79 / 266
79 芽生えた感情
しおりを挟む
尋問からは欲しい情報は得られなかった。
最初は言葉で恫喝する。
何も知らないという答えが返ってくる。
次は水攻め。水を張った桶に顔を突っ込ませギリギリまで押さえつける。
飲み屋で声をかけられ、路地裏で金を受け取り頼まれた。
祭りがあると聞き、金になると思いここに来たということだった。
互いによく知りもしない相手同士。
昨日、外套の男が現れあの時間にあそこで待っていろと言われた。
それ以上のことは名前も知らないという。
自分たちが誰を狙ったかも知らなかったという。
次は爪。鋭利な刃物を爪に刺す。
漏れるのは悲鳴と苦渋の声。
そこまでして、本当に口を割らないよう訓練を受けた者なら、それでも耐え抜いたかも知れない。
だが失禁し、涙や鼻水、涎を垂れ流しても彼らの口から発せられるのは他は知らないの言葉だけ。
誰かを庇っているのかとなおも尋問を続ける。
熱したコテを肌に押し付けても、皮膚が焼けつく音に混じって聞こえるのは同じ言葉。知らない、金を貰っただけ。という言葉。
既に何度も意識を飛ばし、その度に薬を嗅がせて覚醒させる。
ここまでしてこれ以上は無駄だと判断して断念した。
ぐったりとした男たちを再び牢に戻し、警羅隊の長の部屋へ戻ってきた。
「王都の者たちと同じですね。今回は互いに顔見知りでもないようですし、亡くなった者たちの中に、もしかしたらもう少し事情を知る者があったかも知れませんが」
「死人に口無しだな」
ローリィがわざとか故意か殺さないでいてくれたお陰でここまでできたが、今回も黒幕にたどり着くことはできなかった。
外套の男など、なんの手がかりもない。
「どうされますか?」
警羅隊長のフェリクスが訊く。
「あやつらの人相書きを用意して領内の宿屋や飲食店で見かけた者がいないか探れ。祭りの準備もあるところ悪いが」
そう指示をだし、キルヒライルは部屋を出た。
部屋の外にはクリスたちが待機していて、歩き出すキルヒライルの後ろをついてくる。
「これからどちらへ?」
「フィリップに会いにいく。昨日届けてもらった遺体のことも気になる」
「身元のわかるものは何もありませんでしたが」
教会に遺体を運び込む際に一通りの検分は済ませていたので、その事を伝える。
「だが、他に手がかりもない」
話をしながら受付付近まで来る。そこで待っているはずのローリィはいなかった。
「いないな」
「まだ戻っていないようですね」
誰のことを言っているかわかり、クリスが答える。
「そろそろ昼になる。行く前に何か食べていくか」
「食堂へ行って手配をしてきます」
そう言ってレイが席を外す。
キルヒライルはその間に外に出た。
自由にしていいとは言ったが、自由にし過ぎだろう。
尋問が期待できなかった苛立ちもあり、文句のひとつも言いたくなる。
玄関先にキルヒライルが立ちはだかるので、誰一人入ることも出ることもできず、扉付近が人で停滞する。
見かねたクリスがとりあえず中で待っては?と言う。
詰所の前は警羅隊の者たちが一同に集まれるだけの広場になっている。訓練などは裏庭で行われている。
建物から高い門扉まではかなり距離があり、日中は多くの出入りがあって人を見分けることが難しい。
キルヒライルはクリスの提案を無視し、門扉までの道をずかずかと歩いていく。
広場にいた人たちは門に向かって一直線に進むキルヒライルに気付き慌てて道をあけ、お辞儀をする。
慌ててクリスとエリックが追いかける。
ちょうど門に辿り着いた時に、向こうの曲がり角から歩いてくる彼女を見つけた。
彼女は後ろの方を振り返り、角に立つ人物に軽く会釈している。
注意を向けるため名前を呼ぶ。
こちらに視線を向けた彼女が自分に気付き、駆け寄ってきた。
「誰だ?知り合いか」
この街に知り合いなどそうそういないはずだ。
「あ、えっとですね……さっき会ったばかりの人です。路上でぶつかりまして、具合が悪そうにされていたので、一緒に休憩していました」
彼女が再度お辞儀をすると、向こうもお辞儀を返してやがて立ち去った。
「あの者のせいで遅くなったのか」
「そうではありません」
待たせたてしまったのは悪いと思ったが、具合が悪かった人を構っていて遅れたことを責めるように言われ、少し悲しくなった。
「……すまない。責めるつもりはなかった。思うように情報が得られず少し苛立っていた」
それも本当だが、彼女の側に自分以外の誰かがいたのが嫌なのだ。
これが嫉妬というものなのか。
こんな気持ちが自分にあることに気付き、驚いた。
今はまだ彼女は自分の護衛で管財人の代理で、メイドというだけなのに、まだ自分だけの女でもなんでもないのに、こんな気持ちを抱いていいものだろうか。
ここが人目のある場所でなかったらどうしていただろう。
「私も、調子に乗って遅くなりすいませんでした」
「殿下、食事の用意が整いました。ローリィも」
後ろからレイさんが声をかけてきた。
「この後フィリップに会いに行く。その前にここで食事をとっていく」
感情を乗せず事務的に告げる。落ち着いて聞こえただろうか。
最初は言葉で恫喝する。
何も知らないという答えが返ってくる。
次は水攻め。水を張った桶に顔を突っ込ませギリギリまで押さえつける。
飲み屋で声をかけられ、路地裏で金を受け取り頼まれた。
祭りがあると聞き、金になると思いここに来たということだった。
互いによく知りもしない相手同士。
昨日、外套の男が現れあの時間にあそこで待っていろと言われた。
それ以上のことは名前も知らないという。
自分たちが誰を狙ったかも知らなかったという。
次は爪。鋭利な刃物を爪に刺す。
漏れるのは悲鳴と苦渋の声。
そこまでして、本当に口を割らないよう訓練を受けた者なら、それでも耐え抜いたかも知れない。
だが失禁し、涙や鼻水、涎を垂れ流しても彼らの口から発せられるのは他は知らないの言葉だけ。
誰かを庇っているのかとなおも尋問を続ける。
熱したコテを肌に押し付けても、皮膚が焼けつく音に混じって聞こえるのは同じ言葉。知らない、金を貰っただけ。という言葉。
既に何度も意識を飛ばし、その度に薬を嗅がせて覚醒させる。
ここまでしてこれ以上は無駄だと判断して断念した。
ぐったりとした男たちを再び牢に戻し、警羅隊の長の部屋へ戻ってきた。
「王都の者たちと同じですね。今回は互いに顔見知りでもないようですし、亡くなった者たちの中に、もしかしたらもう少し事情を知る者があったかも知れませんが」
「死人に口無しだな」
ローリィがわざとか故意か殺さないでいてくれたお陰でここまでできたが、今回も黒幕にたどり着くことはできなかった。
外套の男など、なんの手がかりもない。
「どうされますか?」
警羅隊長のフェリクスが訊く。
「あやつらの人相書きを用意して領内の宿屋や飲食店で見かけた者がいないか探れ。祭りの準備もあるところ悪いが」
そう指示をだし、キルヒライルは部屋を出た。
部屋の外にはクリスたちが待機していて、歩き出すキルヒライルの後ろをついてくる。
「これからどちらへ?」
「フィリップに会いにいく。昨日届けてもらった遺体のことも気になる」
「身元のわかるものは何もありませんでしたが」
教会に遺体を運び込む際に一通りの検分は済ませていたので、その事を伝える。
「だが、他に手がかりもない」
話をしながら受付付近まで来る。そこで待っているはずのローリィはいなかった。
「いないな」
「まだ戻っていないようですね」
誰のことを言っているかわかり、クリスが答える。
「そろそろ昼になる。行く前に何か食べていくか」
「食堂へ行って手配をしてきます」
そう言ってレイが席を外す。
キルヒライルはその間に外に出た。
自由にしていいとは言ったが、自由にし過ぎだろう。
尋問が期待できなかった苛立ちもあり、文句のひとつも言いたくなる。
玄関先にキルヒライルが立ちはだかるので、誰一人入ることも出ることもできず、扉付近が人で停滞する。
見かねたクリスがとりあえず中で待っては?と言う。
詰所の前は警羅隊の者たちが一同に集まれるだけの広場になっている。訓練などは裏庭で行われている。
建物から高い門扉まではかなり距離があり、日中は多くの出入りがあって人を見分けることが難しい。
キルヒライルはクリスの提案を無視し、門扉までの道をずかずかと歩いていく。
広場にいた人たちは門に向かって一直線に進むキルヒライルに気付き慌てて道をあけ、お辞儀をする。
慌ててクリスとエリックが追いかける。
ちょうど門に辿り着いた時に、向こうの曲がり角から歩いてくる彼女を見つけた。
彼女は後ろの方を振り返り、角に立つ人物に軽く会釈している。
注意を向けるため名前を呼ぶ。
こちらに視線を向けた彼女が自分に気付き、駆け寄ってきた。
「誰だ?知り合いか」
この街に知り合いなどそうそういないはずだ。
「あ、えっとですね……さっき会ったばかりの人です。路上でぶつかりまして、具合が悪そうにされていたので、一緒に休憩していました」
彼女が再度お辞儀をすると、向こうもお辞儀を返してやがて立ち去った。
「あの者のせいで遅くなったのか」
「そうではありません」
待たせたてしまったのは悪いと思ったが、具合が悪かった人を構っていて遅れたことを責めるように言われ、少し悲しくなった。
「……すまない。責めるつもりはなかった。思うように情報が得られず少し苛立っていた」
それも本当だが、彼女の側に自分以外の誰かがいたのが嫌なのだ。
これが嫉妬というものなのか。
こんな気持ちが自分にあることに気付き、驚いた。
今はまだ彼女は自分の護衛で管財人の代理で、メイドというだけなのに、まだ自分だけの女でもなんでもないのに、こんな気持ちを抱いていいものだろうか。
ここが人目のある場所でなかったらどうしていただろう。
「私も、調子に乗って遅くなりすいませんでした」
「殿下、食事の用意が整いました。ローリィも」
後ろからレイさんが声をかけてきた。
「この後フィリップに会いに行く。その前にここで食事をとっていく」
感情を乗せず事務的に告げる。落ち着いて聞こえただろうか。
1
お気に入りに追加
1,933
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる