上 下
91 / 266

90 呼吸困難

しおりを挟む
自分の耳に入ってきた言葉が信じられない。熱っぽく語る殿下の言葉が頭の中で駆け巡る。
これではまるで愛を語っているみたいだ。
私の頭が殿下の言葉を都合よく脳内変換して、そう聞こえているだけなのでは。
違う意味で言っているのだと、必死で別の意味を考えるが、前世での知識を駆使しても、まったく他の言葉が浮かんでこない。

口から心臓が飛び出るくらいドキドキしている。

「私といればいらぬ注目を集めてしまう。そなたを好きだと思う私の気持ちが知られれば、私の弱点だとなって狙われると思った」

私は呼吸するのも忘れてただただ呆然と話を聞く。呼吸ってどうするんだっけ。吸って吐いて、ヒッヒッフー。これって出産時のラマーズ法だ。

そんな風にパニックになっている私の様子に、殿下はようやく気がついた。

「どうした、呼吸が止まっているぞ、しっかりしろ」

真っ赤になってプルプルする私を揺さぶり声をかける。

おかげで私は我に返り、思い切り息を吐き出す。吐き出せば自然と空気が入ってきてようやく呼吸方法を思い出した。

「す、ずいまぜん……」

椅子にぐったりと背を預け、しわがれ声で謝る。

「いや、早く気づいてやれずすまなかった」

私の様子に気づけなかったことに、殿下が申し訳なさそうに言う。

「いえ、殿下は悪くありません。突然のことについていけない私が悪いのです!あ、イタ!」

がばりと起き上がると、すぐ側にあった殿下のおでこにぶつかった。
ガチンと音がして火花が散った。

「ずいまぜん」

互いに額を押さえ身悶える。

せっかくの愛の告白もこれでは台無しだ。

………あれ?愛の告白でよかったのよね。気のせい?

「あの、勘違いでなければ、今のは殿下が私を、その、好きだと言うことですか?」

おでこを押さえながら訊ねる。今までが夢で今の衝撃で目が覚めたとも思える。

私の発言に、同じく殿下がおでこを押さえながら呆れた顔を向けた。

「……まったく、その耳は飾りか……それとも今の衝撃で記憶を失ったか。そなたが言ったのだぞ、私に強く思われたら大抵の女性は落ちるとな」

忌々しげに殿下が言う。
昨日、確かにそんなようなことを言った。
それが、まさか自分のことだとは思っていなかった。

「だって……」

「いい加減、その反抗的な口を閉じろ!」

「で………!」

殿下がそう言って自分の口で私の口を塞いだ。

始めは罰するように。その内に力が抜けて何度か向きを変えながら、私が抵抗しないことがわかるとさらに深くなり、やがて殿下の舌が私の唇をなぞる。私がそっと唇を開くと殿下の舌が私の口腔に入り込み、私の舌を捕らえて絡ませる。

いつの間にか互いの首に腕を回し、時間を忘れて口づけを続けていた。

「はあ………」

自分のものとは思えないため息がもれ、唇がようやく離れる。

「これでわかったか。まだわからないなら、もっと続けるまでだ」

熱っぽくささやく言葉に返す言葉が見つからず、黙っているのを勝手に解釈して、再び殿下が唇を重ねる。
今度は最初から唇を割って舌を絡ませてくる。

もう勘違いでも夢でもない。

あの日、街道で彼を介抱した時、水を飲ませるために唇を重ねた時から、こんな風に口づけされることを望んでいたのかも知れない。

あの時の彼がキルヒライル様だとわかって、心のどこかで諦めていた。
彼は王族で、私は今はただの平民で。

そのことに気付き、私はハッと口づけを止めて首に回していた腕をほどき、殿下の胸に手をあてて押し退けた。

「だ、だめです」

いきなり突き放され、殿下は目を見開いて何が起こったのかと呆然とする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は男装して、魔法騎士として生きる。

金田のん
恋愛
VRMMOで<剣聖>の異名を持ち、一部で有名だった理奈は、ある日、乙女ゲームで死亡フラグ満載の悪役公爵令嬢・レティシアに転生していることに気づく。 剣と魔法のある世界で、VRMMOのキャラクターと同じ動きができることに気付いた理奈は、 ゲーム開始前に同じく死亡予定の兄を助けることに成功する。 ・・・・が、なぜか男装して兄の代わりに魔法騎士団に入団することになってしまい・・・・・? ※何でも許せる人向けです! <小説家になろう>で先行連載しています!(たぶんそのうち、追いつきます) https://ncode.syosetu.com/n4897fe/

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

男装令嬢の恋と受胎(R18)

鈴田在可
恋愛
獣人に殺された家族の敵を討つために、兄のフィリップであると偽り男装して銃騎士となった伯爵令嬢フィオナ・キャンベルは、銃騎士隊二番隊長代行ジュリアス・ブラッドレイの専属副官であり、彼の恋人でもある。 恋人ジュリアスは輝かしい美しさをもつ国一番のモテ男であるが結婚願望がなかった。令嬢としてのフィオナと婚約関係ではあるものの、元々は女除けをしたかったジュリアスと、銃騎士になるためにジュリアスの協力を得たかったフィオナの利害が一致した果ての偽装婚約だった。 協力の条件の一つとして「俺を好きにならないこと」と提案されたが、フィオナが成人を迎えた時に二人は付き合い出す。 フィオナはジュリアスを愛していたので、一生そばにいられれば結婚できなくとも構わないと思っていたが、ある出来事をきっかけにジュリアスの結婚観が変わる。 美貌の完璧超人からいつの間にか執着されていた話。 ※ムーンライトノベルズにも掲載。R15版が小説家になろうにあります。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

王宮まかない料理番は偉大 見習いですが、とっておきのレシピで心もお腹も満たします

櫛田こころ
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞〜癒し系ほっこりファンタジー賞〜受賞作品】 2022/7/29発売❣️ 2022/12/5【WEB版完結】2023/7/29【番外編開始】 ​───────『自分はイージアス城のまかない担当なだけです』。 いつからか、いつ来たかはわからない、イージアス城に在籍しているとある下位料理人。男のようで女、女のようで男に見えるその存在は、イージアス国のイージアス城にある厨房で……日夜、まかない料理を作っていた。 近衛騎士から、王女、王妃。はてには、国王の疲れた胃袋を優しく包み込んでくれる珍味の数々。 その名は、イツキ。 聞き慣れない名前の彼か彼女かわからない人間は、日々王宮の贅沢料理とは違う胃袋を落ち着かせてくれる、素朴な料理を振る舞ってくれるのだった。 *少し特殊なまかない料理が出てきます。作者の実体験によるものです。 *日本と同じようで違う異世界で料理を作ります。なので、麺類や出汁も似通っています。

【本編完結】政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません

七夜かなた
恋愛
家のために大学卒業と同時に親の決めた人と結婚し、あげく婿養子の夫と愛人に全てを奪われ死んでしまった私。 来世があるなら心から好きな人と幸せになりたいと思って目覚めると、異世界で別人に生まれ変わっていた。 しかも既に結婚していて夫は軍人らしく、遠く離れた地へ単身赴任中。もう半年以上別居状態らしい。 それにどうやら今回も政略結婚で、互いに愛情なんて持っていない。 もう二度と不幸な結婚はしたくない。 この世界の何もかもを忘れてしまった私は一から猛勉強し、夫に捨てられても生きて行けるよう自立を目指します。 え、もう帰って来たの!帰ってくるなら先に連絡ください。 でも、今度の旦那様は何だか違う? 無愛想な旦那様と前世のトラウマが原因で素直に愛を受け取れない主人公。 ★は主人公以外目線です。 【*】はR18 本編は完結済みです。37万文字

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

処理中です...