだな。大丈夫だ、大丈夫だといい募るより、ちゃんとしてるところを見てもらった方がいい。
「はい」
椅子から立ち上がりさっとスカートの裾を左の太ももまであげ、そこに皮の束帯に取り付けたクナイを見せた。内側と外側に一本ずつ。
「後、こちらにも」
反対側の方も上げて見せる。
そこにも紐で編んだ手製のヌンチャクを仕込んである。
「ね、準備は万全……」
ドヤ顔で殿下の方を見ると、顔を赤らめて立っている。
はっと気づけば、私は殿下の前で両手でスカートの裾を持ち上げ太もも丸出しで立っていた。
パッと手を離し裾を下ろす。恥ずかしい。アホ丸出しだ。
「す、すいません…ですが、これでご安心いただいたかと……」
「悪かった……まさか、真に受けて見せてくれるとは思わなかった」
「え、騙したんですか?」
「だ、いや、半分は本当だが………」
コホン、と一つ咳払いをし、何とか互いに気まずさを何とかしようとソワソワする。
そこに、タイミング良く扉を叩く音がし、ウィリアムさんの声が聞こえた。
「ドルグランが戻ってきた。私は先に行くので、またパレードで会おう。エリックを残していく」
「護衛は……」
不要だと言いかけたが、殿下は聞き入れなかった。
「昨日までと状況が変わった。最早私の杞憂ではない。フェリクスも一人になるなと言っている。館の中にいる時以外は常に誰かと行動を共にしなさい」
私が強情なのをいやというほどわかっているのに、相変わらず殿下は私を過剰なまでに護ろうとする。
私も学習している。
殿下を説得するより、エリックさんを説得する方がいいと考えて、ここは逆らわないことにした。
「ご苦労だった」
「フレアに頼んで見繕ってもらったが、これで良かったのか?」
入り口で殿下とすれ違いに入ってきたウィリアムさんが持ってきた衣装を私に見せた。
「はい、寝台の上に置いてあったそれでいいです。すいませんでした」
「話はお済みですか?」
ウィリアムさんが殿下に訊ねる。
「ああ、ローリィ自身も武装しているようだが、念のためエリックを付ける。すまないが、そのように采配してくれ、勝手に決めてすまないが……」
「いえ、エリックですね、わかりました」
「先に行く、下でエリックを待たせておくので、着替えが済んだらデリヒの事務所まで来なさい」
パレードの参加者の集合場所がデリヒ氏の商会となっている。
「じゃあ、これ」
「ありがとうございます」
ウィリアムさんから衣装が入った袋をもらい、そのまま二人は階下に向かった。
持ってきてもらったのは、白のブラウス。鎖骨までの襟ぐりに、肘の辺りから袖がヒダに広がっている。ウエストをギャザーで絞り、スカートは裾まで、無地の濃い紺色の生地の上にギンガムチェックの赤と黒の生地をアシンメトリーに重ねている。首には赤のチョーカーを付ける。
買い物から帰ってすぐに着替えるつもりで寝台に出していたのがよかった。
着替える途中で右足につけた紐ヌンチャクを取り出す。
端につけた二つの輪に指を通し、振り回す。ヒュンとしなる音がして先の部分が弧を描く。殺傷力は低いが勢いをつけて首に当てれば昏倒させるくらいはできる。
警察官時代の武器と言えば警棒だったが、軽くて伸縮性がある警棒をこの世界で再現出来なかったため、剣以外の武器はクナイや紐ヌンチャクを作った。束帯に嵌め込んで戻した。
着替えを済ませ階下に行くと既に殿下たちはフェリクス隊長ととともに出発していて、幾人かの警羅隊とエリックさんが待っていた。
「お待たせしてすいません」
待たせたことを謝ると、エリックさんは少し私のことを上から下まで眺め、へぇと呟いた。
「馬子にも衣装………そうやって見ると女に見えるな。ズボンを履いてる時は美少年なのに」
美少年は余計だし、馬子にも衣装も失礼だけど、一応誉めてくれてたので素直にありがとうと言った。
エリックさんには上手く言いくるめて護衛を外れてもらわなければ。
「エリックさん、その言い方はちょっと失礼じゃないですか?」
側にいた警羅の人が気を使って言ってくれた。
「昨日のワイン娘の踊り、楽しかったよ。俺に嫁さんがいなかったら、立候補してたところだ」
「おいおい、そんなこと言ってるのが嫁さんに知られたら追い出されちまうぞ」
「うわ、言わないでくれよ!それでなくても仕事続きでちっとも家にいないって機嫌が悪いんだぞ」
「仕方ない。今は祭りの時期で酔っぱらいの喧嘩やスリなんかの窃盗が多くて、その上夕べの殺し……警羅の俺たちと結婚したのを諦めてもらうしかないな」
その場で一番年配の警羅隊の人が悟ったように言う。
前世で経験のある私は納得して頷いた。
事件を抱えれば、泊まり込みだってある。
まさに今彼らはそんな状況だ。
「あんたも災難だな。眼球なんか目撃してしまって」
同情して私にも気遣ってくれる。
「ああ、この子は大丈夫、そんなに心配するだけ損だよ。こう見えてなかなか肝が座ってるから」
エリックさんが横から割ってはいる。事実だし、か弱いふりをしても仕方ないので、エリックさんの言うとおりですので、大丈夫です。と答えた。
「用意ができたなら、行こう。邪魔して悪かったな」
待機組の警羅の人たちに礼を言い、私とエリックさんは詰所を出た。
二人で並んで歩き、護衛についてエリックさんに話しかけた。
「エリックさんも色々忙しいでしょう?私は平気ですので、デリヒさんの商会に着いたら殿下の護衛に戻ってください」
対するエリックさんはチロリと私を見た。
「確かに、そこらの女と違って腕も立つだろうが、同じ男として殿下の気持ちも分かる。好きな女が狙われるとわかって、何もしない男はいない」
「……は?」
エリックさんの好きな女発言にびっくりした。
「殿下とあんたの間に何かあったことくらい、ちょっと見ていればわかる。関わりの薄い警羅隊長はまだ気づいていないみたいだが、殿下のあんたを見る目、側にいる俺たちには雇われた当初と明らかに違ってるのは一目瞭然だ」
ウィリアムさんにはとっくにばれているのはわかっていたが、エリックさんにまで感づかれて………
「え、ということは」
「レイやクリス達だって、とっくに気づいてる。ただぼんやり側に立ってるだけじゃないんだぞ」
穴があったら入りたいとは、まさに今の心境だ。そんなにバレバレだろうか。
「今のところは、王都から一緒に来た俺たちと、あの乳母の人も気づいてるだろ」
「マーサさんには、確かに………」
「人の気持ちをどうこう言う立場でもないが、俺たちは別にして、それを良く思わない人間もいる。相手は公爵様だ。しかも独身の美男子ともなれば、自分の娘を是非と思う有力者が大勢いる。現にこの前のデリヒ邸での会食でも色々あったらしい。命を狙って襲ってくる刺客には立ち向かえても、そんなやつらを相手に剣は通用しないぞ」
「色々って」
「詳しくはしらないが、顔役代表のデリヒ氏は自分の娘を殿下にエスコートさせたらしい。なんでもその人は準貴族も狙ってるそうだ」
「……そうなんだ」
エリックさんに言われて考えた。確かに、武器を持って襲ってくる刺客には対処できる自信があったが、地位や権力でぶつかってくる人たちに対する武器など持ち合わせていない。
けれど、私には最強の防具がある。
殿下が私を好きだといってくれる限り、鉄壁の鎧を身に纏っているようなものだ。
エリックさんにそう言うと、彼はまじまじと私の顔を見て、おもしろそうに笑った。
「鎧ね、あんたらしい言い方だ。前向きでいいよ」
いざというときは、私の存在が殿下にとって不利益となるなら、身を引く覚悟もあるとマーサさんにも言ったが、それで殿下を傷つけることになるなら、殿下が私を不必要だと思うまで側にいようと思うまでになっていた。
「エリックさんも私の護衛は無理しないでください。もし、エリックさんが私の護衛が嫌だと言うなら、全て私のせいにしてください。決してエリックさんに害が及ぶことがないように、殿下に掛け合いますから」
「そりゃどうも、でも、どっちしろ、殿下を護ることに違いはないと思うけど……」
エリックさんは簡単には引き下がらなさそうだ。
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