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109 態度で示せ
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執務室の扉が開き、隊長に先導されて殿下が入ってきた。
私たちは足音が聞こえた辺りからその場に立って待っていたので、そのままそこで一礼する。
「こちらへ」
隊長が案内して自分の執務机に案内する。一礼したままの私たちの前に来て立ち止まる。少しうつむき加減だが、じっと見つめられているのを感じる。
「大事ないか?」
「は、はい。」
「顔を上げて見せなさい」
そっと顔をあげると、気遣わしげな殿下の顔が目の前にあった。
殆ど寝ていないにも関わらず、疲れている様子はない。流石普段からの鍛え方が違うのか。たった一晩では大したことはないのかもしれない。
「来る途中フェリクスに聞いたが、遺体を見に行ったのか?」
少し険しい表情だ。黙って頷いた。
「無茶をする……」
ため息とともに殿下が呟いた。
「私から申し出たことです。勝手をして申し訳ありません」
「セルジオが一人慌てて戻ってきて、事情をきいたが、要領を得ず心配した」
「ご心配をおかけしてすいません」
「……普通の女性とは違うとは分かっているが……」
「殿下、続きはお掛けになってからでも……」
背後から隊長が声をかける。
殿下は私に触れかけた手を引き戻し、隊長の方を振り返らず私に視線を向けたまま、そうだな、と言って執務机に向かった。
「続きを聞こう」
皆を目の前の椅子に座るように指示をしてから、隊長に報告の続きを促す。
私が死体を見せて欲しいと言って安置室へ向かったところから隊長が話を始めた。
遺体の人物が私に絡んだという話になると、殿下の表情が険しくなっていき、用心のために一人で出歩かない方がいいという隊長の助言を私が無視しようとしたことを耳にした時は、これ以上ないほどに険悪な様子になった。
今後の動きとして似顔絵をもとに街での聞き込みを行い、彼らの足取りを追っていくと報告した。
「以上です。報告が遅くなり申し訳ございませんでした」
頭を下げ隊長がそう締め括ると、子細はわかったと、殿下が言った。
「引き続き捜査を進めてくれ」
隊長はその場にビシッと立ち上がり、胸に拳をあてて腰から三十度のお辞儀をした。
「彼女に話がある。ウィリアムはすまないが、彼女のパレード用の着替えを館から持ってきてくれ。他のものは隊長とともに死んだ男たちの人相書きをもらってから下で待っていてくれ。隊長、しばらくここを借りるぞ」
「は、はい」
「畏まりました」
皆が一礼して直ぐ様指示通りに部屋を退出していく。
私の衣装なのだから私が自分で、というとウィリアムさんが、任せておけ、お前は殿下に説教されろ、と無情なことを言う。
え、説教?
頑張れ、とウィリアムさんが私の肩を叩く。
皆が私を気の毒そうに見てから退出するのが、何だか切ない。
「……さて」
皆が出ていくのを目で追っていた私に、殿下が声をかける。
目を合わせられないでいる私がその場にじっとしていると、殿下の動く気配がし、ソファに腰かける私を上から囲い混むように屈んで、私のすぐ後ろの背もたれに手を当て顔を覗きこんだ。
「殿下………近いです」
すぐ目の前に殿下の険しい顔があり、私は頭を思い切り後ろに動かし離れようとした。
「顔を背けるな」
殿下はそんな私の顎にすかさず右手をあてて自分の正面に私の顔を向けた。
「あの……怒って……ます?」
顎に当てられた手は決して力任せではなかったが、逆らえる雰囲気でもなく、私は弱々しく呟いた。
「怒っているように見えるなら……私を怒らせている自覚があるんだな」
「……ど、どうでしょう………」
顔を背けることができないので、視線だけを外して知らぬふりをする。
暫しの沈黙の後、はあっというため息とともに、殿下が私の左肩に頭を乗せてきた。
「殿下………」
シルバーブロンドの髪が頬に触れる。
「セルジオが血相を変えて戻ってきた時は心臓が止まるかと思ったぞ」
すぐ耳元で囁かれ、くらくらする。
「……すいません、殿下………」
「名前で呼べ。今は二人だけだ」
「心配させてすいません。キ、キルヒライル」
まだ慣れない私は辿々しく名前を呼んだ。
パーソナルスペースが近すぎて困惑してしまう。二人きりになった途端、毎回こんな風では心臓がもたない。
「本当に悪いと思うなら、態度で示してもらうか」
「え?」
態度で示せとは?……と思っている間に殿下は私の腰を抱いてすぐ隣に腰を落ち着けると、あっという間に自分の膝の上に私を座らせた。
私たちは足音が聞こえた辺りからその場に立って待っていたので、そのままそこで一礼する。
「こちらへ」
隊長が案内して自分の執務机に案内する。一礼したままの私たちの前に来て立ち止まる。少しうつむき加減だが、じっと見つめられているのを感じる。
「大事ないか?」
「は、はい。」
「顔を上げて見せなさい」
そっと顔をあげると、気遣わしげな殿下の顔が目の前にあった。
殆ど寝ていないにも関わらず、疲れている様子はない。流石普段からの鍛え方が違うのか。たった一晩では大したことはないのかもしれない。
「来る途中フェリクスに聞いたが、遺体を見に行ったのか?」
少し険しい表情だ。黙って頷いた。
「無茶をする……」
ため息とともに殿下が呟いた。
「私から申し出たことです。勝手をして申し訳ありません」
「セルジオが一人慌てて戻ってきて、事情をきいたが、要領を得ず心配した」
「ご心配をおかけしてすいません」
「……普通の女性とは違うとは分かっているが……」
「殿下、続きはお掛けになってからでも……」
背後から隊長が声をかける。
殿下は私に触れかけた手を引き戻し、隊長の方を振り返らず私に視線を向けたまま、そうだな、と言って執務机に向かった。
「続きを聞こう」
皆を目の前の椅子に座るように指示をしてから、隊長に報告の続きを促す。
私が死体を見せて欲しいと言って安置室へ向かったところから隊長が話を始めた。
遺体の人物が私に絡んだという話になると、殿下の表情が険しくなっていき、用心のために一人で出歩かない方がいいという隊長の助言を私が無視しようとしたことを耳にした時は、これ以上ないほどに険悪な様子になった。
今後の動きとして似顔絵をもとに街での聞き込みを行い、彼らの足取りを追っていくと報告した。
「以上です。報告が遅くなり申し訳ございませんでした」
頭を下げ隊長がそう締め括ると、子細はわかったと、殿下が言った。
「引き続き捜査を進めてくれ」
隊長はその場にビシッと立ち上がり、胸に拳をあてて腰から三十度のお辞儀をした。
「彼女に話がある。ウィリアムはすまないが、彼女のパレード用の着替えを館から持ってきてくれ。他のものは隊長とともに死んだ男たちの人相書きをもらってから下で待っていてくれ。隊長、しばらくここを借りるぞ」
「は、はい」
「畏まりました」
皆が一礼して直ぐ様指示通りに部屋を退出していく。
私の衣装なのだから私が自分で、というとウィリアムさんが、任せておけ、お前は殿下に説教されろ、と無情なことを言う。
え、説教?
頑張れ、とウィリアムさんが私の肩を叩く。
皆が私を気の毒そうに見てから退出するのが、何だか切ない。
「……さて」
皆が出ていくのを目で追っていた私に、殿下が声をかける。
目を合わせられないでいる私がその場にじっとしていると、殿下の動く気配がし、ソファに腰かける私を上から囲い混むように屈んで、私のすぐ後ろの背もたれに手を当て顔を覗きこんだ。
「殿下………近いです」
すぐ目の前に殿下の険しい顔があり、私は頭を思い切り後ろに動かし離れようとした。
「顔を背けるな」
殿下はそんな私の顎にすかさず右手をあてて自分の正面に私の顔を向けた。
「あの……怒って……ます?」
顎に当てられた手は決して力任せではなかったが、逆らえる雰囲気でもなく、私は弱々しく呟いた。
「怒っているように見えるなら……私を怒らせている自覚があるんだな」
「……ど、どうでしょう………」
顔を背けることができないので、視線だけを外して知らぬふりをする。
暫しの沈黙の後、はあっというため息とともに、殿下が私の左肩に頭を乗せてきた。
「殿下………」
シルバーブロンドの髪が頬に触れる。
「セルジオが血相を変えて戻ってきた時は心臓が止まるかと思ったぞ」
すぐ耳元で囁かれ、くらくらする。
「……すいません、殿下………」
「名前で呼べ。今は二人だけだ」
「心配させてすいません。キ、キルヒライル」
まだ慣れない私は辿々しく名前を呼んだ。
パーソナルスペースが近すぎて困惑してしまう。二人きりになった途端、毎回こんな風では心臓がもたない。
「本当に悪いと思うなら、態度で示してもらうか」
「え?」
態度で示せとは?……と思っている間に殿下は私の腰を抱いてすぐ隣に腰を落ち着けると、あっという間に自分の膝の上に私を座らせた。
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