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116 お説教

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デリヒ商会でジュリアさんとマリーと別れ、エリックさん、ミーシャさんとフレアの四人で領主館に戻ると、既に王都の屋敷からの応援が到着しており、玄関口は運ばれた荷物でいっぱいだった。

チャールズさんとマーサさんが運ばれてきた荷物を振り分け、これは厨房これへ庭へ、と皆に指示している。
「あら、もう戻ったの?」

玄関に現れた私たちにマーサさんが気付いた。

「それが色々あって、パレードは途中で中止になりました」

ミーシャさんが言うと「色々?」とマーサさんもチャールズさんも小首を傾げた。
私は泥で汚れた衣装を着替え、朝、館を出るときに着ていた服を着ていた。

ミーシャさんが山車の事故から落ちてきた子どものことを話す。私が落ちた子を受け止めたところを聞いて、二人は目をむいた。

「ローリィ」

マーサさんは半ば脱力気味に呟いた。チャールズさんも信じられない、と首を左右に振る。

「……はい」

「もう少し自分を大事にしなさい!」
「はい、すいません!」

大きな声で怒鳴られ、周りにいた皆がびっくりして振り返った。
ミーシャさんとフレアも流石にこんなに怒るマーサさんを見たのは初めてなのか、思わず一緒に謝っていた。エリックさんはいつの間にか消え失せている。私の護衛じゃなかったの?とツッコミたくなった。

「どうしたの?」

庭の方からも何事かと走り込んできたのはシリアさんだった。

私たち三人の前で、腰に手を当ててちょっと太目の体を目一杯威嚇させるように膨らませて立つマーサさんを見て驚いている。

「お母さん、今の怒鳴り声、何があったの?」

「呆れてものが言えない!いつか大怪我をしますよ!」

シリアさんの問いには答えず、マーサさんはなおを説教を続ける。
その怒り方はビンタが飛んで来ないだけでジャイ○ンのかあちゃん並みだ。

チャールズさんがシリアさんにそっと耳打ちする。事情を説明しているようだ。
チャールズさんが説明し終えると、シリアさんも目と口を大きく開けて私の方を見る。

「ローリィ」

久し振りに会ったシリアさんは、私に近づき肩に手を置く。

「お久しぶりです。シリアさん」

私はマーサさんの怒りから救いだしてくれる救世主のように仰ぎ見る。

「人助けは偉いわ。あなたがいなかったらその子は大変なことになってたかも」

うんうん、マリエッタちゃんって言う子なんです。お姉ちゃんありがとうってお礼言ってくれました。

「でもね………」

シリアさんは一旦言葉を切り、もう片方の肩に手を置き、くるりと私を向き直らせてマーサさんの方に突き出す。

「お母さんの言うとおり、あなた無茶し過ぎ。今日はこってり怒られなさい」
「ありがとうシリア、あなたたちは仕事に戻ってちょうだい。ローリィ、あなたは私の部屋にいらっしゃい。たっぷりお説教してあげます」

「あ、あの……もう無茶はしません。だから赦してください。マーサさんも忙しいですよね。ほら、まだ荷物がこんなに」

「チャールズに、それにジャックさんも来ているみたいだし、ネヴィルもいるわ。毎年やってることですもの、私とあなたがいなくても大丈夫よ、ね?」

私の逃げるための提案はばっさり切り捨てられ、マーサさんはチャールズさんに有無を言わせない迫力で確認する。

チャールズさんが首を縦に振る以外の返しをできるわけがなく、私はこっちへいらっしゃいな、とマーサさんに引っ張られ、皆はそれを哀れな目で見つめる。

力付くで逃げるのは簡単だけれど、相手は女性でそこまでできずに、ここは泣く泣くマーサさんに連れ去られるほかなかった。

クレアお母さんにもこんな風に叱られたことはなかった。
やっぱりマーサさんは前世のお母さんに似ている。

それからたっぷり一時間はマーサさんの部屋で小言を言われ、ついでに体の怪我まで確認された。

私を心配しているからだとわかっているので、小言はきつかったが、こんな風に私を叱ってくれる人がいることに、ちょっぴり……かなり嬉しく思った。

「何を笑ってるんですか!」

嬉しさが顔に出て笑ってしまう私に、マーサさんが怒ってるのに笑うなんて、と更に叱られた。

私がマーサさんにお説教されている間も殿下たちは戻ってこず、途中クリスさんが何かを取りに戻ってきていたらしいが、館に戻ってきたのはすっかり日が暮れてからだった。
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