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「それで、これからどうする?」
目が覚めると私は寝台に寝ていて、モーリスはいつの間にか来ていたエミリと共に台所で待っていた。
くるくるとした黒髪に淡い青の瞳をしたエミリはどちらかと言えば小柄で、大柄なモーリスと並ぶと、彼の三分の二程度の高さだった。
二人の子どもを産み育て、昨年孫が産まれてすでにおばあちゃんと呼ばれる状況な訳だが、実年齢よりずっと若く見える。美魔女だ。
ちなみに本当の年齢は失礼かと思い聞いていない。息子の年齢を聞いて、大体これくらいだろうと思っているだけだ。
エミリは自宅から持ってきてくれた野菜とソーセージでスープを作ってくれたので、私は昨日食べ損ねたパンを浸して食べた。
二人も一緒のテーブルで朝食を取り、一息ついたところでモーリスが聞いてきた。
「ルイスから今のアイスヴァイン伯爵が、もし嬢ちゃんが望むならこのまま、ここに居てくれて構わないと言っていると聞いている。一人が嫌なら、家に来てくれてもいい。広くないが、俺もエミリも歓迎する」
モーリスが目配せすると、エミリも同意して頷いてくれた。
「若しくは…これはあくまでもひとつの案だか、選択肢のひとつとして思ってくれていい。決めるのは嬢ちゃんだ。王都に行ってみるのはどうだ?」
「王都…?」
突然のモーリスの話に、思わず聞き返した。
「嬢ちゃんは産まれてから一度もここ以外の土地を知らない。ここがいいって言うなら、別にいいが、せっかくなら王都に出て、見聞を広めてくるのもいい。それに…」
そこで言葉を切り、次に話すことをためらっている。
「王都には色んなやつがいる。ヤバいやつもいるが、こんな田舎よりもっと大勢の人間がいる。変なやつに引っかかるかもというのも、嬢ちゃんは聡いし、腕っぷしも強い。何せ俺が十二年も鍛練したんだからな。だから…」
「そんなにたくさん色んな人がいるなら、私の胸の傷を気にしない人もいるかも…?」
モーリスが言いにくかった言葉の続きが予想できた私は、その後の言葉を自分から繋げた。
「…まいった…やっぱりすごいわ」
「そうね、あなたより、よっぽど立派だわ」
ガックリうなだれるモーリスの肩をポンポンとエミリが叩いた。
エミリに励まされ、気を取り直してモーリスが話を続けた。
「王都には俺たちの息子もいるし、知り合いも多い。困ったことがあれば、そいつらを頼ればいい。その気があるなら手紙を書こう。それでもし、王都がいやになったら、ここへ帰ってくればいい。俺たちは待ってるぞ」
「王都か…」
考えてみれば、モーリスの言うとおり、私はこの世界に産まれてこのアイスヴァインの領地しか知らない。ここが嫌とかではないが、王都ナダルは一度見に行ってみるのも悪くない。
モーリスの言うような恋愛ができるかわからないが、色んな人と出会うのも楽しいのではないだろうか?
嫌ならここに帰ってくればいいだけのことだ。
そう言えば、前世でもなかなか結婚しない私に痺れを切らした母が、一回結婚してみて、嫌なら離婚したらいいとまで言ってたきつけてきたのを思いだした。
ちょっと意味合いは違うが………
「よし、決めた!女は度胸よ!私、王都に行ってみる!いちかばちか一旗あげて、お金持ちになって帰ってくるわ!それでダメなら離婚して帰ってきたらいいのよね!」
「はああ…?離婚?またよくわからんこと言ってやがる」
私の発言にモーリス夫妻は首を傾げた。
行くと決めたら早かった。
モーリスは王都の息子さん二人に手紙を出すと行ってエミリと共に家に戻り、私はアイスヴァイン伯爵に王都行きを報告するため、ルイスを通じて面会を申し出た。
伯爵は午後に来てくれていいと返事をくれたので、言われた時間に会いに行って、用件を伝えると最初驚いていたが、私の人となりを知ってくれているので、快く了承してくれた。
私が出た後の住んでいた家の処分や、残った荷物の預かり(さすがに伯爵令嬢としてのドレスは嵩張る)など、そして愛馬シューティングスターを連れて行くことも承知してくれた。
目が覚めると私は寝台に寝ていて、モーリスはいつの間にか来ていたエミリと共に台所で待っていた。
くるくるとした黒髪に淡い青の瞳をしたエミリはどちらかと言えば小柄で、大柄なモーリスと並ぶと、彼の三分の二程度の高さだった。
二人の子どもを産み育て、昨年孫が産まれてすでにおばあちゃんと呼ばれる状況な訳だが、実年齢よりずっと若く見える。美魔女だ。
ちなみに本当の年齢は失礼かと思い聞いていない。息子の年齢を聞いて、大体これくらいだろうと思っているだけだ。
エミリは自宅から持ってきてくれた野菜とソーセージでスープを作ってくれたので、私は昨日食べ損ねたパンを浸して食べた。
二人も一緒のテーブルで朝食を取り、一息ついたところでモーリスが聞いてきた。
「ルイスから今のアイスヴァイン伯爵が、もし嬢ちゃんが望むならこのまま、ここに居てくれて構わないと言っていると聞いている。一人が嫌なら、家に来てくれてもいい。広くないが、俺もエミリも歓迎する」
モーリスが目配せすると、エミリも同意して頷いてくれた。
「若しくは…これはあくまでもひとつの案だか、選択肢のひとつとして思ってくれていい。決めるのは嬢ちゃんだ。王都に行ってみるのはどうだ?」
「王都…?」
突然のモーリスの話に、思わず聞き返した。
「嬢ちゃんは産まれてから一度もここ以外の土地を知らない。ここがいいって言うなら、別にいいが、せっかくなら王都に出て、見聞を広めてくるのもいい。それに…」
そこで言葉を切り、次に話すことをためらっている。
「王都には色んなやつがいる。ヤバいやつもいるが、こんな田舎よりもっと大勢の人間がいる。変なやつに引っかかるかもというのも、嬢ちゃんは聡いし、腕っぷしも強い。何せ俺が十二年も鍛練したんだからな。だから…」
「そんなにたくさん色んな人がいるなら、私の胸の傷を気にしない人もいるかも…?」
モーリスが言いにくかった言葉の続きが予想できた私は、その後の言葉を自分から繋げた。
「…まいった…やっぱりすごいわ」
「そうね、あなたより、よっぽど立派だわ」
ガックリうなだれるモーリスの肩をポンポンとエミリが叩いた。
エミリに励まされ、気を取り直してモーリスが話を続けた。
「王都には俺たちの息子もいるし、知り合いも多い。困ったことがあれば、そいつらを頼ればいい。その気があるなら手紙を書こう。それでもし、王都がいやになったら、ここへ帰ってくればいい。俺たちは待ってるぞ」
「王都か…」
考えてみれば、モーリスの言うとおり、私はこの世界に産まれてこのアイスヴァインの領地しか知らない。ここが嫌とかではないが、王都ナダルは一度見に行ってみるのも悪くない。
モーリスの言うような恋愛ができるかわからないが、色んな人と出会うのも楽しいのではないだろうか?
嫌ならここに帰ってくればいいだけのことだ。
そう言えば、前世でもなかなか結婚しない私に痺れを切らした母が、一回結婚してみて、嫌なら離婚したらいいとまで言ってたきつけてきたのを思いだした。
ちょっと意味合いは違うが………
「よし、決めた!女は度胸よ!私、王都に行ってみる!いちかばちか一旗あげて、お金持ちになって帰ってくるわ!それでダメなら離婚して帰ってきたらいいのよね!」
「はああ…?離婚?またよくわからんこと言ってやがる」
私の発言にモーリス夫妻は首を傾げた。
行くと決めたら早かった。
モーリスは王都の息子さん二人に手紙を出すと行ってエミリと共に家に戻り、私はアイスヴァイン伯爵に王都行きを報告するため、ルイスを通じて面会を申し出た。
伯爵は午後に来てくれていいと返事をくれたので、言われた時間に会いに行って、用件を伝えると最初驚いていたが、私の人となりを知ってくれているので、快く了承してくれた。
私が出た後の住んでいた家の処分や、残った荷物の預かり(さすがに伯爵令嬢としてのドレスは嵩張る)など、そして愛馬シューティングスターを連れて行くことも承知してくれた。
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