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120 被害者のその後

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「色々と忙しい思いをさせてすまない」

祭りの警備から殺人の捜査、その上、山車の事故のこと。ただでさえ祭りの時期は軽犯罪が多い。隊長はひどく恐縮してとんでもございません。私の職務ですから、と言った。

「それで?」

立ったままでは見上げることになるので、目の前に椅子を運ばせて座らせ、執務机を挟んで対面する。

「殺された二人の足取りについては何か掴めたのか?」

「はい、人通りが多かったことと、例の、ローリィさんがとても人目を引く方なので、現場を見た人がかなりいました。大抵は外部から来た者ですが、通り沿いの店先にいた店員からもいくつか話が聞けました」

隊長は手に持っていた帳面をめくり、報告を始めた。

ローリィが証言したとおり、何人かの男が彼女に声をかけてはあしらわれていた。中でもしつこくついてきたのが例の二人で、彼女に悲鳴を上げられて一度は退散したものの、少し離れてついていったところを目撃されている。
店員は懲りないやつらだと思いながら、客の応対に追われて助けを呼ぶこともできず、彼女の向かった方向を心配そうに見つめ、二人の背中をなす術もなく見送った時に、その後ろに続く外套を羽織った人物を見たという。

また、別の証言では、街の外れ付近で二人の特徴と一致した男たちが外套の人物と何やら立ち話の末に、三人でどこかへ消えたとの目撃情報が寄せられた。

もう一つは居酒屋の店主。
その三人が店に来て、酒を酌み交わしていたとの証言。店が一番混雑する時間帯から、店が閉まる時間までいたそうだ。

外套の人物について何か気づいたことはないかとの問いに、店主は見ていないが、給仕にあたった店の者が男をちらりと見たとの証言だった。
色白でどこか病的な肌をしたやせ形の男で、顎に若干の髭を蓄えていたとのことだった。

「色白!?その者は確かにそう言ったのか?」

「は、はい……そう聞いております」

あまりの勢いに隊長が戸惑って答える。
アレン・グスタフだと思っていたが、違うのだろうか。

「それで、店を出てからの足取りは?」

「…はい……あるにはあるのですが……何分にも時刻が時刻で……殆どが酒に酔った者の証言でしたので、はっきり覚えていない者も多く、証言もあやふやです。もう一人、別の人間が三人と合流したと言う証言もありますが、一組の若い男女に絡んでいたという証言もあり、店を出てからのことは時系列がはっきりしません」

隊長は申し訳ありません。と、大きな体を丸めて謝る。

「いや、短時間の間によくそこまで調べてくれた。見つかった二人の他に、その若い男女の手がかりは?」

「今のところは何も……泥酔していた者の証言ですので、勘違いということもあるかと……」

「だが、本当ならその二人も万が一ということもある。引き続き情報を集めてくれ。それと、後に合流したという者のこともな」

「わかりました。全力を尽くします」

「頼む。山車の事故についても引き続き情報を集めてくれ」

「はっ」

隊長は礼をして書斎を出ていった。

一人残り、今の報告について考える。

殺された二人に接触した人物がアレン・グスタフとおぼしき人物だと思ったが、その特徴を聞くとどうやら違うようだ。
関連性がないのか、奴の仲間か…。

昨日、グスタフに似た人物を見てから何もかもを奴と結びつけてしまう。まるで取り付かれているようだ。

書斎を出て一番始めに見つけた使用人に声をかけ、ウィリアムとエリック、ローリィを呼ぶよう伝える。

少なくとも殺人についてその後の状況を伝えておく必要がある。
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