121 / 266
120 被害者のその後
しおりを挟む
「色々と忙しい思いをさせてすまない」
祭りの警備から殺人の捜査、その上、山車の事故のこと。ただでさえ祭りの時期は軽犯罪が多い。隊長はひどく恐縮してとんでもございません。私の職務ですから、と言った。
「それで?」
立ったままでは見上げることになるので、目の前に椅子を運ばせて座らせ、執務机を挟んで対面する。
「殺された二人の足取りについては何か掴めたのか?」
「はい、人通りが多かったことと、例の、ローリィさんがとても人目を引く方なので、現場を見た人がかなりいました。大抵は外部から来た者ですが、通り沿いの店先にいた店員からもいくつか話が聞けました」
隊長は手に持っていた帳面をめくり、報告を始めた。
ローリィが証言したとおり、何人かの男が彼女に声をかけてはあしらわれていた。中でもしつこくついてきたのが例の二人で、彼女に悲鳴を上げられて一度は退散したものの、少し離れてついていったところを目撃されている。
店員は懲りないやつらだと思いながら、客の応対に追われて助けを呼ぶこともできず、彼女の向かった方向を心配そうに見つめ、二人の背中をなす術もなく見送った時に、その後ろに続く外套を羽織った人物を見たという。
また、別の証言では、街の外れ付近で二人の特徴と一致した男たちが外套の人物と何やら立ち話の末に、三人でどこかへ消えたとの目撃情報が寄せられた。
もう一つは居酒屋の店主。
その三人が店に来て、酒を酌み交わしていたとの証言。店が一番混雑する時間帯から、店が閉まる時間までいたそうだ。
外套の人物について何か気づいたことはないかとの問いに、店主は見ていないが、給仕にあたった店の者が男をちらりと見たとの証言だった。
色白でどこか病的な肌をしたやせ形の男で、顎に若干の髭を蓄えていたとのことだった。
「色白!?その者は確かにそう言ったのか?」
「は、はい……そう聞いております」
あまりの勢いに隊長が戸惑って答える。
アレン・グスタフだと思っていたが、違うのだろうか。
「それで、店を出てからの足取りは?」
「…はい……あるにはあるのですが……何分にも時刻が時刻で……殆どが酒に酔った者の証言でしたので、はっきり覚えていない者も多く、証言もあやふやです。もう一人、別の人間が三人と合流したと言う証言もありますが、一組の若い男女に絡んでいたという証言もあり、店を出てからのことは時系列がはっきりしません」
隊長は申し訳ありません。と、大きな体を丸めて謝る。
「いや、短時間の間によくそこまで調べてくれた。見つかった二人の他に、その若い男女の手がかりは?」
「今のところは何も……泥酔していた者の証言ですので、勘違いということもあるかと……」
「だが、本当ならその二人も万が一ということもある。引き続き情報を集めてくれ。それと、後に合流したという者のこともな」
「わかりました。全力を尽くします」
「頼む。山車の事故についても引き続き情報を集めてくれ」
「はっ」
隊長は礼をして書斎を出ていった。
一人残り、今の報告について考える。
殺された二人に接触した人物がアレン・グスタフとおぼしき人物だと思ったが、その特徴を聞くとどうやら違うようだ。
関連性がないのか、奴の仲間か…。
昨日、グスタフに似た人物を見てから何もかもを奴と結びつけてしまう。まるで取り付かれているようだ。
書斎を出て一番始めに見つけた使用人に声をかけ、ウィリアムとエリック、ローリィを呼ぶよう伝える。
少なくとも殺人についてその後の状況を伝えておく必要がある。
祭りの警備から殺人の捜査、その上、山車の事故のこと。ただでさえ祭りの時期は軽犯罪が多い。隊長はひどく恐縮してとんでもございません。私の職務ですから、と言った。
「それで?」
立ったままでは見上げることになるので、目の前に椅子を運ばせて座らせ、執務机を挟んで対面する。
「殺された二人の足取りについては何か掴めたのか?」
「はい、人通りが多かったことと、例の、ローリィさんがとても人目を引く方なので、現場を見た人がかなりいました。大抵は外部から来た者ですが、通り沿いの店先にいた店員からもいくつか話が聞けました」
隊長は手に持っていた帳面をめくり、報告を始めた。
ローリィが証言したとおり、何人かの男が彼女に声をかけてはあしらわれていた。中でもしつこくついてきたのが例の二人で、彼女に悲鳴を上げられて一度は退散したものの、少し離れてついていったところを目撃されている。
店員は懲りないやつらだと思いながら、客の応対に追われて助けを呼ぶこともできず、彼女の向かった方向を心配そうに見つめ、二人の背中をなす術もなく見送った時に、その後ろに続く外套を羽織った人物を見たという。
また、別の証言では、街の外れ付近で二人の特徴と一致した男たちが外套の人物と何やら立ち話の末に、三人でどこかへ消えたとの目撃情報が寄せられた。
もう一つは居酒屋の店主。
その三人が店に来て、酒を酌み交わしていたとの証言。店が一番混雑する時間帯から、店が閉まる時間までいたそうだ。
外套の人物について何か気づいたことはないかとの問いに、店主は見ていないが、給仕にあたった店の者が男をちらりと見たとの証言だった。
色白でどこか病的な肌をしたやせ形の男で、顎に若干の髭を蓄えていたとのことだった。
「色白!?その者は確かにそう言ったのか?」
「は、はい……そう聞いております」
あまりの勢いに隊長が戸惑って答える。
アレン・グスタフだと思っていたが、違うのだろうか。
「それで、店を出てからの足取りは?」
「…はい……あるにはあるのですが……何分にも時刻が時刻で……殆どが酒に酔った者の証言でしたので、はっきり覚えていない者も多く、証言もあやふやです。もう一人、別の人間が三人と合流したと言う証言もありますが、一組の若い男女に絡んでいたという証言もあり、店を出てからのことは時系列がはっきりしません」
隊長は申し訳ありません。と、大きな体を丸めて謝る。
「いや、短時間の間によくそこまで調べてくれた。見つかった二人の他に、その若い男女の手がかりは?」
「今のところは何も……泥酔していた者の証言ですので、勘違いということもあるかと……」
「だが、本当ならその二人も万が一ということもある。引き続き情報を集めてくれ。それと、後に合流したという者のこともな」
「わかりました。全力を尽くします」
「頼む。山車の事故についても引き続き情報を集めてくれ」
「はっ」
隊長は礼をして書斎を出ていった。
一人残り、今の報告について考える。
殺された二人に接触した人物がアレン・グスタフとおぼしき人物だと思ったが、その特徴を聞くとどうやら違うようだ。
関連性がないのか、奴の仲間か…。
昨日、グスタフに似た人物を見てから何もかもを奴と結びつけてしまう。まるで取り付かれているようだ。
書斎を出て一番始めに見つけた使用人に声をかけ、ウィリアムとエリック、ローリィを呼ぶよう伝える。
少なくとも殺人についてその後の状況を伝えておく必要がある。
1
お気に入りに追加
1,935
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい
ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。
だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。
気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。
だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?!
平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる