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13 踊り子達との出会い
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ミリィに半ば連れ込まれるように連れて行かれたのは、同じような大きさの建物が建ち並ぶ通りだった。
「ただいま!お母さん」
「ミリィ!あなた今までどこに行ってたの?」
玄関からミリィが声をかけると、パタパタと奥から足音がして、黒髪をぴっちりと後ろで一つにまとめたぽっちゃりとした中年の女性が姿を現した。
(今、彼女お母さんって言った?でも似てないよね。ミリィはお父さん似?)
「ミリィ、その顔、どうしたの」
灰色の瞳を見開き、ミリィのお母さんは彼女の腫れた右頬をみて驚いた。
「ボロロのやつらにやられてたのよ。あいつら絶対マリアに頼まれたのよ」
憎々しげにミリィが呟いた。
何か、色々事情があるみたい。
「あの、ミリィ…それで、この方は?」
ミリィが腕を絡ませている私を見て、お母さんが尋ねた。
「この人はローリィ、ボロロのやつらに絡まれてるところを助けてくれたの。この人が助けてくれなかったら、こんな程度じゃ済まなかったわ。ローリィ、彼女は私のお母さん、と言っても本当のお母さんじゃなくて、私達踊り子みんなのお母さん、私達ここで何人かで住んでるの」
ミリィは互いを紹介した。
「こんにちは、ローリィ・ハインツと言います。今日ナダルに着いたばかりで、道に迷ったところを偶然出くわしまして、こちらに招待していただきました。」
「まあ、それはそれは、私からもお礼を申し上げすわ。どうぞどうぞ、何のお構いも出来ませんが、ゆっくりしていってください」
「いえ…」
「ミリィが帰ってきたの?」
「ミリィ!今までどうしてたの?」
そんなにゆっくりは出来ないと言おうとしたが、続く賑やかな声にかき消されてしまった。
「やだ、ミリィその顔」
次々現れた三人の女性たちは、ミリィの顔と横に立つ私を見てその場に立ち尽くした。
フワフワの茶色の髪に褐色の瞳の一番最年少の子はフラー
まっすぐ伸びたオレンジ色の髪に黒曜石の瞳の、一番背が高い子はカーラ
最年長のモニクは、ブルーの髪にアイスブルーの瞳
今、ミリィたちは四人でこの家に一緒に住んでいる。
三人はミリィの顔を見て青ざめ、私を見て赤らんだ。
そして、私は四人プラスお母さんのティータの強引な誘いを受け、その夜、一緒に晩餐をいただくことになった。
ウィリアムさんとこに今日はもう行けないなぁ
「ところで、さっきの人達に嫌がらせされる理由、何かあるの?確かマリアとか言う人がどうとか…」
食べ始めてから、私はみんなに尋ねた。
「ああ…」
五人は互いに目配せしあい、苦い顔をした。
「嫌がらせというか、ナダルにはうちみたいに複数の踊り子たちを面倒みて、依頼を受けて貴族や商人、大きな祭りなんかに派遣してる'舞屋,と言うものがいくつかあるんだけど、まあ、ピンからキリまで質や規模は色々で、うちは抱えてる踊り子の人数は中堅規模だけど、踊り子の技能にかけては定評があるのよね」
ミリィが言うには、各'舞屋,でそれぞれ舞う踊りの型や、目的もあって勝手に他所の舞を舞ったりするのも禁じられているそうだ。
「へぇ…」
地方では人口もそれほど多くないため、舞屋はほとんど一軒しかなく、そういう決めごとはない
「もちろん、複数の'舞屋,が同じ舞の型を持つこともあるから、専売特許とはいかないところもあるのだけれどね」
一子相伝、門外不出ではないらしい。
「それで、こちらの舞はどのような?」
私が訊ねると、ミリィが得意気に答えた。
「うちは'戦勝の舞,と'英雄の舞,'鎮魂の舞,だよ」
「マリアのとこは'英雄の舞,と、'鎮魂の舞,あとは'長寿の舞,なんだけど」
「'英雄,と'鎮魂,がかぶってますね」
だから面倒なんだと、お母さんと5名の踊り子たちは深々とため息を吐いた。
「それで仕事の依頼がうちの方が多いもんだから、何かと嫌がらせや妨害をしてくるのよ」
「舞では敵わないからね。マリアさんってうちのお母さんと同じ舞屋出身なんだけど、腕はうちのお母さんの方がずっといいから、昔から妬んでるのよ」
そうなんだ、すごいねと私が言うと、お母さんは照れて下を向いた。
女っていくつになっても乙女だな。
「ただいま!お母さん」
「ミリィ!あなた今までどこに行ってたの?」
玄関からミリィが声をかけると、パタパタと奥から足音がして、黒髪をぴっちりと後ろで一つにまとめたぽっちゃりとした中年の女性が姿を現した。
(今、彼女お母さんって言った?でも似てないよね。ミリィはお父さん似?)
「ミリィ、その顔、どうしたの」
灰色の瞳を見開き、ミリィのお母さんは彼女の腫れた右頬をみて驚いた。
「ボロロのやつらにやられてたのよ。あいつら絶対マリアに頼まれたのよ」
憎々しげにミリィが呟いた。
何か、色々事情があるみたい。
「あの、ミリィ…それで、この方は?」
ミリィが腕を絡ませている私を見て、お母さんが尋ねた。
「この人はローリィ、ボロロのやつらに絡まれてるところを助けてくれたの。この人が助けてくれなかったら、こんな程度じゃ済まなかったわ。ローリィ、彼女は私のお母さん、と言っても本当のお母さんじゃなくて、私達踊り子みんなのお母さん、私達ここで何人かで住んでるの」
ミリィは互いを紹介した。
「こんにちは、ローリィ・ハインツと言います。今日ナダルに着いたばかりで、道に迷ったところを偶然出くわしまして、こちらに招待していただきました。」
「まあ、それはそれは、私からもお礼を申し上げすわ。どうぞどうぞ、何のお構いも出来ませんが、ゆっくりしていってください」
「いえ…」
「ミリィが帰ってきたの?」
「ミリィ!今までどうしてたの?」
そんなにゆっくりは出来ないと言おうとしたが、続く賑やかな声にかき消されてしまった。
「やだ、ミリィその顔」
次々現れた三人の女性たちは、ミリィの顔と横に立つ私を見てその場に立ち尽くした。
フワフワの茶色の髪に褐色の瞳の一番最年少の子はフラー
まっすぐ伸びたオレンジ色の髪に黒曜石の瞳の、一番背が高い子はカーラ
最年長のモニクは、ブルーの髪にアイスブルーの瞳
今、ミリィたちは四人でこの家に一緒に住んでいる。
三人はミリィの顔を見て青ざめ、私を見て赤らんだ。
そして、私は四人プラスお母さんのティータの強引な誘いを受け、その夜、一緒に晩餐をいただくことになった。
ウィリアムさんとこに今日はもう行けないなぁ
「ところで、さっきの人達に嫌がらせされる理由、何かあるの?確かマリアとか言う人がどうとか…」
食べ始めてから、私はみんなに尋ねた。
「ああ…」
五人は互いに目配せしあい、苦い顔をした。
「嫌がらせというか、ナダルにはうちみたいに複数の踊り子たちを面倒みて、依頼を受けて貴族や商人、大きな祭りなんかに派遣してる'舞屋,と言うものがいくつかあるんだけど、まあ、ピンからキリまで質や規模は色々で、うちは抱えてる踊り子の人数は中堅規模だけど、踊り子の技能にかけては定評があるのよね」
ミリィが言うには、各'舞屋,でそれぞれ舞う踊りの型や、目的もあって勝手に他所の舞を舞ったりするのも禁じられているそうだ。
「へぇ…」
地方では人口もそれほど多くないため、舞屋はほとんど一軒しかなく、そういう決めごとはない
「もちろん、複数の'舞屋,が同じ舞の型を持つこともあるから、専売特許とはいかないところもあるのだけれどね」
一子相伝、門外不出ではないらしい。
「それで、こちらの舞はどのような?」
私が訊ねると、ミリィが得意気に答えた。
「うちは'戦勝の舞,と'英雄の舞,'鎮魂の舞,だよ」
「マリアのとこは'英雄の舞,と、'鎮魂の舞,あとは'長寿の舞,なんだけど」
「'英雄,と'鎮魂,がかぶってますね」
だから面倒なんだと、お母さんと5名の踊り子たちは深々とため息を吐いた。
「それで仕事の依頼がうちの方が多いもんだから、何かと嫌がらせや妨害をしてくるのよ」
「舞では敵わないからね。マリアさんってうちのお母さんと同じ舞屋出身なんだけど、腕はうちのお母さんの方がずっといいから、昔から妬んでるのよ」
そうなんだ、すごいねと私が言うと、お母さんは照れて下を向いた。
女っていくつになっても乙女だな。
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