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85 秋晴れの収穫祭
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収穫祭初日は文句なしの秋晴れの祭り日和だった。
朝食の後、早速衣装に着替えて髪を結う。
両サイドを編み込み、すっきりと後ろでまとめる。皆お揃いの髪型にする。
薄く白粉をはたき、アイシャドウとチークで色付ける。
アイシャドウは薄くグラデーションでオレンジ系、チークはほんのりピンク系、リップはくっきりとした赤系。衣装が暗めの色なので、表情を明るくする。肌色が少し違うため若干色の濃さは違うが、全体の色味は統一している。
支度を終えて皆で向き合い、スカートの裾を裏返したり足を上げたりしながら、見え方を調整する。
「皆、用意はいい?」
「「「「「はい」」」」」
ジュリアさんの問いかけに皆で一斉に返事をする。
街は華やかに飾り付けられていた。
家々の窓には花が飾られ、通りには鮮やかな旗が風になびいている。
屋台も通りにびっしりと並び、美味しそうな臭いが立ち込めている。
街の人びとも今日は特別とばかりにとっておきの衣装を身に纏い、とてもきらびやかだ。
私たちの乗る山車は広場の東に伸びる道から出発する。
私たちがたどり着くと、既に4頭の馬が繋がれていて、荷台はピラミッド型に座席代わりの箱が積み上げられ、箱がわからないように所狭しと花が飾られている。
御者はマリリンさんの旦那様が勤めてくれる。
山車には花の名前が付けられていて、その花をそれぞれふんだん使っている。私たちの山車はチューベローズ。
「ローリィさん」
まだ出発に時間があるため、山車の周りをウロウロしていると、名前を呼ばれて振り向いた。
「ユリシスさん」
顔の左半分を外套で隠し、火傷のない右側を少し見せてユリシスさんが立っていた。
「見にきてくれたのですか?」
「はい、でもどの山車かわからなかったので迷いましたが、よかったすぐに見つかって」
側に寄ると彼は私の姿を上から下まで眺めた。
「よく似合ってますね」
「ありがとうございます」
誉められて悪い気はしない。素直にお礼を言う。
「そろそろ出発するよー」
後ろからフレアがみんなに呼び掛けたので、私は「今行きます」とそちらを向いて、再び振り向くと彼はもうそこにはいなかった。
「ローリィ、早く」
しばらくユリシスさんの姿を探すが、人が多過ぎてもう探せなかった。
フレアに急かされ、腰の高さの縁に両手をかけて飛び乗る。
「あ、すいません」
すぐ側で山車に乗る手助けしようとマリリンさんの旦那様が手を差し伸べくれていたことに気づいた。
「はは、俺が手をかすまでもなかったね」
気づかず勝手に一人で乗り込んでしまった。
「じゃあ、出発するぞ」
苦笑いで御者台に上がり、手綱を握るとそう言って山車が動き出す。
「ほら、愛想よくみんなに手を振って」
ジュリアさんが代表らしく指示する。彼女は山車の一番頂点に乗る。
言われて道沿いの人たちに手を振る。
少し高い位置から見る街並みは、また雰囲気が違って新鮮だった。
山車はやがて広場にたどり着く。着いた順に並んで停めていく。
今度は乗り込むときと同じ失敗はしないように、手助けしてもらって降りる。
降りる際、マリリンさんの旦那様と互いに顔を見合せ、苦笑しあう。
「どうもお気遣いありがとう」
「どういたしまして」
山車は全部で十二台。私たちは七番目に着いた。降りている間に三台が到着し、後二台も広場に入ってきている。
確かすべての山車が整列してから山車ごとに壇上の領主様に挨拶するんだったっけ。
そう思って広場の時計塔前に設けられた主催者席に目を向けると、既にこちらを見ている殿下と目があった。
いつもはどちらかと言えば軽装が多いが、今日はさすがに改まった服装をしている。
あの王宮の競い舞の時のようだ。
銀糸を施した濃紺の高襟の上着、右肩に腰丈の赤いマントを羽織り、白のパンツに黒の膝丈ブーツ。
式典用の騎士の礼服に身を包み、座ったまま冷ややかにこちらを見下ろしている。
顔役の方たちと壇上に座り山車のすべてが集まると、殿下はすっと立ち上がった。
その場にいる皆がその出で立ちに見惚れる。と言っても過言でないくらい、そこかしこでほうっとため息が聞こえた。
一番に広場に着いた集団から順に壇上へ上がり、殿下の前で礼を取る。それに対して殿下が今日はご苦労様と声をかける。
それからくるりと振り返り観衆に向かって同じように礼を取る。
もともとの知り合いなのか、何人かの名前が観衆から上がる。応援団のようだ。
次々とメンバーが入れ替わり、次は私たちの番になった。
最初にジュリアさん、マリー、モリー、ミーシャ、フレアと続き、最後に私の順番で並ぶ。
「私に決定権はないが、応援しているぞ」
「はい、ありがとうございます」
代表してジュリアさんが答え、その場で全員揃ってカーテンシーする。
顔をあげると一瞬、殿下がこちらを見ていたように思ったが、すぐに目を逸らされた。代わりにすぐ横のウィリアムさんと目があった。
振り返り観衆にも礼をして、次の一団に場を譲る。
壇上から降り、係りの誘導に従って自分たちに割り当てられた樽の前に移動する。
そこには既に梯子が立て掛けられ、すぐ側にマリリンさんたちが待っていてくれた。
順番に足を洗って梯子に登り、樽の中に足を踏み入れる。
樽の中には葡萄が敷き詰められていたが、踝が埋まる位の浅さで、これなら足を取られることもないだろう。
両隣の樽の方を見ると、すぐ右隣は何人か楽器を持っている。
左は何も持っていないので、踊りで勝負といったところだろう。
ちょっとずつ葡萄を踏み鳴らし足場を確保する。
「みんなで円陣を組みましょう」
試合に挑む時によくするように、互いに肩を組み合い、内向きに円を作る。
「ジュリアさん、掛け声を」
「えーと、みんなで頑張りましょう」
「「「「「頑張ろう」」」」」
壇上の殿下が手をあげ、側にいた係員が旗を振る。
三日間の収穫祭が始まった。
朝食の後、早速衣装に着替えて髪を結う。
両サイドを編み込み、すっきりと後ろでまとめる。皆お揃いの髪型にする。
薄く白粉をはたき、アイシャドウとチークで色付ける。
アイシャドウは薄くグラデーションでオレンジ系、チークはほんのりピンク系、リップはくっきりとした赤系。衣装が暗めの色なので、表情を明るくする。肌色が少し違うため若干色の濃さは違うが、全体の色味は統一している。
支度を終えて皆で向き合い、スカートの裾を裏返したり足を上げたりしながら、見え方を調整する。
「皆、用意はいい?」
「「「「「はい」」」」」
ジュリアさんの問いかけに皆で一斉に返事をする。
街は華やかに飾り付けられていた。
家々の窓には花が飾られ、通りには鮮やかな旗が風になびいている。
屋台も通りにびっしりと並び、美味しそうな臭いが立ち込めている。
街の人びとも今日は特別とばかりにとっておきの衣装を身に纏い、とてもきらびやかだ。
私たちの乗る山車は広場の東に伸びる道から出発する。
私たちがたどり着くと、既に4頭の馬が繋がれていて、荷台はピラミッド型に座席代わりの箱が積み上げられ、箱がわからないように所狭しと花が飾られている。
御者はマリリンさんの旦那様が勤めてくれる。
山車には花の名前が付けられていて、その花をそれぞれふんだん使っている。私たちの山車はチューベローズ。
「ローリィさん」
まだ出発に時間があるため、山車の周りをウロウロしていると、名前を呼ばれて振り向いた。
「ユリシスさん」
顔の左半分を外套で隠し、火傷のない右側を少し見せてユリシスさんが立っていた。
「見にきてくれたのですか?」
「はい、でもどの山車かわからなかったので迷いましたが、よかったすぐに見つかって」
側に寄ると彼は私の姿を上から下まで眺めた。
「よく似合ってますね」
「ありがとうございます」
誉められて悪い気はしない。素直にお礼を言う。
「そろそろ出発するよー」
後ろからフレアがみんなに呼び掛けたので、私は「今行きます」とそちらを向いて、再び振り向くと彼はもうそこにはいなかった。
「ローリィ、早く」
しばらくユリシスさんの姿を探すが、人が多過ぎてもう探せなかった。
フレアに急かされ、腰の高さの縁に両手をかけて飛び乗る。
「あ、すいません」
すぐ側で山車に乗る手助けしようとマリリンさんの旦那様が手を差し伸べくれていたことに気づいた。
「はは、俺が手をかすまでもなかったね」
気づかず勝手に一人で乗り込んでしまった。
「じゃあ、出発するぞ」
苦笑いで御者台に上がり、手綱を握るとそう言って山車が動き出す。
「ほら、愛想よくみんなに手を振って」
ジュリアさんが代表らしく指示する。彼女は山車の一番頂点に乗る。
言われて道沿いの人たちに手を振る。
少し高い位置から見る街並みは、また雰囲気が違って新鮮だった。
山車はやがて広場にたどり着く。着いた順に並んで停めていく。
今度は乗り込むときと同じ失敗はしないように、手助けしてもらって降りる。
降りる際、マリリンさんの旦那様と互いに顔を見合せ、苦笑しあう。
「どうもお気遣いありがとう」
「どういたしまして」
山車は全部で十二台。私たちは七番目に着いた。降りている間に三台が到着し、後二台も広場に入ってきている。
確かすべての山車が整列してから山車ごとに壇上の領主様に挨拶するんだったっけ。
そう思って広場の時計塔前に設けられた主催者席に目を向けると、既にこちらを見ている殿下と目があった。
いつもはどちらかと言えば軽装が多いが、今日はさすがに改まった服装をしている。
あの王宮の競い舞の時のようだ。
銀糸を施した濃紺の高襟の上着、右肩に腰丈の赤いマントを羽織り、白のパンツに黒の膝丈ブーツ。
式典用の騎士の礼服に身を包み、座ったまま冷ややかにこちらを見下ろしている。
顔役の方たちと壇上に座り山車のすべてが集まると、殿下はすっと立ち上がった。
その場にいる皆がその出で立ちに見惚れる。と言っても過言でないくらい、そこかしこでほうっとため息が聞こえた。
一番に広場に着いた集団から順に壇上へ上がり、殿下の前で礼を取る。それに対して殿下が今日はご苦労様と声をかける。
それからくるりと振り返り観衆に向かって同じように礼を取る。
もともとの知り合いなのか、何人かの名前が観衆から上がる。応援団のようだ。
次々とメンバーが入れ替わり、次は私たちの番になった。
最初にジュリアさん、マリー、モリー、ミーシャ、フレアと続き、最後に私の順番で並ぶ。
「私に決定権はないが、応援しているぞ」
「はい、ありがとうございます」
代表してジュリアさんが答え、その場で全員揃ってカーテンシーする。
顔をあげると一瞬、殿下がこちらを見ていたように思ったが、すぐに目を逸らされた。代わりにすぐ横のウィリアムさんと目があった。
振り返り観衆にも礼をして、次の一団に場を譲る。
壇上から降り、係りの誘導に従って自分たちに割り当てられた樽の前に移動する。
そこには既に梯子が立て掛けられ、すぐ側にマリリンさんたちが待っていてくれた。
順番に足を洗って梯子に登り、樽の中に足を踏み入れる。
樽の中には葡萄が敷き詰められていたが、踝が埋まる位の浅さで、これなら足を取られることもないだろう。
両隣の樽の方を見ると、すぐ右隣は何人か楽器を持っている。
左は何も持っていないので、踊りで勝負といったところだろう。
ちょっとずつ葡萄を踏み鳴らし足場を確保する。
「みんなで円陣を組みましょう」
試合に挑む時によくするように、互いに肩を組み合い、内向きに円を作る。
「ジュリアさん、掛け声を」
「えーと、みんなで頑張りましょう」
「「「「「頑張ろう」」」」」
壇上の殿下が手をあげ、側にいた係員が旗を振る。
三日間の収穫祭が始まった。
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